デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
★ フォーチュンの居城・客間
飲み掛けのグラス付近に視線を投げ、茫然とした表情のフォーチュン。
視界の焦点が遥か彼方に向けられているように、瞳を揺らがせている。
ハイエロファント、テーブルに乗せて組んでいる両手を、改めて、ギュッ、と握る。
デス、ハイエロファントの仕草と横顔、向かいのフォーチュンを順に見ている。
ハイエロファント「(ふうっ、と息を継ぎ)それから暫くしてだよ、マジシャンとプリエステスが結婚式を挙げたのは・・・もともとお互い好き合っていたみたいなんだけど、結婚を決意したのは、フォーチュン、君がきっかけだった。君を育てるという大きな目標が出来て、ふたりは結ばれたんだ・・・(微笑んで)君が、ふたりの縁を結んでくれたんだよ、フォーチュン」
ピクッ、とフォーチュンの眉の辺りが跳ねる。
目線は上げず、伏せたまま。
ハイエロファント「僕の話したいことは、以上だ」
フォーチュン、両膝にそれぞれ手を着き、腕を伸ばして突っ張らせる。
更に俯き、膝頭付近に目を向け、瞼を閉じ、キュッ、と口元を結ぶ。
ハイエロファント「(落ち着いた声で)僕が君の運命を変えてしまったことには、責任を感じている。君は『運命の輪』だけど、自分の運命は自由に出来ないんだよね? その道を大きく逸らせてしまったのは、本当に申し訳ないと思う。だから、言いたいことがあったら、全部言ってほしい。何かをやれ、と言うなら、出来る限りのことはしたいと考えているんだ」
沈黙。
沈黙。
長い、間。
尚も、間。
目を静かに開け、眉を寄せるフォーチュン。
フォーチュン「(ふううっ、と長い溜め息を吐き)話は・・・解ったぞよ・・・」
ハイエロファント「どうかな? 僕に何か出来ることが・・・怒りがあるなら、僕にぶつけても構わない」
フォーチュン「(首を左右に振り)そんなことせぬわ。第一、ぶつけようものなら、そこの死神が黙っておるまい?」
デス「(頷いて)当たり前だ。ハイエロファントに手を出すなら、あたしが相手になる」
ハイエロファント「(デスを見詰め)僕は大丈夫だよ、デス。君に責任を被せるつもりはないから」
顔を上げ、ふたりに視線を向けるフォーチュン。
ゆっくりと表情を和らげ、肩の力を抜いて両手を引き寄せる。
フォーチュン「安心せい。闘う気どころか、怒る気もないわ」
デス、意外そうな表情をフォーチュンに向ける。
ハイエロファント、穏やかな微笑みを浮かべる。
フォーチュン「エロファント、そなたは、タワーを救ってくれたのじゃろう?・・・(フッ、と微笑んで)タワーの恩人じゃ。感謝こそすれ、怒りなど覚えようか」
釣られたように、口端を緩めるデス。
フォーチュン「それに・・・(斜め上に目線をやり)これで、記憶の点と点が繋がりおった・・・父上も母上も、わらわには話してくれなかったが・・・」
ハイエロファント「話すつもりはあった筈だよ。でも多分、その時期を待ってたんだと思う。今の君には、余りにも大き過ぎる話だったんじゃないかな? だから、もっと君が成長するまで・・・理解出来る日まで話をしないでおこうと考えた、と思うよ」
デス「(頷いて)だろうな。いきなり話されても、訳が解るとは思えん。青天の霹靂、という訳だ」
フォーチュン「で、あっても・・・(視線を戻し)やはり話してほしかった、のう」
ハイエロファント「フォーチュン、君は僕たちと対戦する以前の記憶って、いつ戻ったの?」
フォーチュン「(目を伏せ)わらわが家を出てきたあの日、じゃ。それまでは、思い出してはおらんかった」
ハイエロファント「そう・・・突然だったんだね」
デス「原因は解るか? 何かのきっかけがあった、とか?」
フォーチュン「(首を左右に振り)いいや、何もない。それこそ、青天の霹靂、じゃった」
デス「転生してない以上、自身の記憶は残っていた、という訳だろうが・・・(ハイエロファントを見詰め)記憶が封印されていて、急に解除されたのか?」
ハイエロファント「(デスを見詰め返し)恐らくはそうだと思うけど・・・思い出す鍵になった出来事もない、ってのは・・・答えを出すのが難しいね」
フォーチュン「まあ、良い。そなたたちが聞かせてくれたので、な」
フォーチュン、居住まいを正し、表情を引き締める。
彼女の真剣な顔を見て、背筋を伸ばして座り直すデスとハイエロファント。
フォーチュン「(深々と頭を下げ、真摯な声で)礼を言う。事実を話してくれたことと、タワーを救ってくれたことに・・・感謝するぞよ」
ハイエロファント「頭を上げて、フォーチュン。お礼を言われるようなことは、何もしてないよ」
フォーチュン「(頭を戻し)いや、ここで礼を言わねば、いつ言うのじゃ?」
デス「(フッ、と笑みを見せ)かつてのお前なら、礼は言わなかったろうな。一度赤子に戻り、成長し直したことで、感謝を口に出来るようになったんだろう・・・良い環境で育った、ということだな」
ハイエロファント「(微笑んで)マジシャンとプリエステスが育んできた環境、だものね」
フォーチュン「(遠い目をして)・・・否定はせん」
グラスを持ち上げ、飲み物を一口含み、ゴク、と喉を鳴らすフォーチュン。
ふう、と息をつき、コト、と卓上にグラスを戻す。
フォーチュン「ところで、話を聞いて思ったのじゃが・・・ひとつ、言わせてもらうぞよ」
ハイエロファント「何?」
フォーチュン「(瞼を半分閉じ、ジト目で)そなたら・・・赤子のわらわをダシにして、いちゃついておったな?」
直後。
カアッ・・・と、茹ったように真っ赤になって、思わず椅子から立ち上がるデス。
隣で頬を鮮やかに染め、目を丸くして口を結ぶハイエロファント。
デス「(裏返った声で)い! いちゃ!? な! 何を言い出す!」
ハイエロファント「いちゃつく、って! そんなつもりは、なかったけど・・・」
フォーチュン「今の話を聞いた者なら、100人が100人、いちゃついてるとしか聞こえん、と答える筈じゃ。特にエロファント、赤子のわらわを抱いたデスの姿に、ボーッ、っとしておったクセに、何を今更」
ハイエロファント「(更に赤くなり)それはその通りだし、その時のデスが物凄く綺麗だったし・・・」
フォーチュン「(悪戯っぽい口調で)誰と誰の子供を想像したとか、聞いた方がよいか?」
ハイエロファント、再度口元を引き締め、黙り込む。
デス、隣席で立ち尽くしたまま、唇を、パクパク、と開け閉めしている。
全身の肌が朱に染まり、頭頂部から湯気まで出している。
フォーチュン、満足したように、ニッ、と笑う。
フォーチュン「この辺で勘弁しといてやるわ。あまりツッコむと“茹で死神”が出来てしまうからのう」
もう一度、グラスの飲料に口を付けるフォーチュン。
眼前のふたりを、目を細めて見詰める。
フォーチュン「エロファント、デス、そなたたちの話は確かに聞いたぞよ。(飲み物の瓶を持ち)さあ、折角開けたのじゃ、飲んでいくとよい。長話で喉も乾いたであろう?」
すーっ・・・と自然と、緩やかに表情を戻すデスとハイエロファント。
椅子に座り直して、ハイエロファントに眼差しを送るデス。
彼女と視線をしっかりと絡めるハイエロファント。
それから、向かいのフォーチュンに視界を移動させ、自分の前のグラスを持つふたり。
ハイエロファント「ありがとう、フォーチュン。頂きます」
デス「あたしも貰おう」
頷いて、ハイエロファントのグラスに瓶を傾けるフォーチュン。
トクトクトク・・・と、飲み物の注がれる音。
★ (半時後)森の道
雲が割れ、大きな切れ目から太陽光が降り注いでいる。
フォーチュンの居城を離れ、森の道を並んで歩いているデスとハイエロファント。
ハイエロファント、歩を進めながら、一度振り返り、フォーチュンの城の尖塔を目に映す。
そして、再び前方に視線を向ける。
ハイエロファント「フォーチュンは、家に戻るかな?」
デス「いや、まだだろうな。自分から戻るには、何かきっかけなり、機会が必要のような気がする」
ハイエロファント「騒ぎになってしまったこと、気にしてるのかな・・・」
デス「それはあるだろう。だが、一番大きな要因は・・・タワーの存在だと思う」
ハイエロファント「彼がこの城にいるから・・・一緒にいたいから、今は戻らない、ってこと、だろうね」
デス「(頷いて)恐らく、な」
ハイエロファント「マジシャンとプリエステスの為にも、一度戻ってほしいけど・・・」
デス「(ハイエロファントを見詰め)話はした。言うべきことも言った。ハイエロファント、お前が出来ることはすべてやった。これ以上出来ることはない。後は・・・あいつら家族間での問題だ」
ハイエロファント「(デスを見詰め返し、頷いて)そうだね・・・」
真っ直ぐに道の先に目線を据え、肩を並べて歩くふたり。
ハイエロファント「少しでも良い方向に向かってくれれば、いいな」