デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集   作:桁石スミオ

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正義の恋 ― Episode of Justice ー 【第三話】

★ 神殿・ハイエロファントの居室

 

 居室の書斎机の椅子に座り、卓上で両掌を合わせて組んでいるハイエロファント。

 書斎机の真横で腕組みをして立ったまま、一方向に据えた目線を投げるデス。

 デスとハイエロファントの視線を浴び、机に正対した椅子に腰を下ろすエンペラー。

 エンペラー、両膝の上で拳を握り、脂汗を垂らしている。落ち着きがない。

 

エンペラー「ちょっと・・・これじゃ裁判みたいじゃない! 弁護人いないのッ?」

デス「(少し苛ついた様子で)・・・いいから何があったか喋っておけ」

エンペラー「喋れ、って言われても・・・どっから話せばいいか判らないわよ!」

デス「(一度深い呼吸をして)最初から話して、最後まで話したら終わればいい」

ハイエロファント「エンペラー、君が『小アルカナのカード』を手に入れた時にあったこと、以前フォーチュンから聞いているんだけど、改めてそこから話してほしい。そして今日、ジャスティスに追われた時の状況も続けて聞かせてくれないかな?」

 

 グッ、と一度息を飲み込むような仕草をするエンペラー。

 暫し、そのまま。

 やや長めの間。

 ハアアア、と観念したように溜め息を吐き、目を閉じて、すぐに開く。

 

エンペラー「(諦念に溢れた顔で)・・・解ったわよ。順番に話すわよ」

 

 

【回想シーン】

 

★ (過去)荒野の端・ジャングルとの境界付近・廃城

 

 深夜。ホウ、ホウ、と梟の鳴き声が静寂を破って響く。

 『半月』となっている月の光が、密林の樹木の枝間を縫う。

 荒れ果てた中規模の廃城。煉瓦も方々で崩れ、何百年と誰も手を加えてないような雰囲気。

 エンペラー、そこの玄関ホールと思しき部屋の中央に、腕組みをして立っている。

 

エンペラー「(眉を顰め)まさかここまで荒れてたなんてね・・・んーとー・・・(グルリ、と玄関ホールを見回し)こりゃあ造り直した方が早いかしらん。でもアタシの細腕じゃ、工事はしんどいわ。(ハタ、と気が付き)そーよ、タワーに手伝ってもらえば・・・(首を振り)イヤイヤ、フォーチュンが許可しないでしょうねー」

謎の声[・・・なら、我輩が手を貸してやろう、ゾ]

エンペラー「ヒィエエエエッ!!!」

 

 跳び上がるように驚き、ブン、ブン、と辺りに目線を放り投げるエンペラー。

 

エンペラー「だっ、だだだだだだ誰よォッ!」

謎の声[そう畏れずとも良い・・・我輩の声はちゃんと聞こえているらしいな]

エンペラー「(悲鳴混じり)嫌ァァァ! お化けェ!」

謎の声[(愉快そうに)ムシュシュシュ・・・貴様の世界にも“お化け”がいるのか。それは重畳、ゾ]

エンペラー「アタシ食べても美味しくないわよッ!」

謎の声[心配いらん、ゾ。身体は食わぬ。貴様に力を与えに来た]

エンペラー「(ハッ、と落ち着き)力? 力って、何の?」

謎の声[・・・それは・・・(地鳴りのような低い声で)貴様の願いを叶える力、ゾ]

 

 エンペラー、今度はゆっくりと、確認するように視線を移動し始める。

 声は一箇所ではなく、反響も伴って四方八方から聞こえてくる。

 

謎の声[貴様の願いは、フォーチュンの下僕、タワーを操り、ここを新しく建て直すこと・・・]

エンペラー「無理よォ、タワーはフォーチュンの魔力でしか動けないのよ。フォーチュンがウンって言うワケ・・・(ハタ、と気が付いて)ちょっと待って・・・何であンた、フォーチュンもタワーも知ってるの? マジカルランドの住人にしちゃぁ、聞いたコトない声よね!?」

謎の声[知っている、ゾ・・・フォーチュンもタワーも、よぉく知っている]

 

 突然。

 エンペラーのすぐ近くの足元に、ブイン・・・と半球状の紫色の光が湧く。直径50センチほど。

 ビクッ!と片足を跳ね上げるが、視界をしっかりとそこに向けているエンペラー。

 

謎の声[こいつを使うといい]

 

 光の中心付近の、大理石を敷き詰めた床に、四角の小箱。

 細長く平たい、木製の蓋付きのケース。木目を生かした表面の柄。

 屈んで顔を近付け、じっ、と凝視するエンペラー。

 箱の蓋に、魔法陣のような円形の彫刻細工がある。

 

エンペラー「何コレ?」

謎の声[これは古代魔術のアイテム『小アルカナのカード』、フォーチュンの宝物庫に置いてあった代物、ゾ]

エンペラー「魔術、って、アタシ魔法使えないわよ」

謎の声[心配無用・・・既に封印は解いてある、ゾ。魔法の使えない者でも使えるようにしてある]

エンペラー「(辺りを改めて見回し)アタシにどうしろって言うの?」

謎の声[先程言った通り、願いを叶えろ。使い方を今から教える。心して聞くがいい、ゾ]

エンペラー「それより、アンタ何処の誰? 姿を現さないの?」

謎の声[(低く唸り)訳あって現せない・・・今はな]

 

 エンペラー、再度、床に置かれた小箱を穴の開くほど見詰める。

 右手を顎の下に当て、眉を顰めて考え込む。

 

エンペラー《何か怪しい話だケド・・・マジカルドロップを手に入れるにもフォーチュンに勝たないとイケナイし・・・今のアタシじゃ、そうそう勝てないし・・・》

謎の声[カードを使い、フォーチュンの魔力をタワーに宿せば、言うことを聞くだろう。さすればこの城を新しく建て直し、その主として住むことなぞ造作もない、ゾ]

エンペラー「そんなコトが出来るのん?」

謎の声[出来る。そして城の主となり、好きな者を侍らすがいい、ゾ]

エンペラー「好きな者?・・・」

 

 瞬時に、エンペラーの脳裏にハイエロファントの姿が浮かぶ。

 そして、ポン!と左掌を右拳で叩いて、パアァァァッッ!!!と明るい蕩けた笑顔になるエンペラー。

 

エンペラー「(嬉しそうに)エロファントちゃんとのスイートホームってことねーッ!」

謎の声[誰だか知らぬが、そいつを連れてきて共に暮らせ。働きに期待している、ゾ。(重低音で嗤い)ムシュ、ムシュ、ムシュシュシュ・・・」

 

 床の『小アルカナのカード』のケースを、バシッ、と荒々しく取るエンペラー。

 途端、小箱を包んでいた半球状の紫の光は失せる。

 エンペラー、カードの箱を握ってしゃがんだまま、動きを停めている。

 暫くの、間。

 暫くの、間。

 スウッ・・・と静かな動作で立ちあがるエンペラー。

 両方の眼に、微かだが紫色の濁った光が宿っている。

 ニイヤァッ・・・と、口角を引き攣ったように釣り上げ、悪鬼のような嗤いを浮かべる。

 

【回想シーン終了】

 

 

★ 神殿・ハイエロファントの居室

 

 エンペラーの話す事柄を一通り聞き、顔を見合わせるデスとハイエロファント。

 

デス「フォーチュンから聞いた話とは一致したな」

ハイエロファント「(頷いて)そうだね」

エンペラー「(心外そうに)流石にこの期に及んで嘘ついても仕方ないでしょ!」

デス「それにしても・・・(じろ、とエンペラーを睨み)得体の知れない正体不明の奴の話を、よくもまああっさりと信じ込んでくれたものだな」

エンペラー「イヤ、疑ったわよ! 少しは」

デス「最終的には話に乗って・・・(深い憤りで)ハイエロファントを誘拐したんだろう?」

エンペラー「だからそれはホントごめんなさい! (頭を下げて、再び上げ)反省してるのよん!」

ハイエロファント「僕が連れ去られた件はともかく、エンペラー、君の口から“約束”を聞いてない」

エンペラー「(少し考えて)“約束”?」

ハイエロファント「(圧を持った、響くような声質で)・・・デスを、二度と傷付けない、ってこと・・・」

 

 真っ直ぐに、射抜くような視線をエンペラーに向けるハイエロファント。

 凛とした雰囲気。更に、その場の空気が凍て付くような、威圧感。

 ビクウッ!と、エンペラーが椅子に座ったまま、跳ねる。

 そして先程の汗とは違う、畏怖の感情がもたらす汗が、全身あちこちから湧く。

 一方、デスはハイエロファントの横顔に眼差しを繋ぎ止めたまま。

 沈黙。

 沈黙。

 限界を超えた様子で、縮こまった身体の緊張を自ら解くエンペラー。

 ふううううう、と非常に長い溜め息を継いで、視線をやや下方に向ける。

 

エンペラー「(重めの声質で)解ったわ・・・約束します・・・」

 

 ハイエロファント、緩やかに笑みを浮かべ、デスを見詰め返す。

 デス、微かに唇に笑みを湛え、僅かに申し訳なさそうな色を瞳に宿す。

 それから、もう一度エンペラーに目線を放る。今度は落ち着いた色彩。

 

デス「それから、今日あったこと、だ。ジャスティスの状態が明らかに異様だった」

エンペラー「(通常の声で)アレはね・・・ジャス子と話してる時に、変なコトが起こったのよ」

ハイエロファント「変なこと?」

エンペラー「(怖ろし気に)アタシに『小アルカナ』を渡した時の声と、同じ声が聞こえたの。姿は見せずに、どっからともなく、ね・・・でも今日のは、更に・・・(顔の上側に影が入り、声を震わせ)紫色の光が帯になっていきなり降ってきて、ジャス子にブチ当たって、そしたら・・・」

デス「ジャスティスが攻撃してきた、ってことなのか?」

エンペラー「(蒼褪めたまま頷いて)そうなのよ・・・アタシが呼び掛けても返事もナシで、急に斬りかかってきて・・・もうダメ、死ぬかと思ったわ」

デス「安心しろ。あたしの大鎌でないと死ぬことはない」

エンペラー「(汗を飛ばしながら)死にそうなくらいブッた斬られるトコだったのよん!」

 

 腕組みを解き、両手を体側に垂らすデス。

 

デス「(瞼を一度閉じ)あれは、今まで闘ってきたジャスティスではなかった。瞬きすらしない紫色の瞳といい、纏わり付いていた紫色の光といい、(目を開けて)“何か”がジャスティスの中に、いた。別人が憑依していたようだった」

ハイエロファント「(デスを見詰め)憑依・・・誰かが憑りついていたってことかな?」

デス「(ハイエロファントを見詰め)可能性がある、ってことだ。何者かは不明だし、今だかつてこんな出来事に遭遇した経験がない。フォーチュンやワールドなら、何らかの事例を知っているかも知れない」

 

 デスとの会話に頷いてから、改めてエンペラーに視線を移すハイエロファント。

 

ハイエロファント「それで、走ってきたところで僕たちに会った、ってことなのかな?」

エンペラー「そうなのよー。エロファントちゃんが救いの神様に見えたわ。(ニッ、と笑い)まあアタシにとっては神様以上に愛しの・・・」

デス「(断ち切るように)話は判った。あとは、ジャスティスの様子はあたし達で見ておく」

エンペラー「(怒声)最後まで言わせなさいよッ!!!」

ハイエロファント「ありがとうエンペラー、お陰でいろいろと判ったよ」

エンペラー「(コホン、と空咳をして)ま、まあ、エロファントちゃんがそー言ってくれんなら、いいわ」

 

 両掌を広げて、タン、と両膝を叩き、勢いをつけるようにして椅子から立ち上がるエンペラー。

 デスとハイエロファントが見ている前で、何やら吹っ切れたような、不敵な笑みを顔に出す。

 そして左右の拳を腰に当て、胸を張るような姿勢を取り、ふたりを視界に映す。

 

エンペラー「エロファントちゃんともっとお喋りしてたくて名残惜しいところだケド、そろそろアタシは帰るとするわ。(デスを見て)死神、あンた、ジャス子が目ェ覚ましたら声掛けてやんなさいよ。優しくね。(明瞭な声で)や・さ・し・く・ね!」

デス「(これ以上ないほど訝し気に)・・・お前は何を言ってるんだ?」

ハイエロファント「(はっ、と何かに気付き)うん、そうだね。声を掛けてあげるといいよ、デス」

デス「(ハイエロファントに驚いた表情を向け)ハイエロファントまで・・・まあ、判った。ハイエロファントがそう言うのなら、そうする」

 

 デスの台詞を聞き届け、その場で、くるうり、と踵を返して半身になるエンペラー。

 

エンペラー「そんじゃエロファントちゃん! まったねー! 愛してるわん!(チュッ、と投げキス)」

 

 特に表情の変化もなく、冷静な顔のハイエロファント。

 僅かに眉間に皺を寄せるが、すぐさま普段の表情となるデス。

 そして、妙に軽やかな足取りで、居室の扉を開いて廊下に出るエンペラー。

 パタン・・・と扉が締められ、スキップするような足音が廊下を遠ざかっていく。

 小さくなっていく音が、ふたりの耳に届いている。

 

デス「(ふう、と嘆息をつき)相も変わらず、だな」

ハイエロファント「(にこ、と微笑んで)そうだね」

 

 ハイエロファント、キィ、と椅子を傾けてデスに身体を向ける。

 

ハイエロファント「ジャスティスはあの時、何かに憑りつかれてた。あの紫の影・・・何だったのかは解らないけど・・・多分、君に攻撃してきたのって、彼女の意志とは無関係だったと思う」

デス「(頷いて)それはあたしも感じた。いつものジャスティスの太刀筋とはまったく違う、凶暴な剣、暴風のような速さ・・・恐らく、その憑依していた“影”が操っていたと思えるな」

ハイエロファント「運良く身体から剥がせて、君が撃退出来たのはいいとしても・・・」

デス「・・・正体が不明だ。あたしが送ってきた魂に近い気がするが、異質な存在だった」

ハイエロファント「エンペラーの話と合わせて考えると、以前から『誰か』がマジカルランドに入り込んでいるのかな・・・でも姿を見てないってことは、別世界から間接的に魔術や魔力を使ってるのかも知れない」

デス「(据えた眼差しで)そいつが、何かを目的としてこの世界に干渉しているんだろう」

ハイエロファント「とにかく、これから注意して情報を集めてみた方がいいね」

デス「(大きく首を縦に振り)ああ。あたしも“仕事”で行った先で、出来る限り集めてみる」

 

 頷き返すハイエロファント。

 意志を漲らせ、視線を絡ませ合う、ふたり。

 僅かの、後。

 ちら、と寝室の方向に瞳を泳がせるデス。数秒、そのまま。

 ハイエロファント、静かに微笑んで目を細める。

 

ハイエロファント「・・・そろそろ、ジャスティスのところに行こうか」

デス「(視線をハイエロファントに戻し)あ、ああ・・・そうだな・・・」

 

 見透かされた時のような、少しの戸惑いを表情に混じらせるデス。

 

 

★ 神殿・ハイエロファントとデスの寝室

 

 小振りな窓が高いところにあり、陽が差し込み、光の直線を描いている室内。

 寝台の上に、小さな寝息を立てて横臥しているジャスティス。

 落ち着いて安心し切ったような、寝顔。

 ベッドの横に立て掛けられている鞘に収まった大剣が、カタ、と僅かに音を発する。

 ぴく、と、こめかみの辺りが反応し、ジャスティスの瞼が緩やかに開いていく。

 通常の呼吸を取り戻そうと、少し、すう、と肺に空気を送り込む。

 

ジャスティス《(陶酔したように)いい匂い・・・落ち着くなぁ・・・》

 

 焦点がまだ定まっていない視線を放り投げ、仰向けになるジャスティス。

 

ジャスティス《ここって・・・神殿の寝室・・・》

 

 それから天井に目をやり、遠くを眺めるような眼差しを向ける。

 

ジャスティス《(ぼんやりとして)思い出した・・・さっきまで『誰か』がボクの中にいて、ワケ判らない内に、気付いたらデスと闘ってたんだ・・・》

 

 急速に蘇ってくる、戦闘時の記憶。

 自分の裡に得体の知れない“影”が存在する、おぞましさ。

 明らかに相手を屠る威力の、殺意を込めた波動に充ちた、闘い。

 ゾッ・・・と猛烈な寒気が、ジャスティスを襲う。

 そして、デスに斬り掛かっていった瞬間が、電光の如く脳裏を劈く。

 自分の感情、想いを踏み躙るような、意志を無視した苛烈な剣撃。

 いたたまれない感情に襲われ、涙腺を殴打されるジャスティス。

 

ジャスティス《もうデスと闘う気なんて(ギュッ、と唇を噛み)ないのにっ・・・!》

 

 ジャスティスの目頭に、じわ、と涙が浮かぶ。

 直後。

 ガチャリ、と寝室の扉が開き、ハイエロファントとデスが入ってくる。

 ハッ!と顔を扉の方に向けるジャスティス。寝台に横たわったまま。

 歩み寄りながら、安堵の表情を顔に出すハイエロファント。

 

ハイエロファント「(笑顔で)気が付いた? ジャスティス」

ジャスティス「(か細い声で)エロファント・・・デス・・・」

 

 ハイエロファント、ジャスティスを見たまま、両手を後ろ手に組んで立ち止まる。

 デス、更に数歩ベッドに近付き、すぐ傍らまで進んでジャスティスを見下ろす。

 絡み合う、ふたりの眼差し。

 

ジャスティス「(潤んだ目で見詰め)デス・・・」

デス「(ふっ、と微笑んで)そんな悲しそうな顔するな。お前らしくない」

 

 緩やかな動作で、寝台の端に腰を下ろし、上半身を左側に向けるデス。

 すっ、とデスの左手が伸び、掌をジャスティスの頭部辺りに翳す。

 それから、羽で撫でるような優しい動きで、彼女の髪を撫でるデス。

 

デス「(深い、穏やかな響きで)今は・・・こうしていろ・・・」

 

 正円に見開かれる、ジャスティスの両眼。

 停止。

 停止。

 尚も、そのまま。

 じぃわぁぁぁ・・・と泉から湧き出す純水の如く、涙を流し始めるジャスティス。

 途端。

 ガバァッ!と跳ね上がるジャスティスの上半身。

 驚いた顔のデスの、差し出している左腕の内側を滑るように、懐に飛び込んでくる。

 そして勢いそのままに両腕をデスの胸から背中に回し、ぎゅうううっ!!!と抱き着く。

 突然の出来事と、今の現状を認識し、見る見る赤くなっていくデス。

 止めどなく溢れ続ける、ジャスティスの涙。流れ落ち、デスの胸元を濡らす。

 

ジャスティス「(轟くような泣き声)うわああああん!!! デスぅ!!!」

デス「(頬を染めたまま)おいっ! いきなり抱き着くなっ!」

ジャスティス「ごめんねデス! ボク、ボク・・・(しゃくり上げながら)ホ・・・ホントにごめん!!! ボク、あんな闘いなんてしたくなかったのに!」

デス「だから・・・何かに憑りつかれてたんだろ? お前の闘いじゃないことぐらい、すぐに解った・・・(少し怒り気味に)解ったから離れろ! くっつき過ぎだ!」

 

 ハイエロファント、柔らかい微笑みを浮かべ、ふたりを見詰めている。

 デス、助けを求めるかの如き顔をハイエロファントに向け、戸惑いを惜しみなく表現している。

 

デス「(困り果て)ハイエロファントも何とか言ってやってくれ・・・」

ハイエロファント「うーん・・・(目を細め)でも今のジャスティスの一番の治療は、君にそうしていてもらえることだと思うよ」

 

 ぐう、と息を飲んで、これ以上ないほどの困惑を見せるデス。

 しかしすぐに、少しの冷静さを取り戻した様子で、頭を掻き、ジャスティスに目線を戻す。

 

デス「(はあ、と溜め息をつき、諦めたような口調で)もう少し、だけだからな・・・」

 

 未だにしゃくり上げが治まらないジャスティス。

 小さく可愛らしい仕草で、コクン、と頷く。

 高窓から差し込んでいる陽の光が、仄かな温もりを空間に届けている。

 

 

★ (数日後)森と草原の境・ストレングスの家・庭の樹の木陰

 

 太陽が眩しいほどに、天頂にある午後。

 さわ、と涼しい風が大樹の枝葉を揺らす。

 その根元、木陰に並んで草叢に腰を下ろしているジャスティス、ストレングス。

 ジャスティス、揃えた膝を両腕で抱えている。

 ストレングス、胡坐をかいて、両手を後方に付けて座る。

 ストレングスの傍らでは、ガオガオが伏せて、重ねた両前足に顎を乗せ、眠っている。

 眉を顰め、やや重い表情のジャスティス。

 話に頷きながら、真摯さに溢れた眼差しを向けるストレングス。

 

ストレングス「そっかー、いろいろ大変だったねー」

ジャスティス「(グッ、と奥歯を噛んで)正直、悔しくて悔しくて・・・『誰か』に操られた挙句に、デスに滅茶滅茶な闘いを仕掛けるなんてさ・・・“正義”が聞いて呆れられるよ」

ストレングス「でも結局、デスに優しい言葉掛けてもらったんでしょ?」

ジャスティス「(カアッ、と真っ赤になって)うん・・・それは、良かったよ、うん、すっごく良かった」

 

 ストレングス、眼前の草原の遠い箇所に視線を投げ、少し微笑む。

 

ストレングス「デスの優しい言葉って、破壊力凄いよねー」

ジャスティス「(笑顔で頷いて)そうそう! すっごいよね! キミも掛けてもらったんだよね?」

ストレングス「(笑い返し)うん、アタイは頭撫でてもらって褒められた。とーちゃんのマッスルボンバー並みにもんの凄かったよ、衝撃が」

ジャスティス「(しみじみと)わっかるなぁ、あれは言ってもらわないと解らないよねっ!」

ストレングス「エロファント兄ちゃんは、毎日言ってもらえてるのかなぁ」

ジャスティス「そうだよねぇ・・・羨ましいケド、毎日だったら身体持たないかもね」

ストレングス「丈夫さには自信あるけど、アタイもきっと持たないなぁ。(ジャスティスを見て)たまに言われるからいいのかもよ?」

ジャスティス「そうかも知れないね」

 

 肩を竦めながら、共感出来た嬉しさを顔に出すジャスティス。

 身体を、ずい、とジャスティスの方に向け、座り直すストレングス。

 

ストレングス「でさ、ジャスティスはデスに言うの? 気持ち」

ジャスティス「(首を左右に振り、寂し気に)・・・ううん、言わない。きっと迷惑だと思うし」

ストレングス「アタイは言ったよ、デスに」

 

 間。

 間。

 更に、間。

 跳ね上げるように両腕を解き、思わず前のめりになって顔を近付けるジャスティス。

 

ジャスティス「(正円に目を見開いて)そんなの初耳だよっ! 言ったの!? いつ!? 何処で!?」

ストレングス「(あっけらかんと)デスとエロファント兄ちゃんが結婚する前に、昼ご飯一緒に食べようって、ウチに呼んだんだ。食べ終わってから言った。(指で地面を指し)丁度ここ、樹の下で『好きだよ』ってね」

 

 ジャスティスの口元が覚束なく震え、暫く声を発することが出来ず。

 余りにも狼狽えた顔が、彼女に貼り付いている。

 漸く、落ち着こうとして両の瞼を一度閉じ、静かに再度開くジャスティス。

 

ジャスティス「ねねね、それで? デスは何て言ったの?」

ストレングス「(デスの声真似で)『お前は何を言ってるんだ』だって!」

 

 急速に沈静化していく、ジャスティスの表情。

 戸惑い、何と言葉を返していいか判らなさそうに、視線を落とすジャスティス。

 

ジャスティス「・・・そうだったんだ」

ストレングス「まあでも、デスがそんなんでテレテレになるなんて思わなかったし、当然の反応かな」

 

 さっぱりとした笑顔をジャスティスに見せるストレングス。

 安堵したような、穏やかな笑みを向けるジャスティス。

 

ストレングス「アタイの『デスが好き』と、アンタの『デスが好き』って、別物のような気がする。アタイはデスに言って後悔してないし、良かったと思ってるケド、もしかしたらジャスティスは、言わない方がいいのかも知れないなぁ。何となくだけど・・・(身を乗り出すように)ねえ、ジャスティスってさ、デスとどうなりたいの?」

ジャスティス「(頬を染めて)どうって・・・どうなりたいの、って・・・」

ストレングス「恋人になってイチャイチャしたい、とか?」

ジャスティス「(ボフゥン!と湯気を出して、灼熱化して)うわぁっ! 何てコト言い出すんだよッ!!! そ、そそそそそんな、ボクが、デ、デスとイチャイチャ、って・・・(顔を覆って俯いて)もーっ! 頼むから想像させないでくれないかっ!」

ストレングス「(ニイ、と笑みを浮かべ)大当たり、かな。アタイの予想以上かも知んないケド」

 

 ストレングスの笑顔を横目に見ながら、尚も赤面を隠そうとしているジャスティス。

 しかし、やがて静かな調子でそれは治まっていき、普段の表情を戻し、両手を下ろす。

 入れ替わりに、ジャスティスの顔に重厚な色が浮かんでくる。

 真剣そのものの眼差しで眉を寄せ、前方を見詰める。

 

ジャスティス「でもさ、罷り間違っても・・・(真剣な声で)デスとエロファントを引き離すようなコトは、しちゃいけないんだ。デスがエロファントと一緒にいて、幸せを感じててくれるのが・・・ボクの願いでもあるんだから」

 

 ジャスティスの澄んだ声質に、居住まいを正して、唇を引き締めるストレングス。

 

ジャスティス「ボクね・・・前に、ワールドからデスの昔のコトいっぱい聞いて、どれだけつらい運命なのか、どれだけ苦しんできたのか思い知ったんだ。なのにボクったら、昔は勝手にデスを悪だって決め付けて、散々闘いを仕掛けてきて・・・『正義の気持ちなんて解らない』って言われたコトもある。そりゃそうだよね、言われて当然さ。それに、ワールドの話を聞いてから考えたんだ。もしね、自分が死神の役目をやらなきゃならない、ってなったら・・・(悲愴な面持ちで)無理だ、絶対に出来ない、って・・・でもデスは運命を受け入れてきた。どんなに苦しかったんだろうね・・・どんなにつらかったんだろうね・・・(一呼吸置いて)そんなデスが恋してる顔を初めて見せてくれた時、(心底感嘆して)ああ、可愛いなぁ、って思ったんだ。こんなに可愛い顔するんだ、って・・・そん時かな、ボクが・・・(薄く頬を染め)恋に落ちて、デスが大好きになったのは」

 

 ストレングス、綺麗な紅色になるジャスティスを見詰め、ふっ、と静かな微笑みを浮かべる。

 

ジャスティス「デスにとってエロファントは、生まれた時からの苦しさやつらさを理解してもらえる、唯一絶対の存在なんだよね。あんなものすっっっっごく可愛い顔させるんだもの。そしてエロファントもデスに恋してた。もう何も言うことないよ。だって・・・(穏やかな笑顔で)エロファントがデスと一緒にいる限り、ボクは、デスの可愛いあの顔を、何度も何度も見ることが出来るんだ、からね」

 

 納得したように、大きな動作で頷くストレングス。

 それを目の当たりにして、ジャスティスも同様の仕草で首を上下に振る。

 身体の芯が共鳴したように、眼差しを交わすふたり。

 

ジャスティス「だから・・・絶対に言えないんだ。デスはもちろん、エロファントにも嫌な思いさせる。あのふたりには何があっても離れてほしくない。それは、ふたりが想い合ってるのを知った時・・・ううん、デスがエロファントに恋してる、って知った時から変わってない本気の気持ち、なんだよ」

ストレングス「(静かに微笑んで)・・・そうだね、アタイもそう思う」

ジャスティス「これからボクが出来る一番のコトって、デスがずっと幸せでいてくれるよう、(清廉な声で)ふたりの関係を護っていくことだと思う」

ストレングス「だったら・・・(凛とした声で)アタイたち、一緒だね」

 

 ストレングス、右手を眼前に掲げて拳を作り、指を折った側を、すっ、とジャスティスに向ける。

 ジャスティス、続けて左手を上げ、拳を握ってストレングスに掲げる。

 一瞬の、後。

 双方の拳が伸び、コツン、と小さな音を立てて一度合わさり、離れる。

 ニコッ、と満面の笑顔のジャスティス。

 ニイッ、と弾けるような笑顔のストレングス。

 ふたりの座る木陰に、穏やかな風が吹き込み、周囲の草叢を波立たせる。

 風はそのまま草原を駆け、やがて気流に乗り、天空へと舞い上がっていく。

 

 

 

外伝【 正義の恋 Episode of Justice : 了 】

 

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