デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集   作:桁石スミオ

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落語「改訂版・死神」【第二話】

 ところが、看板を出してものの半時も経たない内に、男性の家の玄関横にスーツ姿の壮年の男の方が見えられました。

 「えー・・・ごめんください・・・」

 「はいはい、それでしたら、この先の角を左折して、100メートルくらい行ったトコに玩具店がありますぜ」

 「え? 何をおっしゃって・・・」

 「だから、『お面ください』って言ったでしょ?」

 「・・・あ、いえいえ、お面、ではなく、『ごめん』ください、と申したのですが・・・」

 「・・・解ってますって! 軽い挨拶の洒落ですよ! 尋ね人が滅多来なくて、聞き慣れないから勘違いしたワケじゃあございやせん!」

 「・・・話に入っても、よろしいですか?」

 「はい! どーぞどーぞ!」

 「こちらは、お医者様で、間違いございませんか?」

 「はいはい、医者ですよ。今日開業したばかりの・・・」

 「今日開業したばかり?」

 「あ! いやいや! 今日開業したばかり、でなくって、業界業者に憚りの、隠れたモグリの医者・・・」

 「隠れたモグリ?」

 「違う違う! あっしの出身が、カクレーター・モーグリ大学医学部って海外の学校でしてね!」

 「・・・何か胡散臭く思えてまいりましたが・・・」

 「まあ、細かいコトは気にせず! で、どういったご用件で?」

 「ああ、これは失礼・・・実はお医者様に、患者を診て頂きたいのでございまして・・・」

 「医者ですからね、診るこたぁ診ますが・・・他のお医者さんには診てもらったんで?」

 「ええ、実は、私どもはある会社を経営しておりまして、私はそこの専務取締役を務めております。今回床に伏したのは、ウチの社長です。まだ50半ばの現役なのですが、突然倒れまして、それ以来ずっと布団から起き上がれず、眠った状態です。既に10人以上のお医者様、医療機関をたらい回しにされました・・・何処に行っても『この患者は余命がない』『回復の見込みがない』などと告げられ、入院すら出来ない始末・・・ほとほと困りまして、占い師の先生に相談いたしました。タロット占いをやって頂いたのですが、先生のおっしゃるには、『○○線○○駅北口から通りを真っ直ぐ進み、3つ目の信号を右折、その先、最初に見た『医者』の看板の家に、名医がいる。訪ねてみろ』とのお話でして・・・それで訪ねてきましたら、こちらに辿り着いた、という次第です」

 「つかぬコトを聞きますが・・・その占い師の先生ってのは、女性ですか?」

 「よくお判りで!」

 「髪は紫で、こう、左右がピン!と跳ねたような髪型で、耳が尖がってて、ルビーのような目の色の」

 「そこまでご存知でしたか! 有名な占い師の先生なんでしょうか?」

 「まあ、有名っちゃ有名ですか、ね・・・ははあ、デスさん、上手いコトやってくれたのかい・・・」

 「何か?」

 「いや! こっちの話でさぁ!・・・話は解りやした。じゃあ、これから伺いやしょ」

 「ありがとうございます! ささ、タクシーを待たせてありますので、どうぞ」

 そんな訳で、タクシーに乗せられて向かった先が、立派な門構えのお家、早速奥の間に通されました。そこには、話にあった社長さんが、見るも痩せこけた風体で寝てらっしゃいます。瞼は薄く開いていますが、意識がある様子ではなく、朦朧としているか、あるいは眠っている状態です。

 男性は部屋に入った途端、布団の足元を見ました。

 そこには・・・黒いローブを着て、大きな鎌を肩に掛けた死神が、胡坐をかいて座っております。フードを深く被っていて、顔ははっきり判りませんが、どうやらご老人の姿と思われます。

 「ホントにいやがった・・・しかも足元の方だ。よし!」

 「何がよろしいんで?」

 「いやいやいや! 独り言でさぁ・・・そんじゃ、診察いたしましょ。ふうむ・・・」

 男性は患者の脈を取る真似をしたり、胸の辺りを触診するフリをしたり、眼球を覗き込んでみたりと、精いっぱいの見よう見真似で医者を演じておりました。

 「・・・如何でしょう」

 「うむ・・・大丈夫、治してみせましょ」

 「本当ですか!? 今、社長に何かありましたら、社運を賭けたプロジェクトの一大事、何卒! 何卒治療願います! 御礼は如何様にもいたします!」

 「じゃあ、専務さん、治すことが出来ましたら、治療代はこれくらいでどうです?」

 (指を3本立てる)

 「300万ですね! かしこまりました! 経理もそれくらいは出せそうと申しておりました!」

 「やややや! それは!」

 「不足ですか?」

 「いいええ! 充分でさぁ!・・・3万くらいと思ってたが、マジですかい?・・・判りやした、それで結構です」

 「ありがとうございます! では、早速治療の方を!」

 「ようがす、始めさせてもらいましょ。ただし、今から行う治療は、遥か太古から一子相伝で受け継がれてきた、秘術中の秘術、一切の他言は無用で願います。もし人に話そうものなら、また患者さんは病になり、それどころか話した人も黄泉の淵を彷徨うことになりますんで、くれぐれも、ご内密に」

 「・・・了解しました。肝に銘じておきます」

 男性は専務さんに指示して、患者の社長さん、立ち合いの専務さん以外をお人払いして、部屋の襖をすべて閉じました。そして自分は、患者さんの布団の横に、どっかり、と胡坐をかいて座り、大げさな動作で手を前で組みます。修験者が印を組むように、ですね。

 そして、ちら、と足元の死神を見ます。

 「んー・・・むにゃむにゃむにゃ・・・アジャラカモクレン、マージドロ、テケレツのパッ!」

 (パン! パン!と2回手を叩く)

 すると、チッ、と舌打ちが聞こえ、死神の姿は、すーっ、と消えていく。

 途端、それまで意識朦朧としていた患者さん、ガバッ!と起き上がって・・・

 「おーい! お茶!」

 「うわああッ! 社長! 意識が戻られたッ!」

 「・・・おお、専務かい。すまんが喉が渇いた。茶をくれ。あと、腹も減ったので何か持ってきてくれ」

 「社長! ようございました! お医者様! 奇蹟でございます!」

 「・・・ホントに治っちまったよ・・・あ、まあまあ、ざっとこんなモンでさぁ」

 「ありがとうございます! 感謝申し上げます! それと、センセイ・・・」

 「センセイ!? いい響きだねぇ・・・何でしょ?」

 「お薬など頂けましたら・・・」

 「薬? んなもんいらねぇですよ」

 「そうおっしゃられても、経過観察も必要ですし・・・」

 「薬っつったってなぁ・・・あ、そうだ、確か・・・」

 男性は自分のズボンのポケットを、ごそごそ、と探ります。そして取り出しましたのが、お菓子のラムネが数個。

 「これを一日一錠、飲ませてやんなさい。薬がなくなる頃には、膏薬を剥がしたように、ケロリ、と良くなってますよ」

 「重ね重ね、ありがとうございます! あと、食べ物とか、気を付けることがございましたら・・・」

 「専務さん、心配症だねどうも・・・あー、はいはい、大丈夫大丈夫。本人の食べたいモノ、何でも食わしてやって問題ありやせん。肉でも魚でも鰻重でも大丈夫です。ご心配なく」

 「センセイ! ありがとうございました! では、御礼と治療代は、只今から準備して持ってまいります!」

 という訳で、男性は、300万円という大金と菓子折を貰って、自宅に帰ってまいりました。

 「こんな大金初めて持った・・・凄ぇな・・・暫く、眺めておこう。しかし、あのデスさんって死神・・・こうも上手く運んでくれるたぁ夢にも思わなんだ。あの方は幸運の女神に違ぇねぇ!」

 と、男性が僕の奥さんを褒めて下さいました。まあ、僕にとっては、最初から幸運の女神なのですが。

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