デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
薄暗い洞窟の、奥。
デスが住居している開けた空間に、ランタンのオレンジ色の光が満ちる。
寝台としている、平たく小振りな岩に腰を掛け、彼女は左手にマジカルドロップが詰まった壜を持っていた。それを暫く感慨深げに見詰め、手首を少し返してみる。飴玉同志が当たる、軽やかで明るい調子の音が鳴る。
深遠な感覚すらある虹色の煌きを瞳に映し、デスは思う。
先日、ハイエロファントと逢った後に決意した、事柄。
マジカルドロップで、願いを叶える。
彼女の願うことは、たったひとつ。
今の自分の―――彼への恋心を生涯貫きたい、ということ。
それは、魔術で実現しなければならないことなのか、と考えもした。しかし、死神であるおのれの宿命を負い続ける限り、いつかまた精神が崩壊し、心身共に闇に蝕まれる日が来ないとも限らない。今の自分はハイエロファントを想い続けるだけで何もかもが救われている、と感じていた。
そして、彼を想う度に到達する、感慨の極み。
この世で最も悦楽へと導いてくれる、慕情。
それを。
身が朽ち果てようとも、いや、朽ち果てても尚、抱き続けたい。
死神の役目故、いずれは彼の命に終わりを告げ、首に刃を立てる日が来るだろう。その時を超えてもこの身体が存在するのであれば、創造神により自分のすべてが滅するまで―――ハイエロファントをずっと、ずっと思い続けていられれば、我が人生は救済されるであろう、と。
もう、この気持ちは偽ることが出来ない。
ならば、彼への気持ちを永遠にしたい。
誰に何と言われようと。
揺るがない恋、に。
だからデスは、絶対であるマジカルドロップの力を借りたかった。
何でも願いを叶えるこのアイテムなら、想いを遂げる以上の出来事も具体化するに違いない。だが、無理に自分の欲を押し通すことをしたくはないし、彼の意に反するであろうことは明白だ。
自分は、ただただ想うだけで、いい。
死神如きが、それ以上の高望みはしてはいけない。
デスの眼が、一瞬据わる。決意が改めて漲ってくる。
それから右手で、キュッ、と蓋を外す。一粒だけ取り出し、再度閉め、壜を横に置く。
じっ、とドロップを凝視する、眼差し。
(あたしの願い・・・あたしは・・・あたしの運命を変える!)
彼女が、瞳を閉じる。
ハイエロファントの姿が、濃く、明瞭に脳裏に浮かぶ。
瞼を開け、右手で虹色の飴玉を高々と掲げる。
真っ直ぐな、微塵も揺らがない視線を繫げ、デスはその願いを唱えた。
「あたしは・・・恋に生きたい!」
途端。
ドロップが、大きな白色の光を発した。
それは更に膨れ上がり、彼女を飲み込んで空間全体に広がる。
僅かの間に、洞窟の空間はそれで満たされ、すべてを清廉な色に染め上げる。圧すら感じる猛烈な光量の中で、死神は目を細め、摘まみ掲げたマジカルドロップを見詰めていた。
自分の意志の深層奥にまで到達する、純白。
今、この瞬間の彼女は、まだ知らない。
それは。
デスとハイエロファントが繋がる物語の道行きを照らし出す、一条の光となることを。
悠久の遥か彼方まで共に歩む人生の、導きとなったことを。
【 To be continued... Episode 01『恋せよ死神 ―コイセヨヲトメ―』 】