デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
さてその後暫く経って、患者だった社長さんは見る見る元気になりまして、数日で職務復帰を果たされました。専務さんは治してもらった経緯を社長さんにお話したそうですが、治療、と言うか“呪文”の部分は、固く口止めされておりますので、伏せておいたそうです。社長さんはその話を、自社の役員、系列会社の取締役の方々に話されまして、更に話は別の会社の役員へ・・・と、いわゆる“拡散”という現象ですね、こうして一気に話題は広がり、名医ここに在り、という評判が立ち、口コミが口コミを呼び、男性の家へ押し掛ける方の尽きないこと尽きないこと、仕舞いには押すな押すなの大行列。
しかし、最初に僕の奥さんから告げられた『人数制限』があります。最初の社長さんを治した段階で、救けられる残りは7人。この男性もそれなりに頭の切れる方だったようで、そこを上手く立ち回ることにしました。
まず、行っても死神がいない場合・・・これがもっとも多い例だったようで、男性は医者を演じながら、患者本人と話をする。話をしている内に、悩みなども聞くようになる。カウンセリング、という別名もあるようですが・・・そうすると、全員ではありませんが、結構回復する方もいらっしゃる。病は気から、とも申しますのでね、実際に病気が治ると『ああ、名医だ』と、更に評判となります。
逆に、実際に死神が来ていて、しかも枕元に座っていた場合・・・
「これはいけません。寿命です。残念ながら治せませんが、せめて穏やかに逝けるようにいたしましょう」
そうして、口元で呪文らしきものを唱えるフリをする。患者さんもそれで何となく安心する。そうこうする内に、枕元の死神が魂の尾を斬って、姿を消す。患者さんは安らかな顔で亡くなられる。『ああ、苦しまずに逝けたのだな。名医だ』と、益々評判が良くなっていきます。
そして、死神が患者さんの足元にいた時は・・・
「アジャラカモクレン、マージドロ、テケレツのパッ!」
(パン! パン!と両手を2回打つ)
死神は消え、患者さんは目覚めたように回復する。『素晴らしい名医だ!』と大評判になっていくのでした。
世間では、名医と言えばこの男性の代名詞、とまでになり、休む暇もなくなりつつありまして、さぞかし貯金も貯まったか・・・と、思いきや、男性の本来の悪い癖、賭け事好きがいよいよ戻ってきたのであります。何しろ三度の飯よりも好きなくらいですので、寝食を忘れるとはこのこと、時間があると判れば馬券を買いに行く、新装開店のパチスロ屋があれば誰かしらからの連絡があるまで入店している、挙句の果てに、麻雀をとんでもないレートで打ち、その上に青天井ルールまで用いる始末・・・これでは、いくら稼いだとしても元の木阿弥です。
しかも、以前にもなかった夜毎の豪遊、料亭で呑んで騒いで、芸者さんも行列が出来るくらいお呼びになってました。最初は懐が潤いまくってましたから、猫撫で声でいろんな方々が寄ってくる。皆さん『センセイ』『センセイ』と声を掛けて揉み手で近寄って来る・・・男性も有頂天になって、気前が良くなって札束を見せ、持ってけ泥棒、とばかりに札びらを散らせる。それはもう、支持率が落ちた政治家の方々が起死回生とばかりに行う政策のように、お札をばら撒く。『医者』として稼ぐ以上に浪費していたもので・・・とうとう、男性の手元には数十枚の硬貨が残るのみ、となってしまいました。
金の切れ目が縁の切れ目、と申します通り、今まで『センセイ』『センセイ』と言い寄ってきた皆さんも、ないと判れば長居は無用、とばかりに離れていきます。もともとそういったお付き合いの方々はともかくとしまして、以前にも増して日々の糧に困る毎日が、戻ってきてしまいました。
「・・・おっかしいなぁ、何で金が残ってないんだ? やっぱあん時、ウーワン振り込んだのが・・・」
何と、この男性、反省も自覚もしておられません。
『医者』としての仕事も、急速に減ってきて、ネットの話題どころか『あの人は今!』の位置になりつつあり、たまにお呼びが掛かって患者さんのところに行くと・・・毎回のように、死神が枕元に座っております。それが行く度に必ずと言っていいほどの状況になりまして、遂に『あの医者が来ると患者が死ぬ』という噂が、巷を席巻するところまでに相成りました。
流石に男性も、生活が危機的状況と自覚した頃に、振り返って考えました。今まで死神に“呪文”で帰ってもらった回数は、7回・・・最初に僕の奥さんに告げられました人数は8人、つまり、あとひとりしか救けることが出来ない、という現実に気が付いたのです。
「おいおいおい・・・このままじゃ駄目だぁ! あとひとりに“呪文”使ったらオシマイじゃねぇか! これ以上誤魔化して医者やるなんざ出来ねぇ! どーしたらいいんだ!」
「・・・あのー、こちらはお医者様でらっしゃいますか?」
「ああ、石屋さんならね、この先の角をずーっと行くとですね・・・」
「いえ、『石屋』ではなく、『医者』と申しましたが・・・」
「・・・失敬! 聞き間違いでさぁ。で、どちらさんで?」
「あ、これは突然に失礼します。こちら様が、瀕死の患者を蘇らせる奇跡のお医者様、と伺いましたもので・・」
「奇蹟がどうか知らねぇが、まあ、医者っつーたら医者ですな。今んとこ」
「今んとこ?」
「まあまあ、こっちの話・・・んで、何か用ですかい?」
「重病の患者を、診て頂きたいんですが・・・」
「・・・治せないかも知んねぇですよ。聞いてるでしょ? 最近は、あっしが行くと患者も逝く、って評判でさぁ」
「存じております。それでも、藁にも縋る思いで、参りました」
「藁でも腹でも何でも縋りゃいいですけどね・・・どっからお見えになったんで?」
「これは申し遅れました。私、〇〇〇フィナンシャルグループの頭取を務めておりまして・・・」
「・・・は? 嘘でやんしょ? そんな超有名な企業のトップクラスが、何でまたこんな辺鄙なトコまで?」
「実は・・・私どもの、会長が・・・」
「ちょっと待っておくんなまし。お宅の会長さんって、確か経済界の重鎮の・・・」
「ご存知でしたか。ええ、あの、団体連合の会頭を務めております」
「よくニュースなんかで顔とか出てる? 政治家なんかともよく会ってる? あの?」
「はい、その通りです」
「いやいやいや、あの方・・・随分なお歳でやんしょ? アンタもお歳を召してそうですが」
「私は、齢70になります。会長は、御年108歳でございます」
「・・・長寿国とは言っても限度ってのがあらぁ・・・108で現役かよ・・・申し訳ないですけどね、頭取さん、いくら何でも流石に寿命なんじゃないですかい?」
「いえ、ついこないだまで本人は『200まで現役』と申してましたので、まだ早いかと・・・」
「真に受けるなよオイ・・・ギネスブックに載るつもりかよ・・・あのね、頭取さん、この世の生きとし生ける者には寿命ってのがありまさぁね。会長さんは、診てないとは言え判りますぜ、もう長かぁねぇ」
「そんなコトおっしゃらずに! どうか救けて下さい! この通りです!」
「・・・頭ァ下げられたって、寿命ばっかしは、いくらあっしでも、どんな医療術でも限度がありますって!」
「今、後継者も覚束ない現状で、この国の経済も立て直ってないこの現状で、会長に亡くなられた日には、とんでもない混乱が生じます。この国を救けると思って、どうか! 何卒!」
「・・・話がでっかくなってきやがった・・・とは言ってもですね、無理なモノは無理・・・」
「御礼は、センセイのお望みの額を・・・」
「行きやしょ! 善は急げ、でさぁ!」
コロッ、と掌を返して、男性は頭取さんの導かれるがまま、黒塗りの高級車に乗せられ、会長さんのご自宅へと向かいました。