デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
昨日までとは打って変わり、一攫千金の大長者となりました男性、現金の封筒を目の前に置いて、感慨深げに頷いてます。
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったが、上手くいったねぇ。これぞ、禍を転じて福と為す、だね。まあ、頭は生きてるウチに使え、とはよく言ったもんだ」
「よくもやってくれたな」
「うわぁっ! びっくりしたぁ!・・・おや、これはこれはデスさん、ご無沙汰してました。こんち、お日柄も良くって結構で・・・」
「挨拶はいい。おい、お前・・・自分が何をしたのか解ってるのか?」
「はて? 何の話でやんしょ?」
「とぼけるつもりか? 枕元の死神を無理矢理追い返しただろ?」
「・・・何のことですかねぇ? あっしにはとーんと、話が見えねぇで・・・」
「あたしだ」
「はい?」
「お前が無理に追い返した死神・・・あれは、あたしだったんだ!」
「・・・うええええっ! マジですかいっ!」
「本当だ。あの時、部屋の隅の機械から突然『法王』という言葉が聞こえてきて、思わずそっちに目がいった。実はあたしの旦那は、あたしらの世界の『法王』でな、この国にも『法王』がいるのか、と画面を見てたら・・・お前の“呪文”で強制送還されちまった、って顛末だ!」
「・・・いやいや、ちょいと待っておくんなさい。何でデスさんが、あの場所に?」
「この国を管轄する死神たちに頼まれたんだ。手が足りないんで救けてくれ、とな。あたしの旦那も同意してくれたんで、あの老人の魂を送りに行った・・・それが経緯だ。その後、お前が来るまでは、予想出来た。しかしよりによって、あんな策であたしを引っ掛けようとは、な・・・」
「・・・ひ、引っ掛けるだなんて、そんなつもりは・・・」
「お前は現金に目が眩み、策を弄して騙し、決まりと約束を破った。この一件で、この国の死神連中が旦那とあたしのところに大勢押し掛けてきた。何たる様だ、死神の面目丸潰れだ、責任を取れ、とな・・・あたしが話を持ってきて“呪文”をお前に教えたりしたんだ。あたしは何を言われようとも構わない。如何なる悪口雑言をも、甘んじて受けるつもりだ。だがな・・・連中は、あたしの旦那までに文句を浴びせた! その原因を、お前が作ったんだ! お前が決まりを破らなければ、旦那は悪く言われることはなかった! それが許せない!」
「ひえええっ! すんません! ほんの出来心です! ごめんなさい!」
「謝って済むのなら死神はいらん!」
「でしたら、持ってきたお金をお譲りいたします! それと今後入ってくるお金も全部、あげます!」
「・・・この期に及んで、まだそんなことを・・・現金など、あたしらには何の価値もない! 死神を買収しようなんざ、見下げ果てた奴だな!・・・もういい、お前に情けを掛けたあたしが馬鹿だった。この国の死神とは話がついている。あたしが責任を持って、お前の命を終わらせることになった。覚悟しろ」
「うええええっっっ!!! 許して下せぇっ!」
「往生際が悪い!」
「命ばっかしは勘弁して下せぇっ! ホントに申し訳ありやせんでしたっ! 何卒! 何卒! お慈悲をっ!」
「・・・そんなに命が惜しいか?」
「へぇ! 惜しゅうございます! 救けて頂けるんなら何でもいたしやす!」
「・・・反省しているか?」
「もちろんでさぁ! 金輪際、二度と愚かな真似はいたしやせん!」
「・・・あたしの旦那は、文句を受けた後でも、お前を、大目にみてあげてほしい、とまで言った。普通なら言い返して然るべき言葉を浴びせられて、尚、お前のような奴を許すつもりらしい。まあ、それでこそ、あたしのような死神を嫁にしてくれたんだがな・・・旦那の言葉に免じて、一度だけ寿命を延ばす機会をやろう」
「ホントですかぁっ! ありがてえっ!」
「だが、この国の死神連中との話もある。だから、寿命が延びるかどうかは、お前に決めさせる」
「へ? どういうこって?」
「お前、博奕が三度の飯より好きだったな」
「へぇ、そうでやんすが?」
「その“博奕”をする。賭けるのは、お前の命、だ。今からある場所に案内する。追いて来い」
「命!・・・もし、あっしが断ったら?」
「この場で魂を刈り取る」
「・・・嫌も応もありませんか・・・解りやした、案内して下せぇ」
そして、僕の奥さんは、男性をこの街の神社の境内まで連れていきました。そこの神社には、大きな楡の木がございまして、幹の太さは両手を広げた幅ほどもあります。幹の前に、僕の奥さんが手を翳します。すると・・・ポッカリ、と大きな穴が口を開けました。中を覗きますと、洞窟のような空間が延々と奥へ広がっているのが判ります。
「この奥だ。あたしに続いて入れ」
「そんじゃ、失礼して・・・へぇ、神社の樹の中って、こんなんなってたんですねぇ」
「ここに入れるのは、死神か、死神の許可を得た奴かのどちらかだ」
どんどん奥へ奥へと進んでいきますと、やがて空間が広がり、鍾乳洞のような場所に辿り着きました。かなり広いその場所に足を踏み入れ、目に飛び込んできたのは・・・一面に置いてある、火の点いた蝋燭の数々。洞窟の広間に、まさに星のように無数に群立する灯、蝋燭、蝋燭、あっちに蝋燭、こっちに蝋燭。多分、星の数の方がちょーっと多いかも知れませんが、それに匹敵するのではないかと思うほどの、火の点いた蝋燭が立ってございます。
「おおおお! 凄ぇ! 何ですかこの蝋燭! いっぱいあらぁ!」
「これは『命の蝋燭』だ」
「何ですかそりゃ?」
「これはな、一本一本が生き物の命の灯となっている。この火が消えるか蝋燭が燃え尽きたら、生き物の寿命、という訳だ」
「へーっ、驚いたねぇ。こんな物が存在するんですねぇ。いろんな蝋燭があらぁ・・・デスさん、この、どでーん、と、やたらでっかくて太い蝋燭は、どなたのです?」
「それは、この国の、ある政治家の『命の蝋燭』だ。逆風にも耐える」
「ほほお・・・んじゃ、こっちの、えらくひん曲がってツイストしてる、明後日の方を向いてて、変な色をしてる蝋燭はどなたんで? さほど長くはねぇみてぇですが」
「それは、桁石スミオって奴の蝋燭だ。捻じくれた根性と性格を表してるな」
「なるほどなるほど・・・そんじゃあ、この手前にある、ほとんど残りがねぇ、燃えカスみてぇな蝋燭は?」
「ああ、それはお前のだ」
「・・・はい?」
「だから、お前の『命の蝋燭』だ」
「・・・うっそでやんしょぉぉぉぉっ!!!」
「残念だが、本当だ」
「でも! ちょいとコレ! もうじき燃え尽きちまいそうですよっ!」
「そうだな」
「そうだな、って・・・そんな冷静におっしゃらんでもっ!」
「事実だから仕方がない」
「そんなぁ!・・・だ、第一、デスさん、アンタ最初に会った時『お前の番はまだ先だ。寿命は長く残ってる』っておっしゃったじゃありませんか!?」
「あの時は、な。確かに長く残っていたんだ」
「じゃ何で!?」
「あたしを強制送還した時、入れ替わったんだ。お前の寿命と、あの老人の寿命が、な」
「・・・何ですって!?」
「見てみろ。お前の蝋燭の奥に、一際長くて太い蝋燭があるだろ? それは今、あの老人の『命の蝋燭』になってる。もともとはお前の寿命だったんだが、お前が無理に“呪文”を使ってから、お前の蝋燭は一気に減り、逆に老人の蝋燭は急に伸びた。何故だかは解らないが、恐らく、世界全体の生命の均衡を保つ為に、創造神の手が加わったんだろうな。こうなると、あたしらでも元に戻すことは如何ともし難い」
「そ・・・そんなぁ!」
「まあ、自分で仕出かしたことだろ? 自業自得という訳だ。あの老人、この調子だと200歳を超えるかも知れんな。お前の寿命は、まさに風前の灯火、だが」
「お願いです! 早く! 寿命を延ばす賭けを! させて下せぇ!」
「判った、やり方を教える。お前の寿命を延ばせるかどうかは、お前の腕次第だ」
「早く教えて下せぇ! ああ・・・やべぇ、今、あっしの蝋燭が、ジュワッ、と鳴ったよ。芯が減っていくよ・・・」
「周りに、蝋燭の燃えさしが転がってるだろ? ほら、あちこちにある。その燃えさしを、お前の蝋燭に上手く芯と芯を繋げ、再点火するんだ。それが出来れば寿命は延びる。少なくとも今は死なない」
「ええええっ! 無茶ですよっ! 下手すりゃ蝋が被さって、火が消えちまう!」
「他に方法はないぞ。だから言ったろ? これは命を賭ける“博奕”だとな」
「そんなご無体な!」
「ほら、また芯が減ったな・・・黙ってたら火が消えるぞ」
「うわあああっ! やりますやります! ええい、こうなりゃヤケだ! やってやらぁ!」
「度胸は褒めてやる・・・まさに、人生最大の賭け、だな」
「ええと、こっちの燃えさしがデケぇな・・・いやいや、こっちの燃えさしが大きいかな・・・」
「迷ってる内に、消えるぞ」
「煽らんで下せぇよ! よし、こっちにするか!・・・ちょいと、中心を合わせて・・・」
「どうした? 手が震えてるぞ?」
「あわわわ・・・やっべぇ・・・震えが・・・止まらねぇ・・・」
「早くしないと、消えるぞ?」
「そんなことおっしゃられたって! うわあああ・・・手が・・・止まれッ! 震えッ! 止まれッ!」
「そのままだと、消えるぞ?」
「・・・火が・・・あわわわ・・・」
「消えるぞ?」
「ああ・・・消え・・・」
(ぱたっ・・・とうつ伏せになる)
(がばっ!と起き上がる)
「・・・あれ? あっし、死んで・・・ない? 生きてる?・・・おおおおおおっ!!! 蝋燭が! 繋がった! 火が点いてるっ! 信じられねぇ!」
「悪運が強いな、お前・・・やってみるものだな」
「勝った! あっしは、賭けに勝った! やったぁ!!!」
「まあ、今回はお前の勝ちだ」
「デスさん! 本当にありがとうございましたっ! お陰さんで救けられやした!」
「良かったな」
「はい! これで枕を高くして眠れやす!」
「そうだな、帰ってゆっくり休むといい」
「そうさせて頂きやす!」
「そして、朝起きたら枕元を見てみろ。あたしが座ってるから」
おあとが、よろしいようで。
【 独演終了 】
【 お囃子 】
満員の観客から、一斉に、盛大な拍手。
深々と頭を垂れるハイエロファント。
暫く、そのまま。
頭を上げ、扇子と手ぬぐいを持って立ち上がって、上手袖に消える。
鳴り止まない、拍手。
【 お囃子終了 】
番外編【 落語『改訂版・死神』:了 】
[ この番外編を書くにあたり、六代目三遊亭円楽師匠の高座、並びに、魔夜峰央氏「パタリロ師匠の落語入門」及び「パタリロ!」「ラシャーヌ!」などの諸作品を、噺の参照にさせて頂きました ]