デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集   作:桁石スミオ

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落語「改訂版・死神」【第五話】

 昨日までとは打って変わり、一攫千金の大長者となりました男性、現金の封筒を目の前に置いて、感慨深げに頷いてます。

 「いやぁ、一時はどうなるかと思ったが、上手くいったねぇ。これぞ、禍を転じて福と為す、だね。まあ、頭は生きてるウチに使え、とはよく言ったもんだ」

 「よくもやってくれたな」

 「うわぁっ! びっくりしたぁ!・・・おや、これはこれはデスさん、ご無沙汰してました。こんち、お日柄も良くって結構で・・・」

 「挨拶はいい。おい、お前・・・自分が何をしたのか解ってるのか?」

 「はて? 何の話でやんしょ?」

 「とぼけるつもりか? 枕元の死神を無理矢理追い返しただろ?」

 「・・・何のことですかねぇ? あっしにはとーんと、話が見えねぇで・・・」

 「あたしだ」

 「はい?」

 「お前が無理に追い返した死神・・・あれは、あたしだったんだ!」

 「・・・うええええっ! マジですかいっ!」

 「本当だ。あの時、部屋の隅の機械から突然『法王』という言葉が聞こえてきて、思わずそっちに目がいった。実はあたしの旦那は、あたしらの世界の『法王』でな、この国にも『法王』がいるのか、と画面を見てたら・・・お前の“呪文”で強制送還されちまった、って顛末だ!」

 「・・・いやいや、ちょいと待っておくんなさい。何でデスさんが、あの場所に?」

 「この国を管轄する死神たちに頼まれたんだ。手が足りないんで救けてくれ、とな。あたしの旦那も同意してくれたんで、あの老人の魂を送りに行った・・・それが経緯だ。その後、お前が来るまでは、予想出来た。しかしよりによって、あんな策であたしを引っ掛けようとは、な・・・」

 「・・・ひ、引っ掛けるだなんて、そんなつもりは・・・」

 「お前は現金に目が眩み、策を弄して騙し、決まりと約束を破った。この一件で、この国の死神連中が旦那とあたしのところに大勢押し掛けてきた。何たる様だ、死神の面目丸潰れだ、責任を取れ、とな・・・あたしが話を持ってきて“呪文”をお前に教えたりしたんだ。あたしは何を言われようとも構わない。如何なる悪口雑言をも、甘んじて受けるつもりだ。だがな・・・連中は、あたしの旦那までに文句を浴びせた! その原因を、お前が作ったんだ! お前が決まりを破らなければ、旦那は悪く言われることはなかった! それが許せない!」

 「ひえええっ! すんません! ほんの出来心です! ごめんなさい!」

 「謝って済むのなら死神はいらん!」

 「でしたら、持ってきたお金をお譲りいたします! それと今後入ってくるお金も全部、あげます!」

 「・・・この期に及んで、まだそんなことを・・・現金など、あたしらには何の価値もない! 死神を買収しようなんざ、見下げ果てた奴だな!・・・もういい、お前に情けを掛けたあたしが馬鹿だった。この国の死神とは話がついている。あたしが責任を持って、お前の命を終わらせることになった。覚悟しろ」

 「うええええっっっ!!! 許して下せぇっ!」

 「往生際が悪い!」

 「命ばっかしは勘弁して下せぇっ! ホントに申し訳ありやせんでしたっ! 何卒! 何卒! お慈悲をっ!」

 「・・・そんなに命が惜しいか?」

 「へぇ! 惜しゅうございます! 救けて頂けるんなら何でもいたしやす!」

 「・・・反省しているか?」

 「もちろんでさぁ! 金輪際、二度と愚かな真似はいたしやせん!」

 「・・・あたしの旦那は、文句を受けた後でも、お前を、大目にみてあげてほしい、とまで言った。普通なら言い返して然るべき言葉を浴びせられて、尚、お前のような奴を許すつもりらしい。まあ、それでこそ、あたしのような死神を嫁にしてくれたんだがな・・・旦那の言葉に免じて、一度だけ寿命を延ばす機会をやろう」

 「ホントですかぁっ! ありがてえっ!」

 「だが、この国の死神連中との話もある。だから、寿命が延びるかどうかは、お前に決めさせる」

 「へ? どういうこって?」

 「お前、博奕が三度の飯より好きだったな」

 「へぇ、そうでやんすが?」

 「その“博奕”をする。賭けるのは、お前の命、だ。今からある場所に案内する。追いて来い」

 「命!・・・もし、あっしが断ったら?」

 「この場で魂を刈り取る」

 「・・・嫌も応もありませんか・・・解りやした、案内して下せぇ」

 そして、僕の奥さんは、男性をこの街の神社の境内まで連れていきました。そこの神社には、大きな楡の木がございまして、幹の太さは両手を広げた幅ほどもあります。幹の前に、僕の奥さんが手を翳します。すると・・・ポッカリ、と大きな穴が口を開けました。中を覗きますと、洞窟のような空間が延々と奥へ広がっているのが判ります。

 「この奥だ。あたしに続いて入れ」

 「そんじゃ、失礼して・・・へぇ、神社の樹の中って、こんなんなってたんですねぇ」

 「ここに入れるのは、死神か、死神の許可を得た奴かのどちらかだ」

 どんどん奥へ奥へと進んでいきますと、やがて空間が広がり、鍾乳洞のような場所に辿り着きました。かなり広いその場所に足を踏み入れ、目に飛び込んできたのは・・・一面に置いてある、火の点いた蝋燭の数々。洞窟の広間に、まさに星のように無数に群立する灯、蝋燭、蝋燭、あっちに蝋燭、こっちに蝋燭。多分、星の数の方がちょーっと多いかも知れませんが、それに匹敵するのではないかと思うほどの、火の点いた蝋燭が立ってございます。

 「おおおお! 凄ぇ! 何ですかこの蝋燭! いっぱいあらぁ!」

 「これは『命の蝋燭』だ」

 「何ですかそりゃ?」

 「これはな、一本一本が生き物の命の灯となっている。この火が消えるか蝋燭が燃え尽きたら、生き物の寿命、という訳だ」

 「へーっ、驚いたねぇ。こんな物が存在するんですねぇ。いろんな蝋燭があらぁ・・・デスさん、この、どでーん、と、やたらでっかくて太い蝋燭は、どなたのです?」

 「それは、この国の、ある政治家の『命の蝋燭』だ。逆風にも耐える」

 「ほほお・・・んじゃ、こっちの、えらくひん曲がってツイストしてる、明後日の方を向いてて、変な色をしてる蝋燭はどなたんで? さほど長くはねぇみてぇですが」

 「それは、桁石スミオって奴の蝋燭だ。捻じくれた根性と性格を表してるな」

 「なるほどなるほど・・・そんじゃあ、この手前にある、ほとんど残りがねぇ、燃えカスみてぇな蝋燭は?」

 「ああ、それはお前のだ」

 「・・・はい?」

 「だから、お前の『命の蝋燭』だ」

 「・・・うっそでやんしょぉぉぉぉっ!!!」

 「残念だが、本当だ」

 「でも! ちょいとコレ! もうじき燃え尽きちまいそうですよっ!」

 「そうだな」

 「そうだな、って・・・そんな冷静におっしゃらんでもっ!」

 「事実だから仕方がない」

 「そんなぁ!・・・だ、第一、デスさん、アンタ最初に会った時『お前の番はまだ先だ。寿命は長く残ってる』っておっしゃったじゃありませんか!?」

 「あの時は、な。確かに長く残っていたんだ」

 「じゃ何で!?」

 「あたしを強制送還した時、入れ替わったんだ。お前の寿命と、あの老人の寿命が、な」

 「・・・何ですって!?」

 「見てみろ。お前の蝋燭の奥に、一際長くて太い蝋燭があるだろ? それは今、あの老人の『命の蝋燭』になってる。もともとはお前の寿命だったんだが、お前が無理に“呪文”を使ってから、お前の蝋燭は一気に減り、逆に老人の蝋燭は急に伸びた。何故だかは解らないが、恐らく、世界全体の生命の均衡を保つ為に、創造神の手が加わったんだろうな。こうなると、あたしらでも元に戻すことは如何ともし難い」

 「そ・・・そんなぁ!」

 「まあ、自分で仕出かしたことだろ? 自業自得という訳だ。あの老人、この調子だと200歳を超えるかも知れんな。お前の寿命は、まさに風前の灯火、だが」

 「お願いです! 早く! 寿命を延ばす賭けを! させて下せぇ!」

 「判った、やり方を教える。お前の寿命を延ばせるかどうかは、お前の腕次第だ」

 「早く教えて下せぇ! ああ・・・やべぇ、今、あっしの蝋燭が、ジュワッ、と鳴ったよ。芯が減っていくよ・・・」

 「周りに、蝋燭の燃えさしが転がってるだろ? ほら、あちこちにある。その燃えさしを、お前の蝋燭に上手く芯と芯を繋げ、再点火するんだ。それが出来れば寿命は延びる。少なくとも今は死なない」

 「ええええっ! 無茶ですよっ! 下手すりゃ蝋が被さって、火が消えちまう!」

 「他に方法はないぞ。だから言ったろ? これは命を賭ける“博奕”だとな」

 「そんなご無体な!」

 「ほら、また芯が減ったな・・・黙ってたら火が消えるぞ」

 「うわあああっ! やりますやります! ええい、こうなりゃヤケだ! やってやらぁ!」

 「度胸は褒めてやる・・・まさに、人生最大の賭け、だな」

 「ええと、こっちの燃えさしがデケぇな・・・いやいや、こっちの燃えさしが大きいかな・・・」

 「迷ってる内に、消えるぞ」

 「煽らんで下せぇよ! よし、こっちにするか!・・・ちょいと、中心を合わせて・・・」

 「どうした? 手が震えてるぞ?」

 「あわわわ・・・やっべぇ・・・震えが・・・止まらねぇ・・・」

 「早くしないと、消えるぞ?」

 「そんなことおっしゃられたって! うわあああ・・・手が・・・止まれッ! 震えッ! 止まれッ!」

 「そのままだと、消えるぞ?」

 「・・・火が・・・あわわわ・・・」

 「消えるぞ?」

 「ああ・・・消え・・・」

 (ぱたっ・・・とうつ伏せになる)

 

 (がばっ!と起き上がる)

 「・・・あれ? あっし、死んで・・・ない? 生きてる?・・・おおおおおおっ!!! 蝋燭が! 繋がった! 火が点いてるっ! 信じられねぇ!」

 「悪運が強いな、お前・・・やってみるものだな」

 「勝った! あっしは、賭けに勝った! やったぁ!!!」

 「まあ、今回はお前の勝ちだ」

 「デスさん! 本当にありがとうございましたっ! お陰さんで救けられやした!」

 「良かったな」

 「はい! これで枕を高くして眠れやす!」

 「そうだな、帰ってゆっくり休むといい」

 「そうさせて頂きやす!」

 「そして、朝起きたら枕元を見てみろ。あたしが座ってるから」

 

 おあとが、よろしいようで。

 

【 独演終了 】

 

【 お囃子 】

 

 満員の観客から、一斉に、盛大な拍手。

 深々と頭を垂れるハイエロファント。

 暫く、そのまま。

 頭を上げ、扇子と手ぬぐいを持って立ち上がって、上手袖に消える。

 鳴り止まない、拍手。

 

【 お囃子終了 】

 

 

 

番外編【 落語『改訂版・死神』:了  】

 

 

[ この番外編を書くにあたり、六代目三遊亭円楽師匠の高座、並びに、魔夜峰央氏「パタリロ師匠の落語入門」及び「パタリロ!」「ラシャーヌ!」などの諸作品を、噺の参照にさせて頂きました ]

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