デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
【回想シーン】
★ (過去)フォーチュンの居城・謁見の大広間
【N】「話は、過去に遡る。フォーチュンはかつて、大人の女性の姿であった。ワールドの創り出すマジカルドロップを管理し、対戦して勝った者にドロップを与えていた。しかしいつからか、自我と欲望が強くなり、やがてドロップを我が物にしようと企んだ。だが、ワールドの魔力により、ドロップを使うにはワールドの許可を得て封印を解くか、フォーチュンに勝たねばならない術が施されていたのだ。フォーチュン自身が使うには、自分の分身に勝つ必要がある。その為に、マジカルランドの民の魔力を吸収し、自身に溜め続ける日々が続いた。その異変の真相を突き止め、場合によっては止めるべく、フォーチュンの居城に来たハイエロファント。そこで目にしたのは・・・」
煉瓦造りの薄暗い廊下を、足音を抑えて進むハイエロファント。
突き当たり、巨大な観音開きの扉の片方が開いたままになっている。
一旦立ち止まるが、その先に目を凝らし、慎重な足取りで入室していく。
そこは、大広間。天井は非常に高く、ヴォールト(蒲鉾型)造りになっている。
深紅の細長いカーペットが一直線に奥に伸び、太い円柱が左右に並んでいる。
室内の壁、柱にはランプが設置されていて、仄かではあるが明るい。
カーペット延長線上の向こう、幾段か高い位置に玉座がある。
ハイエロファント、右手の方に視線を向ける。
はっ!と息を飲み、目を見開く。
【N】「床に倒れている、デスの姿。そして、勝ち誇って笑っている、フォーチュンであった」
うつ伏せで四肢を投げ出しているデス。顔は窺えない。
少し離れたところに、彼女の大鎌が転がっている。
寒気のするような高笑いをしながら、こちらに背を向け玉座の方に歩いていくフォーチュン(大人)。
思わず床を蹴り、デスに走り寄っていくハイエロファント。
それに気付いたフォーチュン(大人)、振り向いて、キッ、とハイエロファントを睨む。
ハイエロファント、デスの傍らに片膝を着き、顔を覗き込むように屈む。
途端。
ブオオオオオッ!と、凄まじい風速の縦回転の渦が、“目”を向けてこちらに距離を詰めてくる。
間髪入れず身体を起こして、バッ!と左腕を伸ばして、掌を掲げるハイエロファント。
掌の中心が、ポウッ・・・と白色の光を放つ。
ハイエロファントとデスを内側にして、半透明な光のドームが形成される。
突風が激突し、バシュウウウッッ!!!と弾け飛んで四散する。
機嫌を損ねたような、鋭利な視線をふたりに投げるフォーチュン(大人)。
【N】「デスを救けようとしたハイエロファントに、フォーチュンの攻撃が襲い掛かる。止むを得ず、彼は対戦を決意する」
一度、慈愛に満ちた眼差しをデスに向け、すくっ、と立ち上がるハイエロファント。
両腕を真っ直ぐに突き出し、掌を直角に立て、親指同士を合わせる。
光を放つ掌。左右に開いていく腕に合わせて、棒状に伸びる白色光。
その中から現れる、ハイエロファントのバクルス(司教杖)。
くるっ、と半回転させ、バクルスを右手に握り締める。
フン、と鼻で嗤うような仕草をして、右腕を後方から眼前に振り抜くフォーチュン(大人)。
ブオオオオッッ!と、再び縦回転の竜巻が、ハイエロファントに向かって伸びていく。
その直線上に、バッ!とバクルスを翳すハイエロファント。
杖の軸上にある青い宝石が、バチィッ!と蒼白い放電を発する。
ブオン・・・と直径2メートほどの光の円盤が出現し、盾のようにハイエロファントの前にそびえる。
フォーチュン(大人)の魔術が、バシイイッッッ!と弾かれ、勢いをなくして散り散りになる。
それを見て、苦虫を噛み潰したような形相を彼に向けるフォーチュン(大人)。
バクルスの延長線上から、フォーチュン(大人)に、悲し気な視線を送るハイエロファント。
フォーチュン(大人)、再び右手を振り被る。
ハイエロファント、改めてバクルスを構え直す。
その後も、繰り返される、魔力の応酬。
幾度も突風の魔術を繰り出すフォーチュン(大人)。
攻撃を弾くか、受け流すか、防ぐかを繰り返すハイエロファント。
ハイエロファントの後方、意識を戻すデス。ゆっくりと両目を開く。
伏せたまま腕を縮め、肘を支点に上半身を少し起こす。
ブルッ、と頭を振り、霞が取れていく視界を目の前に投げる。
バシュウウウッッ!と、何かが弾け散る音が聞こえ、ハッ!とその方向に顔を向ける。
白地に緑の柄が入った法衣、同色の彩りのミトラ(司教冠)。青い髪。
襲い来る突風の魔術を、鮮やかに防ぎ切っている、背中。
バッ、と身体を起こし、横座りになって目を見開くデス。
バクルスを、くる、と半回転させ、構え直すハイエロファント。
デス、彼を、じっ、と見詰め、声も出せず。動けない。
【N】「そして、決着が付く瞬間が、やってきた」
両腕を大きく左右に広げて、ギラ、と睨み付けるフォーチュン(大人)。
対して、バクルスを両手でしっかり握り、頭上に振り被るハイエロファント。
フォーチュン(大人)「ダークホイールッ!!!」
フォーチュン、両掌を合わせ、魔術を発動。
ブアアアアッッッ!と、今まで以上の風量と速度で渦を巻く竜巻が出現。直径2メートルほど。
“目”をハイエロファントに向けて、動き出す。
ハイエロファント「(腹の底からの声で)ミラクルビームっ!!!」
気合一閃、バクルスを振り下ろすハイエロファント。
前方に、純白の光球が出現。直径50センチほど。
間髪入れずそれが光線となり、バシュウウウッッ!!!と伸びていく。
竜巻の“目”に一瞬で飛び込み、突風を物ともせず、フォーチュン(大人)の掌に到達する。
フォーチュン(大人)「(驚愕)何ッ!」
直後。
フォーチュン(大人)を中心にして、カアッ!!!と白色の光が湧き上がる。
それは空間を瞬時に拡散し、大広間すべてに充満していく。
ズドムッ! ガッ! ブイン・・・と、歪んだ音を立て、周囲の空気が割れる。
僅かの、後。
バアアアッッンンンッッッ!!!と、フォーチュン(大人)の真下から、垂直に光の柱が突き上がる。
同時に、ブワアアアアッッッ!!!と、凄まじい魔法風が立ち昇る。
光の柱の中で、身体を両腕で抑え付けるように、もがくフォーチュン(大人)。
ドレスが真下からの魔法風に、バタバタバタ・・・と暴れている。
眉を強く顰めている。両眼は見る見る白濁化していき、肌が色褪せて輪郭がぼやけ始める。
フォーチュン(大人)「(悲鳴)うああああッ! 何故ッ! 何故わらわがッ!」
バクルスを振り下ろした姿勢のまま、茫然とそれを見ているハイエロファント。
更にその後方から、一部始終を唖然として凝視しているデス。
暫くして。
キュイイイインッッ!!!と、高周波の音を立て、一瞬ですべての光が消滅する。
魔法風も、止む。
フォーチュン(大人)のドレスだけが、空間に人型を成して残留している。
彼女本人の姿は、ない。
ハイエロファントとデス、目を大きく開いてそれを見る。
刹那の間の後、フワアッ・・・と重力に従って沈んでいくドレス。
ゆっくりと、非常にゆっくりとした動きで、畳まれるように床に下がっていく。
そして、全部が纏まった時、ドレスの内側から、ポワ・・・と光が湧く。
それはすぐに消え、丸められたようなドレスが残っている。
静寂。
静寂。
静寂。
自分の呼吸音に気付き、段々と落ち着きを取り戻していくハイエロファント。
フシュン・・・と、手にしたバクルスが姿を消す。
ハイエロファント「(荒れた息で)・・・終わった・・・の?・・・」
直後。
ハッ、と振り返って、デスを視界に映すハイエロファント。
ハッ、とそれに気付いて、ハイエロファントを見詰めるデス。
横座りで床に腰を下ろしている彼女の右上腕部に、大きな擦り傷と出血。
ハイエロファント、即座にデスに駆け寄る。
ハイエロファント「デスっ! しっかりっ!」
流れるように片膝を着き、デスの右腕を左手で取るハイエロファント。
デス「(驚いて、頬を染め)なっ・・・何を!?」
デス、振り解こうと、思わず右腕を引こうとする。
ハイエロファント「(ぴしゃり、と言い切るように)じっとしててっ!」
ビクン!と肩を跳ねさせ、ぐぅ、と押し黙るデス。
ハイエロファント、右掌をデスの傷口に翳す。
ハイエロファント「(凛とした声で)聖なる力!」
ポウッ・・・と白色光が発せられ、デスの右上腕部が照らし出される。
傷口に温もりを覚えるデス。それが、徐々に全身に伝わってくる。
真剣な眼差しを注いでいるハイエロファント。それが、掌からの光に浮かび上がる。
デス、彼の顔と、自分の右腕を交互に見て、茫然としている。
瞬く間に傷口が塞がり、薄いかさぶたが、ポロ、ポロ、と剥がれて落ちる。
デスの右上腕部は、滑らかな肌を復活させている。
ふうっ、と大きく息を継ぎ、デスを見詰めるハイエロファント。
声も出さず、身動ぎもしないデス。眼差しが絡む。
ハイエロファント、申し訳なさそうに目を伏せる。
ハイエロファント「ごめんね、大声出しちゃって・・・初めて逢った時も、大声出してびっくりさせたよ、ね・・・気に障ったら・・・」
デス「(目線を外し)そ・・・そんなに謝ることは、ないだろう・・・別に、気に障ってはいない」
ハイエロファント「(デスを見詰め、微笑んで)そう・・・なら、良かった・・・」
ふうう、と長い吐息を漏らし、ハイエロファントの肩越しに目を向けるデス。
フォーチュン(大人)の着ていたドレスに、視線を投げる。
デス「正直、驚いたな。まさか奴の魔術の中心部を射抜くとは、想像出来なかった・・・(ハイエロファントを見詰め返し)考えてやったのか?」
ハイエロファント「(首を左右に振り)ううん、たまたまだよ。少なくとも、風の渦の真ん中・・・“目”になっているところなら、僕のミラクルビームも向こうに届くかな、って思っただけだし・・・まさか、フォーチュンを倒してしまうなんて、思ってなかった・・・」
デス「(感心したように)お前・・・強いんだな」
ハイエロファント「そんなことないよ。対戦するつもりだってなかったし・・・争わずに済むのなら、それに越したことはない、って思っているもの。(自嘲気味に)でも結局、闘いになってしまったのは、僕が不甲斐ないだけだよ。僕なんか、何も出来ない」
少しの、間。
デス「(籠った声で)・・・あたしをかばって、闘いになったのか?」
ハイエロファント「かばった、と言うほど、大したことはしてないよ」
デス「そうか・・・」
デスの唇が、一瞬震える。
デス「ハイエロファント・・・」
名を呼ばれ、じっ、と眼差しを彼女に注ぐハイエロファント。
対して、瞬きの間絡んだ目線を、静かに彼の胸元に落とすデス。
デス「いや、その、何だ・・・(言いづらそうに)お前は、充分強い・・・」
ハイエロファント「(笑顔で)ありがとう、デス。君がそう言ってくれるなら、気持ちが楽になるよ」
僅かに朱に染まる、デスの両頬。
ハイエロファント、片膝を着いたまま、身体を捻って振り返る。
ハイエロファント「(フォーチュンのいた場所に視線を向け)でも、何が起こったんだろう? フォーチュンが消えちゃったみたいだけど・・・」
デス「恐らく・・・魔力の暴走、だろう」
ハイエロファント「(思わずデスを見詰め)暴走?」
デス「ああ。あくまであたしの考えだが・・・フォーチュンが魔力を開放した隙間、つまり、攻撃に全魔力を注いだ瞬間に、お前の力が当たった。防御には魔力を転化させていなかったのだろう、開放されるべきだった魔力が、一瞬で内側に、フォーチュン自身に向けられた。つまり・・・(真剣な声色で)火薬庫に火種を放り込んだようなものだ。奴の持ってた魔力は底が知れないほどだった。だからああなったのではないか?」
ハイエロファント「(深く感心して)なるほど・・・そうなんだろうね、きっと」
デス「本当にそうなのかは、判らんが」
ちら、と視線を後方に一度向け、フォーチュン(大人)のドレスを視界に映すハイエロファント。
ハイエロファント「(眉を寄せて)もしかして、身体を消滅させてしまったのかな・・・だとしたら、魂は何処に行ったんだろう?」
デス「いや、魂の離れていった感覚は、ない。第一、あたしが“仕事”をしなければ、魂は肉体から剥離しない筈、だ」
ハイエロファント「(目線を戻し)そうなんだ・・・君には、魂の存在が判るんだものね」
デス「(フッ、と自嘲気味に笑い)死神だからな。他に能はない」
ハイエロファント「逆だよ、デス。『能がない』のじゃなくて、『君にしか出来ない』んだよ。君以外の誰も、魂を送ってあげられることが出来ない、ってことだものね」
両眼を、少し見開くデス。
視界いっぱいに、ハイエロファントを捉えている。
ブルッ・・・と、小さく身体を震わせ、キュッ、と口元を結ぶ。
デス「(僅かに瞳を潤ませ)・・・そういう言い方をされたのは、初めてだ・・・」
ハイエロファント、返事をするように、穏やかな微笑みをデスに向ける。
それから、膝を移動して上半身を起こす。
デスに対して直角の位置で腰を下ろしたまま、フォーチュン(大人)の立っていた場所に目をやる。
ハイエロファント「でも・・・本当にどうなっちゃったんだろう・・・魂は離れてないけど、身体を滅ぼしてしまったのかな・・・」
デス「解らんが・・・このマジカルランドに生きる者は、例え女神だろうが、あたしの大鎌で首を刈られなければ、死ぬことはない筈だ。それに、生命力が枯渇したにせよ、あたしが手を下したにせよ、肉体の存在が消えることはない。必ず、亡骸が残る」
ハイエロファント「僕の力の、何かの作用なのかな・・・」
突然。
ピク、とこめかみを反応させるデス。
デス「・・・命の気配がする! 奴は生きてる!」
ハイエロファント「(驚いて)えっ!?」
すかさず跳ね起き、近くの大鎌に飛び付き、両手に握って立ち上がるデス。
マントが、バサァ・・・と、軽やかに流線型の軌道で舞う。
続いて間を置かず、バッ、と両脚に力を込めて起立するハイエロファント。
フォーチュン(大人)のドレスの付近に、目を凝らす。
デスが、タッ、と彼の隣に立ち、身体の前で大鎌を構えて、据えた目線を飛ばす。
僅かの、後。
もぞ、とドレスが動く。
ハッ、とそれに気付き、同時に歩を進め始めるふたり。
警戒を眼前に向け、慎重に、一歩一歩前に行く。
途端。
ドレスの襟の付近が、フワサ・・・と拡がる。
その中に、赤子がいる。
産まれて数時間経ったような、一糸纏わぬ姿。
デス「(驚愕)・・・何・・・だと?」
ハイエロファント「(驚愕)赤ちゃん!?」
思わず同じ動作で、ドレスの傍らに屈み込むデスとハイエロファント。
ドレスを産着にしたように包まれ、すう・・・すう・・・と寝息を立てている赤子。
朱色の髪が薄く生えている。
ハイエロファント「どういうことなの? 何で、赤ちゃんがここに?」
デス「(茫然として)こいつは・・・フォーチュンだ」
ハイエロファント「(思わず大声で)ええっ!? この赤ちゃんが!?」
デス「(頷いて)間違いない。命の気配も、魂の感覚も、奴とまったく同じだ」
ハイエロファント「生まれ変わったの?」
デス「転生とは、違うな。魂が肉体と密着したまま変わってない。今までこんな状況に遭遇したことがないんで、推測でしかないが・・・(ハイエロファントを見詰め)身体だけが、赤子に逆戻りしたんだろう。見たところ、先ほどまでの記憶があるかどうかは怪しいが、あるいは、記憶は残ってて、あたしらのこの会話も理解してるかも知れんな」
ハイエロファント「驚いたよ・・・まさかこんなことになるなんて・・・」
両腕を伸ばして、ドレスと床の境に手を差し入れるハイエロファント。
そっ、と静かな動作で、掬うように赤子を持ち上げる。
すると、ドレスの裾の方から、コロン・・・と何かが転がり出る。
蓋の閉まった、拳大の壜。中には、虹色に輝く飴玉がぎっしりと詰まっている。
それに目を留める、デスとハイエロファント。
ハイエロファント「あれ? これって・・・ひょっとして・・・」
少しの、間。
デス・ハイエロファント「「(一際驚いた顔で)マジカルドロップ!!!」」
ハッ!と思わず顔を向き合わせる、ふたり。
息を飲んで、見詰め合う。
暫しの、間。
デス「(真っ赤になって)あ・・・いや、その・・・」
ハイエロファント「(頬を染めて、目を細め)ごめんね、また大声出しちゃって・・・でも・・・(満面の笑みで)思わず、声が揃っちゃったね」
ハイエロファント、ゆっくりと、赤子を胸元に抱き上げる。
デス、隣でその様子を、じっ、と見続けている。
赤子は規則的な寝息を立て、穏やかな顔で眠っている。
デス「それで・・・どうするんだ? その赤子。お前が育てるのか?」
ハイエロファント「うーん・・・(首を左右に振って)正直、厳しいかな。この姿にしちゃったのは僕だから、責任はあるんだけど・・・」
デス「なら、誰かに預けるしかあるまい」
ハイエロファント「(真剣な表情で)フォーチュンを育てるのなら、思い当たる適任者はいるんだ。話はしてみようと思う」
デス「連れて帰るのか」
ハイエロファント「このままにはしておけないから、ね」
左腕でしっかりと赤子を抱え、右手でドロップの入った壜を持ち、立ち上がるハイエロファント。
壜を握ったままの右腕を、赤子を包んだドレスに添え、両腕で抱いている状態。
続いて両脚に力を込め、大鎌を右肩に掛けて、身体を起こすデス。
向かい合って立つ、ふたり。
ハイエロファント「ねぇ、デス」
デス「何だ?」
ハイエロファント「君は、何故フォーチュンと対戦してたの?」
キュッ、とデスの口元が引き締まる。
デス「(斜め下を見て、口籠り)・・・し、死神が来る理由は、ひとつだけだろ?」
ハイエロファント「フォーチュンの命に、終わりを告げに?」
デス「あ、ああ・・・そうだ・・・」
ハイエロファント、一瞬、胸元の赤子を見下ろす。
それから、すっ、とデスの眼前に差し出す。
デス、赤子に視線を繋ぎ、戸惑ったような表情を見せる。
ハイエロファント「君の“仕事”だったのなら・・・」
デス「(首を左右に振り)あたしは対戦に負けたんだ。今更出来ない。それに、今は“その時”ではない。あたしには、その『声』が聞こえるんだ。魂を送るべきか、まだ先なのか・・・生命の『声』が、な」
ハイエロファント「(深い感心を込めて)凄いな。流石だね」
デス「(頬を染め)・・・何も大したことではない・・・」
改めて、赤子をしっかりと胸に抱きかかえるハイエロファント。
ちら、と彼の右手の壜に目線を送るデス。
デス「ドロップ、使うのか?」
ハイエロファント「ここに来た目的は、ドロップじゃなかったからね・・・取り敢えず持って帰ろうと思うけど・・・(ハッ、と気が付き)そうだ。良かったら、デス、持って帰ってよ」
デス「(焦って)いや! あたしは! 別にいい!」
ハイエロファント「何か願い事があれば、君に使ってほしい。僕は特に、叶えたい願いも思い付かないし・・・」
デス「(更に焦ったように)あたしも! 特にないから! 大丈夫だ!」
思い切り顔を左右に振って、冷や汗を飛ばすデス。
にこっ、と柔らかな微笑みを彼女に向けるハイエロファント。
ハイエロファント「じゃあ、ワールド様に返そう。フォーチュンの件もあるから、一度会おうと思う。その時に返すことにするよ」
デス「(ふうう、と長い息をつき)判った・・・」
ハイエロファント「とにかく、お城を出よう」
頷くデス。落ち着いた表情。