デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
★ (過去・数分後)フォーチュンの居城・城門近くの前庭
城の玄関ホールを、入口の大きな観音開きの扉に向かって、並んで歩くデスとハイエロファント。
片側の扉が、外側に開き切っている。真っ直ぐに歩を進める、ふたり。
扉の付近に差し掛かった、途端。
外側、頭上の方から、ズオオオオ・・・と圧迫感を感じる音。
ふたり、ハッ!と、同時に顔を上げて扉の上方を見上げる。
黒い影が被さってくる。
ハイエロファント「(大声で)危ないっ!」
扉と外側の境の場所で、バッ!とデスの眼前に飛び込むハイエロファント。
くる、と背を扉の外側に向け、赤子を抱きかかえたまま、両脚を踏み締める。
デス、思わず少し屈んで、大鎌を自分の前で構える。
直後。
ズッドオオオオォォォォンンン!!!と、外で何かが倒れる大音響。
ブワアアアアッッッ!!!と、凄まじい土埃が巻き上がり、玄関ホールに雪崩れ込む。
ハイエロファントの背中に、大き目の砂粒や塵が当たる。
デスの足元を土煙が這い、ブーツを掠めて奥へと流れていく。
もわあっ・・・と漂う、土の粒子。
ハイエロファントが盾のように背で防ぎ、デスには砂一粒すら当たっていない。
中腰の姿勢で凝り固まったデス。
向かい合って、こちらに心配げな視線を向けているハイエロファント。
絡み合う、眼差し。
沈黙。
沈黙。
やがて、土煙が散っていき、視界が戻ってくる。
ハイエロファント「(落ち着いた声で)・・・デス、大丈夫?」
デス「(茫然とした声で)あ・・・ああ・・・大丈夫、だ・・・」
安堵したように微笑むハイエロファント。
未だにあっけに取られたような表情で、身体を起こすデス。
目線は、ハイエロファントに繋がれたまま。
再び並んで、扉から外に出ようとする、ふたり。
何事かと目を凝らし、警戒感を前方に集中させる。
外は、城門と玄関の間に広がる、石畳と土の前庭。薄い土煙が残留している。
そこに、身体を投げ出して、仰向けに倒れているタワー。
目を丸くして、扉から外に駆け出すデスとハイエロファント。
タワーの全身は、5割ほどしか残っていない。
両手脚、腹部がバラバラに崩れ、煉瓦が四散して山積み、あるいは散らばっている。
頭部はほぼ原型を留めているが、見えている左眼の緑色の光が消えかかっている。
ハイエロファント「(愕然として)タワーっ!」
デス「崩壊、だと?・・・(気付いたように)そうか、魔力の消失か!」
眼前で構えていた大鎌を、刃を下げて左手に持ち直すデス。
デス「フォーチュンと闘う前に、こいつと闘ったんだ」
ハイエロファント「(驚いて、デスを見詰め)えっ?」
デス「そして、勝った。正確には、負けを認めさせた。だから、フォーチュンに闘いを挑めた」
ハイエロファント「僕が来た時には、タワーはいなかったよ」
デス「(ハイエロファントを見詰め返し)あたしに負けて、この城門から離れたんだろう。そしてここに戻ってきたが・・・恐らく、フォーチュンが赤子の姿になって、魔力が消失したんで、タワーも倒れた。こいつは、フォーチュンの魔力でしか動けない筈だからな」
ハイエロファント「じゃあ・・・僕の、所為で・・・」
直後。
ドレスで包んだ赤子を、バッ、とデスの眼前に差し出すハイエロファント。
ハイエロファント「デスっ! お願いっ!」
無意識に両手を差し伸べるデス。カラン、と大鎌が石畳に落ちる。
彼女の両腕の上に赤子を乗せて、くるっ、と踵を返すハイエロファント。
デス「(ハイエロファントと赤子を交互に見て)え? え? えっ?」
デス、思わず赤子を抱き留め、茫然としている。
ハイエロファント、流れるような動作で、マジカルドロップの壜の蓋を、キュポッ、と開ける。
左手で壜を持ち、右手で一粒のドロップを摘まみ出して、高々と掲げる。
ハイエロファント「ドロップよ! 願いを聞いてほしい!」
きっ、と視線をドロップに据えるハイエロファント。
ハイエロファント「(凛とした声で)タワーを元の姿に戻してあげてっ!」
次の、瞬間。
カアッ!と、ドロップが眩い光を発する。
キュイイイ―――ッッン!!!と、高周波音が辺りに拡散していく。
途端。
タワーの周囲に散らばった煉瓦が、フワアッ・・・と宙に浮かび上がる。
崩れて山積みになった煉瓦も同様に浮き上がり、それらひとつひとつが白色の光を帯び始める。
光は、タワー全身を包み込むように大きくなっていく。
煉瓦が、カシュン、カシュン、と、タワーの身体の形に積み上がっていく。
パズルのピースがはまっていくように、整然と、規則正しい動きの煉瓦。
程なく、タワーの身体全体が元に戻る。白色光に覆われたまま、横たわっている。
安堵したように微笑むハイエロファント。摘まんでいたドロップは消えている。
言葉も発せず、ただ彼の後ろ姿とタワーの復活を見詰めているデス。
タワーの左眼が、ポワァ・・・と緑色に光る。
タワー「(深い響きの声で)・・・ター・・・ワー・・・」
ハイエロファント「気が付いたっ? タワー!」
タワー「・・・アタタカイ・・・ワタシ・・・モトノ、スガタ・・・モドッタ・・・」
ハイエロファント「(ふうっ、と息を吐き)良かった・・・」
ズ・・・と首をこちらに向け、ハイエロファントを見るタワー。
タワー「オマエ・・・タスケテ、クレタ、ノカ?」
ハイエロファント「ドロップを使って、君を治したんだ。僕とは、初めて話すよね? 僕の名前は、ハイエロファント。君がフォーチュンと一緒にいることは、前から知ってたけど・・・よろしくね、タワー」
タワー「エロファント・・・カ・・・ヨロシク・・・」
再度顔を上に向け、両腕を体側の地面に着け、ズウ、と身体を起こし始めるタワー。
様子を窺うように、ハイエロファントの背後に近寄るデス。
デス「・・・なるほど、ドロップをそう使ったか。お前らしいな」
ハイエロファント「(振り向きながら)あ、デス、ごめんね、急・・・に・・・」
彼女を見詰め、目を正円に見開くハイエロファント。
息を、飲む。
ドレスに包んだ赤子を、しっかりと両腕で胸元に抱いているデス。
ハイエロファントの両目に、鮮やかに、清廉とした輝きを醸し出して映っている。
身体をデスに正対させ、すべての動きを停止させるハイエロファント。
デス「(首を傾げ)どうした?」
瞳を、感嘆の潤いで満たすハイエロファント。
言葉が出ない。
ハイエロファント《(蕩けそうな感覚で)・・・デス・・・》
デス、彼の真っ直ぐな視線に気付き、凍て付いたように立ち止まる。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
ボワッ!と茹ったように真っ赤になるデス。
ポオッ、と綺麗な朱色に染まるハイエロファント。
デス「(上擦った声で)な、何をじっと見てるっ!」
ハイエロファント「(頬を染めたまま)ご、ごめんっ! つい! 見とれちゃて!」
サッ、と赤子を両手で突き出すデス。
デス「(赤面したまま)返すぞ!」
ハイエロファント「あ! うん! いきなりでごめんね! ありがとうっ!」
受け取り、改めて両腕で胸元に赤子を抱きかかえるハイエロファント。
口を結んで、緊張しているような面持ちで、クルッ、と身体を返すデス。
石畳に横になっている大鎌を取り、右肩に掛けてから、こちらに向き直る。
デス「(はああ、と長く息を継ぎ)・・・あまり長く、死神に赤子を抱かせるもんじゃない・・・」
ハイエロファント「そうかな? いい雰囲気だったし、似合ってると思うけど」
デス「(声が裏返り)に! 似合ってる!? 冗談言うな!」
ハイエロファント「(真剣な表情で)冗談なんて言う訳ないよ。本当に、いい感じだな、って思った。いつかは君も、お母さんになる日が来るんだろうし・・・」
デス「(自虐気味に)あたしは死神だぞ。死神が母親なんぞに・・・なれる訳が・・・」
ハイエロファント「僕は、なれると思う」
ハイエロファントの、真摯な眼差し。
デス、ぐぅっ、と息を飲んで、唇を引き締める。
一方、上半身を起こし終わり、ズ・・・と顔を向けてハイエロファントとデスを見下ろすタワー。
ハイエロファントの胸に抱かれた赤子を目に留める。
タワー、少しの間の後、何かに気付いたように首を傾げる。
タワー「ソノ、アカンボウ・・・フォーチュンサマ、カ?」
ハイエロファント「(タワーを見上げ)そうだよ。赤ちゃんになっちゃったけど、ね。この子が、フォーチュンなんだ」
タワー「・・・フォーチュンサマ・・・」
ふ・・・と、赤子が瞼を開ける。
タワーと視線が絡む。
初めて見たような、また興味深そうな眼差しを向け、きょとん、とした顔をしている赤子。
タワー「ワタシ・・・ワカラナイ、ノカ?」
ハイエロファント「・・・今は、解っていない気がする。タワーのことも、デスのことも、僕のことも、ね」
デス「どうやら、完全に赤子に逆行したようだな。過去の記憶も、定かではないだろう」
ハイエロファント「(頷いて)そうだね。この無垢な表情を見る限り・・・覚えていないか、忘れちゃったか・・・」
タワー「フォーチュンサマ、ドウスル?」
ハイエロファント「申し訳ないけど、タワー・・・連れ帰って、育てなきゃならない」
タワー「オマエタチ、フタリ、デ?」
ボッフン!と、同時に茹ったように真っ赤になって、目を見開くデスとハイエロファント。
デス「(慌てたように)ち! 違う! あたしらは! その・・・」
ハイエロファント「(慌てたように)うん! 僕たちじゃないんだ! 別の人に預けるつもりなんだ!」
暫しの、間。
頷いて、ゴウン、と音を立て、両腕を地面に着けるタワー。
タワー「・・・ワカッタ・・・ワタシ、コソダテ、デキナイ・・・」
ズウン・・・と両足を畳み、力を入れて立ち上がるタワー。
赤子を含めた3人が見ている中、完全に直立する。
顔を上げて、タワーを見上げるハイエロファントとデス。
ズン、ズン、と足音を立て、城の玄関の扉に近寄るタワー。
そして片膝を着き、腰を下ろす。
外側に開いている扉を指で動かし、ガチャリ、と戻して閉じる。
それから、ズウ、と背中を城側に向け、更に腰を沈める。
両手を身体の横の石畳にしっかりと着き、重心を後ろに傾ける。
タワーの背中と、城の入口の扉の間隔が狭まり、ほとんど隙間がなくなった辺りで止まる。
タワー「ワタシ・・・ココデ、マツ・・・フォーチュンサマ、カエリ、マツ・・・」
ハイエロファント「タワー・・・」
タワー「イリグチ、マモル・・・ダレモ、ハイラセナイ・・・」
タワーの左眼が、点滅し始める。
緑色の光が弱くなっていき、段々とぼんやりとした光量になっていく。
ハイエロファント「(息を飲んで)タワー! 目が!」
デス「やはり・・・フォーチュンの魔力も、最早尽きてる。タワーの活動の限界が来たようだ」
ハイエロファント「ドロップで何とか出来ないかな!?」
タワー「(首を左右に振り)ムリ、ダ・・・ワタシ、フォーチュンサマ、チカラナシ、ウゴケナイ・・・」
デス「タワーは、フォーチュンと表裏一体なんだろう。今は、眠らせてやるしかない」
タワーの顔に目線を繋ぎ止めるハイエロファントとデス、赤子。
赤子の瞼が重くなっていき、うと、うと、と眠りに入っていく。
タワー「(深遠な声で)エロファント、デス・・・フォーチュンサマ、タノム・・・モウ・・・メ・・・ミエナク、ナル・・・ネムリ、ツク・・・オマエタチ・・・ミエナク、ナル、マデ・・・ミテイル・・・ユケ・・・ユ・・・ケ・・・」
ハイエロファント「(頷いて)判ったよ、タワー。フォーチュンを、待っててあげて」
デス「(踵を返しつつ)行くぞ」
タワー「(声を弱らせ)・・・フォー・・・チュ・・・ン・・・サマ・・・タ・・・ノ・・・ム・・・」
タワーに背を向け、歩き始めるデスとハイエロファント。
城門の真下で一度振り返り、タワーの姿を見て、向き直って門をくぐる。
先の石段を並んで降りていく、ふたり。
途中、再度振り返るハイエロファント。タワーの左眼は、ほとんど光が消えている。
胸に抱かれた赤子は、すう・・・すう・・・と熟睡している様子。
ハイエロファントの横顔を一旦見詰め、それから先立って階段を下っていくデス。
何かを振り切るように、デスの後に続いて階段を降りるハイエロファント。
★ (過去・更に十分後)森の道
陽が天頂を越え、傾き始めている。
森の中の道を、肩を並べて歩いているデスとハイエロファント。
両腕で、眠った赤子を胸に抱くハイエロファント。添えた右手には、マジカルドロップの壜。
ハイエロファント「タワーは、もう眠りに就いたかな・・・」
デス「恐らく、な。あとは、フォーチュンの魔力が復活し、あの城に戻るまで眠り続けるだろう」
ハイエロファント「(ドロップの壜を見て)このドロップは、どんな願いも叶うんだよね? やっぱり、タワーがずっと動けるようにした方が、良かったのかな・・・」
デス「それは可能だったろうな。だが、タワーは否定した」
ハイエロファント「確かに『無理』って言ってたけど・・・」
デス「それに・・・本人はそれを望んでいない気がする。仮にドロップでフォーチュンの魔力なしに動けるようになったとして、今この現状・・・タワーは、フォーチュンのいない城にひとりでいることになる」
ハイエロファント「(ハッ、として、思わずデスを見詰め)あ・・・」
デス「いつ戻るとも知れない主を待ち続けるんだ。フォーチュンが記憶を取り戻すかどうかも判らず、元の魔力を復活させる保障もない。それを自我を保ったまま、果たして奴は待てるのか?」
少し口を開いて、正面に目線を投げるハイエロファント。
暫くの、間。
ハイエロファント「そこまで気が回らなかったよ・・・僕は、ただタワーが元に戻るのなら、と思って・・・(抑えた声で)ひとりになるくらいなら、フォーチュンのいない時間を眠って過ごしたい、ってことなんだろうね」
デス「本人が言ってないから、あくまで予想だがな」
ハイエロファント、ふっ、と穏やかな微笑みを浮かべてデスを見詰める。
ハイエロファント「デス、君は・・・(柔らかい声で)優しいね」
デス「(頬を染め)そ! そんなことはない! あたしが優しいなどと・・・そんなこと・・・」
ハイエロファント「本当にそう思うよ。タワーの意志を尊重すれば、それが正しいんだね。考えるに、僕は、誰かを救けているつもりで、実のところはお節介過ぎてて、(自嘲気味に、目を伏せ)しかも自己満足に終始していたところがある。救うならば、まずは本人の希望を、ちゃんと聞いてあげなきゃね・・・」
デス「お節介と言われようが、自己満足を覚えようが、それが・・・その道が、お前自身だろ? ハイエロファント」
ハイエロファント「(思わず顔を上げ)え?」
デス「誰も目を向けない部分にまで踏み込み、手を差し伸べる。それが『法王』足る、お前の根幹だ。それを変えたら、お前ではない」
ハイエロファントの瞳が、微かな潤いを帯びる。
見る見る満面の笑みになっていく。
対して、目線を外して、軽く、コホッ、と咳払いをするデス。
ハイエロファント「(嬉し気に)デス・・・ありがとう。そう言ってくれると、自信が湧くよ」
デス「(再度頬を染め)れ・・・礼を言われるまでも、ない・・・」
ふたりの行く先、森の道が二手に分かれている。
その交差点で、向かい合って立ち止まるデスとハイエロファント。
ハイエロファント「じゃあ、ここで。送ってあげたいけど、フォーチュンの件があるから、ワールド様に早めに会わなきゃならない」
デス「ああ・・・あたしは、自分の住居に戻る」
ハイエロファント「(思い出したように)あ、そうだ。今度、家に来てよ。ゆっくりと話がしたいんだ」
デス「(驚いたように)え? い、いや、あたしなんかが・・・その・・・」
ハイエロファント「僕は、神殿に住んでるんだ。判るかな? 森を抜けた街中の小高い丘にある、神殿」
デス「神殿・・・(頷いて)場所は、判る・・・」
ハイエロファント「ほとんどいると思うから、いつでも来てくれて大丈夫だよ」
少し、考えているデス。視線を伏せる。
デス「(口籠って)き、気が向いたら、な・・・」
ハイエロファント「(微笑んで)待ってるよ」
デス、半身を分かれ道に向けて、ハイエロファントを視界に映す。
ハイエロファント、デスに真っ直ぐな眼差しを向ける。
ハイエロファント「帰り、気を付けて。また逢おうね、デス」
デス「あ・・・ああ・・・また、な・・・ハイエロファント」
くる、と踵を返し、歩を進め始めるデス。
にこやかな笑みを、彼女の背に送り続けているハイエロファント。
段々と小さくなっていく、デスの背中。
かなり進んだところで、こちらを振り返る。
未だにデスを見詰め続けるハイエロファントと目が合い、ビクッ、と肩が跳ねる。
僅かの間、固まる。
やがて、思い切ったように道の奥に向き直り、歩き始めるデス。
遠くなり、視界から彼女が見えなくなるまで目線を投げているハイエロファント。
静寂。
静寂。
ハイエロファント、脳裏にデスの姿を浮かべる。
はあっ・・・と感動に溢れた溜め息を漏らす。
ハイエロファント「(感慨深げに)君を抱っこしたデスの姿・・・綺麗だったなぁ・・・」
穏やかな寝息を立て、ハイエロファントの胸元で眠る赤子。
ハイエロファント「(笑顔で)行こうか。君の、新しい家族のところに」
ざっ、とデスの去った方と別方向の道へと足を踏み出すハイエロファント。