デスとハイエロファントの物語:REBOOT 外伝・番外編集 作:桁石スミオ
★ (過去・更に数時間後)街の郊外・マジシャンの家
【N】「フォーチュンと対戦して数時間後、ハイエロファントはワールドと共に、赤子になったフォーチュンを連れて、マジシャンの家を訪れた。そしてハイエロファントは、事の次第をすべてマジシャンに打ち明ける。当初は話を聞きながら、動揺すら見せたマジシャンだったが、聞き終わった頃には冷静さを取り戻していた」
夕刻に近付いた陽が射し込む、暖炉のある居間。
テーブルを囲んで座る、マジシャン、ハイエロファント、ワールド。
こじんまりとした室内。寝起きするベッドが部屋の角にある。
その上に、竹で編まれたクーファン(籠)が置いてあり、中に産着に包まれたフォーチュン。
すう・・・すう・・・と、規則正しい寝息。
卓上で肘を着き、両手を顔の前で組むマジシャン。
マジシャン「(ふーっ、と長い溜め息をつき)話は解った・・・そうか・・・フォーチュンが、今は、あの姿であーるか・・・」
ワールド「マジシャン、あなたは以前より、フォーチュンを気に掛けてらっしゃいましたワよね」
マジシャン「(頷いて)その通りであーる。同じ魔導を極めようとする者として、一目置いていたのは間違いない」
ワールド「フォーチュンがこの間まで、マジカルランドの魔力を自分に集め、溜めていたのに早く気付いたのも、あなたでしたワね? それが原因で、この世界の魔法均衡にも障害が及んでいる、と」
ハイエロファント「君がいち早く気付いてくれたお陰で、僕もいろいろ対策が出来たんだ。フォーチュンが原因だと判って、彼女に話を聞きにいったんだけど・・・(目を伏せ)こういう結果になっちゃって」
マジシャン「話し合いでどうにかなったとは思えん。気に病むことはない、エロファント」
ワールド「そこで、マジシャン・・・あなたがフォーチュンに一方ならぬ感情を抱いてらっしゃったのを鑑みて、今日、ここに来ました。話というのは、他でもなく・・・」
マジシャン「(重厚な口調で)・・・フォーチュンを預かれ、であーるか?」
ゆっくりと頷くハイエロファント。
ハイエロファント「勝手なお願いだとは、重々承知の上、なんだけど・・・」
ワールド「今、彼女はまったく邪気のない状態・・・ワタクシより遥か永い時を生きてきた、女神の先輩として、ワタクシはワタクシなりにフォーチュンには敬意を払ってるつもりですワ。しかしワタクシでは、恐らくフォーチュンを正しく導けないでしょう。ですがマジシャン、あなたになら、彼女を託せると考えたのですワ」
ハイエロファント「本当なら、フォーチュンを赤ちゃんにしてしまった僕が育てるのが筋、なのは解っている。だから、正直に言ってほしい。無理はしてほしくない。子供を育てるのは簡単ではないからね」
マジシャン、俯いて目を閉じ、口元を、ギュッ、と引き締める。
マジシャン「(深い響きの声で)フォーチュンは・・・私が救いたかった・・・」
ワールド、慈しむような視線をマジシャンに向ける。
ハイエロファント、静かな微笑みを湛える。
マジシャン「実は以前、フォーチュンと対戦したことがあってだな・・・(自嘲気味に)結果、惨敗となった。魔力の桁が違い過ぎた。その違いは対戦の前から解っていた。それでも・・・(更に声を落とし)何とかしたかったのだ・・・邪悪な道も魔術の道であろうが、世界全体の秩序を乱すまでの道は、立ちはだかる必要があった。止めねばならなかった。しかし、それ以上に・・・(優しい声で)もしフォーチュンが苦痛を覚えているのなら、私に話をしてほしかったのであーる」
ガタ、と椅子を下げて立ち上がるマジシャン。
ベッドに近寄り、クーファンの横に腰を下ろし、中に目線を繋ぐ。
安らかな寝顔で眠っているフォーチュン。
マジシャン「私に親が務まるかどうか、未知の領域だが・・・」
マジシャン、顔を上げ、テーブルのふたりに凛々しい目を向ける。
マジシャン「(柔らかい微笑みで)引き受けよう。フォーチュンを預かる」
ハイエロファント「(笑顔で)本当? 良かった・・・」
マジシャン「ただし、子育ては未経験だからな。魔導書の代わりに育児書を読みながら、であーるが」
ワールド「感謝しますワ、マジシャン。ワタクシも出来る限り、協力しますワ(頭を下げる)」
途端。
コンコン、と玄関の扉がノックされる音。
3人が一斉に、その方向に視界を移す。
マジシャン「どなたであーるか?」
ハイプリエステス(扉の向こうから)[あたくしざます、マジシャンさん]
マジシャン「(笑顔で)開いてるから、入り給え」
ガチャリ、とハンドルレバーが下がり、外側に開く。
左腕に分厚い本を抱えたハイプリエステスが入ってくる。
ハイプリエステス「(笑顔で)こんにちはざます」
ふと、部屋の内部を見渡して足を停めるハイプリエステス。
それから、ベッドに座っているマジシャンの方に再び足を進める。
ハイプリエステス「あら、エロファントさん、いらしてたのですか? ワールド様まで、珍しいざますね」
ワールド「プリエステス、お久し振りですワ」
ハイエロファント「こんにちは、プリエステス」
ハイプリエステス「何事ざますか? 皆さんで・・・今日・・・は・・・」
ハイプリエステス、ぴた、とマジシャンの前で立ち止まる。
マジシャンと、隣にあるクーファン、その中の赤子を交互に見詰める。
急に、笑みが消える。
茫然としてる様子。目の焦点が合っていない。
マジシャン「(怪訝そうに)どうしたのだ? レディ」
産着姿の籠の赤子が、もぞ、と動いて、眠ったままマジシャンの方に顔を向ける。
ス・・・と、ハイプリエステスが、持ってきた本を両手で持ち上げる。
自分の真上にまで掲げ、無表情でマジシャンを見下ろす。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
ハイプリエステス「(腹の底からの大声で)辞典クラァァァァッシュッ!!!」
直後。
渾身の力で、マジシャンの頭目掛けて本を振り下ろすハイプリエステス。
ボゴンッ!!!と派手な勢いで、頭を殴られるマジシャン。
グッギィッ!と、嫌な音まで響く。
マジシャン「ぐわあぁっ!!!」
心底驚き、思わず立ち上がるハイエロファント。
同時にワールドも起立して、身を乗り出す。
白目を剥き、ギリッ、と奥歯を噛み締めて、再度本を振り翳すハイプリエステス。
間髪入れず、マジシャンの脳天目掛けて本を叩き付け始める。
ドガッ! バギッ! ゴスッ!と、凄まじい連打。
ハイプリエステス「(金切り声で)不潔ざますッ! いつの間に隠し子なんて! 不潔ざますッ! 見損なったざますッ!」
マジシャン「(痛みに耐えながら)痛ッ! 待ち給えッ! レディ! ちょ! 話を! ごわッ! 聞いて!」
ハイエロファント「(焦って)待ってプリエステス! 話を聞いて!」
ワールド「(焦って)お止めなさい! 落ち着いて!」
★ (過去・更に数分後)街の郊外・マジシャンの家
テーブルで向かい合って座っている、マジシャンとハイプリエステス。
マジシャンの横にはハイエロファントが立ち、右手を彼の頭部に向けている。
掌から、ポワッ・・・と白色の光が注がれ、マジシャンを照らす。
憮然とした表情で腕を組み、両目を閉じているマジシャン。
正面で、卓上擦れ擦れに頭を下げているハイプリエステス。
ハイプリエステス「ほんっ・・・とうに! ごめんなさいざます! あたくしったら! 勘違いしたざます!」
ス・・・と右手を挙げ、ハイエロファントを見るマジシャン。
マジシャン「(落ち着いた声で)もう大丈夫であーる、エロファント。世話を掛けた」
ハイエロファント「ううん、気にしないで」
ハイエロファント、治癒の術を終え、右腕を下げる。
ベッドの傍らからクーファンを覗き込み、赤子が熟睡しているのを確認するワールド。
足音も立てず、浮遊したままハイプリエステスの横に寄っていく。
ワールド「(腕組みをして)話は理解出来ましたか? プリエステス」
ハイプリエステス「(頷いて)ええ・・・大体は・・・にわかには信じられないざますが・・・」
ハイエロファント「だろうね。目の前で見てた僕も、未だに信じ難いと思っているからね。でも事実なんだ。あの赤ちゃんが、フォーチュンなんだよ」
ハイプリエステス、改めてベッドのクーファンを目に映す。
テーブルに両肘を乗せ、軽く腕を組んで置くマジシャン。
マジシャン「(はぁ、と溜め息をつき)まったく・・・まず話を聞いてくれれば良かったのであーる。第一、レディ、あなたは昨日も来ているではないか。長い時間、私と一緒だったではないか。赤ん坊を隠す場所など、この家の何処にもないことは、冷静に考えれば判ることではないか。それをいきなり辞典で殴るなど・・・」
途端。
マジシャンに向き直り、顔を深く伏せるハイプリエステス。
虚ろな視線を卓上に投げ、肩を震わせ始める。
ハッ!とそれに気が付いたマジシャン、言葉を切って彼女を見詰める。
ハイプリエステス「(絞るような声で)その通りざます・・・あたくしったら・・・ロクに話を聞かずに・・・(ぼろ、と涙を零し)そそっかしくて・・・頑固で・・・聞く耳持たなくて・・・情けないざます・・・」
マジシャン「(茫然として)あ・・・あの・・・」
ハイプリエステスの目頭から、ポタッ、ポタッ、と落涙。
テーブルに、露の溜まりを作っていく。
動揺したように数回頭を振るマジシャン。
しかしすぐに、すうぅ・・・はーっ・・・と、一度大きく息を継ぐ。
そして、ハイエロファントとワールドを見て、無言で手招きをする。
すぐ近くに来たのを確かめて、手を口元に翳すマジシャン。
マジシャン「(小声で)あとは、私が話をしておく・・・」
ハイエロファント「(小声で)うん、解ったよ。お願いね」
ワールド「(小声で)頼みましたワ」
そ・・・と足音を忍ばせ、玄関に向かうハイエロファント。続くワールド。
扉をゆっくり開き、外に出てから、静かに閉めてハンドルレバーを戻す。
ハイエロファント、ワールドに目線を送り、頷く。
ハイエロファント「ふたりなら、大丈夫ですね」
ワールド「ええ、心配ありませんワ」
ハイエロファント「(扉を振り返り)それに・・・フォーチュンのことも」
【回想シーン終了】