ウルトラマンカイナ   作:オリーブドラブ

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第1話 流星と博物館

 宇宙という暗黒の大海原。その中を翔ける光の玉が、二つ。

 赤い玉が青い玉を追い、この虚空を駆け抜けていた。

 

『待てッ……待ちやがれッ!』

 

 蒼く美しい星を目指し、青い玉は唸りを上げて突き進む。その後に続く赤い玉は、血気盛んな叫び声を上げていた。

 だが、青い玉がそれを聞き入れることはなく――彼の者はただ真っ直ぐに、目的の星だけを目指す。

 

『くっ……そぉお! 認めさせてやる……! 絶対、認めさせてやるんだァッ……! たとえ、あの鎧がなくたってッ……!』

 

 赤い玉は、それに追いつけず。徐々に、距離を引き離されつつあった。

 小惑星帯を抜け、隕石をかわし、なお執拗に青い玉をつけ狙う彼は――焦燥を露わに、この宇宙を翔ける。

 

 彼らが、私達の星に辿り着くのは、時間の問題だろう。私達が暮らす、この美しい緑の星――地球に。

 

 ◇

 

「はぁー……やっぱ壮観だよなぁ、こうして見てみると」

 

 ショーケースに並べられた、歴代のウルトラ戦士の立像。雄々しく立ち並ぶ、その像の群れを前にして――風祭弓弦(かざまつりゆずる)は嘆息していた。

 今年で創立100周年を迎えるという、このウルトラ記念博物館には、かつて地球の危機に立ち向かったと言われる伝説の巨人――「ウルトラマン」の歴史が刻まれている。

 

 9年前に地球に訪れた「ウルトラウーマンジャンヌ」のことも、しっかりとここには記録されていた。

 

 今日、弓弦達城南大学付属高校(じょうなんだいがくふぞくこうこう)の生徒達は、このウルトラ記念博物館の見学に来ているのだ。

 今年から高校に入学したばかりで、初々しくブレザーに袖を通している黒髪の少年は、穏やかな面持ちで立像を眺めている。

 ……昔から何かとぽけーっとしている彼は、天然キャラとして扱われることが多い。本人としてはそんなつもりはないのだが、今ではすっかりクラスメートからもそういう扱いを受けてしまっている。

 今も、他のクラスメート達があちこち見て回っている最中だというのに、彼だけはぼんやりと立像を眺めている、という始末なのだ。良くも悪くもマイペース、という少年なのである。

 

 ――だが、世の中何が起こるかわからないもので。そんな彼に想いを寄せる、奇特な女子もいた。

 遠くから彼に熱い視線を送る彼女の隣で、もう一人の少女がため息をついている。

 

「ねぇ……梨々子(りりこ)。今更だけどさ、あいつのどこがいいわけ? あんな何考えてんだかわかんないような奴」

「そ、そんなこと言わないでよ。……と、とにかく今日が勝負なんだから。頑張れ、私!」

「はぁ……あんたの趣味はよくわかんないなぁ」

 

 艶やかな茶髪をポニーテールに纏めた、スポーツ系の少女――尾瀬智花(おぜともか)。その親友であり、付属高校のアイドルとして知られる美少女――綾川梨々子(あやかわりりこ)

 艶やかな黒髪をショートに切り揃えた彼女は、その白い柔肌と美貌に加え、推定Gカップの巨峰という圧倒的プロポーションの持ち主でもある。

 

 加えて、地球の平和を預かる防衛チーム「Bureau of Ultra Repose Keeping」――通称「BURK」の司令官を父に持つ、御令嬢でもあるのだ。今でも、こっそりとBURKの隊員がこの近くに紛れ、彼女を護衛しているのである。

 

 まさに天が一物も二物も与えたような美少女なのだが……男の趣味は、いまひとつらしい。

 

「ふーん……こんなウルトラマンもいたんだ。これはオレも初めて見るなぁ」

「これはね、ウルトラマンジョーニアスっていうの。U40(ユーフォーティ)からやって来た、かなり特殊なウルトラマンなんだよ!」

「へぇ……綾川さん、詳しいんだね」

「えへへ、ちょっと予習してきちゃった」

 

 立像を眺める弓弦の隣に歩み寄り、ウルトラマンの解説を始める梨々子。――実は彼と話すきっかけを掴むために、わざわざウルトラマンのことを猛勉強していたのだが。当の弓弦は、知るよしもない。

 

「やれやれ……ま、ここは親友として素直に応援しといてやりますか」

 

 そんな親友の姿を、苦笑交じりに見守りながら。智花は、学園のアイドルに話し掛けられても相変わらずのほほんとしている弓弦に、ため息をつくのだった。

 ――梨々子に構われている弓弦に、周囲の男子達が殺意の篭った視線を向けるのも、今となっては日時茶飯事なのである。

 

 その渦中にいる梨々子には今日、ある目的があった。それは、この後の昼食に彼に手作り弁当を渡して、告白する――というもの。

 小学生時代から弓弦を恋い慕っていた彼女は、この高校三年間を恋人同士として過ごしたいと願い、今日を決行日に選んでいたのである。

 

(こうして、風祭君と2人で博物館を見て回って、最後に2人で一緒に食べて……よ、よし。頑張ろう)

 

 猛勉強で得たウルトラマン知識を披露するごとに弓弦に褒められ、その度にガッツポーズを決める梨々子は、期待に胸を高鳴らせながら、軽やかな足取りで館内を歩んでいる。

 

(よっぽどウルトラマンが好きなんだなー、綾川さん。すっごく楽しそうだ)

 

 その様子を微笑ましく見つめる弓弦には、全く伝わっていなかったが。

 

 ◇

 

 一方。一般人に扮して、司令官の娘である梨々子を見守っている女性隊員は、定時連絡で上官に現状を報告していた。

 亜麻色のストレートを艶やかに靡かせる、切れ目の美女である彼女は――なんとも言えない表情で、梨々子と弓弦を見つめていた。

 

「――こちら駒門(こまかど)。梨々子お嬢様の近辺に異常はありません。相変わらず例の少年にベッタリです」

『了解。そのまま監視を続行しろ。もし2人きりで密室にでも行こうとした時は、実力行使もやむを得ん』

「了解。……しかし弘原海(わだつみ)隊長。あの少年、すごいほんわかしてます。お嬢様のGカップを目前にしても、眉ひとつ動かしていません。放っておいても大丈夫なのでは?」

 

 BURK隊員である駒門琴乃(こまかどことの)は、地球を守る防衛チームの一員でありながら、毎回こんな仕事しか回ってこない現実にため息をつきながら――ぽけーっとした表情を浮かべる弓弦の横顔を、じっと見つめている。

 

(しかし……あの少年の横顔、どこかで……?)

 

 その顔に、えもいわれぬ既視感を覚えながら。

 

『うむ……俺も正直そう思う。だが、いくら穏やかな人柄とは言っても年頃の男女だ。司令官も気が気でないようだし、念のため監視は続行しろ』

「了解。……こんな仕事ばっかりですね、私達」

『そう言うな、平和なのはいいこと――? おい、どうした。……なに、怪獣!?』

「……!?」

 

 だが、そういう言葉を並べる時は、よくないことが起きる予兆(フラグ)になるもの。

 ろくな装備も携行していない、最悪のタイミングで――BURKの隊員達は、戦いの時を迎えるのだった。

 

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