ウルトラマンカイナ   作:オリーブドラブ

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第3話 ウルトラマンと少年

 白銀の逞しい肉体。真紅の手足。

 丸い目に、頭部に閃くトサカ状の刃。そのシルエットは、紛れもなくウルトラマンのそれであったが――博物館の中に、この姿に該当する立像はなかった。

 つまり……今日初めて地球に来たウルトラマン、ということだ。

 

「あんなウルトラマン、初めて見る……!」

「ていうか、ナマでウルトラマン見るのも初めてだよ……!」

「やれーっ! やっちまえーっ!」

 

 バスにいる付属高校の生徒達は、ウルトラマンの出現に歓声を上げる。これでもう安心だと、確信するように。

 ――だが、未だ弓弦の安否は不明であり。それを何より気にかけている梨々子は、不安げな表情のままであった。そんな彼女を気遣うように、智花が隣に寄り添っている。

 

「……大丈夫だよ、きっと。風祭の奴、すぐに見つかるって」

「智花……」

「ちらっと見てたんだけどさ。さっきのあいつ、普段とは別人ってくらいキリッとしてて、カッコよかったよね。普段からあれでいきゃいいのに!」

「あはは……うん、そうだね……」

「……だから、きっと大丈夫だって。学校で待っててやろうよ。弁当、食べさせてあげるんでしょ?」

「うん……でも、さっきのどさくさで中身ぐしゃぐしゃだと思うし……」

「あいつなら気にしないよ、絶対。普通に何食わぬ顔でむしゃむしゃすると思う」

「あはは……そうかも。そんな気がして来たよ」

 

 懸命な励ましが効いたのか、梨々子にも少しずつ笑顔が戻り始めている。そんな彼女の様子に安堵しつつ、智花は剣呑な面持ちで、ウルトラマンの背中に視線を向けるのだった。

 

(……うちの親友が、こんなに心配してんのよ。さっさと帰って来なさいよね、風祭!)

 

 ◇

 

「シェァッ! ダァアァッ!」

 

 赤い玉から現れた赤い手足のウルトラマンは、恐竜戦車と相対してすぐに殴り掛かった。真正面から突っ込んでいった彼は、力任せに拳を振るい、恐竜戦車の顔面を打つ。

 ――だが、ゼロ距離からのミサイル射撃をまともに浴び、すぐに転倒してしまった。それでもめげず、再び真っ向から突撃していくのだが……恐竜戦車の牙城を崩す前に、砲撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ、う……こ、ここは……!」

 

 その戦場となっている、市街地の廃墟。そこで目覚めた弓弦は、自分のすぐ近くでウルトラマンと怪獣が戦っていることに、ようやく気付いた。

 すぐにここから離れなくては――そう思う瞬間、彼の傍らにウルトラマンの巨体が倒れ込んでくる。

 

「おわっ!」

 

 眼前にウルトラマンの頭が現れ、その衝撃に弓弦は再び吹っ飛ばされてしまう。なんとか身を起こした彼の眼前では、仰向けに倒れたウルトラマンが尻尾の連打を浴びせられていた。

 弓弦の間近で苦悶の声を漏らすウルトラマンは、カラータイマーが点滅しているこの状況でも、活路を見出せずにいる。もはや、そんな余力は残されていないのだ。

 

 このままでは、やられてしまう。そう焦る弓弦と、ウルトラマンの視線が交わった――その時だった。

 

『助けて……くれ!』

「……!? ウルトラマンの声……なのか!?」

 

 弓弦の脳内に直接、知らない声が入り込んでくる。それが意味するものを彼が理解した瞬間、ウルトラマンは深く頷いた。

 

『あぁ……そうだ。ぐっ! お、俺は地上では長くエネルギーが持たないんだ! この地球上でエネルギーを回復させるには、人間の姿を借りなきゃいけない……でも、俺には地球人に擬態する能力がないんだ! ぐふっ!』

「このままだと体がもたないってことか……! だけど、どうしたら……!」

『これだ……! これを使えば、俺はお前と一体化して、エネルギーを回復出来る……!』

 

 すると、ウルトラマンの目が光り――弓弦の手元に、赤いペンライトのようなものが現れた。

 

「一体化……! 擬態の代わりに、俺の体でエネルギーを回復するってことか!」

『そ、そうだ……がふっ! た、たの、む……』

「わかった……! よし、行くぞッ!」

 

 弓弦は躊躇うことなく、ペンライトのスイッチを押す。ウルトラマンの体が一瞬で消え、彼を打ち据えようとした恐竜戦車の尻尾が、地面に突き刺さったのはその直後だった。

 

「今だ! 一斉射撃ィィィ!」

 

 勢い余って尻尾を突き刺してしまったせいで、身動きが取れなくなった恐竜戦車。その好機に乗じて、BURKの隊員達が一斉に光線銃を放ち始める。

 この混乱と激戦に乗じて、弓弦はペンライトを手にしたまま、市街地から離れるように走り出すのだった――。

 

 ◇

 

 市街地からやや離れた、丘の上の公園。そこにたどり着いた弓弦は、未だ街中で激戦が続いている様子を遠巻きに眺めながら、ベンチに腰掛ける。

 ――ウルトラマンと一体化した影響なのか、かなりの距離を走ったにもかかわらず、疲労は全くなかった。

 

『ありがとう……お前のおかげで、命拾いできた。俺はカイナだ』

「どういたしまして、オレは風祭弓弦。……えぇと、ウルトラマンカイナって呼べばいいのかな」

『よしてくれ、俺はウルトラマンなんて器じゃない。カイナって呼んでくれればいい。……ちなみに、俺が渡したそれはカイナカプセルって言うんだ。さっきのスイッチを押せば、お前は再び俺に変身することになるから、気をつけてくれよ』

 

 ペンライトから、ウルトラマンの声が聞こえてくる。カイナと名乗る彼は、どこか憂いを帯びた声色だった。

 

「そうか……。じゃあ、カイナ。君は……あの怪獣を追ってこの星に来たのか?」

『あぁ、まぁな。……といっても、あんまり綺麗な理由じゃない』

「……?」

『……命の恩人に隠し事なんて、ダメだよな。お前には話しておくよ』

 

 ――やがてカイナは、観念したように自身が地球に訪れた経緯を語り始める。

 

 過去に地球にやって来た歴代ウルトラマンと同様、カイナもM78星雲にある「光の国」の出身だった。

 両親を怪獣との戦いで失って以来、彼は大切なものを守れる強さを求めて宇宙警備隊の門を叩いたのだが――若過ぎることを理由に、入隊を拒否されてしまったのである。

 そこで、宇宙を彷徨う怪獣を退治して武勲を上げ、自分の力を宇宙警備隊に照明しようと決めた。例え年若い身であろうと、実力があると見せつければ警備隊も自分を放ってはおかない――そう考えたのである。

 

 だが、結果としては惨敗。怪獣を倒せなかったばかりか、力任せに戦うあまりエネルギーを無駄に消耗し、地球人の体を借りて命拾いする始末。

 武勲どころか地球の民に迷惑を掛けてしまい、意気消沈……といったところなのだ。

 

「……」

『……ってわけだ。へへ、情けねぇよな……。何が警備隊も俺を放っておかない、だ。とんだウルトラマンがいたもんだぜ』

 

 弓弦は、最後にそう言って自虐的に笑うカイナの話を、真摯に聞き続けていた。

 ――重ねていたからだ。父を失い、戦う理由を見失った自分を。

 

『死んだ親父もお袋も、俺の醜態を見て笑ってるだろうな。……なーにが、地球を守る……だ。笑えるぜ』

「……笑ってない。誰も、君を笑ってなんかいない」

『ユズル……?』

「笑わせてたまるかよ。そんなの!」

 

 やがて弓弦は、意を決したように立ち上がる。その眼は、手元のカイナカプセルを映していた。

 

(オレは、父さんと一緒に戦うのが夢で……その夢が叶わなくなった途端、何もかも投げ捨てた。あの時、とっさに体が動いてしまうくらい……未練があったのに!)

 

 自分と同じ、家族を失う苦しみを味わっていながら。それでもなお、前を向こうとしていたカイナ。

 そんな彼の心を、ここで折ってはならない――その想いに駆り立てられ、弓弦はカプセルを握り締める。

 

(オレは、叶わない夢に背を向けて逃げた。でも、カイナは違う。カイナは例え両親を失っても、若さが理由で入隊できなくても、諦めずここまで突き進んで来た! そんな彼が、笑われていいわけがない!)

 

 そして、尻尾を引き抜きBURK隊員達を圧倒する、恐竜戦車に鋭い眼差しを向けて。

 

(オレが……絶対に笑わせない!)

 

 かつて胸を滾らせていた、情熱を思い出すように。その戦場を目指して、走り出していた。

 

「カイナ。エネルギーの全快まで、あとどれくらい掛かる?」

『え!? あ、あと少しだけど……まさかユズル、戦うつもりなのか!?』

「あぁ。君は絶対、オレが笑わせない。君がまだウルトラマンじゃないって言うのなら、オレがそこまで君を押し出す!」

『ま、待てよ無茶だ! 俺に変身したら下手に戦わず、ウルトラサインで他のウルトラマンを呼んだ方がいい! 今度やられたら、お前が傷つくことになるんだぞ!』

「分かってる! ……でも、君がくじけて行く様を見ている方が、もっと痛いんだ!」

『どうしてそんな……俺なんかのために……!』

「君にだけは、なって欲しくないんだ。オレのようには!」

 

 そして、恐竜戦車の巨体が、視界を埋め尽くすほどの距離に来た瞬間。

 弓弦はカプセルを天に掲げ――スイッチを、押す。

 

 天を衝く閃光が、彼の身を包み――ウルトラマンカイナへと変身したのは、その直後だった。

 




・ウルトラマンカイナ

身長:40m
体重:29000t
年齢:4900歳(人間換算で中学生に相当)
必殺技:ゼナリウム光線

 勇士司令部に属する宇宙警備隊の隊員を父に持つ、若きウルトラマン。血気盛んなレッド族とシルバー族の混血児であり、シルバー族の外見でありながら手脚が紅く、宇宙ブーメラン「カイナスラッガー」を備えている。
 両親を怪獣との戦いで喪い、大切なものを守る強さを求めて宇宙警備隊の門を叩くが、若過ぎる年齢を理由に断られ、訓練学校にも入れなかった。そこで、宇宙を彷徨っていた怪獣を倒して、武勲を上げようと考えるのだが……。

 ※モチーフは「ウルトラマンタロウ」第52話『ウルトラの命を盗め!』に登場した、赤手袋のウルトラマンジャック。ネーミングの由来は、その赤い「(かいな)」から。

・恐竜戦車

身長:60m
体重:70000t

 遥か昔の侵略宇宙人・キル星人が開発したサイボーグ怪獣。数百年前に主人のキル星人を他のウルトラ戦士に倒され、コントロールを失い暴走していたところを、ウルトラマンカイナに発見される。
 長い間宇宙を彷徨っていたため、ボディは非常に老朽化しており、未熟なウルトラマンにすら倒されかねないほど弱体化している。

 ※実は作者のお気に入り。
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