艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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神風邂逅6 神風と朝潮

 正化21年春。

 長門、鳳翔さん、天龍、龍田が横須賀に異動になって、一週間くらい経った頃だったかな。

 私は『必ず迎えに来る』と言ったお父さんを信じて、訓練をしながら、呉鎮守府で待っていた。

 長門が横須賀に異動になったせいで、また睡眠不足になってはいたんだけど、お父さんが迎えに来てくれると思うと我慢できたてたわ。

 

 「結局、来なかったけどね」

 

 「司令官……さすがに桜子さんが可哀そうです……」

 

 「いや……それには事情があってだな……」

 

 よし、朝潮が私の味方についた。

 私達に責められて、お父さんたら冷や汗タラッタラだわ。ざまぁみろ。

 

 まあ私も今は大人だから、あの頃は横須賀鎮守府が開設したばかりで忙しかったのは理解してるわ。

 でもさ、約束は守らなきゃいけないと思うのよね。

 私はお父さんに言われた通り、ちゃんと艦娘としての腕を磨きながら待ってたんだから。

 

 「迎えには行くつもりじゃったが……俺が行く前に桜子が来てしもうてのぉ……」

 

 「だったら電話なり手紙なり寄越せばよかったんじゃない?」

 

 「それは……そうなんじゃが……」

 

 バツが悪そうにカレーを口に運ぶお父さん。

 愛娘と愛妻の両方から責められたら、さすがのお父さんもタジタジね。自業自得だけど。

 

 「桜子さんから連絡はしなかったんですか?」

 

 「しなかったわ。私はお父さんを信じてたから(・・・・・・)

 

 「俺が悪かった!許してくれ、桜子」

 

 『信じてたから』の部分を強調しながら言うと、お父さんはおもむろに姿勢を正して私に頭を下げた。

 別に頭まで下げさせるつもりはなかったんだけど……。

 まあ、これで水に流してあげようかな。

 

 「もういいわ、許してあげる」

 

 私は、頭を下げるお父さんから若干目を逸らしてそう言った。

 別に照れちゃったとかじゃないわよ?

 お父さんの頭頂部が、前見た時より薄くなってる事に気づいちゃってさ……。見続けたらカレーを噴きかけちゃいそうだったから咄嗟に目を逸らしたの。

 

 「でも、どうして桜子さんの方から横須賀に?信じて待ってたんですよね?」

 

 「睡眠不足で精神的に不安定になってたってのもあるんだけど、龍田が私に送って来た写真を見て腹が立ったってのが一番の理由かしら」

 

 「写真?どんな写真ですか?」

 

 「先代の朝潮と、お父さんがイチャイチャしてる写真」

 

 あの頃はまだ、お父さんと先代の朝潮はそんな関係になってなかったはずだから、冷静に見れば普通にお喋りしてる光景を撮った写真だったんだけど。

 あの時の私にはイチャついてるようにしか見えなかったの。なんで龍田がそんな写真を私に送ってきたのかは謎のままだけどね。

 

 その写真を見て、私は寂しさと睡眠不足に悩まされながら待ってるっていうのに、お父さんは私の事なんて忘れて他の子と仲良くしてる。私のお父さんが他の子に盗られたとも思ったっけ。

 そう思ったら、居ても立ってもいられなくなったの。一発ぶん殴ってやろうと思ったわ。

 

 「それで横須賀に?」

 

 「そうよ、所属は横須賀に変わってたし、元帥さんが横田基地まで輸送機を出してくれるって言ったから思い切って行くことにしたの」

 

 輸送機の中でずっと、お父さんになんて言ってやろうって考えてたなぁ。

 『私と言う者がありながら!』とか『私よりそっちの女の方がいいの!?』とかね。今考えたら、浮気された女が言いそうな事ばかり考えてたかも……。

 

 「姐さ~ん!お久しぶりっす!」

 

 「少尉?迎えに来てくれたの?」

 

 横田基地に着くと、海坊主と金髪が車で迎えに来てくれてた。どうやら、元帥さんが横須賀鎮守府に私が行くことを連絡してくれてたみたい。

 

 「久しぶりだな姐さん、元気してたか?」

 

 「久しぶりね。あれ?貴方って、私の事そんな呼び方してたっけ?」

 

 呉鎮守府で別れた頃は『お嬢』って呼んでたと思ったけど、何か心境の変化でもあったのかなって思ったわ。理由はすぐに、海坊主が説明してくれたけど。

 

 「ほら、姐さんが俺らの事でブチ切れた事があったっしょ?あれ以来、相棒も姐さんって呼ぶことにしたらしいっす」

 

 「いや……まあ、俺らのために怒ってくれたし……。いいじゃねぇか!それとも、俺に姐さんって呼ばれるのは嫌か?」

 

 「嫌じゃないわ、舎弟が増えて私も嬉しい♪」

 

 金髪が照れながら言うせいで、私も少し照れちゃったな。照れ隠しに、ついつい舎弟って言っちゃったわ。二人は全く気にしてなかったけどね。

 

 「先生は元気?」

 

 「元気っすよ、慣れない書類仕事で余裕はなさそうっすけど」

 

 「ふぅん……。ねぇ、この子って誰?私みたいにどこかで拾って来たの?」

 

 私は、龍田から送られてきた写真を海坊主に見せた。

 お父さんと朝潮がイチャついてる光景が写った写真を。

 

 「朝潮さんっすね、大隊ちょ……じゃない、提督殿の秘書艦をしてる子っす」

 

 「どんな子?」

 

 「自分らはあんまり話した事ないっすけど、真面目な子らしいっすよ?委員長タイプって言えばいいんすかね?」

 

 「へぇ……気に食わないわね……」

 

 私のお父さんを盗った子、私の代わってお父さんの隣を陣取るムカつく女。

 鎮守府に着くまで、私の胸中は嫉妬の炎で燃え上がってたわ。

 

 「さ、桜子さんも司令官の事が、その……好き…だったんですか?」

 

 「はぁ!?なんでそうなるのよ!別にお父さんの事なんて好きじゃなかったし!」

 

 「でも、話を聞く限りでは……」

 

 「父親として好きだったの!お父さんの事を男として見た事なんてないわよ……」

 

 うわ、お父さんがめっちゃニヤニヤしながら私の方を見てる。キモいからやめてくれない?

 けど、ニヤケちゃう気持ちもわからなくはないわ。私みたいな、性格も容姿も完璧な美人に『父親として好き』とか言われたら、誰だってそうなっちゃうと思うし。

 でも、それ以上の感情はないから。

 確かにこの時は朝潮に嫉妬してたわ。でもそれは、あくまでお父さんを盗られたと思ってたからよ。

 私って、意外とファザコンだったのね。

 

 「先生居る!?迎えに来ないってどういう事よ!」

 

 鎮守府に着くなり、私は海坊主から執務室の位置を聞いて突撃した。

 ノックなんてもちろんしなかった、今じゃノックの大事さは身に染みて知ってるけど、この頃はそんな事知らなかったからね。

 

 「どちら様ですか?」

 

 その時は、執務室にお父さんはいなかった。代わりに居たのは朝潮。いきなり入って来た私を睨みつける、小学生みたいな吊りスカート姿の朝潮だった。

 

 「貴女が朝潮ね、先生はどこ?私、先生に用があるんだけど」

 

 「先生?誰の事ですか?それより、ここは執務室です。ノックくらいするのが普通では?」

 

 「ノック?知った事じゃないわ。それより先生を出しなさいよ!」

 

 当時の私に言ってやりたいわ。ノックは凄く大事なのよ?ドアをいきなり開けて、人の情事を目撃するならまだいいわ。逆に目撃されたら大変なんだからね!って。

 

 まあ、それはともかく。

 この時の私は睡眠不足と嫉妬のせいで機嫌が凄く悪かったから、些細な事でキレそうな程ヒートアップしてたの。なのに、朝潮は敵意丸出しで私に対応して来た。

 いきなり見覚えのない艦娘が怒鳴り込んできたらそうなるのも今なら理解できるわ。逆の立場だったら蹴り出してたでしょうし。

 

 「だから、先生とはどなたの事ですか?もしかして、司令官の事?」

 

 「そうよ!その司令官よ!わかったら早く先生を呼んで来て!」

 

 そういえば、駆逐艦ってなんで提督の事を司令官って呼ぶ子が多いのかしらね。鎮守府の司令長官だからかしら?もし、私がお父さんと出会ったのが艦娘になった後だったら、私も司令官って呼んでたのかな。

 

 「お断りします。だいたい、貴女は誰ですか?所属もわからない不審者を司令官と会わせる訳にはいきません」

 

 「ふ、不審者ですって!?私はね!これでも先生の……!」

 

 なんて言おうか迷ったな。

 私は先生の娘だって自覚がこの頃は無かったから。部下って言えばよかったんだろうけど、私はそう言いたくなかったんだ……。

 

 「どうしてですか?」

 

 「娘だって自覚は無かったけど、父親のように思ってたからかでしょうね……」

 

 お父さんって呼びたいとは思ってたけど、私はお父さんにとって厄介者だって思い込んでたし、お母さんと娘さんが亡くなって1年も経ってなかったら、気を使って呼ぶことが出来なかったの。

 

 「何の騒ぎだ?って神風!?どうしてここに!?」

 

 私が、朝潮に自分とお父さんの関係をどう説明しようか思案していると、執務室のドアを開けてお父さんが入ってきた。私を見た途端『どうして!?』って感じの顔をしたのを忘れてないわ。

 どうも私が来るって連絡は、お父さんの耳には入ってなかったみたい。たぶん大尉……この頃はもう少佐か、その少佐の所でとまってたんでしょうね。

 海坊主と金髪に命令出来るのなんて、お父さんと少佐くらいだったし。

 

 「なんで……なんで迎えに来てくれなかったの?」

 

 「い、いや…それは……」

 

 「先生のバカ!私ずっと待ってたのよ!?先生に言われた通り、ちゃんと訓練して待ってたのに!」

 

 お父さんの顔を見た途端、押さえていた感情が溢れ出して、私はお父さんを怒鳴り散らした。

 私を見るなり、お父さんが驚いたのが拍車をかけたってのもあるわね。私は泣きながら地団駄を踏んでたっけ。

 

 「バカ!バカ!先生のバカ!信じてたのに先生の事信じてたのにぃ!」

 

 それからはもう滅茶苦茶、恥も外聞もなしに泣き喚いたわ。鼻水まで垂らしてたかも。

 けど、朝潮には私の気持ちなんて関係なかったみたい。泣き喚く私を、彼女は無表情でビンタしてきたわ。

 

 「いい加減にしなさい。司令官に対して不敬が過ぎますよ」

 

 「お、おい朝潮、この子はいいんだ。この子は俺の……」

 

 「いいえ!いくら司令官の知り合いだと言っても、彼女の態度は看過できません。司令官にバカなどと……言っていいことの悪いことの区別もつかないんですか!」

 

 先代の朝潮も、今の朝潮と同じでお父さんを尊敬、いや崇拝かな?してたから、私のお父さんに対する態度が我慢できなかったみたい。朝潮は、私が養女だって事をこの時はまだ知らなかったってのもあるけどね。

 けど、朝潮にビンタされた事で、私の怒りの矛先は完全に朝潮に向いた。

 私からお父さんを盗った憎い相手、お父さんが私を迎えに来なかったのはコイツのせいだって思ったわ。

 

 「こんのぉぉぉぉ!」

 

 「きゃっ!ちょ、ちょっと!何するのよ!」

 

 私は怒りにまかせて、朝潮に掴みかかった。

 ボコボコにしてやるって思った、あの時の軽巡以上にタコ殴りにしてやるつもりだったわ。

 だけど……。

 

 「やめろ神風!やめんか!」

 

 「離して!離してよ!絶対許さないんだから!アンタなんかボコボコにしてやる!」

 

 お父さんに羽交い締めにされて、私は一発も入れる事が出来ずに朝潮から引き離された。

 そしたら朝潮に、今度はグーで殴られた。

 

 「朝潮もやめろ!命令だ!」

 

 「はっ!了解しました!」

 

 お父さんの一言で、朝潮は私から離れて気をつけの姿勢を取った。

 悔しさでいっぱいだったな、お父さんに羽交い締めにされた途端に殴られたせいで、お父さんと朝潮がグルになって私を貶めようとしてるように思えちゃったんだもん。

 裏切られたような気分になった、また全部無くなっちゃったって、この時の私は思ったわ。

 

 「神風、どこへ……」

 

 「もういい……先生なんて大っ嫌い!」

 

 先生から解放された私は、そう言って執務室を後にした。それから何処をどう歩いてそこに行ったのかは覚えてないけど、気づいたら私は、海辺で泣いてたわ。

 

 「先生のバカ……バカ……」

 

 って感じでね、呉に戻ろうかとも考えたっけ。ここには、呉以上に私の居場所はないって思えたから。

 

 「神風?神風じゃないか!いつこっちに来たんだ?」

 

 「長…門……?」

 

 同じような格好をしたショートヘアの女を連れた長門が、海からゆっくりと私に近づいてきた。

 ショートヘアの女ってのは陸奥の事ね。この日、長門は陸奥の訓練に付き合ってたらしいわ。

 

 「何かあったのか?お前が泣くなんて……」

 

 「先っ…生がねっ…迎えに来てくれなか…ったのぉ……」

 

 私の前に跪いて心配してくれてる長門に、嗚咽混じりでそう答えた。長門の前で泣いたのは、これが初めてだったな。

 

 「陸奥、すまないが布団を一組、私達の部屋に用意しておいてくれないか?あと夕食も」

 

 「わかったわ」

 

 長門にそう言われて、陸奥は立ち去っていった。

 後に残った長門は、私の横に腰を下ろして、私の愚痴を聞いてくれたわ。

 

 「私ね、先生が迎えに来てくれるのをずっと待ってたのよ?」

 

 「お前が言う先生とは提督の事か?」

 

 「うん……先生が迎えに来てくれるって言ったから、私はどれだけ嫌がらせされても我慢したのに……先生ったら、私の代わりにあんな子を傍に置いちゃってさ」

 

 「我慢してたかはともかく、『あんな子』とは朝潮の事か?」

 

 「そう、朝潮よ!なんなのあの子!私が寂しい思いしてる間に、ちゃっかり先生の隣に居座っちゃってさ!」

 

 「朝潮は初期艦だったと聞いている。提督がここに着任した時、一番最初に配属された子だと」

 

 「私は先生が提督になる前から一緒に居たの!本当の初期艦は私でしょ!?」

 

 「そう言われればそうだが……」

 

 この時ばかりは、長門に迷惑かけちゃったわね。

 嫉妬で荒れ狂う私に、長門は根気強く付き合ってくれたわ。訓練終わりで、お風呂にも入りたかったでしょうに。

 

 「そんな事も、ありましたね……」

 

 「いや、貴女は知らないでしょ?」

 

 「あ、そうですね。なんでもないです。忘れてください」

 

 話を聞いた朝潮が、その頃を懐かしむような感じでそんな事を言った。

 もしかして、初同調の時にその頃の記憶を見たのかしら、けど違和感があるわ。まるで、見たと言うより、実際に体験したかのような感情がこもってるみたいだけど……。

 

 「じゃあ、あの後……じゃない、その後しばらく、ながもんの部屋に居たんですか?」

 

 「え?ああ、うん、三日くらいだったっけ?長門の部屋で世話になってたわ」

 

 お父さんと顔を会わせたくなかったから、ずっと長門に部屋に引き籠もってたっけ。

 それ以上に、先代の朝潮に会いたくなかったし。

 

 「はぁ!?桜子さん正気ですか!?いえ、正気とは思えません!高速修復材を飲みましょう!今すぐ!」

 

 いや、たぶん死ぬから。あんな体に悪そうな物を、艦娘でもない普通の人間が飲んだらきっと死んじゃうから。

 と言うか、今話してるのは昔の話よ?今の長門はともかく、昔のアイツは今ほど酷くなかったんだからね?

 

 「きっといかがわしい事されてますよ……。もしかしたら妊娠してるかも……」

 

 「いや、ないから。9年前の話だし、女同士で子供が出来るわけ無いじゃない」

 

 「でもいかがわしい事はされたんでしょ?」

 

 「されてないから、ちょっと落ち着きなさいよ……」

 

 「これが落ち着いてられますか!娘が ながもん に手籠めにされたんですよ?落ち着けるわけないでしょ!」

 

 ダメだこりゃ、私が何言っても右から左だわ。

 お父さんも止めなさいよ、完全に変なスイッチ入っちゃってるじゃない。

 

 「母親が板についてきたな」

 

 『うん、うん』とか肯きながらバカなこと言ってんじゃないわよクソ親父!変な思い込みで暴走してるだけでしょ!

 そりゃあ、朝潮が長門の名前を聞いただけで拒否反応を起こすのもしょうがないとは思うわよ?しょっちゅう追い回されてるもんね。

 でも、最近は自力で撃退してるじゃない。この間見たときなんか、覆い被さろうとする長門を、馬蹄崩拳から鉄山靠のコンボで吹っ飛ばしてたし。

 けど、この鎮守府に心意六合拳とか八極拳の使い手っていたっけ?どこで見たんだろ?

 

 「お父さんは、私が長門の部屋に居るの知ってたよね?」

 

 「ああ、長門に聞いてな。『寂しがってるから迎えに行ってやれ』と説教もされた」

 

 それで、お父さんが部屋に迎えに来たのか。長門も一言余計よ。別に寂しくなんてなかったんだから。ホントよ?

 

 そりゃ、悔し泣きくらいはしたけど、陸奥がこれでもかってくらい甘やかしてくれたから寂しくなんてなかったわ。

 

 「そっちで寝るのか?長門のここ、空いてますよ?」

 

 「やだ、長門って硬いんだもん」

 

 初日は長門の隣で寝たんだけど、呉に居た頃より筋肉が増えてた長門は、お父さんよりはマシだったけど硬かったのよね。

 それに比べて、陸奥はフカフカのポヨポヨで、人肌のウォーターベッドって感じだったわ。

 

 「長門は筋トレし過ぎよ。そんなんじゃモテないわよ?」

 

 「よ、余計なお世話だ!陸奥はもう少し筋トレをしろ!そんなんじゃ、いざという時に何もできんぞ!」

 

 「適度にしてるわよ。長門は筋トレし過ぎた結果、神風ちゃんに硬いって言われてるじゃない。他の駆逐艦にも同じ事言われるかもよ?」

 

 「え!?そ、それは困るな……」

 

 陸奥の胸に顔を埋めて寝落ち寸前の時に、そんな会話が聞こえてきたっけ。

 いやぁ、今思いだしても陸奥の胸は凶器だわ。男だったらむしゃぶり着いてるんじゃないかな?

 大きさ、柔らかさ、匂い、湿度、どれを取っても言うこと無しだったわ。感度までは知らないけど。

 

 「でも、迎えに来てくれた時は嬉しかったんですよね?」

 

 「そりゃあ、嬉しいことは嬉しかったんだけど……」

 

 気まずかったなぁ。

 お父さんも、バツが悪そうに無言で私を見下ろすだけだったし……。長門が居なかったら、そのまま無言で立ち尽くしてたかもしれない。

 

 「ここは、提督の方から何か言うべきだと思う

が?」

 

 「あ、ああ……そうだな。なんだ、その……神風、元気だったか?」

 

 言うに事欠いたお父さんは、長門に促されてそう言った。久しぶりに会った時の定型文ではあるけど、ここは素直に謝るべきだったと思うのよね。

 

 「元気じゃ…ない……」

 

 「め、飯でも食いに行かんか?鎮守府の外で店長が店を開いててな、一度来てくれと言われてるんだ」 

 

 「甘い物…ある?」

 

 「あ、ああ!あるぞ!なければ用意させよう!」

 

 食べ物で釣られた形になっちゃったけど、私は取り敢えずそれで許すことにした。仲直りしたいとは思ってたしね。

 それに、私の機嫌を取ろうと必死なお父さんが、滑稽で少し可愛かったし。

 

 「あん時ゃようけ食ったよのぉ。店長も呆れちょったわ」

 

 「あら、あの程度で許してあげたんだから感謝してほしいくらいなんだけど?」

 

 食べ過ぎて動けなくなっちゃったけど、久しぶりのお父さんとの食事は楽しかったな。

 年甲斐もなく……じゃないか、年相応にはしゃいじゃったわ。

 それからお父さんの部屋に移ったのよね。私用と言うか、第一駆逐隊の部屋は一応あったけど、私が一人じゃ寝れないってのもあって、結局一度も使わなかったなぁ。

 東南アジアから帰ってきた時に『当時のまま』とか言ってたから、きっと埃とかで酷いことになってると思うわ。

 

 「けど、しばらく朝潮とは仲良く出来なかったのよね。鳳翔さんの小言が無くなったと思ったら、今度は朝潮の小言が始まったんだもん」

 

 「よう執務室でケンカしちょったのぉ。懐かしいわい」

 

 そうね、懐かしいわ。

 朝潮とはよくケンカした、長門や天龍より多かったんじゃないかな。

 それに、仲良くなるまで一番時間がかかったのも朝潮だった。お父さんの事で、お互いを敵として認識しちゃってたし。

 

 「制海権を取り戻すので、てんてこ舞いだったのにね」

 

 「あの頃はようけぇ艦娘が死んだ、俺が不甲斐ないばっかりにのぉ……」

 

 お父さんは悪くないわよ。悪いのは海軍、もっと言ったら元帥さんだわ。

 浮き方も知らないような子を艦娘として鎮守府に送ってくるせいで、訓練だけでかなりの時間がかかったし、そんな子達まで実戦に投入しなきゃいけない程、大本営は戦果を求めて来た。

 

 「その頃に『トビウオ』を思いついたのよね。他の艦娘からは変な目で見られたけど」

 

 「どうしてですか?」

 

 「私の練習風景が奇妙だったらしいわよ?」

 

 傍目には遊んでるだけにも見えたでしょうね。

 う~ん、今思い返しても、ぱっと見は遊んでたと言われても仕方ないことしてたわ。

 

 あれはたしか、横須賀鎮守府に着任して2週間くらい経った頃。

 私が出撃の合間に、鎮守府を探検したりしてた頃だったかな。

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