話数を移動しました。30日時点の最新話は11話です。
鎮守府では、たまに『妖精の気まぐれ』と呼ばれる現象が起こる事がある。
断っておくけど、現象と言っても、怪奇現象とかが起こるわけじゃないわ。
主に建造や開発、改装関係で、それまで造ることが出来なかった物が急に造れるようになったりする事を『妖精の気まぐれ』と呼んでるの。なんでも、妖精さんが『〇〇が造れるようになった』って教えてくれるらしいわ。
私が知ってる限りで起きた『気まぐれ』は二つ。
一つは戦艦大和の建造。二番艦は建造できてたのに、一番艦の大和は長い間建造する事ができなかったらしい。
そして二つ目は……。
「酷い……酷いわ妖精さん……。楽しみにはしてたけど、してたけどぉ……」
何がそんなにショックだったのか、その気まぐれの内容を直接妖精さんから聞いた人は、工廠から戻って来てからずっとこの調子だ。
正直言ってウザい。
そういえば、男性よりも、女性のほうが感情を表情などに表すなんてよく聞くわね。
子供ながらも、それって女性差別じゃないの?って思ってたけど、私の横で『なんで~……なぁんでこのタイミングでぇ~』ってボソボソと嘆いてる人を見ちゃうと納得せざるを得ないわ。
普段、表情からは何考えてるかわかんない人なのに、今日は朝潮姉さん並みにわかりやすいもの。
「満潮は……やっぱり嬉しいよねぇ……」
「私?私は別に……」
正直、艦娘に成り立てで、練度も一桁な今の私にとってはどうでもいい。そりゃあ目標にはなるし、姉さん達と同じ制服が着れるのは嬉しいわ。
本人達の前じゃ絶対に言わないけど。
だってあの人達、私が何回『構わないで!』って言っても嫌がらせのように構ってくるんだもん。
姉さん達と同じ制服が着たいなんて言った日にゃ、三人がかりで揉みくちゃにされちゃうわ。
初めて姉さんって呼んだ日なんか『ミッチー可愛い♪』とか『満潮ちゃんがデレたわぁ今晩はお赤飯ねぇ♪』とか『お姉ちゃんと呼んでください!』とか言いながら胴上げされちゃったんだから。
いや、朝潮姉さんは今も同じ事言ってるか。
「またまた~そんな事言っちゃってぇ。嬉しいでしょ?嬉しいわよね?嬉しいって言いなさいよ!」
「はいはい、嬉しー嬉しー」
「もっと感情込めてよ!なんで棒読みなの!?」
面倒くさい人……。
私に絡んでないで仕事しなさいよ、昼休みはとっくに終わってるのよ?
と言うか、朝潮姉さん遅いわね。何してるんだろ?早く戻って来てよ……。
工廠から戻って来てから、この人ったらずっとこの調子なのよ?私もう、相手するの疲れちゃった……。
「そんなに羨ましいんなら、もう一度艦娘に戻れば?意外といけるかもよ?」
「無理に決まってるでしょ!?艦娘になれたとしても軽巡以上は確定よ!色々育っちゃったもの!」
育った?どこが?
この人が元駆逐艦だって事は知ってるけど、胸のサイズだけ見たら駆逐艦と大差ないんじゃない?それとも、着痩せするタイプなのかしら。
身長も……確かに私よりは高いけど、横須賀に居る陽炎型の人と同じくらいじゃない?紫のパンツ穿いてる陽炎型の人より、この人の方が幼く見えるんだけど?
「今……どこが育ってるの?とか思った?」
「思った」
普通なら誤魔化すところなんでしょうけど、例え無表情でいても、察しが良いこの人には意味がない。朝潮姉さんなんて、まるで考えてる事が全部文字で見えてるんじゃないの?って思えるくらい言い当てられるもの。
なら正直に言うだけよ。その結果、この人がどれだけ傷つこうが知った事じゃないわ。
「酷い!私だって脱いだら凄いのよ!?」
「ごめん、聞こえなかった。もう一回言ってくれない?」
「私だって脱いだら凄いの!」
「もう一回」
「私だって脱いだら……」
「ワンモア」
「わ、私…だって……ぐすっ」
あ、やり過ぎた、今にも泣きそうだわ。
体型に関しては、ホントにメンタル弱いわね。
歳的に、まだ成長期終わってないでしょ?きっと相応に育つわよ。保証はしないけど。
「やっぱり、中尉もあの制服着てみたかったの?」
「中尉って呼ばないでって、いつも言ってるでしょ?名前で呼んでよ……」
だって中尉じゃない。
上官だから、一応敬意を払って中尉って呼んでるのよ?名前の後に中尉ってつけて呼んだら貴女怒るじゃない。なんで怒るのかさっぱりわかんないけど。
そうそう、わからないと言えば。
たまに、執務室に来る辰見少佐が『ヘ〇ケン艦長とは仲良くやってるぅ?』ってからかってるけど、どういう意味なんだろ?ヘ〇ケン艦長って司令官の事かな?司令官って艦長もやってるの?
「じゃあ
「できれば下の名前で……」
本当に面倒くさいなこの人、貴女は私の上官だし年上なのよ?そんな人を下の名前で、しかも階級もつけずに呼べなんて、軍に入りたての私にはハードルが高いわよ。私って、意外とそういう所キッチリしときたい質だからね。
でもまあ、下の名前で呼ばないと話が進みそうにないし、しょうがないか……。
「はいはい、わかったわよ
「よろしい♪中尉は絶対つけないでね?」
と、にこやかな顔で、執務机に座る『
朝潮姉さんや司令官と一緒の時は『出来る女』って感じなのに、私と二人だけになると途端に面倒くさい人になっちゃうのよね。
ちなみにこの人は私の先輩、先代の駆逐艦満潮で、艦娘を辞めてすぐ士官になった海軍始まって以来の才媛らしいわ。
どこまで本当か知らないけど、現横須賀鎮守府提督のお気に入りであり愛弟子、次の横須賀鎮守府提督の地位は約束されてるとか聞いたわ。
今は歳が若すぎるのもあって、名目上は中尉だけど、権限は少佐相当、提督を代行できる権限も与えられてるんだって。
「で?話を戻すけど、円満さんもあの制服着てみたかったの?」
「そりゃあねぇ、第八駆逐隊で着てなかったのは私だけだし……」
「着させてもらったりしなかったの?」
「貴女だったら言える?言えないでしょ?」
言えないというか言わない。
そんな聞き方をするって事は、艦娘時代の円満さんも、私と似たような性格してたのかしら。
だったらわかるでしょ?恥ずかしいし、負けたような気分になるのよ。
それに、一度荒潮姉さんが『改二制服を着た満潮ちゃんが見てみたいのぉ♪』とか言って、私に制服を着せようとした事があったんだけど、三人が三人とも『私の制服を着せる!』ってケンカし始めたのよね。
私が『どれも同じでしょ?』って言ったら、朝潮姉さんが『私の制服を着れば、もれなくボレロがついてきます!』って、テレビショッピングで言いそうなセリフを言ってたっけ。
三人が言い合いしてる間に逃げて、事なきは得たけど。
「円満なんて名前してるくせに、名前負けしてない?」
「そうね……。今思うと、艦娘だった頃は名前とは真逆の事してたなぁ……。親はきっと、名前通りの性格になるのを期待してつけたんでしょうけど……」
普通に読んだら『
今は名前負けしてないと思うけど、艦娘時代の円満さんが私みたいな性格だったと仮定すると、たしかに真逆だわね。私は穏やかな性格じゃないし、調和を取る気もまったくないもの。
「私が改装受けたら着てみる?当分先だけど」
「い、いいの!?」
「いいわよ?身長以外は問題なさそうだし」
「そうよね!胸とか同じくらい平らだし……って酷い!酷いわ満潮!私に何か恨みでもあるの!?」
恨みはないけど、今現在ウザい思いしてる事へのせめてもの憂さ晴らしよ。それくらい我慢してちょうだい。
それにしても、やっぱり私と大差ないのか。
円満さんって、たしか16歳でしょ?10歳の私と大差ないバストサイズって、普通にやばくない?
あ~でも、そういう需要もあるって聞いたことあるわね。そっち方面で頑張ればいいんじゃないかな。
「やっぱ気にしてるの?円満さんって美人なんだから、胸が無くたって男性にはモテるでしょ?」
「
どっちにしても無いようなものじゃない?
まあ、私も一応女だし、気持ちはわからなくもないけど、円満さんなら胸が無い事はデメリットにならないと思うんだけどなぁ。
私と同じ明るめの茶髪を、凹凸がほぼ無い胸元にかからない程度の長さにしたセミロングで、顔は美人と言うよりは年相応に可愛らしい。下手な国民的アイドルより美少女なんじゃないかな?見ようによってはハーフっぽくも見えるわね。
胸元は凹凸が無いけど、腰はくびれてるし脚も長い、お尻は小振りだけど、円満さんのスタイルなら丁度良いわ。
スタイル抜群と言うより、綺麗なスタイルって感じね。スレンダーボディのお手本みたいな体型してるわ。胸は無いけど。
「満潮……今日一緒にお風呂に入りましょう」
「なんで円満さんと一緒に入らなきゃいけないのよ。姉さん達と入るから別にいいわ」
「朝潮も一緒に連れてきなさい。私の本気を見せてやるんだから!」
あ、この人、胸の大きさを比べる気だ。
大潮姉さんと荒潮姉さんの名前を出さないのがいい証拠だわ。円満さんって、あの二人より確実に小さいもんね。荒潮姉さんはともかく、大潮姉さんって無いように見えて意外とあるし。
ホント、大人げない人……。朝潮姉さんと私に勝っても自慢にはならないわよ?
「あ、それはそうと、こっち来なさい満潮。髪が解けかけてるわ」
「そう?いいわよ別に、誰も見てないでしょ?」
「ダメ!その髪型は、駆逐艦満潮のトレードマークみたいなもになんだから」
面倒くさ、逃げようかな……。
あ、無理だ。渋ってる私を、無理矢理抱えて膝に座らせた。
姉さん達にしてもこの人にしても、なんで私に構おうとするのかしら。円満さんなんて、着任当初は自分の部屋に私を住ませようとしたのよ?
「相変わらず髪が細いわね。小まめに櫛で梳かさなきゃダメよ?絡まりやすいんだから」
「やってるわよ。ホント細かいんだから……。次は何?宿題やったか?歯磨いたか?それとも、パンツ換えたか?」
「なんで、アンタの歳でそのフレーズ知ってるのよ……。生まれる前でしょうに」
知らないの?DVDとかあるのよ?
養成所に全巻揃ってたから、娯楽として重宝されてたわ。それに、円満さんも知ってるじゃない、生まれる前のはずなのに。もしかして、同じ養成所だったとか?
「私に構わないでって、いつも言ってるでしょ?」
「アンタのことが心配なのよ……」
「心配してくれなんて、頼んだ覚えないけど?」
私の髪を梳かす円満さんの手つきに淀みはない。私の反応は予想済みって訳ね。
「どうして、そんなに私の事を気にかけるの?私みたいな可愛げのないガキなんて、放っとけばいいじゃない」
「気にかけるわよ。だってアンタは満潮だもの……」
「後輩だからって事?」
「それもあるけど……。私が艦娘を辞めなければ、アンタは戦場に出なくて済んだかも知れないって思うと、どうしてもね……」
なるほど、変に責任を感じちゃってるわけか。
自分が辞めたら新しい満潮が生まれることくらい、わかってたことでしょ?
円満さんが責任感じる必要なんてないわよ。
だって。
「私は、自分の意志で艦娘になったのよ?『満潮』の艤装に適合しなかったら、他の艤装に適合してたと思うし」
「それは…そうなんだけど……」
「そんなに心配なら出撃させなきゃいい。飼い殺しにでもすればいいじゃない」
「アンタは…それでいいの?」
いい訳ない。
私は戦うために艦娘になったんだ、出撃させないって言われても、艤装を盗み出して出撃するわ。
深海棲艦を、一隻でも多く沈めるために。
「円満さんなら、言わなくたってわかるでしょ?」
「そうね、わかるわ……。だったら、早いとこ強くなって私を安心させてちょうだい。私がアンタを、笑って送り出せるように」
「言われなくったってわかってるわ。私は満潮よ?あの化け物みたいに強い朝潮姉さんを鍛えた、貴女の後を継いだんだから強くなるのは規定事項よ」
私が艦娘になる前に行われたハワイ島攻略戦。その作戦の総旗艦『ワダツミ』の背後に迫った、戦艦水鬼が率いる艦隊を第八駆逐隊が撃破したと聞いている。
朝潮姉さんなんて、一人で戦艦水鬼を撃破したとか。
話を聞いた時は信じられなかったわ。
だってそうでしょ?駆逐艦が一人で戦艦を倒すなんて、艦娘になりたての私でも無理だってわかるもの。
だけど、訓練や実戦を共にする度に、朝潮姉さんの強さを思い知らされた。
普段は、円満さんや姉さん達にからかわれたり、司令官とイチャイチャしたりして、お世辞にも強そうには見えない朝潮姉さんが実戦では別人のようになる。
私じゃ、朝潮姉さんの動きを目で追えない。私じゃ、朝潮姉さんが何をしてるのかわからない。
大潮姉さんと荒潮姉さんも凄いけど、朝潮姉さんは二人より頭一つ二つ抜けている。
そんな朝潮姉さんが私に教えてくれた『結局、艦娘時代の円満さんには、演習で一発も当てる事ができなかった』って。
そりゃあ、円満さん本人の才能も関係あるんでしょうけど。私は、戦艦殺しと呼ばれる朝潮姉さんでも被弾させる事が出来なかった円満さんの艤装を受け継いだんだ。
私だって、円満さんと同じくらい強くなれる可能性はあるわ。
「もうちょっと後輩を信じなさい、私は貴女より強くなって見せるわ。だって、私は満潮なんだから」
「うん……そうね。ありがとう、満潮」
う~ん、我ながら少し熱くなり過ぎたかしら。熱血って程じゃないけど、キャラがブレてる気がする。
そろそろ髪も結い終わりそうだし、トイレにでも行って頭を冷やしてこようかな。
「よし、できた。結うのが面倒な時は私に言いなさい。結ってあげるから」
「円満さんって朝弱いじゃない。自分で結うからいい」
「そう?満潮が毎朝起こしに来てくれてもいいのよ?」
お断りです。
その分、私が早起きしなきゃいけなくなるじゃない。円満さんって、艦娘だった頃も誰かに起こしてもらってたのかしら。
「そうだ、この書類を事務課に持って行ってもらっていい?散歩したい気分でしょ?」
お見通しか、察しが良くて助かるわ。
それとも、円満さんも一人になりたかったのかな?
「りょーかい。ついでに、酒保で何か買ってこようか?」
「別にいいわ、適当にぶらついて、気が済んだら戻って来なさい」
「ん、わかった。じゃあ、行って来るわ」
私が膝から降りてドアに向かうと、円満さんはニコニコしながら小さく手を振って私を見送ってくれた。
同性の私から見ても魅力的な笑顔、男なら一発で恋に落ちちゃうかもしれないわね。私も、円満さんみたいに笑えるようになるのかな……。
でも、艦娘時代の円満さんが私と似たような性格してたって事は、当時はあんまり笑わなかったのよね?
そうだ、姉さん達に聞いてみよう。もしかしたら、艦娘時代の円満さんの写真とかあるかもしれないし。
「あ、満潮」
「何?やっぱり何か買って来る?」
書類を持って執務室を出ようとした私を、円満さんが呼び止めた。他にも何か用事を思い出したのかしら。
いや、違うわね。笑顔なのは変わってないけど、さっきまでの笑顔とは違う。
お母さんが子供に向ける様な、慈愛に満ちた笑顔だわ。思わず、胸に飛び込みたい衝動に駆られちゃった。
飛び込んだらタンコブできそうだけど。
「改二、おめでとう」
私がバカな事を考えていると、円満さんがそう言って祝福してくれた。
まるで『誕生日おめでとう』ってお母さんに言われた時みたいに、嬉しくて、それでいて少し恥ずかしいような気分になっちゃった。
まったく、改二おめでとうって言われても、私はまだ一度目の改装すら受けてないのよ?いくらなんでも気が早すぎるわ。
でもまあ、私の改二改装が可能になった事を喜んでくれてるのは本当みたいだし、お礼くらいは言っとこうかな。照れくさいけど……。
「はいはい、どうも。…………ありがと」
私は、緩みかけてる顔が円満さんに見られないようにして部屋を出た。
まだ先の事とは言え、人に祝福されるのってやっぱり気分が良いわね。
しかたない、円満さんのために改二を目指すとしますか。そう、円満さんのために改二を目指すの。けっして、自分があの制服を着てみたいとかじゃないわ。
「満潮改二か……。さすがに、まだ実感わかないわね。まあ…でも、なんて言うか……嬉しい、かな。少し」
私は、誰も居ない廊下を歩きながら、ボソッと本音を呟いた。
練度を上げた先に約束されてる、姉さん達と同じ制服を着た、未来の自分を想像しながら。