神風追撃1
正化24年。
この年は、22年とは対照的にまったりとした年だった。
呉、横須賀、佐世保に続き、舞鶴と大湊の体制が整ったのも影響してたんだと思うけど、深海棲艦の出現が激減していたの。そのせいで、艦娘達の気の抜きようは凄かったわね。
哨戒や船団護衛、制海権の維持が問題なく出来てたのも艦娘達に気を抜かせるのに一役買ってたわ。まあ、気が抜けてたのは艦娘達だけで、お父さんや奇兵隊の隊員たちは大忙しだったんだけど。
一応言っておくけど、問題が無いのは良い事なのよ?
哨戒に敵が引っかかれば出撃しなきゃいけないし、船団護衛が上手くいかなければ物流や、せっかく再開した資源の輸入も滞る。それらに問題がないこと自体は本当に良い事だったの。
問題だったのは、本土への侵攻を許すほどの劣勢から大逆転と言っても良いほどの快進撃を続けれた事で、国自体が終戦の雰囲気に包まれたこと。
メディアは連日連夜戦勝ムードを盛り上げ、大本営も終戦と言わんばかりに軍縮をチラつかせたりしてたわ。
まあ、軍事費はバカにならないしね。必要ないなら国が規模を縮小したがるのも理解できるわ。
これは私の邪推だけど、当時の参謀たちは軍縮と引き換えにお金なり地位なり約束されてたんじゃないかな?
じゃないと、軍のお偉いさんが率先して軍縮を進めたがるなんて考えられないもの。
もっとも、軍縮は失敗し、それどころか規模を拡大したんだけどね。
その主な原因はお父さん。
大本営の考えに真っ向から反対し、クーデターをチラつかせて軍縮を諦めさせたんだって。まあ、それ以外にも原因はあったんだけど……この話は後でいいか。
「三日に一度くらいだったっけ?」
「暗殺か?そんくらいじゃったかのぉ」
軍縮をしたい大本営の参謀たちからしたら、舞鶴を除く各鎮守府の提督や職員、果ては憲兵にまで信頼されていたお父さんの存在は邪魔でしょうがなかった。
この当時でも、お父さんがその気になればクーデターを起こすくらいは出来たからね。
その結果、参謀たちが考えたのはお父さんの暗殺。さっき言ったように、三日に一度くらいの頻度で暗殺者が送られて来てたわ。
全部返り討ちにしてたけど。
「暗殺者の首を手土産に持って行った時の参謀共の顔は、今思い出しても笑えるわい」
「生首を風呂敷いっぱいに包んで持って行ってたんでしょ?悪趣味にも程があるわよ」
きっと参謀たちは、引きつった笑いを浮かべるのが精一杯だったでしょうね。
手配した暗殺者の顔を直接知らなくても、暗殺しようとした人が実行犯の首を下げて挨拶しに来るんだもの。
それだけで十分な脅しになるわ。
参謀たちは『次にこうなるのはお前だ』とでも言われたような気分になったんじゃないかな?
「たしか、正門もその頃に造り直したのよね?」
「ああ、アクアリウムのバカ共が騒ぎだしたんも丁度その頃じゃったけぇの」
この頃は参謀たち以外にも、お父さんを排除しようとする者たちが居た。それは、アクアリウムを始めとするテロリスト集団や市民団体。
いやぁ、今も昔も民間人の手のひら返しって凄いわ。
戦局が安定するまでは『艦娘は英雄』とか『鎮守府がある街が羨ましい』とか言ってたのに、安定した途端、メディアは艦娘を『年端も行かない少女を戦争に駆り出す非人道的な制度』と蔑み、それを運用する鎮守府を『
中にはメディアに踊らされずにいる人も居たけど、そう言う人の声は小さくなりがちなのが世の常よね。
それにお父さんが正面切ってケンカ売るもんだから、横須賀鎮守府はそういった連中から総口撃を受けてたわ。
お父さんからしたら、テロリストや市民のヘイトを自分に集める目的もあったんだろうけど、見てるこっちは気が気じゃなかったわよ。
「あの年は、深海棲艦と戦うよりもテロリスト相手にドンパチする方が多かったんじゃない?」
「そうじゃのぉ。アイツ等は表向きは一般人を装っとったっちゅうか、一般人そのものじゃったけぇの。下手なテロリストより始末に負えんかったわ」
そうね、テロリストと言うより武装市民と呼んだ方がいいかしら。
だって、鎮守府を襲撃してた人達自体には、思想もなにもなく、訓練も受けたことがない正真正銘の民間人だったんだもの。もの凄く簡単に言うと、流行りに乗った馬鹿者達ね。
声の大きい人達に踊らされた民間人に武器を配り、その人達に破壊活動をさせるのが当時のアクアリウムの常套手段だったんだから。
「いくら扇動されたからって、武器持って軍事施設を襲撃する神経は理解できないけどね」
「ゲーム感覚じゃったんじゃろ。実際、持たされた武器が本物と思ってなかった奴が大半じゃったし」
それでも、やっぱり理解できない。
例えオモチャの銃でも、そんな物を持って軍事施設を襲撃したら
「皆言ってるわ。この10年で、あの頃が一番精神的に辛かったって」
そう言った奴らを主に
本来守るべき人たちを、逆に処理しなきゃならなかったんだもの。辛くないはずがないわ。
「俺らが辛いんはええ、俺らは汚れきっちょるけぇのぉ……」
そう言って、お父さんは少しだけ悲しそうな顔をした。
そんな顔しないでよ……。お父さんたちが辛い役目を引き受けてくれたおかげで、
「けど、良い事もあったじゃない」
「ええ事?何かあったかいの?」
「朝潮に告白されたでしょうが!忘れちゃったの!?」
「おお!そうじゃったそうじゃった!」
本当に覚えてた?記念日とかを大事にするお父さんが忘れてるとは考え辛いけど……。もしかして私が間違えてるのかしら。
「じゃがそりゃあ、次の年のバレンタインデーぞ?」
「あれ?そだっけ?」
あ~、だからお父さんはパッと思い出せなかったのね。
そうそう、思い出してきた。朝潮が告白したのは、翌年の25年だったわね。
24年の冬に、私が朝潮を焚きつけて次の年のバレンタインデーに告白したんだったわ。
「はぁ?先生の様子がおかしい?」
「はい……態度は普通なんですけど、何かを我慢してるというか、思い詰めてるというか……」
確か、最初はこんな感じの相談を朝潮にされた。
まあ、あの頃のお父さんは毎日と言っていいほどイライラしてたからなぁ。人に当たる事はなかったけど、タバコの本数やお酒の量も増えてたし。
私はイライラの原因を知ってたけど、朝潮は聞かされてなかったのね。
「もっと早く相談したかったんですけど、司令官の態度が普通過ぎて確信が持てなくて……」
「アンタが気にしたってしょうがないわよ。先生が言わないって事は、アンタには関係ない事なのよ」
ってな事を言った覚えがある。
モロに朝潮、と言うより艦娘に関する事でお父さんはイライラしてたんだけど、お父さんが秘密にしてるのに私が言うわけにはいかなかったのよね。
ほら、私って空気をめちゃくちゃ読む子だから。
「神風さんだって、司令官が何かを隠してる事に気づいてるんでしょ?いや、気づいてないはずがないわ。私より近くに居るんだもの。心配じゃないんですか?司令官は貴女にとって父親の様な人でしょ?」
「そりゃあ戸籍上は養父だけど、先生は私の保護者ってだけよ」
そう言って、私は朝潮から目を逸らした。本当は、お父さんって呼びたくてしかたなかったのにね。
「もしかして……神風さんは理由を知ってるんじゃないですか?」
私はどう答えようか悩んだ。
白を切るのは簡単だったけど、お父さんの事を本気で心配してくれてる朝潮に嘘をつきたくなかったんだ。
だから私は、お父さんが必死に隠そうとしてる事に触れず、朝潮が諦めてくれるよう願ってこう答えた。
「言えない。言わないんじゃなくて言えない。これが精一杯よ」
「そう……ですか……」
納得はしてなかったでしょうけど、それで朝潮は諦めてくれた。
でも、あんまりにもわかりやすく朝潮が落ち込んじゃったしもんだから、何も悪い事してないのに罪悪感感じちゃってさ。それで思わず……。
「あの……さ。もうすぐクリスマスじゃない?先生をデートにでも誘ってあげてよ……」
って言っちゃったのよね。
この頃には、お父さんと朝潮が相思相愛ってのはわかってたし、その朝潮にデートに誘われたらお父さんも少しは機嫌がよくなると思ったんだ。
「結局、計画はおじゃんになっちゃったけどね。誘われはしてたんでしょ?」
「ああ、一応な。お前が言う通り、出撃のせいでおじゃんになったが」
この年の冬、クリスマスを目前に控えた12月23日に、大本営が軍縮を諦めざるをえない決定的な出来事が起きた。
それまで鳴りを潜めていた深海棲艦たちが、30隻以上の戦艦や空母を含む大艦隊で舞鶴鎮守府近海に現れたの。
おっと、この話をする前に、当時の舞鶴鎮守府の事を話しておく必要があるわね。
正化24年時の舞鶴提督は、簡単に言ってしまえば大本営の犬だった。
他の鎮守府の提督は元帥さんが直接任命した人たちだったんだけど、舞鶴だけは参謀たちが元帥さんが選んだ人に難癖つけて左遷に追い込み、代わりとばかりに無理矢理ねじ込んだ人だったんだって。
その舞鶴提督の手腕?で、舞鶴鎮守府は設立間もないと言うのに率先して艦娘の数を減らしていた。
この襲撃当時は、10人程度しか居なかったんじゃなかったかな?
当然、そんな人数では近海の防衛どころか哨戒すらまともに出来ず、それを狙い澄ましたかのように深海棲艦は舞鶴を襲撃した。
しかもね?襲撃でパニクった舞鶴提督は何をしたと思う?そう、真っ先に逃げたの。
必死で敵を迎撃する艦娘や海兵隊、海兵達を残して自分だけ真っ先に逃げたの。まあ、よくある話よね。
だけど、残された士官や当時の秘書艦がまともだったのが救いだった。
当時の秘書艦、たしか長良だったかな?は、残った艦娘を取りまとめ、海兵や海兵隊達と協力してなんとか敵の上陸を食い止めていたわ。
そして長良は、襲撃開始1時間後には各鎮守府に救援要請を送っていた。内容は今でもハッキリ覚えてるわ。
救援要請を直接受けたのが私だから覚えてるんじゃないのよ?
長良は暗号も使わず全周波数で、それこそラジオでも受信できるほど有り触れた周波数まで使って救援要請を行ったの。
自分たちを見捨てた舞鶴提督への意趣返しも兼ねて。
内容はこうよ。
『舞鶴鎮守府秘書艦、長良より各鎮守府へ。現在、当舞鶴鎮守府に敵の大艦隊が襲来。当鎮守府提督は
てね。戦死した事にされた舞鶴提督は災難ね。ハッキリと逃げたって言われた方がマシだったんじゃないかしら。
だって、戦死したと言われたら大本営に駆け込む事も出来ないわ。
戦死してるはずの人間が無傷で現れたらおかしいでしょ?例え服を汚したり、自分で体に傷をつけて負傷を装っても、日本中に舞鶴が襲撃された事を放送されちゃってたから、鎮守府を見捨てて逃げた事もすぐバレるし。
「そういえば、舞鶴提督って結局どうなったの?」
「お前も放送を聞いたじゃろうが、戦死したんじゃけぇ死んだに決まっちょる」
あ、わざとらしくタバコを吹かし始めた。この様子じゃ始末したわね。オマケに、拷問して参謀たちの弱みの一つ二つは聞き出したのかも。
もしかしたら、その情報を使って軍縮を諦めさせるどころか軍拡に持って行ったのかもね。
「でもさ、救援要請を聞いてからの対応が早すぎない?一時間もしない内に横須賀を発ってたじゃない」
もしかして予想してた?けど、深海棲艦は神出鬼没で
、いくらお父さんでも 出現場所なんて読めなかったはずだけど……。
「舞鶴鎮守府そのものが襲撃されるとは思っちょらんかったが、その担当の海軍区に何かあってもええように備えはしといた。結果、しといてえかったろうが」
なるほどね。お父さんは舞鶴提督を信用してなかったから備えをしてたわけか。それで対応が早かったのね。
救援要請を受けて、私たちが横須賀を発ってから約1時間後には、
「あれ以来出番が無いのが勿体ないのぉ……。無い事に越したことは無いんじゃが……」
「私は二度とごめんよ。あんなの……」
今思い出しても背筋が寒くなる。
舞鶴に救援に向かうための第一陣として編成されたのは、私と天龍と長門、そして鳳翔さんと第八駆逐隊。いつものメンバープラス八駆ね。
その私たちの移動手段って何だったと思う?
けど、移動手段を教える前にアイツの事を話しておく必要があるか。
ソイツは、奇兵隊員。
ビークル1こと金髪の部下で、コールサインはビークル3。私とお父さん達が呉で別れた後に奇兵隊に加入した、元空軍パイロットの艦娘で、移動手段のパイロットだった。
ソイツを一言で言うなら『飛行機フェチの変態』かしら。
今でも『大艇ちゃん!大艇ちゃん!大艇ちゃん!大艇ちゃぁぁぁんうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!大艇ちゃん大艇ちゃん大艇ちゃんぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!二式大艇ちゃんの緑色のボディをクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!スリスリしたいお!スリスリ!スリスリ!プロペラプロペラ!ブン!ブルンブルン…ブンブンブンブンブルォォォォォ!!
艤装になった大艇ちゃんもかわいいよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
動画サイトで変形させてもらえて良かったね大艇ちゃん!あぁあああああ!かわいい!大艇ちゃん!かわいい!あっああぁああ!
あたしも変形した大艇ちゃんを見れて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!動画なんて現実じゃない!!!!あ…小説もゲームもよく考えたら… 大艇ちゃん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!横須賀鎮守府ぅううううう!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?ミニチュアサイズになった大艇ちゃんがあたしを見てる?
艤装になった大艇ちゃんがあたしを見てるかも!大艇ちゃんがあたしを見てるかも!艤装の大艇ちゃんがあたしを見てるかも!!
艤装の大艇ちゃんがあたしに話しかけてるかも!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!あたしには大艇ちゃんがいる!!やったよ提督!!一人でできるもん!!!
あ、実物大の大艇さああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
ううっうぅうう!!あたしの想いよ大艇ちゃんへ届け!!横須賀鎮守府の大艇ちゃんへ届け! 』とかやってるし。
私が会ったのはその時が初めてだったんだけど、第一印象はなんと言ったらいいか……ハッキリしない奴だった。だって語尾に絶対って言っていいほど『かも』ってつけるのよ?
初対面の時は、まともに自己紹介したのになぁ……。
たしか……。
「水上機母艦、秋津洲よ! この大艇ちゃんと一緒に覚えてよね!」
って、海上に浮いてるニ式大型飛行艇、通称『二式大艇』を縮小したミニチュアを小脇に担いでアイツはそう言ったわ。