艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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神風誕生2

 「今思い返すとさ、お父さんって上の人からかなり嫌われてたよね?」

 

 「ああ、20代の小僧が大佐じゃけぇのぉ。目の敵にされちょったわ」

 

 え~と、先月誕生日を迎えたばかりだから今38歳でしょ?その10年前だから28か、その歳で大佐になるなんてどんな手を使ったのかしら。

 

 上官が戦死しまくって繰り上げ?違うわね、当時は深海棲艦になす術がなかったと言っても、被害を受けてたのは主に海軍だし。じゃあコネでも使ったのかしら。ん~~、本当にコネで大佐になれるのかしら?

 

 「どうやって大佐までのし上がったの?」

 

 「半分はコネみたいなもんだな、残りはまあ……色々と……」

 

 その色々(・・)の部分が凄く気になるんだけど?

 そう言えばこの人、やたらと上層部の弱み握ってるわよね、もしかして脅した?上官の弱みを使ってのし上がったって事?

 

 「女房のお父さんが、退役はしちょったが陸軍でそれなりに口が利く人でな、無理難題を熟すたびに出世させてもろうた……」

 

 「無理難題?」

 

 「地雷1万個を一晩で撤去とか、素手で一個小隊を全滅させて来いとか。酷いのになると、一人で戦車の一個小隊を撃破して来いとか……」

 

 いやいや、無事に出世したって事はソレを熟したって事よね?はははは……信じられるわけないでしょそんなの……。

 

 「さ、さすがに訓練で……でしょ?」

 

 「いや……実戦で……」

 

 はい嘘ー!絶対嘘だ!そんな事が出来るのは漫画かアニメの登場人物くらいよ!つくんなら、もうちょっとマシな嘘つきなさい!

 

 「あのさぁ、いくらなんでも……」

 

 「お前だって見たじゃろ!?あの親父はそういう事を平気でやらせる基地外じゃったけぇの!?」

 

 いや……見たけどさ……。確かにハチャメチャな人ではあったわ、私なんて見た瞬間少し漏ら……いや、泣いちゃったもんね!

 そう、泣いちゃっただけ!けっして漏らしてないわ!

 私が漏らしたりするわけないじゃない!

 

 そう、あれは私がお父さんの家に行った時の話よ。一応言っておくけど、別に漏らした云々を誤魔化そうってわけじゃないからね?

 

 「こんのクソ婿がぁぁぁぁ!」

 

 お父さんのお義父さん、長いからお爺ちゃんって呼ぶけど、その人は玄関から出て来て、お父さんの顔を見るなり、そう叫んでお父さんを殴り飛ばした。180cm近い身長のお父さんが、2~3mくらい錐揉みしながら吹っ飛んだ光景は今でも忘れられないわ。

 

 「た、大佐殿!しっかりしてください!傷は浅いですぞ!」

 

 私とお父さんを、補給のために立ち寄った岩国基地から、お父さんの家まで車で送ってくれた大尉が慌てて駆け寄ったけど、当時の私でも傷が浅くないのがわかるくらい酷かったわ。

 だって、首が曲がっちゃいけない角度で曲がってたんだもん。

 

 「テメェ……、うちの娘孕ましちょいて他所でもガキこさえちょるたぁどういう了見だコラァ!」

 

 どうもお爺ちゃんは、私の事をお父さんが他の女に産ませた子供だと思ってたみたい。

 

 まあ、仕方ないと言えば仕方ないかも知れない。

 岩国基地を出る前に、お父さんが電話で私を連れて行く事は伝えてたんだけど、その時お父さんは『子供を一人連れて帰る』としか言ってなかったの。

 

 早とちりするお爺ちゃんもお爺ちゃんだけど、ちゃんと事情を話さなかったお父さんも悪いと後に思ったわ。この時は……お爺ちゃんの迫力に怯えて泣いちゃう寸前だったから、そんな事考えられなかったけど。

 

 「違います少将殿!大佐殿は無実であります!この子はその……拾ったと言いますか……保護したと言いますか……」

 

 「()少将だ大尉。だがなるほど、つまり家出少女を拾って来たちゅうわけじゃの?テメェ!ワシの娘だけじゃ飽き足らずこんな子供まで手籠めにしようっちゅうんかぁ!」

 

 大尉が見事に油を注いで、気絶中のお父さんに対してお爺ちゃんが追撃戦に入ったわ。

 もうね、凄かった、お爺ちゃんが蹴りを入れるたびにドゴン!ドゴン!って鈍い音が響いてたのよ?白目を剥いたままのお父さんが、サッカーボールみたいに蹴飛ばされる光景を見た私は完全に泣いちゃったわ。

 今の私なら大爆笑してるでしょうけど、この頃の私は映画のアクションシーンすら怖がっちゃうほど大人しくて気弱な子だったからね。いきなりあんな暴力シーンを生で見せられたら泣いちゃうのは当然よ。

 

 でもさ、あれで私を家出少女と勘違いするお爺ちゃんも大概だけど、大尉の言い方も悪いわよね。まるで犬か猫でも拾って来たみたいな言い方じゃない?

 あ……なんか10年越しでムカついて来た……。

 

 「ええ加減にしんさい!家の前でなに騒いじょるんね!」

 

 「い、いや……このクソ婿が浮気を……」

 

 騒ぎを聞きつけて家から出て来たお母さんがお爺ちゃんを一喝。どうも、この家のヒエラルキーの頂点はお母さんだったみたい。

 

 「この人にそんな甲斐性があるわけないじゃろ!面白半分で娘を未亡人にする気!?そこの左門!悪いんじゃけど、うちのバカ亭主をお父さんと一緒に中に運んでちょうだい!」

 

 「イ、イエスマム!」

 

 あの父親にしてこの娘と言ったらいいのかしら、お母さんの迫力に気圧された大尉とお爺ちゃんがテキパキとお父さんを家に運び込んだわ。

 私はと言うと、声を出して泣きたい気持ちを押さえつけ、両手で口元を押さえて声を出さないようにしてたっけ。

 

 「さて……」

 

 「ぴぃ!」

 

 私を見下ろすお母さんが、その時は夜叉のように見えたわ。この人は怒らせたらダメな人だと、子供心に思ったっけ。

 

 「アナタのお名前は?」

 

 「さく……らこ……」

 

 「さくらこ……桜子ちゃんね。ええ名前じゃねぇ、ほら、もう泣くのやめんさい。ね?」

 

 しゃがんで、私と目の高さを合わせて涙を拭いてくれた時のお母さんに、お爺ちゃんを叱り飛ばした時の迫力はなかった。

 代わりにあったのは安心感、無条件にお母さんって呼びたくなっちゃった。

 だけど、呼べなかった……。遠慮と言うかなんと言うか、呼んじゃいけない気がしたの。私は他人だからとか考えてたんでしょうね、この時呼ばなかった事を今でも後悔してるわ。

 

 「あ、お母さんが言ってたけどさ。お父さんとお爺ちゃんって、アレで仲良かったんだって?」

 

 「いやいや、ええ訳ないじゃろ、帰るたびに殺されかけちょったんぞ?」

 

 「でもお母さん言ってたよ?『アレが二人のスキンシップなんよ』って」

 

 「どんだけハードなスキンシップじゃ!殴る蹴るされて悦ぶ特殊性癖なんか持っちょらんわ!」

 

 でも、目が覚めた後は普通に談笑してたわよね?

 お爺ちゃんも、登場時の怒りが嘘だったみたいにニコニコしてたし。私とお母さんと娘さんがご飯を食べてるリビングの隣の部屋で、お酒を飲みながら話してたじゃない。私って耳が良いから丸聞こえだったんだから。

 そう、確かこんな感じだったわ。

 

 「ほう!噂の化け物を刀で斬ったか!さすがクソ婿じゃのぉ、ハハハハハ!」

 

 「俺にかかりゃ楽勝よ!っつかクソ婿って言うなクソ親父!」

 

 まあ、お酒が入ってたせいもあるんだろうけど、あんなに楽しそうにお酒を飲むお父さんを見たのはアレが最後だったかなぁ……。

 

 「で?軍はこの戦争に勝てそうか?」

 

 「無理じゃろ。今の陸軍に昔ながらの銃剣突撃をするような度胸はない。親父の方がそれはわかっちょるじゃろ?」

 

 戦争って言っていいかも疑問だけどね。

 だって深海棲艦の目的は不明、ボートだろうが漁船だろうが軍艦だろうが関係なく沈めるだけ。略奪をするわけでもない、してたのはただの虐殺だったもの。

 

 「ああ、海軍も軍艦をほとんど沈められたらしい。しかも奴らは神出鬼没、攻撃目標に戦略性もなし。対処療法しか取れんのが現状じゃの」

 

 後から知ったけど、私が家に連れて行かれた時には、深海棲艦が出現してすでに数か月経ってたみたい。ニュースでは謎の海難事故として報道されてたけど、情報規制がかかってたのね。

 

 「軍艦がほとんど?初めて聞いたんじゃが」

 

 「そんな恥以外の何物でもない情報を垂れ流すはずないじゃろうが。ワシも元帥殿から聞いて、つい最近知ったんじゃ」

 

 「海軍のか?親父は海軍の元帥と知り合いじゃったんか?」

 

 「昔、世話になった事がある。どうしようもなくなったら元帥殿を頼れ、ワシの名前を出してええ」

 

 「親父も、負けると思うちょるんか?」

 

 「このままじゃぁの……」

 

 お父さんとお爺ちゃんは、このままだと国がどうなるか察しがついてたみたい。

 この頃には艦娘の開発は行われてたはずだけど、そこまでは耳に入ってなかったのね。

 

 当時の日本は、末期戦って言っていい状態だったかもしれない。

 開戦をしたと言う情報すら一般市民には知らされてなかったけど、深海棲艦との戦争が始まってたった数か月で日本は制海権のほとんどを喪失、陸軍も攻撃目標が絞れず、攻撃の知らせを受けて現地に急行するのが精いっぱい。

 日本人って図太い神経してるわよね。深海棲艦の空襲が本格的に開始されて、国が隠しきれなくなるまで、物価の上昇に文句を言いながらも普通に生活してたんだもん。

 

 「ところで、あの子を引きとるつもりか?」

 

 「ああ、避難民で仮設住宅はいっぱいじゃし、あの子は身寄りがない……。女房も乗り気じゃしの。親父は嫌なんか?」

 

 「別に反対はせん、お前より可愛げがあるしの。お前が居らん間はワシに任せちょけ」

 

 なんで、こうもアッサリと見ず知らずの子供を引き取る事を決められるのかが、私は不思議でしょうがなかった。だってそうでしょ?私はただの戦災孤児よ?私を養ったところで、この人たちに得なんてないんだもの。

 むしろ厄介者なのよ?引き取り手がなかったから仕方なく?それとも同情からだったのかしら。

 

 「桜子ちゃんどうしたん?お箸が進んじょらんけど」

 

 「いえ……その……」

 

 申し訳なさでいっぱいだった、目の前のご飯を私なんかが食べていいのか迷った。

 そんな私を、お母さんと娘さんが不思議そうな顔で見てたのを今でも覚えてるわ。全てを失った私に訪れたひと時の平和、たった一週間の幸せ。忘れる事が出来ない、一週間だけの家族。

 

 その幸せを、アイツらが再び私から奪い去った。

 アイツらは、私から二度も家族を奪った。

 

 私がお父さんに連れられて、大尉が運転する車で役場に手続きに言ってる間に起きた空襲で、お母さんも、娘さんも、そしてお爺ちゃんも亡くなった。

 私とお父さんは何もする事が出来なかったわ。

 

 空襲が終わって、慌てて家に帰った時には全て終わってた。

 家に深海棲艦が落とした爆弾が直撃して、文字通り跡形もなくなっていた。あったのは、私が最初に見た時と同じようなクレーター。

 苦しまなかったと思う。

 いや、そう思いたい。

 あんないい人たちが苦しんで死んだなんて思いたくない。

 

 「おじ……さん……」

 

 家があった場所で、無表情で立ち尽くすお父さんに声をかけようと思った。だけど、それ以上声はかけられなかった。

 きっとお父さんは感情が振り切れてたんだと思う。無表情ではあったけど、お父さんが絶望してるのがわかっちゃったから。

 

 周りからは鳴き声や助けを求める声が聞こえて来るのに、お父さんは何も言わず、涙すら流さずに家があった場所を見つめるだけだった。

 あの時のお父さんがなにを考えていたのかは、私にはわからない。

 だけど、この日が境だったんだと思う。

 

 この日この時、復讐鬼が産声を上げたんだ。

 上の人からどんな憂き目に遭わされても、補給がなくても、武器がなくても、どんな目に遭っても深海棲艦の死を望む復讐鬼がこの時生まれたんだ。

 

 半日くらい家の跡地を見つめていたお父さんは、日が傾きだした頃に、大尉に向けてやっと口を開いた。

 

 「大尉、基地はどうなっている?」

 

 「連絡が取れません。恐らく……基地も空襲を受けたものと思われます……」

 

 大尉の言う通り、空襲は広範囲に及び、岩国基地もかなりの被害を受けて基地で待機していたお父さんの大隊も、奇兵隊の初期メンバーになる数人を残して戦死していた。

 

 お父さんの表情に変化はなかったわ。

 たぶん、想像がついてたんだと思う、空襲から半日近く経ってたって言うのに、救助が来る様子がまったくなかったから。

 

 「行くぞ、生き残りを集めて隊を再編する」

 

 「こ、この子はどうするおつもりですか?まさか……置いて行く気でありますか!?」

 

 きっとそうだったんだと思う。と言うか私の存在を忘れてたんだ。

 大尉がそう聞かなければ、私はたぶん置き去りにされていたと思う……。それくらい、お父さんの頭の中は怒りと絶望で満ちていたのよ。

 

 「……」

 

 お父さんが私を横目で見つめていた。

 私はこのままだと置いて行かれると思った、それだけは絶対に嫌だと思った。

 だって当時の私は12かそこらの子供よ?文字通り焼け野原になった場所に置き去りにされるなんて、考えただけで怖くて仕方なかった。

 だから私は考えた、このまま置き去りにされない方法を必死に考えたわ。

 そしてこう言った、この時のお父さんの心の琴線に触れそうなセリフを選んでこう言ったの。

 

 「わ、私も連れて行ってください!私も戦いたい!私も復讐がしたい!」

 

 って。

 そしたらお父さんは、一言だけこう言ったわ。

 

 「なら……ついて来い」

 

 って。

 それを聞いて少しだけ安心した。少なくとも置き去りにされる事はなくなったんだもん。

 今思うと、これが私の人生の分岐点だったんだと思う。お父さんについて行く事を選択しなかったら、今の私は存在してなかったでしょうね。

 

 この1週間後に、奇兵隊が結成される事になる。

 生き残っていたお父さんの部下の、大尉と海坊主と金髪、乗っていた艦を失って浜に打ち上げられていた『艦長』、開店したばかりのお店を空襲で失った『店長』、自称ラジオのパーソナリティーをしていたと言う『DJ』、地元の893の下っ端だった『武器屋』、岩国基地の生き残りの数名。

 そしてお父さんと私、これが奇兵隊の初期メンバーだった。

 叢雲が朝潮にあげた写真は、この時に撮ったんだったかな。

 

 「勝利も栄光も求めず、ただ死に場所のみを求めるバカは俺の元に来い。だったわよね……」

 

 「DJに放送させた時のか?」

 

 「うん、よくこんなセリフで人が集またものだって、今でも思うわ」

 

 実際には集合場所とかも伝えなきゃいけないから、もうちょっと長かったんだけどね。

 だって、『俺の元に来い』だけじゃどこに行ったらいいのかわかんないでしょ?けど、あの時の放送で思ってた以上の人が集まったの。

 

 結成当初と、お父さんが海軍本部の前で土下座をした時は陸軍上層部の嫌がらせを受けたけど、お父さんが提督になる1~2か月前には最盛期を迎え、連隊規模に膨れ上がっていたわ。

 連隊とは言っても、実際に戦闘をするのは半分の一個大隊程度だったけどね。 

 残りは武器や食料、情報などの補給関係を受け持ってたわ。もっとも、陸軍からの補給は当てにできなかったから、元帥さんにお父さんが頼んだ海軍からの補給と、民間からの善意に頼ってたって話だけどね。

 その辺は『店長』と『武器屋』がやってたから私は詳しく知らないの。

 銃や弾薬を提供してくれる民間人ってどんな人だろうって当時は考えもしたけど、途中で考えるのをやめちゃった。だって『武器屋』が、『世の中、知らない方が良い事もあるんだよ』って言ってたんだもん。

 私って、当時は素直に人の言う事を信じちゃうほど素直だったからね。

 いや、今も素直か。

 

 そして奇兵隊結成から数か月後、山の木々が紅く染まり出した頃に、私は二度目の選択をする事になるの。

 『武器屋』が仕入れて来た、『対深海棲艦用装着型海上自由航行兵装』の情報と、お父さんに下された『身寄りのない、10代前半の少女を確保せよ』という命令を耳にして。

 




 

 次話は2~3日後に投稿予定です。
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