海軍内で特に女性比率の高い鎮守府や泊地において、艦娘同士の同性愛は半ば黙認に近い形で認められている。
女だって性欲はあるし溜まれば発散したくなるんだから、これは仕方のない事だ。それを規則で縛ってしまえば士気の低下にもつながるし、最悪の場合クーデターすら起こりかねない。
正化30年時点で、そっち方面で有名な艦娘と言えば佐世保の時雨、呉の陽炎、横須賀だと松風だろうか。って、駆逐艦ばっかりね……。少し前なら最上とかも名前が挙がったでしょうけど、代替わりしたから今はそうでもない。
まあ、それはともかく、上記の駆逐艦三人は各鎮守府でハーレム的な物を形成するくらい人気が高い。ついでだから、各々の特徴を説明しておこうかしら。
まずは時雨。
円満も何度か手籠めにされかけた事があるらしいんだけど、時雨は文字通り力尽くで艦娘を手籠めにする。レ〇プと言っても過言じゃないレベルらしいわ。
そんな事を続けていれば問題になりそうなものだけど、手籠めにされた艦娘からの被害届は皆無。時雨と一晩寝た子は、時雨なしじゃ生きられない体にされちゃうらしいわ。薬とかじゃないわよ?そんな物を使えばどこかしらで足が着いちゃうもの。まあ簡単に言うと、物凄くテクニシャンらしいのよ。後は察して頂戴。
次は陽炎。三人の中じゃ一番無害なんじゃないかな。肉体的な意味で。
陽炎の事は、士官になる手続きをするために呉に居た時に聞いたんだけど、簡単に言うと天然のタラシらしいわ。
本来の意味でのタラシとは、『女性を騙したり、言葉巧みに誘惑して弄ぶ男性』の事なんだけど、あの子はそれと似たような事を無自覚にやってるらしい。ただし、陽炎自信は同性愛者じゃないから、肉体関係を持っている子は居ないって話よ。もっとも、相手の方はそれも望むみたいで、陽炎が無自覚に惚れさせた子に襲われかけるって事案が度々起こるみたい。姉妹艦の不知火が全力で阻止してるようだけどね。
そして最後は松風。個人的には、コイツが一番悪質ね。
松風は陽炎と違ってガチのタラシで、言葉巧みに艦娘を誘惑し、貢がせ、時雨のように強引に抱く事もする。
容姿が中性的な事もそれを手伝ってるわ。男装したらイケメンの男の子にしか見えないんだもの。そんな子が、ムサイおっさんが大半の鎮守府に居たらどうなると思う?そう、男装してただ歩いるだけで、そういう男の子が好きな子が誘蛾灯に惹かれる蛾のように引き寄せられるわ。上位艦種が特に引っかかるわね。私にはまったく理解できないけど。
で、なぜ私がこんな説明を始めたかというと……。
「辰見がお土産でドーナツ買って来てるみたいだけど、食べないの?」
「……」
元凶は、桜子がドーナツで釣ろうとしている円満。
執務室に入った途端にあんな特殊なプレイを見せつけられたんだもの、私だって少しくらい現実逃避したいわ。
「叢雲、ちょっとスマホ貸して」
「いいけど……。何する気?」
「いいから貸しなさい」
渋る叢雲を一睨みすると、一瞬ビクッとしてスマホを渡して来た。
最近ようやく話してくれたんだけど、叢雲の両親は躾に厳しかったらしく、怒鳴りつけたり手を上げるのは当たり前。酷い時には、躾と称して何日も暗い部屋に監禁したりしたらしいわ。そのせいで、睨まれたり怒鳴られたりするのが大の苦手になっちゃったんだってさ。
艦娘になったのは、そんな両親から逃げるため。連れ戻されそうになった事もあったらしいけど、無事艦娘になって今に至るって訳。
「消去っと……。ほら、動画は消したから機嫌治しなさい円満」
「消しちゃったの!?なんでそんな酷いことするのよ!」
「酷い事してるのはアンタ。友達の痴態を動画に撮るなんて趣味悪いわよ?」
叢雲にスマホを返すと、少しションボリした様子で『ごめんなさい……』と呟くのが聞こえた。頭のアレもシュンとしてるし、本当に反省してるみたいね。偉い偉い♪
けど、謝るなら私じゃなくて円満よ?後で改めて謝っておきなさいね。
「ホントに……消してくれたの?」
「本当よ。だからこっち来なさい。早くしないと、桜子に全部食べられちゃうわよ?」
渋々ではあるけど、円満も一緒にお茶する気になったみたいね。
どうして円満が由良とあんな特殊なプレイをする事になったのかは気にはなるけど、今掘り返したら元の木阿弥。後で叢雲に聞くとしましょう。
けど、問題は桜子ね。
私はそれでいいけど、桜子は気になって仕方が無いはずだわ。その証拠に、不自然なほど穏やかな笑顔で、執務机からソファーに移動し始めた円満をチラチラ窺ってるもの。
「叢雲、お茶を煎れて来てちょうだい」
「え~~……」
「え~じゃない。お願いね」
「わかった……」
ごめんね叢雲。
今みたいに、わざとらしい笑顔の桜子は本当に
だから、桜子が何をするつもりかわかるまで、貴女を少しでも離しておきたいのよ。万が一巻き添えを食らったらトラウマを負いかねないから。
一応断っておくけど、わざとらしい笑顔をしているからと言って、いつも悪だくみをしている訳じゃないわ。
桜子自身気づいてるか知らないけど、あの子って隠し事があると笑って誤魔化そうとする癖があるのよ。まあ、たいていの場合は悪戯だけどね。
あの時だってそう。
ソロモン海戦が終結し、タウイタウイ泊地に異動になって一か月ほど経った、正化28年の11月。
あの頃の私たちは、潜水艦退治の合間に実戦形式で演習を繰り返していた。もっとも、演習とは名ばかりで、私は動くサンドバッグ代わりにされてたんだけどね。
「なあ、もうちっと手加減してくれねぇか?訓練にならねぇよ」
「手加減したら私が訓練にならないじゃない」
「そりゃまあ……そうなんだけど……」
ってな感じのやり取りをしながら、泊地まで桜子に曳航されて帰るのがお約束だった。
だって、本当に手加減なしで攻撃してくるのよ?日本刀で容赦なく『装甲』は斬られるし、その隙間からバンバンとペイント弾撃ち込んでくるからいつも全身ペイントまみれ。実弾を使ってたら10回は軽く死んでるわ。
もちろん私も反撃はしてたんだけど、この頃の桜子はすでに最盛期と言って良いほど強さに磨きがかかってたから、私の攻撃なんか掠りもしなかった。
そういえば、演習を見学してたタウイタウイの艦娘が『神回避だ』とか言ってたわね。
今じゃ比べる事が出来ないけど、桜子と円満だったらどっちが回避技術が上なんだろう?
う~ん難しいわね……。桜子と円満じゃ回避後の行動に違いがあり過ぎるし……。いや、考え方が違うか。
桜子にとって、回避とはあくまでオマケ、敵に接近する時の副産物だ。対して、円満の場合は文字通り回避行動。接近する事と回避を兼ねる場合もあるけど、円満はあくまで別と考えている。
単純に攻撃を避け続けるだけなら円満の方が上かも知れないけど、実際に二人がやり合った場合は桜子の圧勝でしょうね。
アイツは攻撃を当てるためなら何でもするから……。特に『アマノジャク』なんか
おっと、話が逸れちゃった。
そんな感じの日々を送っていたある日、桜子が……。
「ところでさ。円満ってお父さんの事どう想ってる?」
「え?先生?べ、別になんとも……」
私の対面に腰を下ろした円満の隣に座った桜子がわざとらしい笑顔のまま、何の脈絡もなしにそんな質問をした。
そう、あの時もお父さんの事どう想ってる?って、違う!人が思い出に浸ってる時に引き戻さないでくれない?まあいいけど……。
それはそうと、一体どういうつもりだろう。私はてっきり、さっきの件を円満に根掘り葉掘り聞くつもりなんだと思ってたんだけど……。どうやら、それ以上の爆弾をぶち込むつもりのようね。
「桜子はどれ食べるの?早いモノ勝ちだから選んどかないと無くなるわよ」
これは止めた方が良い。
円満の提督への気持ちなんて爆弾以外の何ものでもないわ。
何度か見たことがあるんだけど、普段は提督と朝潮が常に一緒に居るから平静を装えているけど、両方居なくなった途端にこれでもかと言うほどションボリするの。
私が居る事に気づくと、すぐに何でもない風を装おうとするけどね。
まあ、私も『ヘンケン艦長と仲良くやってる~?』とか言ってからかったりするんだけど……。え?元ネタがわからない?だったら『ヘンケン艦長』でググってちょうだい。
まあ、それは兎も角。
円満からしたら、これは避けたい話題のはずだわ。今は叢雲も居るし、桜子に知られたら高確率で提督にも伝わってしまう。いくらなんでも可哀そうすぎる。私みたいに軽くからかう程度ならいいけど……。いいよね?
「邪魔しないで辰見。こんな面白そ……。いや、こんな重要な事をこれ以上放っておくなんて私には出来ない」
いや、今面白そうって言いかけたじゃない。
桜子がどうして円満の気持ちに気づいたのかは謎だけど、それをネタにして遊ぶ気満々でしょ?円満も『助けて……』って感じで私をチラチラ見てるし。これは先輩として、助けてあげない訳にはいかないわ。
「で?どうなの円満。なんなら、私の口から言ってあげましょうか?」
「それを聞いてどうする気?朝潮にでも言うつもり?」
「辰見には関係ないでしょ?それとも、アンタは円満がお父さんの事をどう想ってるか知ってるの?」
知ってると言うよりは察しがついてる程度よ。確信はないわ。円満の想い人が朝潮って可能性も無くはないしね。その口ぶりだと、桜子も確信は得ていないんでしょ?あくまで、円満が提督に惚れてるんじゃないかと疑ってる程度。それを聞き出す過程を楽しもうと思ってるのが丸わかりだわ。
「知らない。アンタはそれを知ってどうする気?」
「どうして欲しい?」
桜子は顔を私に向けたまま、目線だけ円満に向けてそう言った。
悪い顔してるわね。
わかってるわ。アンタはこう言いたいんでしょ?『この情報を悪用はしない。あくまで、この場で楽しむだけ。だから、一緒に楽しみましょう?』って。
円満をイジって遊ぼうって時点で悪用してる気がするけど、桜子にとっては、提督が朝潮と円満のどちらとくっつくかなんて興味がない訳ね。それなら一口乗るのも吝かじゃないわ。
でもなぁ……。円満が縋るような目で『助けて』って私に訴えかけてるしなぁ……。
先輩としては助けてあげたいけど、正直、桜子が円満をどうイジる気なのかは気になる。
ここは、しばらく静観しとこうかしら。
「辰見、フレンチクルーラーを一つちょうだい」
「食べるの?」
「いいから早く」
別にドーナツをあげるの自体は良いんだけど……。
今から円満をイジるんじゃないの?なんか、私が紙ナプキンに乗せて渡したフレンチクルーラーをニヤニヤしながら見てるけど……。
いや、この状況は見覚えがある。
今と違うのは、桜子が持ってたのはフレンチクルーラーじゃなかったし、場所もタウイタウイ泊地の工廠だった事。そして、対峙していたのが円満じゃなく私だった事かしら。
どうやら、さっきの回想の続きをする必要がありそうね。あれは、いつものように演習を終えて工廠に戻った時だったわ。
私が工廠で働く妖精さんを見て和んでいると、桜子が急にこんな事を言って来た。
「ねぇ。妖精さんってどこに居るの?」
「ん?いっぱい居るじゃねぇか。神風の艤装にも乗ってるぞ?」
その時まで、妖精さんに興味を示した事が一度もない桜子がそんな事を急に言うもんだから少し面食らった。
ほとんどの子は見えていないけど、妖精さんって艦娘の体を這いまわってるのよね。
私からしたら、肩や背中、手持ちの兵装にまで妖精さんがくっついてるのに何言ってんだろ?って感じだったわ。
「アンタと違って見えないから聞いてるの!どこに居るのよ。この辺?」
桜子が右手を背中に回してニギニギしてる横で、妖精さんがあっかんべーをしてるのが見えた。
普段は人をおちょくる事の方が多い桜子が、逆に妖精さんにおちょくられてる光景が新鮮すぎて軽く吹いた覚えがあるわ。
「ここにも居るぞ。ほら、今オレの手の平の上に乗ってる」
『ホントに~?』と言いながら、桜子が訝し気に私の左手の平に乗った妖精さんをジロジロと見た。
桜子には私の手の平しか見えなかったでしょうけど、その時妖精さんはサムズアップして桜子に存在をアピールしてたわ。ホント可愛かった。
「そこに間違いなく居るのね?」
「だから居るって言ってるだろ?って、おい!何すんだよ!」
一瞬だった。私が前髪を掻き揚げようと右手を上げて視界が隠れた一瞬の隙を突いて、桜子が妖精さんを奪い取った。妖精さんは『キャー!助ケテー!』と悲鳴を上げていたわ。マジで耳が幸せだった。
って、そうじゃないわね。
幸い、握った事で妖精さんの存在を確認できたのか、桜子は『お~……』とか『ホントに何か居る』とか言ってたわ。手加減もしてたみたいだから、妖精さんもたいして苦しそうじゃなかった。
ただ、仲間が乱暴に扱われた事に腹を立てた妖精さん達がゾロゾロと集まって来たのに少し肝を冷やしたわね。だって今にも襲い掛かりそうな形相だったんだもの。写真に撮っとけばよかった。
「動かないで!一歩でも動いたらこの子を握りつぶすわ!」
桜子は私と周囲を見回しながらそう言った。きっと、姿は見えなくても妖精さんが放つ殺気は感じてたんでしょうね。
人質に取られた妖精さんは、今にも泣きそうな顔で『食ベテモ美味シクナイデス。ダカラ食べナイデ』って言ってたっけ。ホント、食べちゃいたいくらい可愛かったわ。
「どういうつもりだ神風。妖精さんに嫌われたら、艤装の修理もままならなくなるぞ」
「そうね。でも今は、そうなってでもアンタに言わなきゃならない事があるの」
「は?オレに?」
何を言うつもりなんだろうと思う前に、桜子のわざとらしい笑顔の方が気になった。
どんな風にわざとらしいかって?そうね………。表情筋だけで無理矢理笑顔を作ってるって言えばいいのかしら。頬とか眉毛がピクピクしてるから、見ようによっては怒ってるようにも見えたわ。
普段の桜子は、感情をストレートにぶつけて来る(物理攻撃付き)んだけど、本当に隠したい気持ちは力業で隠そうとするの。この時みたいにね。
「アンタ、内地に帰りなさい」
「はぁ!?いきなり何……。いや…オレが邪魔なんだな……?」
「……そうよ。アンタと一緒だと、アイツを倒せない」
自覚はしていた。
私と桜子じゃ力の差は歴然。そんな私が、桜子より強い駆逐古鬼に挑むなんて役者不足もいいとこだもの。一緒に挑むとしても、私じゃ足を引っ張りかねない。
その位の事は、当時の私でも理解できてたわ。口に出した事はないけど。
「オレが内地に戻ったら、夜はどうするんだ?」
「か……艦長と寝る……」
心底嫌そうだったなぁ……。私がそう言った瞬間、わざとらしい笑顔が絶望に変わったもの。
そんなに嫌なら帰れなんて言わなきゃいいのにとも思ったけど、きっと桜子は、私の身を案じてくれてたんでしょうね。まあ、私が邪魔だってのも本当だったんでしょうけど。
「わかった。内地へ戻るよ」
「い、意外ね。文句の一つくらい聞いてあげるつもりだったのに……」
「オレだって昔ほどバカじゃねぇよ。オレじゃお前の足手纏いにしかならねぇって自覚くらいある」
それに、この頃には龍田の仇討ちも諦めかけてたし……。
情けない姉よね。
妹を失って私がした事と言えば、妹に引導を渡してくれた桜子への八つ当たりだけ。もしかしたら、私でも駆逐古鬼を倒せるくらい強くなれるかもって思った時期もあったけど、結局私は、強くなれないまま桜子に嫌な役回りをさせてしまった。
「良い機会だし、艦娘も辞める」
「え…いや、何もそこまで……」
「良いんだ。龍田の仇も討てねぇんじゃ、艦娘を続ける意味がねぇ……。潮時ってやつだ」
私が艦娘を辞めると言い出すとはさすがに思ってなかったらしく、桜子は目に見えて動揺し始めた。『どうしよう。そんなつもりじゃなかったのに』って思ってるが丸わかりで少し面白かった。狼狽える桜子なんて滅多に見られないから。写真撮っとけば良かったって今でも後悔してるわ。
「ホントに…辞めちゃうの?」
「ああ……。でも心配すんな。退役するつもりはねぇから」
「士官にでもなるつもり?」
「その通り!その内、オレがお前をこき使ってやるから覚悟しとけよ?」
私は精一杯虚勢を張ってそう言ったけど、桜子は納得出来なかったみたい。何とか私に艦娘を続けさせる方法を考えてたんじゃないかな?
ちなみに、士官にならないかとは前々から提督に言われてはいたの。
妖精さんを見ることが出来て、しかも声まで聞こえる人は貴重だからね。ただ、士官になると書類仕事もしなくちゃならなくなるから断り続けてたんだけど、桜子に内地に戻れと言われてようやく決心がついたの。
だから私は、桜子を優しく抱きしめてこう言ったわ。
「ごめんな。オレはお前に、嫌な思いさせてばっかりだ」
「謝るのは私の方よ……。だって、これは私の我が儘みたいなモノだし」
「素直に言えよ。オレに、死んで欲しくなかったんだろ?」
桜子は答えなかった。
足手纏いの自覚はあっても、駆逐古鬼と会ったら私は迷わず斬り掛かる。例え掠りもしなくたってね。
そうなったら私の運命は決まってるわ。
ただ、無様に殺されるだけ。憎い仇に掠り傷一つ付けられないどころか、桜子の心を傷つけてしまうだけ。
桜子もそれをわかっていたから、駆逐古鬼と会う前に私を遠ざけようとしたんでしょうね。妖精さんを人質に取ってまで。
「やり方が歪んでんだよ。妖精さんを人質にしなくたって聞く耳くらい持ってるぜ?」
「そのセリフ。私が龍田に言ったセリフと同じじゃない。パクらないでよ……」
今思い出してもわからない。
たぶん、やり方が歪んでるって部分だと思うんだけど、いつ言ったんだろう?龍田に引導を渡した時かしら。
まあ、それは兎も角。
内地に戻って士官になる決心はついたけど、桜子の添い寝相手をどうするかで悩んだわね。
桜子は艦長……。当時のタウイタウイ泊地の司令と寝るとか言ってたけど……さすがにね……。嫌な想像が膨らんで、そんな事をさせる気にはとてもなれなかったわ。
「添い寝の件、能代に頼んどいてやるよ。それとも、同じ駆逐艦の方が良いか?」
「能代でいい……」
「わかった」
余談だけど、提督を除いて桜子が選ぶ添い寝相手にはいくつか特徴がある。
一つは巨乳である事。
長門曰く、桜子は胸に顔を埋めて寝るのが好きらしいわ。実際、桜子と一緒に寝てる間、朝起きたら私の胸の谷間で幸せそうな寝顔してたし。なぜか寝巻がはだけてブラまでズラされてたけど……。
私って一度寝たら余程の事がない限り朝まで起きないから、寝てる間に桜子がどんな寝相なのか知らないのよね。どんな寝相してたら添い寝相手の胸元をはだけさせられるんだろ……。
そしてもう一つは柔らかい事。
例えば、同じくらいの巨乳が二人いたとしたら、より柔らかい方を好むわ。横須賀鎮守府の長門の部屋で寝てた間は陸奥とばかり寝てたって言ってたわね。桜子曰く、ウォーターベッドや低反発マットなんか目じゃない寝心地らしいわ。まあ、実際抱き心地は良さそうだもんね。
そういえば、呉に居る間に能代が変な内容の手紙を送ってきたことがあったわね。
たしか……。『あの子は、私の大切なモノを奪っていきました。もう普通じゃ満足できない……』だったかな?時雨みたいに無理矢理抱いたのかしら?でも、桜子にレズっ気はないはずだしなぁ……。
おっと、余談が長くなっちゃった。
まあそんな感じで、その月の末には呉に戻ったわ。士官になるための手続きやらなんやらが面倒だったけど、年が変わる前には大本営で士官見習いみたいな事を始める事になった。
いやぁ、我ながらよく我慢したと思うわ。
だってパワハラ、セクハラは日常茶飯事。元艦娘ってだけで珍獣扱いだし、仕事と言えば雑用ばっかり。何度か仕事中に手籠めにされかけた事もあるわ。音声を録音して逆に脅してやったけどね。
その最中に、私が提督の元部下だったことに目を付けた参謀たちに、提督を暗殺しないかとお持ちかけられた。報酬は、二階級特進と結構な金額のお金だったかな。
もちろん、私はその話に迷わず飛びついたわ。
報酬が目当てじゃないわよ?提督を暗殺する気なんて端から無いし、糞の掃き溜めみたいな大本営より、古巣の横須賀の方が良いに決まってるでしょ?それに……。
「アンタとも会いたかったしね……」
「ん?何か言った?」
「何でもない。独り言よ」
危ない危ない。思わず口に出ちゃった。
けど、アンタと再会できて本当に嬉しかったのよ?
だって、桜子ったら手紙も寄越さないんだもん。駆逐古鬼を倒したって報告も事後報告よ?酷いと思わない?駅で叢雲とケンカしてるアンタを見るまで、生死すら私にはわからなかったんだから。しかも、私にすぐ気づいてくれなかったし。そんなに見た目は変わってないはずなんだけどなぁ……。
「ところでさ。そのドーナツどうするの?」
「どうすると思う?」
うわぁ……。なんて邪悪な笑顔だ……。
もうイジるのを隠す気もないみたいだわ。円満も何をされるのか不安で仕方がないみたい。
あの時と状況は似てるけど、ドーナツが人質になるとは思えないしなぁ……。まだいっぱいある、と言うか一つも減ってないし。いくら桜子でも、ドーナツを人質?物質?にするなんてバカな事はしないでしょう。
と、思っていた。
私は提督ほどではないけど、桜子の性格をよく知っている。
短気で意地っ張りで、自分が良ければ他はどうでもいいと公言する癖に仲間想い。努力家で、どんなにバカにされても気にしない程神経が図太く、態度は太々しい。それに加えて、機械音痴っていう可愛いらしい一面まである。そんな桜子に憧れた時期もあったわ。
だけど、これは無い。
ドーナツを使って円満をイジり始めた桜子は、そんな私の想いを粉微塵に打ち砕くほど酷かった。
そうね……。控えめに言って、バカだったわ。