艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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思いついた短編とモンハンにかまけてたら投降が遅れてしまった……


神風死闘4

 俺が知る限り、桜子が弱音を吐いた事は一度しかない。アイツは自信家の上に意地っ張りだから、弱音を吐く事は負けと同じだと思っている節がある。

 もっとも俺に言わせれば、自信家なのも意地っ張りなのも自分を鼓舞するための偽りの仮面でしかない。

 そうしなければ、桜子は過酷な戦場で戦い続ける事が出来なかったんだろう。

 

 『何処でその名を?』

 

 「娘が……。失礼。元駆逐艦神風が、駆逐古鬼が口にしたのを聞いたそうです」

 

 『なるほど、そういう事か』

 おっと、電話中に物思いに耽ってしまった。

 もしかしたらと思って、元帥殿の傍に居るはずの大淀のスマホにかけてみたが大当たりだったようだ。

 やはり元帥殿は知っている。駆逐古鬼が口にしたと言うアイアンボトムサウンドは、元帥殿達が歴史を改変したせいで存在しなくなった名前のようだ。

 

 「やはり、ご存じのようですね」

 

 『うん、知っているよ』

 

 「それは何処です?アイアンボトムサウンドとはいったい……」

 

 『近い内にこちらに来れるかい?』

 

 俺の言葉を、半ば遮るように元帥殿がそう言った。

 電話ではまずいのか?盗聴されたところで、この世界の歴史に存在しない海峡の名など利用価値がないだろうに。それとも、早く元帥の席を代われと催促するつもりか?

 どちらにしても、行って話を聞かない事には考えもまとまらない。出来る事なら行きたくはないが、仕方がないな。

 

 「スケジュールを調整しなくてはなりませんが、近い内に必ず。それで構いませんか?」

 

 『ああ、それで構わないよ』

 

 「わかりました。それでは失礼します」

 

 俺は通話を終了してスマホをちゃぶ台に投げ出した。

 スッキリしないな。出来ればさっさと教えて欲しいのだが……。まあ、こればかりは仕方ない。失われた歴史を知るのは、俺が知る限り、元帥殿と米国に居るという人物だけだ。焦ったところで、知っている人間が話す気が無いのでは諦めるしかない。

 

 「ググったら意外と……」

 

 やはりダメか。ボト〇ズとか出て来たじゃないか。非常に懐かしいが、ボトムしか合ってないな。あとは……。音楽関係のサイトとゴルフクラブか。ゴルフは一度、打ちっぱなしに行ってクラブを折り過ぎて出禁になって以来行ってないな。

 どうやったら折れるのかって?簡単だよ。玉を撃たずに地面ばかり打ってしまったのさ。射撃が下手な自覚はあったが、まさかゴルフまで下手とは思わなかったよ。

 

 「って、誰に説明しちょるんじゃ俺は」

 

 思ったより早く話が済んでしまったせいで手持無沙汰になってしまった。桜子は……。出てまだ20分も経っていないか。当分戻ってこないだろうな。

 では散歩にでも行くか?……ダメだな。着流し姿で出歩くなと桜子や円満に釘を刺されているし、着替えるのが面倒くさい。

 じゃあ、少し早いが酒でも……。

 コレもダメだ。晩飯前に酒を飲んだのが朝潮にバレたら怒られてしまう。

 なんだか、日に日に死んだ女房と言う事が似てきてるし……。

 

 「いかん……。暇だ……」

 

 早く戻って来てくれ桜子……。パパは寂しいぞ……。

 待てよ?確か今晩、桜子は長門達と飲むと言ってなかったか?だとしたら、朝潮が部屋に戻る21時前には一人になってしまうじゃないか。そうなれば一人酒は確実。そんな寂しい飲み方はしたくない。

 

 「いっそ、朝潮に泊ってもらうか?」

 

 却下だ。

 そんな事をしたら理性を保つ自信がない。間違いなく襲ってしまう。ムラムラしてガーってなってしまうだろう。って、ムラムラしてガーって何だ!暇なせいで変なテンションになっているな……。

 

 「そういえば、あの時もこんな感じで暇だったな」

 

 いや、もう少し真面目に考え事をしていたか。

 あれは、正化29年の3月の末頃だったか。

 執務をある程度終わらせ、そろそろ朝潮を愛でに……。もとい、朝潮の訓練を視察しに行こうと思い立った時だ。

 

 「何?ヘリが使えない?」

 

 俺が訓練を視察している事に気づいた満潮が、訓練を沖合でするようになったためヘリを使って上空から観察する事しか出来なくなっていたのに、そのヘリが整備中で使えなかったせいでこの日は視察が出来なかった。

 仕事をすればいいじゃないかだと?

 朝潮を愛でる事は俺の立派な仕事だ!異論は認めない!

 

 「仕方ない。北方攻めの作戦でも練るか……」

 

 後のハワイ島攻略を考えれば必要な作戦ではあったのだが、正直乗り気ではなかった。作戦の時期が亡くなった妻子の命日と被ったためだ。

 大規模作戦とは言え、大湊だけでも攻略は可能だったのがやる気を削ぐのに一役買っていた。

 それに加え、できる事なら大規模作戦に投入する戦力を全てを奴にぶつけたいのに、回せる艦娘が多くても駆逐隊一つか二つと言うのが歯がゆかった。

 

 「高練度の駆逐艦のみを狙う隻腕の戦艦棲姫……か」

 

 佐世保に所属している時雨が襲われた時に撮影された画像を見て、一目で先代の朝潮を殺した奴だとわかった。

 それなのに、奴を始末する手段が思いつかなかった。第八駆逐隊をぶつけるのは決定していたが、問題なのは奴を釣り上げる手段。

 奴を確実に釣り上げられるほどの練度を誇る駆逐艦が、第八駆逐隊のメンバー以外に居なかったのだ。

 

 「いっそ、八駆で釣りあげて主力艦隊で包囲殲滅……」

 

 これはすぐに却下した。

 いくら数で勝っていても、作戦終了前後を狙われては仕留めきれない可能性が高い。それどころか、最悪の場合、また朝潮を失う破目になりかねない。

 どうしても、八駆とは別に奴を釣るための餌が必要だった。確実に食いつく様な美味そうな餌が。

 

 「神風を呼び戻すしかないな」

 

 呼び戻す事自体は問題なかった。

 いや、アイツが各泊地で問題を起こしまくっていたから連れ戻してくれとは言われていた。それでも呼び戻さなかったのは、アイツの復讐したいという気持ちを優先したからだ。

 

 「餌扱いされるとわかったら怒るだろうか……。怒るだろうなぁ……」

 

 だが、その時の俺には桜子を呼び戻す以外の選択肢はなかった。だから、渋々ながらもタウイタウイ泊地に電話をかける事にした。呼び戻す目的は話さず、なんとか仇討ちを中断して戻るよう説得するために。

 

 「久ぶりだな。元気にしていたか?」

 

 『うん……。それなりに』

 

 予想外だったのは、受話器を通して聞こえてくる声に覇気がなかった事だ。

 最初は辰見を内地に帰したせいで、夜満足に眠れていないのだろうと思ったが、桜子はそれよりも深刻な悩みを抱えていた。いや、恐怖と言った方が正確か。

 

 「何かあったのか?」

 

 『別に……なん…でもない』

 

 言葉とは裏腹に、泣くのを我慢しているような感じだった。

 桜子には悪いと思うが、俺は少し懐かしい気分になってしまったよ。呉で別れる前のアイツはよく泣いていたからな。

 

 「私にも……。いや、俺にも言えん事か?」

 

 『…あの……私…ね……』

 

 「どうしたんや、お前らしゅうないのぉ。俺に聞いて欲しい事があるんじゃないんか?」

 

 俺は極力、おどけた調子で話すのを心掛けた。そうした方が、桜子が話しやすいと思ったからだ。

 

 『私…死んじゃうかもしれない……。もう……先生と会え…会えない…かも……』

 

 そこまで言って、桜子は静かに泣き始めた。

 辰見に八つ当たりされていた時期にも弱音一つ吐かず、俺が口を出そうとするのを『余計な事しないで』と言って突っ撥ねていた桜子が、涙を流しながら初めて弱音を吐いた。

 正直、意外と思うよりも、嬉しいと思う気持ちの方が大きかったのを覚えている。

 なんと言ったら良いか。初めて桜子に頼られた気がしたからだ。

 

 「どうして、そう思う?」

 

 『わかんない!わかんないけど死んじゃうの!もう先生と会えないの!』

 

 桜子は、間近に迫る自分の死を予感していた。

 俺にもそんな経験があるからわかる。作戦の前日などに多かったな。

 もっとも俺の場合は、作戦内容や戦場の地形、敵の大まかな配置や戦力内容から、無意識に脳が死の可能性を弾き出していただけなんだろう。

 だが、桜子の場合は完全に予感だ。

 なぜなら、この電話の時点ではどこが戦場になるかも、駆逐古鬼と対決する事になるのも知らなかったのだから。

 

 「神風。横須賀に戻って来い」

 

 『え……?』

 

 「今日はその事を伝えるために電話を掛けた」

 

 『そ…そんな事出来ない!龍田の仇討ちを諦めろって言うの!?』

 

 「笑わせるな神風。龍田の仇討ちなど、お前にとってはついでだろう?」

 

 『ちが、違う!私は本当に……。違う……違うんだから!』

 

 少し意地悪が過ぎたと、通話が終わった後で後悔した覚えがある。

 最初は確かにそうだったんだろう。

 桜子は龍田の仇を討つために駆逐古鬼を仮想敵にして訓練し、南方へ旅立った。

 だが、俺には確信があった。

 辰見から送られて来た『神風が敵艦と共闘した』という報告書を見て、桜子の目的が龍田の仇討ちから、駆逐古鬼と戦う事に変わっていると確信していたからだ。

 

 「一週間後。呉発の定期船がそちらに着く。それに便乗して呉まで戻れ」

 

 『だからさっき言ったでしょ!私は死んじゃうの!いつかはわからないけど、一週間後に生きてられるかなんて分かんない!』

 

 「一週間後に生きてられるかわからないだと?あまり俺を失望させるなよ神風。俺が生きて戻って来いと言っているんだ。お前は言われた通り、死など蹴り飛ばして戻って来い。これは命令だ」

 

 こういう場合は、優しく慰めてやるのが普通なのだろうか。

 しかし、俺はこんな言い方しかしてやれなかった。桜子が泣きながら弱音を吐くなど余程の事なのに、俺は戻って来いと命令する事しかしなかった。

 

 「神風。お前は、自分の名の由来を知っているか?」

 

 『知らない……。駆逐艦神風って船が昔あったんじゃないの?』

 

 「ああ、確かに駆逐艦神風と言う名の船はあった。だが、俺が言ってるのは『神風』と言う名の由来だ」

 

 『どんな……?』

 

 「詳しい説明は省くが、簡単に言えば大昔に日本を侵略から救った台風だ」

 

 神道用語では、神の威力によって吹く強い風だったか。

 俺が言っているのは、元寇の時の二度の台風の事なのだが……。この説明は歴史の教科書かウィキペディア先生に譲るとしよう。正直、俺も台風のおかげで元軍を撃退できたという程度のにわか知識しかない。

 

 『私に台風になれって言うの?』

 

 「そうだ。お前の名は神風。日本に勝利をもたらし、外敵を容赦なく沈める神の風だ」

 

 『私はそんな大層な者じゃ……』

 

 「普段の自信はどうした?名前負けしてないで、お前の戦場に神風を吹かせて見せろ!」

 

 今思うと少し恥ずかしいセリフだ。我ながら、熱くなり過ぎていたようだな。

 だが、桜子はこのセリフが気に入ったのか、去年の演習大会で『今からこの戦場に、神風を吹かせてあげる』と高らかに宣言した。

 気恥ずかしかったが、それと同時に誇らしいとも思ったな。

 

 『む、迎え……』

 

 「迎え?だから呉からの定期船が行くと……」

 

 『ちっがう!それって呉発で呉着でしょ!?呉からどうやって横須賀まで帰るのよ!まさか、海上を自走して帰って来いとか言うんじゃないでしょうね!』

 

 さっきまでのしおらしい態度は何処へやら、と言った感じでいつもの調子に戻った。

 それでも、声は若干震えていたから完全に恐怖を拭えてはいなかったのだろうが、少なくとも立ち向かう覚悟は出来たようだった。

 

 「心配するな。迎えはちゃんと出す。だから……」

 

 『だから?』

 

 「とっとと片付けて帰って来い。俺にはお前が必要だ」

 

 『しょ、しょうがないわね。先生がそこまで言うなら…帰ってあげる……』

 

 なぜ、あの時同じセリフを朝潮に言ってやる事が出来なかったのだろう。

 ただ迎撃を命じるだけではなく、一言『帰って来い』と付け加える事が出来ていたらと何度後悔しただろうか。

 桜子と朝潮では実力に差があったからか?

 違う。そんな事は関係ない。例え実力に差があったとしても、例え敵が強大でも、彼女なら俺の命令を遂行したはずだ。それなのに、俺は帰って来いと言う事が出来なかった。

 俺は、桜子と同じように朝潮を信頼してはいなかったのだろうか……。

 いや、違う。俺が真っ先に諦めたんだ。

 朝潮では、戦艦棲姫相手に良くて相打ちが関の山だと、彼女よりも先に俺が諦めてしまったんだ……。

 

 『あ、ついでに観光もして帰るから荷物持ちもお願いね』

 

 「わかったわかった。あまり羽目を外すなよ」

 

 『あ、あとさ……』

 

 「なんだ?まだ何かあるのか?」

 

 『あ…ありがと……』

 

 ボソッとそう言って、桜子の方から通話を切った。しかもガチャ切りだ。

 まったく。礼を言うなら素直に言えばいいものを……。と思いつつも、俺の顔はニヤケていた。

 

 ふと思ったのだが、今の若者はガチャ切りがどういう物か知っているのだろうか。

 最近は固定電話がない家庭も多いと聞くし、固定電話自体を見たことがない子供もいるのではないか?

 ちなみにガチャ切りとは、電話の切り方が乱暴なこと。通話の相手がまだ話しているにもかかわらず、ガチャンと音を立てて受話器を置き電話を切ってしまうことなのだが……。

 まあ、どうでもいいか。

 

 「あの電話の次の日だったな。桜子と駆逐古鬼が戦ったと艦長に聞かされたのは」

 

 艦長が言うには、何処に行くのかも言わず。何と戦うのかも言わずに、桜子はただ一言、『ちょっと出て来る』とだけ言って、タウイタウイ泊地を出航したそうだ。

 まるで、近所のコンビニにでも行って来るような感じだったとも言っていたな。

 だが、軽い口調とは逆に、その背中は決意と自信に満ちていたらしい。

 『私を殺せるもんなら殺してみろ。逆に殺し返してやる』そう、背中で語っているようだったと。

 

 『まるで、昔のお前ぇさんみてぇだったぞ』と言われた時は、どんな顔をしていいのかわからくなったな。

 俺は敵陣に突撃する時、恐怖を紛らわすために嗤う癖があるのだが、桜子もそうなっているんじゃないかと変な想像をしてしまったんだ。

 しかし、嗤いながら敵に斬りかかる桜子に違和感がないように思えてしまうのは気のせいだろうか……。

 

 「変な癖まで真似ちょらにゃええんじゃが……」

 

 昔から、桜子は何かと俺がやる事を真似ようとしていた。

 俺が教えたのだから、剣術や体捌きに関しては似ているのは当然だが、奇兵隊員(アイツら)の話では指揮の執り方まで俺とソックリだとか。

 日常的な事では、食べ物や酒の好みと飲み方などか。塩辛を美味そうに食いながら酒を飲む姿を初めて見た時は、俺自身良くやるだけに呆れてしまったな。

 その内、食い方や飲み方がオッサン臭いと言われるんじゃないかと心配になってしまうが……。

 

 「本当に心配だ……。オッサン臭いと言った相手を殴りそうで……」

 

 駆逐艦は血の気が多いので有名だが、アイツは少々……。いや、だいぶ度が過ぎている。

 ツッコミは必ずと言って良いほど物理攻撃付きだし、一旦敵と認識したら艦娘だろうと深海棲艦だろうとお構いなしだ。どこで育て方を間違ったのやら……。

 

 「まあでも、俺の娘ならそれくらいやってくれにゃあのぉ……」

 

 実際に見たわけではないが、駆逐古鬼との決闘に赴く桜子の姿は容易に思い浮かべることができる。

 真紅の髪を風に靡かせ、海原を駆ける桜子の勇姿を。

 そして俺の戦場に吹かせた時のように、桜子は自分の戦場に神風を吹かせたのだろう。

 どんな困難な戦況をもひっくり返し、自分より強大な敵をも討ち滅ぼして生を掴み取るための勝利の風(神風)を。

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