艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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 どうしてこうなった その一。
 
 予定では残り5話。飛ばしていきます!


名探偵 桜子の事件簿

 

 

 一つ聞いてみたいのだけど。

 親の不祥事を目の当たりにしてしまった時、アナタならどうする?

 慰める?どうしてそんな事をしたのか事情を聴く?それとも、問答無用で通報する?まあ、三者三葉十人十色。リアクションは人によって違うわよね。

 ちなみに、私の場合は推理だったわ。

 お父さんの部屋に戻って来たら……って、いきなりこんな話をされても、経緯がわからなきゃ話が分からないわよね。

 よろしい!ならば、この優しく慈悲深い桜子さんが、どうしてお父さんの不祥事なんてモノを目の当たりにする破目になったのかから話してあげましょう。

 また後で同じ質問をするから、アナタならどうするか考えておいてね。

 あれは辰見にパシリをさせられた後、お父さんの部屋に戻る途中で朝潮と、なぜか一緒に居た大淀と合流した時のことよ。

 

 「思ったより時間かかっちゃったなぁ。もう17時半じゃない……」

 

 なぜ、書類を運ぶだけで時間がかかったかと言うと。

 私は真面目に運んでたんだけど、50センチもの厚さに積み上がった書類の束の重さに、私の爪楊枝のように細くしなやかで繊細な腕が耐えられるはずも無く。階段に差し掛かった辺りで、『紙吹雪とは粋ねぇ』と現実逃避しちゃうくらい見事にぶちまけちゃったの。

 

 けど、そこは責任感の強い桜子さん!

 すぐに、拾い集めるための応援を募るために事務課へと駆け込んだわ。『どっかのバカが、書類をぶちまけて逃げたから拾うのを手伝って!』って言いながらね。

 私のような、人望と容姿に恵まれた美女に手伝ってと言われて断れる職員がいるはずもなく、事務課に居た男性職員は率先して手伝ってくれたわ。

 

 私?私ももちろん手伝ったわよ?階段に足組して座って、事務課の職員達が拾った書類を受け取っていたわ。

 私が足を組み替える度に、地面を四つん這いで這い回る男共が、私に悟られないようにチラチラと私を仰ぎ見てくる様を見て『男ってチョロい』とか思ったのは内緒ね。

 

 「私って、罪な女ねぇ……」

 

 拾ってくれるだけで良かったのに、事務課の職員達はお茶とお茶菓子まで用意してくれた。『暑くはありませんか?』と言って、団扇で扇いでくれた人まで居たっけ。そのおかげで、書類を拾うペースがやたらと遅い事にイライラせずに済んだわ。

 

 「あ、桜子さん。何処かに行ってたんですか?」

 

 「ちょっと執務室にね。そっちこそ何処かに行ってたの?執務室に居なかったじゃ……って、大淀?なんで居るの?」

 

 事務課に無事書類を届け終わり、お父さんの部屋の前に差し掛かった辺りで、何故か私の質問にバツが悪そうにする朝潮と、これまた何と説明すればいいやらと言った感じの大淀と出くわした。

 大淀が居るって事は、お父さんに何か用があるのかしら。それとも、実妹と瓜二つの朝潮に会いに?

 後者は有り得ないわね。元帥さんの秘書艦である大淀が、大した用もないのに二時間近くもかけて横須賀まで来れるほど暇とは思えないもの。

 となると、消去法でお父さんに用がある事になる。アイアンボトムサウンドの件かしら。

 

 「朝潮ちゃんから夕食に誘われまして……。その…横須賀まで来たのは完全に私用です……」

 

 おいこら元帥秘書艦。今の時間に大本営からここまで来ようと思ったら、15時位には大本営を出なきゃいけないよね?暇なの?もしかして、元帥さんの秘書艦って私が思ってるより暇なの?

 と、くだらない事を考えていなければ、私は事件を未然に防ぐことが出来たかも知れない。

 事件は、私が大淀に『暇人』と言ってやろうと口を開きかけた瞬間に起こったわ。

 

 『いやぁぁぁぁぁ!助けてお姉ちゃぁぁぁん!』

 

 幼気な子供の悲鳴。思わず、バッとドアを向く私達三人。部屋の中で何かが起きている。気配的に、室内居るのは二人。一人はお父さんで間違いない。

 なら、悲鳴を上げた子供は誰?駆逐艦なのは間違いないわね。鎮守府に居る子供なんて駆逐艦しか有り得ないもの。

 問題はどの駆逐艦か。

 お父さんの部屋に近づこうとする駆逐艦は朝潮型、しかも第八駆逐隊の面子に限られる。更にその中で、お父さんに怯え、『お姉ちゃん』とやらに助けを呼びそうなのは代替わりして日が浅い満潮のみ。

 

 だけど、ここでまた疑問が出て来る。

 なぜ、満潮がお父さんの部屋に?娘の私が言うのもなんだけど、お父さんは駆逐艦達から避けられている。嫌われてる訳じゃないんだけどね。

 理由は主に二つ。

 一つ目は単純に怖いから。駆逐艦の中には、お父さんの顔を見ただけで震え、泣き出し、酷い時には失禁する子まで居るらしいわ。さすがに怖がりすぎでしょ……。

 二つ目は、お父さんがロリコンという噂が常識化してるせい。

 だけど、これはハッキリ言って事実無根と言って良い。確かにお父さんは朝潮が好きと公言してるけど、逆に言えばそれ以外の駆逐艦には興味がない。

 興味がないと言ったら語弊があるわね。朝潮以外の駆逐艦を恋愛対象として見ていないが正しいわ。もちろん、実際に手を出した事もない。

 

 上記の理由もあり、お父さんに慣れてる朝潮、大潮、荒潮を除いた駆逐艦は部屋に近づかない。

 それなのに、なぜ満潮が一人でお父さんの部屋に来たか。その答えは朝潮の行動が教えてくれたわ。

 そろそろ晩御飯の支度を始めなきゃいけない時間なのにも関わらず、朝潮はなぜか手ぶら。しかも大淀の相手をしていた。お父さん最優先の朝潮からは考えられない行動よ。

 おそらく、朝潮は満潮と一緒に酒保へ買い物に行き、その帰りに大淀と遭遇した。ならば、酒保で買った食材はどこへ?ってなるわよね。

 そこで満潮の出番。

 朝潮はエコバッグを満潮に預け、一足先に部屋に行かせたのよ。そして自分は大淀の相手をして、今帰って来たってわけ。

 

 『食べられるぅぅぅ!このままじゃ私司令官に食べらむぐぅ!』

 

 おっと、私が推理に耽っていたわずか数秒の間に、部屋の中の事態が進行したみたいね。

 朝潮は真顔になって、おそらく感情が振り切れる寸前。大淀はすまーとふぉんを構えて何かの準備を完了している。踏み込み時だわ。

 私は、中で起こっている事態に胸をワクワクさせながら、ゆっくりとドアを開けた。わざと、ギギギって音が鳴るようにゆっくりとね。

 そして目に映ったのは、お父さんが膝の上に座らせた満潮を左腕で拘束し、右手で口を塞いでいる光景だった。

 

 じゃあ、冒頭の質問に戻るわね。

 目の前に、幼女と言ってもいいくらいの年齢の少女を膝の上で拘束し、口を塞いだオッサンが下手なホラーよりキモ怖い泣き顔で助けを求めて来たらどうする?

 え?さっきと質問が違うって?いいのよ!細かい事は気にしない!

 

 「べ、弁解の余地は……」

 

 「あると思いますか?」

 

 大淀の言う通り、弁解の余地はないわよお父さん。誰がどう見ても、少女を無理矢理手籠めにしようとした現行犯だもの。

 でも、よかったわね。これが朝潮と大淀だけだったら即座に憲兵さんを呼ばれていたでしょう。

 だけど、私ががいる。この名探偵の孫だったかもしれない桜子さんが、お父さんの無実を証明して見せましょう。目の前の事実だけが真実とは限らないからね。

 

 さて、お父さんの無実を証明するために、まずはこの部屋で何が起こったかを知る必要があるわね。

 あんまり時間をかけすぎると大淀が憲兵さんを呼びそうだし、朝潮は……真顔で固まったままか。まさか気絶してる?目を見開いたまま気絶なんて出来るのかしら。

 おっと、朝潮はとりあえず放っておいていいか。大淀が憲兵さんを呼ぶ前に事態を把握しないと。

 

 まず目につくのは、ドアの対面の壁際に転がった四つのボールと、テレビのすぐ横に投げ捨てられたように放置された変な顔が描かれた猫じゃらしを模した玩具。

 この二つ……いや、五つ?は、お父さんがプライベート時に駆逐艦と遭遇した時に備えて常に隠し持っている玩具だわ。こんな猫用の玩具で駆逐艦の警戒が解けると思ってるんだからバカよねぇ~。

 いやいや、お父さんがバカかどうかは今関係ないわね。

 おそらくお父さんは、部屋の前まで来た満潮の気配を感じ、『誰か来たのか?』と思い、ドアを開けた。たぶん『あぁん?』みたいな感じの顔して出たんじゃないかな?その結果、ビビった満潮は蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなってしまった。

 

 そんな満潮を見て、お父さんは何をしに満潮が部屋を訪ねて来たのかを考えたはずよ。

 そして、朝潮に持たされていたであろうエコバッグを見て、満潮が朝潮と一緒に買い物をし『先に部屋に行ってて』と言われたのだろうという結論に至った。

 朝潮が昼過ぎに持って出たはずのエコバッグが冷蔵庫の近くに置いてあるのがその証拠ね。

 

 ならば部屋に招き入れればいいんだけど、そうは問屋が卸さない。

 満潮はお父さんにビビって動けないでいる。そこでお父さんは、とりあえず笑顔でも見せて落ち着かせようと考えたはずだわ。

 だけど、これが大誤算。お父さんって笑顔が苦手なのよ。

 にも関わらず、無理して笑顔を作ろうとするもんだから、顔はニヤリとしてると言うか、見ようによっては相手を小馬鹿にしたような笑顔になっちゃうの。

 その笑顔を見て、満潮はさらに警戒を強めてしまった。どんまいパパ。

 

 そこでお父さんは、満潮を部屋へと招き入れる事を諦め、誘い込むことにした。

 やり方はこうよ。

 まずは猫じゃらしで狩猟本能を呼び起こし、四つの音が出るボールを部屋の中に転がって行くように投げ、満潮を部屋の中に誘い込んだ。

 浮身歩行術と無音歩行術の合わせ技で、相手に動いていないと錯覚させることはお父さんにとっては朝飯前だしね。無駄に悪ノリして、タップダンスくらいは踊ってたかもしれないわ。

 これで誘い込まれる満潮も満潮だけど、誘い込もうとするお父さんもお父さんよ。娘として恥ずかしい!少女を部屋に誘い込むことに何故ベストを尽くしたのか!

 

 おっと、また脱線しそうになっちゃった。

 なんとか満潮を部屋に誘い込む事に成功はしたけど、次の問題はドアをどうやって閉めるか。だって、開けっぱしじゃ逃げられかねないもの。

 そこで、お父さんはラピュタの映像で引き留めようとし、結果、成功した。テレビ画面に映っているラピュタのメインメニューがその証拠よ。

 他の奇兵隊員にしてもそうだけど、なんであの人達ってなんでジ〇リが好きなんだろ?たしかに面白いとは思うけど、ごついオッサン共が瞳をキラキラさせながら見るモノじゃないわ。マジキモいから。

 

 お次の謎は、お父さんにビビってた満潮が何故お父さんの膝の上に座ったか。これは非常に簡単ね。

 駆逐艦は姉妹艦、特に同じ駆逐隊の子を実の姉妹のように大切にする習性がある。戦災孤児が多く、家族を欲している駆逐艦にとっては、ある意味仕方のないことなんだけどね。

 だけどいつの頃からか、新しく姉妹に加わった子に自分に都合のいい出鱈目を吹き込む風習が生まれた。

 先に言った通り、駆逐艦は戦災孤児が大半なため、まともな教育を受けてない子が多い。それこそ、サンタクロースは居ないという出鱈目を信じちゃうくらい一般常識に疎いわ。

 

 もちろん、私もその被害を受けかけた事がある。姉妹艦にではなくお父さんからだったけど。

 あれは、私が15かそこらの頃だったかしら。制海権をある程度取り戻し、近海の防衛に余裕が出始めていた正化23年の冬。

 今年はサンタさんも活動を再開するかしら?と、お父さんに尋ねたら『お前、その歳でサンタを信じちょるんか……』と言って来た。

 けど、私は騙されなかった。だから今でも信じてるわ。サンタさんは実在するって。

 だって、孤児になる前は毎年枕元にプレゼントが置いてあったし、この年のクリスマスもちゃんと貰えたもの。

 さすがに、本土近海より深海棲艦の出没が多い南方にはサンタさんも飛んで来る事が出来なかったらしく、プレゼントは定期船で運ばれて来たけどね。

 ただ、正化23年以降に貰ったプレゼントは私が欲しい物とかなりズレてたわ。

 例えば、本土に居た頃は腹巻きだったり、毛糸のパンツだったりしたっけ。これはお腹を冷やすな的な意味でくれたのかもしれないから、まだ我慢する事が出来た。

 南方に居た頃はお酒とお摘まみとかね。

 たしか、お酒はお父さんが好きな銘柄が送られてきたわ。サンタさんも日本酒が好きだったのかしら。

 内容が酷い時もあった。それは日焼け止めとか虫除けスプレー、シャンプー、トリートメント、などの南方では手に入りにくかった日用品のセット。

 たしかに手に入りにくかったけど、クリスマスのプレゼントで貰いたい物じゃないからガッカリした記憶があるわね。

 

 あらやだ、サンタさんの件が長くなっちゃったわね。話を戻すとしましょう。

 満潮がお父さんの膝の上に座っていた理由。それは大潮、もしくは荒潮に『子供は誰かの膝の上でテレビを見なければならない』って感じの出鱈目を吹き込まれていたから。そうじゃなきゃ、お父さんの膝の上に座ろうとする駆逐艦なんて艦娘時代の私か朝潮くらいのものだもの。

 実際、あの二人なら平気でやりそうだしね。先代の朝潮にも散々出鱈目を吹き込んでたし。

 

 さて、これで満潮が悲鳴を上げるまでに起きた事は粗方推理出来た。では、最後の謎を解いてフィニッシュとしましょうか。

 謎を解くヒントは、満潮が言った『食べられる』というセリフと、お父さんの泣きそうな顔。

 後者は、自分は無実だと訴えてるんだと思う。私にチラチラと視線を向けながら『助けてマイドーター!』って言ってるし間違いないわ。

 ならば何故、満潮は『食べられる』などと口にしたのか。

 先に言った通り、お父さんはロリコンとして知られているけど朝潮以外の駆逐艦を恋愛対象として見ていないし、性的対象としても見ていないから満潮に手を出すことは有り得ない。

 だから、私はこう考える。

 お父さんは、満潮に何かお願いをしようとしたんじゃないかと。

 お願いについては、推理の材料が乏しいから私でもわからないけど、大方、朝潮もしくは円満の力になってやってくれ的なお願いをしようとしたんじゃないかな。

 けど、満潮はお願いの内容を聞く前に、自分がした想像に恐怖し、助けを求めた。

 たぶん、お父さんがロリコンという噂を知ってて、性的に食べられるとでも思ったんじゃないかしら。

 私達三人が部屋の前に来た時にタイミング良く悲鳴を上げたのは、私達の気配を感じたお父さんが『この気配は!』とか言ったんでしょう。

 

 「うん、こんなところかしらね」

 

 他に、この桜子さんの灰色の脳細胞を刺激するような謎は無さそうだし、これでQED。謎はすべて解けたわ。

 

 「お父さん!貴方のやった事は、すべてお見通しよ!」

 

 決まった。

 お父さんをビシッと指差してそう言う私は、自称天才美人マジシャンではなく真の美人探偵。『お見通しよ』の『よ』の部分がエコーしてる気さえしてくるわ。

 

 「いや、いきなり何言ってるんですか?衛生兵呼びます?」

 

 フッ……。何を言ってるの大淀、私は至って正常よ。

 けど、その反応も仕方ないわね。

 だって、まだ推理を披露してないもの。それで『お見通しよ!』とか言っても貴女程度じゃ、私が何をお見通しなのかわからないわよね。

 

 「はぁ……。そのメガネは飾り?少しは頭を使いなさいよ」

 

 「ほう?そう言う貴女は頭を使っていると?」

 

 「勿論よ。ここで起きた事はまるっとお見通……」

 

 あれ?でもこれって、まさか推理を披露する場面?うわぁ…面倒くさっ……。さっき、頭の中で考えたことを今から口に出して説明するの?冗談じゃないわよ。

 推理はしても事件は解決しない。それが、この桜子さんなんだから。

 大淀はしばらく無視しよっと。

 

 「ほらお父さん。とっととそのガキンチョを解放しなさいな。窒息しかけてるわよ?」

 

 「あ、ああ……。大丈夫か?満潮」

 

 「だいじょばないわよ!死ぬかと思ったじゃない!」

 

 おい糞ガキ。私の指定席であるお父さんの膝を堪能しといて何だその言い草は。

 だいたいね、アンタが変な勘違いしたから事が大きくなったのよ?朝潮達はまともに躾してないのかしら。

 ん?そう言えば朝潮が静かなままね。まさか本当に気絶してるのかしら。

 

 「ズルいです司令官……。私が座らせるより先に、満潮ちゃんを膝の上に座らせるなんて!」

 

 「いや…これは君達がそう教えたと……」

 

 「ええ!教えました!12歳以下の子供は、必ず誰かの膝の上でテレビを見なければいけないと教えましたよ!けど!私はまだなんです!いっつも大潮さんと荒潮さんに邪魔されて、満潮ちゃんを膝の上に乗せたことがないんです!」

 

 Hey マミー。何にショックを受けてるのかと思ったら、そっちにショック受けてたの?バカなの?貴女がそんなリアクションだから、満潮もなんだか申し訳なさそうにしてるじゃない。

 

 「あ、あの…ごめんなさい……」

 

 「いいのよ!?満潮ちゃんは何も悪くないの!悪いのは桜子さんなんですから!」

 

 「んん?いや、ちょっと待って。なんでそうなるの?」

 

 「わかりませんか?桜子さんさえこの部屋に居れば、司令官は満潮ちゃんを玩具を使ってまで誘い込まず。満潮ちゃんも、変な勘違いをせずに済んだんです!」

 

 なん…だと?

 真顔で静かにしてたから気絶、もしくは現実逃避してるんだとばかり思ってたのに、朝潮は私と同じように何が起こったのかを推理していた!?しかも、セリフ的に私と同じような結論に至っているわ。

 

 「へぇ……」

 

 見直したわ朝潮。さすがは、私の母になる女。だけど、私のせいにするのは頂けないわね。

 確かに、私が部屋に居ればこんな事は起こらなかったでしょう。でも、私が話して聞かせた内容が切っ掛けとは言え、私に部屋から出るよう促したのはお父さんよ。

 だから、この事件はお父さんの自業自得。けっして私のせいなんかじゃないわ。

 

 「あのぉ……。二人は何の話をされて……」

 

 「大淀は黙ってて」

 

 「そうです。お姉ちゃんには関係ありません」

 

 おろ?どうして朝潮が大淀の事をお姉ちゃんって呼んでるんだろ?大淀が先代朝潮の実姉なのを私は先代朝潮から聞いて知ってるけど、この朝潮は誰に聞いてその事を知った?

 お父さんからかしら。それとも大淀から?

 まあ、どっちでもいいけど、貴女に『関係ありません』なんて言われたもんだから、大淀がシュンとしちゃったわよ?放っておいていいの?

 

 「お姉ちゃんは座ってお茶でも飲んでいてください。司令官、申し訳ありませんがお姉ちゃんにお茶をお願いします」

 

 「「はい……」」

 

 お、驚いたわね……。

 いつの間にお父さんを顎で使うようになったの?私が新居に引っ越してから数日の間に、この部屋のヒエラルキーが入れ代わっている。

 口調こそ丁寧だけど、全身からあの時のお母さんのような威圧感を発しているわ。

 けど、お父さんをパシリ扱いするのは我慢できないわね。私でさえした事無いのに。

 

 「お父さんにお茶汲みさせるなんて偉くなったものね。愛されてるからって、少し調子に乗りすぎじゃない?」

 

 「愛するが故、です」

 

 「へぇ。愛してたらパシリにしていいんだ。やっぱり調子に乗ってんじゃない。泣かすぞ小娘」

 

 「言葉遣いが悪いですね。司令官が甘やかし過ぎた結果とは言え看過出来ません。良い機会です。修正してあげましょう」

 

 ほう?この私を修正すると来たか。けど、それはこっちのセリフよ。

 お父さんに愛されすぎて増長しまくったアンタを、これでもかと言う程修正しまくってやる。泣いて謝ったって許さないんだから!

 

 「そこに直りなさい桜子!お仕置きの時間です!」

 

 「上等よ!アンタこそ覚悟しなさい!今からこの戦場に神風を吹かせてやる!」

 

 私と朝潮の間に、見えないはずの火花がバチバチと音を立ててぶつかり合ってる気がする。

 満潮は殺気立った私達に怯えてお父さんの足にしがみつき、大淀は『と、止めた方がいいんじゃ……』と、お父さんを促してるわ。

 等のお父さんは……。朝潮に言われた通り律儀にお茶を淹れながら『ふむ』とか言ってるわね。何を考えてるのやら……。

 

 「……」

 

 そんな外野の様子など気にもせず、朝潮が両腕を上げ腰を落とした。

 典型的なピーカブースタイル。私より身長が低いハンデを逆に利用して懐に飛び込む気ね。それから繰り出して来るのは恐らくガゼルパンチ。

 大層な事を言ってたクセに、私を倒せる自信はないから短期戦に持ち込もうって魂胆なんでしょうね。ならば私は……。

 

 「居合い……ですか?」

 

 そう、私は刀無しで居合いの構えを取った。

 断っておくけど、目に見えない刀を持ってるわけじゃないわ。正真正銘、素手での居合い。

 私はお父さんから体術を習い、実践した事もあるけど、素手での戦闘はどちらかと言うと苦手なの。素人相手のケンカなら話は別だけどね。

 けど、今の相手は素人じゃない。

 目の前の朝潮は水鬼級の戦艦を単独で撃破し、陸上とは言え長門を殴り飛ばす程の実力を有した駆逐艦。

 私が艦娘を辞めた今、横須賀鎮守府で間違いなく最強の駆逐艦だわ。

 だから私は、手持ちの技で最も速く、最も威力のあるの居合いで挑む。

 無手だからって舐めないでよね。例え刀が無くたって、同じ速さ、同じ鋭さで手刀を放つことが可能なんだから。私の手刀は鉄すら切り裂くわ(たぶん)。

 

 「明日は結婚式です。だから顔は勘弁してあげます」

 

 「あっそ。じゃあ私は遠慮なく顔を狙わせて貰うわ」

 

 そこからは一瞬だった。

 朝潮は地面を這ってると錯覚するほどの低さで私の足元へ潜り込み、全身の力を床に叩き込むように踏み締めて、私の予想通りガゼルパンチを放って来た。

 踏み込みの動作で、朝潮が誰のガゼルパンチを見たのかもわかったわ。

 あのバカ旦那!朝潮に余計な物を見せやがって!

 

 「シッ!」

 

 私も負けじと踏み、朝潮の左首筋を狙って手刀を放った。速度は私の方が速い。朝潮の右拳が着弾する前に、私の手刀が首を刎ねるわ!

 

 「甘い!」

 

 私の手刀が朝潮の首を刎ねる寸前、私の鳩尾を狙っていた朝潮のガゼルパンチの軌道が変わって手刀の軌道を上に逸らした。手刀は、朝潮の頭頂部スレスレを切り裂いた感じになっちゃったわね。

 私の手刀を逸らした動作は馬蹄崩拳の応用かな?だけど焦ることは無い。右手で手刀を弾いたせいで、打撃は撃てそうにないもの。撃てたとしても、それはもう馬蹄崩拳とは呼べ……。

 いや、待って。朝潮にはもう一つあったはずだわ。しかもそれは、右肩を私に向けた状態でも撃て、しかも馬蹄崩拳で私の手刀を逸らした運動エネルギーを上乗せする事も可能!

 

 「終わりです!」

 

 やはり鉄山靠!朝潮が右肩を私の腹部に接触させて来た。後は全ての運動エネルギーを私の腹部に放つだけ。それで私が負けて終わりだわ。

 本当に凄いわね貴女は。始めて会った時は私に手も足も出なかったのに、今では私を負かせられる程になったんだから。

 なんて……。

 

 「言うと思うかぁぁぁ!」

 

 手刀が弾かれても私の左手は健在!手刀を逸らされた事で生じた慣性エネルギーの全てを左拳に乗せて叩き込んでやる!

 

 「双方そこまで!」

 

 「「!?」」

 

 私の左拳が朝潮の右頬に触れ、朝潮の鉄山靠が私の腹部に力を解き放つ寸前。お茶を淹れながら静観していたお父さんが待ったをかけて来た。

 

 「なんで止めるのよ!お父さん!」

 

 「そうです司令官!なぜ止めたんです!」

 

 「なぜ、だと?愛する二人が本気で殴り合おうとしているんだ。止めない訳がないだろう?」

 

 いや、だったらもっと早く止めなさいよ。

 お父さんなら、私達二人が相手でも力尽くで止めることが出来たはずよ?もしかして、本気で殴り合うとは思ってなかった?だったら考えが甘いわ。

 私と朝潮は、お父さん程じゃないけどそれなりの実力者なのよ?そんな二人が、売り言葉に買い言葉の末とは言え拳を交わそうとすれば、その気が無くても本気になっちゃうわよ。

 

 「だが、どうしても続きがしたいと言うのなら、俺はこうするしかないな……」

 

 そう言って、お父さんが取った行動は常軌を逸していた。

 だけど、私と朝潮のケンカを止めるために、どうしてそんな行動を取ろうと思ったのかは私でも理解できな……。いや、何となくわかる。何となくわかるけど理解したくない。だってバカすぎるもの。

 あまりにバカすぎるもんだから、私は朝潮とケンカしてた事も忘れて、(゜-゜)(こんな)感じの顔になってこう思ったわ。

 お父さん、とりあえず5~6回死のう?って。





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