結婚式の前の晩は何をするのが一般的なんだろう。
男だったら、友達と集まってバカ騒ぎ?それとも、独身最後だから夜の蝶の所にでも行くのかしら。
ちなみに私は、半ば無理矢理だったけど長門、鳳翔さん、そして辰見の4人で飲む事にしたわ。
顔がむくむから前日にお酒を飲むのはやめた方が良いって話も聞くけど、私はお酒が抜けるのが早いから無問題。それに、少々むくんだところで私の美貌は損なわれないしね。
「それで?完全敗北を喫した桜子はそれからどうしたの?」
「辰見が何を期待してるのか知らないけど、普通にご飯食べながらテレビ見て談笑しただけよ」
顔の火照りが冷めるまで少し時間がかかったせいで、お父さんに『どうしたんや?風邪でもひいたか?』とかツッコまれたから誤魔化したり、20時前に部屋を出るまで朝潮の顔をまともに見れなくて苦労したけど、普通に団欒出来てたと思うわ。
「そこまで深く提督を愛しているとは……。さすが私の朝潮!私も同じくらい愛して欲しい!」
「
長門と書いて変態と読む。か、昔から小言は多かったけど、鳳翔さんってこんなに毒を吐く人だったっけ?まあ、長門が変態なのは否定しないけど。
「ありがと、鳳翔さん。朝潮も大変よねぇ。戦艦水鬼もこんな感じだったんでしょ?」
「そう聞いています。その内、長門さんも沈められるんじゃないですか?」
「最近はドッカンドッカン沈められてない?陸でだけど」
長門は無駄に鍛え上げた筋肉のおかげで、技術はないけど艤装なしの戦闘でもかなり強い。と、言うよりは耐久力がハンパない。
この私でさえ、被弾無視で組みついて来られたら抗う術がないほどよ。
その長門を組みつかれる前に吹っ飛ばしちゃうんだから、やっぱり朝潮は大したものだわ。次にケンカする時は武器有りにしてもらおっと。
「ねえ辰見、そろそろ『一番纏い』開けましょうよ」
「OK♪あ、でもさ、これって辛口なのよね?」
「いや、知ってて買ったんじゃないの?」
「私が買ったんじゃないのよ。ブルネイに麻耶って居たじゃない?その麻耶が、最近休暇で内地に帰って来て、そのついでに山口を旅行したらしくってさ。そのお土産にって送って来たのよ」
「山口を旅行?なんで?」
「いや、なんでって、寄港したのが岩国基地だったからって聞いたけど?」
そうじゃなくて、なんでわざわざ山口県を旅行しようと思ったのかって意味で言ったんだけど……。
山口県出身のお父さんには悪いけど、山口県って麻耶くらいの歳の女が観光で行くような場所があんまりないのよねぇ……。
ああでも、下関なら水族館とかタワーもあるか。けど、岩国からでしょ?だったら、近いのは錦帯橋かしら。その近くに、幽霊が出るラブホテルがあるとかお父さんに聞いた覚えがあるけど、間違っても観光で行くような場所じゃないわね。
山口市まで足を延ばせば瑠璃光寺とかがあるか。麻耶に寺を見て楽しむ趣味があるなら楽しめたかもしれないわ。そこから南に下った所にある商店街で、山口市民のソウルフードと言われている『バリそば』も食べれるしね。ちなみにこの『バリそば』。見た目は皿うどんなんだけど、食べると全くの別物だってお父さんが言ってたわ。
あとはそうねぇ……。周南市の夜景は女連れで見るならお勧めだってお父さんが言ってたかな。車か船が必要なのが難点らしいけど、艦娘の摩耶なら問題ないわね。
そうそう!周南市と言えば。最近、徳山駅内にスタバが出来たらしくて連日行列が出来てるみたいよ。
それを聞いたお父さんが『何十分も並んでコーヒー飲むくらいなら缶コーヒーでええじゃろ』って呆れてたわ。私も同意するけど、山口県民からしたらスタバは珍しいのよきっと。
「おっと、これじゃ観光協会の回し者だと思われかねないわね」
「いきなり何言ってるの?憲兵さん呼ぶ?」
「そこは衛生兵にしといて」
なぜ辰見は憲兵さんを呼ぼうと思ったのか。
それは兎も角、麻耶は辰見が甘いお酒しか飲めない事を知らなかったのね。
辰見の好みに合わせるなら、『一番纏い』より『獺〇』のほうが良かったと思うわ。
余談だけど、『〇祭』も山口県のお酒で、カテゴリー的には日本酒になる。
私は飲んだことがないんだけど、お父さん曰く『美味いことは美味いが、美味い日本酒を飲もうとして飲んだら失敗する』らしい。
お父さんの感想的には、日本酒よりワインに近いらしいわ。ワインっぽい日本酒って言ったら良いのかな?
まあ、これはあくまでお父さんの感想だから買う時の参考程度にしといてちょうだい。
「長門は飲んだ事あるの?」
「私か?私はないなぁ……。酒の味を覚える前に戦争が始まったせいでもあるんだが、艦娘になる前はカクテルとかビールばかりだった」
「今は?」
「今はなんでもいけるぞ。故郷の酒なら是が非でも飲みたいくらいだ」
そういえば、コイツも山口県出身だったっけ。まさか、艦名通り長門市に住んでたんじゃないわよね?
もしそうだったら言う前に止めるから。
聞きたくないと言うより、こんな、お父さんもドン引きするレベルのオープンロリコンが長門市出身とか言ったら長門市民に土下座して謝りたくなっちゃうもん。
「ちなみに長……」
「もういい!それ以上言わないで!」
「最後まで言わせてくれよ……。曾祖父さんの代に移り住んだらしいんだが、中々に運命的なエピソードが有るんだぞ?」
「どんな?面白くなかったら一品奢りだからね?」
長門の話では、元々は曾お祖父さんの代まで東京に住んで居たらしい。
それが何故長門市に移り住んだかと言うと、切っ掛けは大正12年に起きた関東大震災。
その大震災の折に、救助活動のために駆けつけた『長門』が運んで来た救援物資のおかげで生き長らえ、停泊中の『長門』をその目で見た曾お祖父さんは感謝と感動のあまり、『長門』の名の由来である、かつて長門国と呼ばれていた山口県の北側、さらに名前に長門を冠する長門市に移り住んだらしいわ。
間接的とは言え、艤装のモデルになった艦に命を救われ、名の由来になった地域に住んでた人が艦娘 長門になった。か、確かに運命的なモノを感じなくもないわね。
でも……。
「鳳翔さん。長門の奢りで出汁巻きよろしく♪」
「私は杏仁豆腐~♪」
「桜子も辰見も酷くないか!?」
べつに酷くなんてないわ。だって運命的なモノは感じたけど面白くなかったもん。私、面白くなかったら一品奢りって言ったよね?
「でも、私は不思議な縁だと思いますよ?私の祖父も終戦後に復員船で戻って来たんですが、その復員船はもしかしたら『鳳翔』だったのかも知れません」
「ふぅん。辰見もそういうの有るの?」
「私?う~ん…何か聞いたことが有るような無いような……。いや、
「知らないわよ。先祖が何してたかなんて気にしたこと無いもん。お父さん…血の繋がった方のお父さんね?は、漁師だったから先祖代々漁師だったんじゃない?」
あの生臭い臭いが当時は大嫌いだったなぁ……。けど、今では懐かしい。もう一度、あの臭いを嗅いでみたいって思っちゃうから不思議だわ。臭いフェチじゃないはずなのに。
「あ、日本酒をまともに飲んだの初めてだけど、これなら私でも飲めるわ」
「辰見はお酒弱いんだから程々にしときなさいよ?ウワバミが二人も居るんだからお酒が残る心配はないわ」
「確かに残らないな。桜子と鳳翔なら一時間も保たないだろう」
「桜子さんと長門さんの間違いでしょう?私は二人みたいにザルじゃありません」
こらこら。私は長門と鳳翔さんの事をウワバミって言ったのよ?それなのに、どうして私の名前が出て来るの?私は貴女たちと違って人並み程度にしか飲めないから。
「そうだ!ねぇ桜子、時間的にそろそろじゃない?」
「ん?何が?」
「盗聴器よ!貴女、円満に渡すお酒に仕掛けとけって合図したじゃない」
そう言えばそうだった。
時間は……21時半か。お父さんが酔うには少し早い気がするけど、興奮して酔いが早く回った円満が逆に押し倒す展開も有り得るわ。
「ちなみに、円満には嫁のOKも出たってラインで伝えといた♪」
「グッジョブよ辰見!」
ラインとやらが何なのかはわかないけど、伝えたって言ってるくらいだから通信手段よね?だったら問題ないわ。これで、円満は朝潮に遠慮する必要がない。気兼ねなくお父さんを誘惑できるわ。
「さすがに悪趣味ではないか?」
「そうですよ。会話を盗み聞きするなんて円満ちゃんが可哀そうじゃないですか」
とか言いつつ、辰見が取り出した受信機に寄って来る長門と鳳翔さん。
まあ、気持ちはわかるけどね。
泊地ほどじゃないけど娯楽の類が乏しい鎮守府、特に、鎮守府から外出するのにいちいち許可が必要な艦娘にとって、人の色恋沙汰は最高の御馳走なのよ。それに猥談が加わったら憲兵さんでも止められないわ。
実際、鳳翔さんは鼻息が荒くなってきてるし……。ムッツリスケベめ……。
「三人とも、準備は良いわね?」
「OKよ辰見。だから、早くスイッチ入れて!」
「まあまあ、そんなに慌てるな桜子。まだ始まってるとは限らないだろ?」
「長門さん。何を悠長な事を言ってるんですか?辰見さん!早くスイッチを入れてください!事が済んでからでは遅いのですよ!?」
「あ、はい」
おっと、受信機のスイッチが入る前に鳳翔さんのスイッチが入っちゃった……。目なんか血走ってるわ。鳳翔さんも溜まってるのねぇ……。何がとまでは言わないけど。
『ちょ、ちょっと待って先生……。まだ…その。心の…準備が……』
「「「「!?」」」」
辰見が受信機のスイッチを入れた途端、擦れた声で怯える円満の音声が私たちの耳に飛び込んで来た。
これは迫ってる?迫ってるよね?お酒に酔った勢いで、お父さんが円満に迫ってるんだわ!
いやぁ……さすがにここまで上手く行くとは思ってなかったなぁ……。まさか、あの身持ちが堅いお父さんが、お酒が入ったとは言え本当に襲っちゃうなんて……。部屋に踏み込む事も本当に考えとこ。円満が壊される前に……。
『待って先生!そんな乱暴に……きゃあっ……!』
「お、おい桜子……」
「黙ってて長門!まだ焦る段階じゃない!」
そう、まだ大丈夫。たぶんだけど、まだ円満が着てるはずのネグリジェを力尽くで引き裂いただけのはずよ。止めに入るには早すぎる!
『怖いか?』
『怖い…です……。正直…に言うと……。それに……凄く赤い……』
「赤いんですか!?提督の主砲は赤いんですか!?どうなんですか桜子さん!」
「し、知らないわよ!お父さんの主砲なんて見た事ないもん!」
思いがけずとんでもない情報を仕入れちゃったわ。
まさか、お父さんの主砲が円満も怯える程赤かったなんて。と言うか、鳳翔さんの顔も負けない位赤いんだけど?顔も鬼気迫るって感じだし、これ以上聞いてたら鼻血噴いて倒れちゃうんじゃない?
『あ、でも。匂いは好きかも……』
『エレガントさを感じる香りだろう?』
「桜子!提督の主砲はエレガントな香りなのか!?」
「だから知らないって言ってるでしょ!?なんで私が知ってると思ったのよ!」
それとも何?長門は、私がお父さんの主砲の匂いを嗅いだことがあると思ったの?あるわけないでしょ!今でも倫理的に問題だし、艦娘だった頃にそんな事してたら絵的にも大問題だから!
円満も円満よ。なんだ匂いは好きって!匂いフェチか!お父さんも飛ばしすぎよ!いきなり突き付けてるの?円満の顔に突き付けてるの!?
『え?なに?ちょっ!いきなり!?待って先生!いきなりは無理!せめて……んんっ!』
「な、何かを突っ込まれたみたいね……」
「な、何かってなんだ辰見……」
「言わなくてもわかるでしょ長門。問題は上か下か……。円満の声の感じ的に、口に含まされたって感じに聞こえたけど……」
ま、まあ、円満の顔に突き付けてたみたいだし、順当と言えば順当……かな?受信機からゴソゴソと暴れてる?みたいな音が聞こえて来てるし、きっと円満が苦しくて抵抗してるのね。
旦那に聞いたんだけど、お父さんの主砲って大きいらしいから……。
「なんか、急に静かになったわね」
「そうですね……。ゴソゴソと何か動いてるような音は聞こえますが……。辰見さん、盗聴器の収音範囲は?」
「提督の部屋の居間程度の広さなら余裕のはずよ。それで音が拾えないって事は……」
おそらく、部屋の奥に移動したんでしょうね。
お酒に酔ってても、初めては布団の上で抱いてやろうとかお父さんなりに円満に気を使ったんだと思うわ。良かったわね円満。相手の事を気づかう程度の理性は残ってるみたいだから壊される心配はないと思うわよ。保証はしないけど……。
「聞こえないなぁ……。もうちょっと良いの仕掛ければよかった」
「辰見さん、受信機の音量を上げてみたらどうですか?」
「もうやってるわよ。ってぇ!アンタら近すぎ!鳳翔さんは鼻息荒すぎ!」
おろ?いつの間にか、私達四人は受信機を中心として少し動いただけでぶつかりそうな程頭を近づけ合っていた。
鳳翔さんなんて、ムフーッ!ムフーッ!と鼻を鳴らしながら、カンターから上半身を乗り出してるわ。ダメだこの人。
「やっぱり聞こえないなぁ……。音量はMaxなんだけど……」
「なあ桜子。ふと思ったんだが、この状況で提督なり円満なりが大声を出したらどうなるんだ?」
「考えたくない。変なフラグ立てるのやめてよ長門……」
「ムフーッ!ムフーッ!」
お約束みたいな気がするけど、音量がMaxになった受信機の近くに居る時に大声なんか出されたら間違いなく耳が逝く。辰見もその可能性に気づいたのか、冷や汗をかいてるわ。
まさかと思いたいけど、急に音が聞こえなくなったのはお父さんが盗聴器に気づいたからなんじゃ……。
『コラ!お前ら!盗み聞きするとは何事だぁぁぁぁぁ!』
「んひぃぃぃぃぃっ!耳がぁぁ!耳がぁぁぁぁ!」
まさかが当たってしまったぁぁぁ!
興奮しすぎて半ば暴走状態だった鳳翔さん以外が受信機から離れる事を考え始めた途端に、お父さんが文字通り耳をつんざくような怒声を浴びせて来た。
耳がキーン!ってして、他の三人が何言ってるかわかんないけどたぶん私と似たような事言ってのた打ち回ってるわ。くっそう!あんのクソ親父!やっぱり気づいてたのね!
「耳の奥が痒い!耳の奥がぁぁ!鳳翔さん!耳かきか綿棒ない!?」
「ごめんなさいごめんなさい!もう盗み聞きなんてしません!だから許してぇぇ!」
「頭がクラクラしますぅ……」
一頻りのた打ち回って、聴力が復活し始めてから聞こえて来たのは三者三葉のリアクション。
辰見は耳に指を突っ込んでグリグリしてるわ。気持ちは凄くわかる。けど、耳を傷つけちゃうから程々にしときなさいね。
長門は両耳を塞いでひたすら謝ってるわね。お父さんの怒号で『長門の仮面』が剥がれて素に戻っちゃったみたい。涙目で怯えてる姿に懐かしさすら感じるわ。
鳳翔さんは、目をグルグル回しながら頭をフラフラさせてる。顔が若干青ざめてるわね。お父さんの一括で、頭に昇ってた血が急激に下がりでもしたんでしょう。
「あのクソ親父…今何時だと思ってるのよ……。辰見、盗聴器は?」
「ダメね。壊されちゃったみたい……。って言うか苦しい!抱きつくのは良いけど力一杯抱きつかないで長門!」
「陸奥より硬い…‥」
「文句言うなら離れろ!話には聞いてたけど、素のアンタって本当にこんななのね!」
素に戻った長門が、文句は言いつつも辰見の胸に幸せそうに顔を埋めてるわ。辰見はガチで苦しそうだけど……。助けた方が良いかな。
「あ、朝潮だ」
「ダニィ!朝潮だと!?どこだ桜子!」
この変態め。朝潮と聞いて速攻で『ながもん』になりやがった。しかも、さっきまで抱きついてた辰見を文字通り放り投げて……。
辰見は生きてるのかしら。頭から床に激突してたけど……。あ、ムクッと立ち上がって戻って来た。
「大丈夫?」
「殺す……。あのクソゴリラ絶対に殺してやる……」
うわぁ…辰見がマジギレしちゃってるじゃない。長門はそんな辰見など毛ほども気にせず、私の嘘を信じて朝潮を探して食堂内をウロチョロしてるし。
長門が戻って来たら殴り合いが始まるのかしら……。正直、茶番みたいな殴り合いはもうお腹一杯だなぁ。
「居ないじゃないか桜子!私を騙したな!」
「いや、私に文句言う前に辰見に謝りなさいよ」
「ん?辰見に?どうしたんだ辰見。鼻が赤いぞ?酔ったか?」
ビキッ!って音が聞こえた気がした。恐る恐る辰見を見てみると、額には今にも弾けそうな程浮き上がった青筋。握り込んだ両拳からは血が滴りそうだわ。
そりゃあ、いくら辰見でも怒るわよねぇ……。
息もまともに出来ない程抱きしめられたと思ったら、頭から真っ逆さまに落ちる様にぶん投げられたんだもの。理不尽にも程があるわ。
「アンタ…明日の夜から近海の対潜哨戒ね。一人で」
「おいおい辰見、頭大丈夫か?私は戦艦だぞ。それなのに対潜哨戒、しかも夜だなんて私に死ねと言ってるようなもんじゃないか」
「うっさいゴリラ。だから死ねって言ってんのよ。それとも、今すぐオレが殺してやろうか?あぁん!?」
おお!怖い!冗談じゃなく本当に怖い!
今の辰見だったら、昔よく言ってた『フフフ、怖いか?』もシックリ来るわ!駆逐艦に言おうものなら、怯えて失禁する事間違いなしよ!
「あ…マジなの?え?なんで?私何かした?」
あ、辰見の迫力に負けてまた仮面が剥がれた。しかも私の後ろに隠れたし。
長門は今にも泣き出しそうだし、辰見は殴りかかりそうだし、これは辰見の怒りを鎮めた方が良いかなぁ……。
「許してあげてよ辰見。きっと朝潮って聞いて軽く暴走しちゃったのよ」
「じゃあ、桜子は暴走したら人を投げ飛ばしても良いって言うのか?」
「良くはないわよ。でもほら……。あ!昔さ、貴女に挑発された私が貴女を殴っちゃった時に、長門が止めに入ってくれた事があったじゃない?その時の借りを返すと思ってさ。ね?」
「うっ……それを出されると……」
お?これはいけるかしら。後ろの長門は『そんな事あったっけ?』とか言ってるけど、辰見の反応を見ればそういう事があったのは間違いない。実は、私もうろ覚えだったんだけどね……。
「はぁ……。わかったわよ。今回は大目に見てあげる」
「さすが辰見♪良かったわね長門。許してくれるってさ」
なんと見事な仲裁。激怒していた辰見が、逆に申し訳なさそうにし始めた。
『ごめんね?本当にごめんね?』と長門が謝り、『もういいったら。私もちょっと大人気なかったから』とお酒を酌み交わしてるわ。
「けど、桜子さんが朝潮ちゃんの名前を出さなければ……」
「鳳翔さん、それ以上言わないで」
蚊帳の外だった鳳翔さんが余計な事を言いそうになったのですかさずシャットアウト。
たしかに朝潮の名前を出さなければ長門は暴走しなかったでしょうけど、元はと言えば辰見を助けてあげようとしただけだし、もっと言えば、長門が素に戻っちゃうほどの怒声を浴びせたお父さんが悪い。
うん、どう考えても私は悪くないわ。諸悪の根源はお父さん!と、言う事にしておこう。
「ふと思ったんですが、辰見さんの素はどっちなんです?」
「私の素?」
「はい。たまに天龍だった頃の口調に戻ったりしますよね?あっちが素なんですか?」
「う~ん……。どっちかと言うとこっちが素よ?艦娘になる前は今みたいな喋り方だったし」
「ではなぜ、怒ったりすると天龍だった頃みたいになるんですか?」
へぇ。辰見って艦娘になる前の一人称は『オレ』じゃなくて『私』だったんだ。なんだか意外。言われてみれば、喋り方も艦娘だった頃とはまるで違うし、しいて言うなら龍田に近いかしら。
「ほら、長い間住んでた土地の方言が出る事ってあるじゃない?そんな感じで、興奮したりすると出ちゃう事があるのよ。たぶん」
「じゃあ逆に、龍田が『オレ』とか言ってたりしたの?」
「いいや?妹は昔からあんな喋り方だったわ」
「だったら、なんで貴女は艦娘になった途端に『オレ』とか言い出したのよ。もしかして中二病だったとか?」
「いや…その……。うん……否定はしない…かな……」
辰見の話だと、軍人家系の常なのか、辰見家は厳格で躾に厳しく、将来は軍人もしくは軍人の嫁になる事を強要されていたらしい。
そんな家庭環境の中、せめて空想の中でだけはと思って、アニメや漫画にのめり込んだんだって。『異世界に転生するのが夢だった』とかバカな事も言ってたわね。
いや、あながちバカな夢でもないのかしら。
本当かどうかは知らないけど、元帥さんっていう異世界転生者も実在する事だし、もしかしたら出来たのかもね。
「でさ、親から解放されて、それまで親の言いなりだった自分を忘れたくて……」
「キャラを作ったと?」
「ま、まあ…そういう事……」
辰見も色々あったのねぇ。
もう記憶も朧気になっちゃってるけど、私の家はどうだったかな。田舎暮らしが嫌で、早く大人になって都会に出たいと思ってたのは覚えてるけど、家族仲は悪くなかったわ。
お父さんは、今のお父さんと違ってあまり喋らない人だったけど、私とお母さんの事を大切にしてくれてるってのが態度でわかったし、お母さんは、そんなお父さんと対照的によく喋る人だったな。お父さんの分までお母さんが喋ってるんじゃないかと思ったほどよ。しかも私に似て超絶美人!
そんな美人のお母さんが、毎朝お父さんを港で見送る姿は町の名物にもなってたわ。
実際の意味とは少し違うんだけど、そんな私の両親は正に『男は船、女は港』って感じだったんだってさ。
「辰見さん。先ほど、軍人の嫁になるのを強要されていたと仰いましたね?」
「え?言ったけど……」
「では、許嫁的な殿方はいらっしゃるのですか?」
おろ?なんだか妙な方向に話が流れたわね。
辰見は『マズい……』って感じで冷や汗流してるし、長門は動きを悟られないようにゆっくりと鳳翔さんから離れて行ってる。
そうだ!昼間に、今晩鳳翔さんが結婚に焦ってるかどうか聞いてみようと思ったんだった。
話の流れで聞いてみよっと。
「居る…けど……。会ったこと無い……」
「なるほど、それで合点がいきました」
「一応聞くけど…何に?」
「辰見さんが適齢期にも関わらず焦らない理由ですよ!何すっとぼけてんですか!」
うわぁ……。
点いちゃいけない火が鳳翔さんに点いちゃった。この様子じゃ、鳳翔さんは結婚に焦ってるわね。
絡まれた辰見はご愁傷様だけど、聞かなくて良かった~。
もし『鳳翔さんって結婚したいとか思ってないの?』とか聞こうものなら、結婚済みの私は間違いなく標的にされてたわ。
「そんなに結婚したいなら、倉庫街にでも行って逆ナンでもすればいいじゃない。鳳翔さんなら釣り放題でしょ?」
「それは…恐らく無理よ桜子」
「どうして?って言うか、いつまで素で居る気よ長門。違和感ハンパないんだけど」
「もう、今日はこのままで良いかなって……。それで、鳳翔が倉庫街で男を逆ナン出来ない理由だけど……」
あら?さっきまで辰見に詰め寄ってた鳳翔さんが、見てわかるほど動揺し始めた。
『いや、あの…その話は……』とか言って長門を止めようとしてるわ。
「もう4年。いや、大方5年前になるかしら。鳳翔と龍驤が、倉庫街の建物をいくつか更地にしちゃったのよ」
「はぁ!?なんでそんな事したのよ!辰見は知ってた!?」
「知るわけないでしょ…5年前って言ったら、アンタと一緒にリンガに居た頃よ?」
それでか。鳳翔さんが何故そんな事をしたのかまではわからないけど、そのせいで倉庫街の人達から避けられるなり怖がられるなりしてるから、鳳翔さんは逆ナンが出来ないんだわ。
「語弊があります!私は怒り狂った龍ちゃんを止めようとしただけです!」
「龍ちゃん?誰それ。辰見は知ってる?」
「軽空母の龍驤よ。ハワイ島攻略にも参加してたわよ?」
あ~、そう言えば、去年鳳翔さんが舞鶴に居るその子を云々って行ってた気がする……。
でも、なんで怒り狂って数棟もの建物を更地にしたりしたんだろ。
「私だってあの一件は後悔してるんです……。私が龍ちゃんを止めていれば、龍ちゃんは舞鶴に異動になる事も無く、先代の朝潮ちゃんだって戦死せずに済んだかも知れないんですから……」
「ちょっと鳳翔さん、それどういう事?」
「その一件で損壊した建物の修繕費を呉鎮守府が肩代わりしてくれたんです。その借りを返すために、提督は防衛力が下がるのを承知で、長門さんと陸奥さんを含む横須賀の主力艦隊を派遣する羽目になりまして……」
「やめなさい鳳翔。それは結果論よ」
「ですが……。長門さんだって朝潮ちゃんの件は後悔してるでしょう?」
「それは…そうだけど……」
過ぎた出来事の『もし』を言っても仕方がないけど、その一件が無ければ先代の朝潮が戦死せずに済んだかもとは私でも考えちゃうわね。
艦隊を派遣するにしても、長門と陸奥のどちらかは残せたかも知れないんだし……。
「ねえ鳳翔さん。龍驤はなんでそんな事件を起こしたの?」
「私は詳細を知らないのですが、龍ちゃんと倉庫街をお散歩してる時に『そこの無乳でお悩みの貴女!この道を行けば悩みが解消される事間違いなし!』と書かれた看板を龍ちゃんが見つけたんです。それに誘われるように龍ちゃんが建物の間の道に入っていったんですが……。出て来た時には血涙を流すほど激怒してまして、それで、威力が落ちる陸からでは火力不足と言って洋上から爆撃を……。看板を焼却できたかは、確認してないので不明ですが」
んんんん!?なんか聞き覚えがある文言だわ。それってまさか……。いや、たぶん間違いない。倉庫街に看板を使ったイタズラを仕掛けてるのなんて私くらいのはずだし。
「そ…それってさ……。キッチリ等間隔に10枚くらい看板が並んでなかっ……た?」
「私は入ってないのでキッチリかどうかはわかりませんが、言われてみればそうだった気がしますね。けど、どうして桜子さんが……。あ……」
察しちゃった?察しちゃったよね!?そうです!その看板トラップを設置したのは私です!いやぁ、若気の至りとは言え、私も幼稚な事をしたもの……。あれ?ちょっと待って……。
私のイタズラに引っかかった龍驤が激怒して建物を破壊して、その修繕費を呉鎮守府が肩代わりしたから、お父さんは請われるがまま仕方なく横須賀の主力艦隊を派遣したのよね?
その結果、横須賀は敵艦隊の襲撃を受け、朝潮が……。
「わ…私の……せい?朝潮が死んだのは私の……」
「それは違うわ桜子。だから、それ以上考えちゃダメ」
「だ、だって……!」
「あの襲撃は、担当軍区の哨戒を疎かにした呉提督の失態と言っても良い出来事だし、攻略すべき敵艦隊を逃した、あの作戦に参加した艦娘全ての責任と言っても良い」
「けど、私のイタズラが元なんでしょ?私があんなくだらない事をしなきゃ……」
「良い?桜子。今から私の言う事をよく聞きなさい。あの当時、他の鎮守府提督と比べて大した戦果を上げてなかった呉提督は、やっと回って来た大規模作戦主導の立場を最大限に利用して戦果を上げようと躍起になっていたの。それこそ、他の鎮守府から艦隊を借りてでもね。だから、例えその一件がなくとも、横須賀は艦隊を派遣しなきゃいけなかったでしょうし、私か陸奥のどちらかが残っていても、仮定が変わっただけで結果は変わらなかったかもしれないわ」
「それでも!もし二人の内のどちらかが居たら……!」
朝潮は死なずに済んだかもしれないし、今頃はお父さんとの間に子供も生まれてたかもしれない。
もしかして私、お父さんにとって疫病神だったんじゃない?
私を連れて家に帰らなければ、きっとお母さんたちはお父さんに会いに岩国基地に行ってた。基地も空襲の被害に遭ったけど、お父さんと一緒なら助かったかもしれない。
私が艦娘になんてならなければ、陸軍の上層部から嫌われはしてても、食料に困るほど補給を絞られたりはしなかったはずだわ。
提督になったのだってそうよ。私が変な気を回さなければ、お父さんは今も陸軍に居たはずだわ。そしたら今頃は、訓練以外は戦闘とほぼ無縁の生活だったはずよ。
そんな生活をしていれば、いくらお父さんでも今頃は復讐心も風化してたかもしれない。
「ごめん…私……お父さん……ごめ……」
「まだ話は終わってないわよ桜子」
「でもぉ……」
「でもじゃない。聞きなさい。いえ、答えなさい。貴女はどうして、そんなイタズラをしようと思ったの?これを言ったら駆逐艦の子達に悪いと思うけど、そのイタズラが効きそうなのって、龍驤みたいな例外を除けば駆逐艦くらいのものよね?貴女、当時イジメてきてた駆逐艦に仕返しするつもりで仕掛けたんじゃないの?」
「それは……」
長門の言う通り、確かにあのイタズラは駆逐艦を標的にしたもの。
当時、直接手は出してこなかったものの、陰でコソコソと私を通してお父さんの悪口を言うアイツらが大嫌いだった。
だから、駆逐艦が見たら不快になりそうな文言を書いた看板を、駆逐艦が面白半分に探検する倉庫街に大量に仕掛けたわ。けど、そのせいで朝潮が……。お父さんの幸せが……。
「ほらやっぱり。だったら、朝潮が戦死したのは桜子のせいじゃない。貴女がそんなイタズラをせざるを得ない程追い詰めた当時の駆逐艦たちだわ。いえ、もっと言うなら、貴女がそこまで傷ついてたのにフォローしなかった提督のせいとも言えるわね」
「違う!お父さんは悪くない!」
「そう、提督も悪くない。ね?不幸の理由を探り出したら切りがないでしょ?終いには、戦争が悪いに行き付くだけよ?」
「それは…そうだけど……」
たしかにそう言われると気持ちが楽になる気がするけど、それでも聞いちゃったんだもの。私が仕掛けたイタズラが、朝潮が戦死する一因になったって聞いちゃったもの。こんな気分じゃ、明日の結婚式になんて出れない……。
「長門の言う通り、桜子のせいじゃないわ。アンタをイジメてた駆逐艦に有る事無い事吹き込んだのは私よ?だから、朝潮が戦死したのは私のせいでもあるわ」
「辰見まで……」
「きっと、色んな事が積み重なって、それが偶々、朝潮の死に繋がっちゃったのよ。誰か一人のせいにするなんてナンセンスだわ。それでもアンタが自分を許せないって言うんなら、明日の結婚式にはちゃんと出なさい。そして、幸せ一杯な姿を提督に見せてあげなさい」
「どうして……」
「そうなるのかって?簡単よ。朝潮は過程がどうであれ、愛する提督のために命を投げだした。そんな子が死んだ後に望む事は何だと思う?残してしまった提督の幸せでしょうが!だからアンタは、絶対に明日の結婚式には出なきゃいけないの。親への手紙で提督を泣かせて、ブーケを投げるアンタを見て幸せそうに微笑む提督を朝潮に見せるの!提督の幸せそうな笑顔が、朝潮にとっての一番の供養になるんだから」
お父さんの幸せそうな笑顔が一番の供養になる?
そうなのかな。辰見が言う通り、朝潮が死後も望みそうな事と言えばお父さんの幸せだと私も思う。
けど、私が幸せそうにしてたらお父さんは喜んでくれる?本当にお父さんは幸せ?血の繋がりのない、義理の娘である私なんかの結婚式を見て、お父さんは本当に幸せになってくれるの?
「桜子さん。貴女が南方に旅立った後、提督がここで飲んでる時に何を話してたと思います?」
「え……?わかんない……。仕事の愚痴とか?」
「確かに愚痴もありましたが、大半は貴女の事でした。『神風がまた泊地に迷惑をかけたらしい』とか『神風のおかげで鎮守府の金庫が空になりそうだ』とか『神風の奴!タウイタウイでギンバイを働いちょるらしい!』などなどです」
「いや、それって文句じゃない?」
「文言だけ受け取れば文句ですが、そう言ってる時の提督はすごく嬉しそうでした。きっと、貴女が元気でやってるのがわかって、嬉しくてしょうがなかったんですよ」
だから、お父さんは私の結婚式を心から喜んでくれるって言うの?迷惑ばっかりかけたのに、苦労ばっかりかけたのに。
「独身の私が言うのも何ですが、子供の事で苦労できるのは親の特権です。その苦労の集大成である桜子さんが、明日の結婚式で正式に巣立って行くんですよ?嬉しくない訳がないでしょう?」
「邪魔者が居なくなって、これで堂々と朝潮とイチャイチャ出来る。とか思ってるかもよ?」
「「「……」」」
「ちょっと!そこは否定するところでしょ!?」
それなのに、なんで3人ともわざとらしい程私から目を逸らすのよ。鳳翔さんなんて体ごと後ろ向いてるじゃない!こっち向けこら!
「ま、まあ、話もまとまったみたいだし、乾杯しない?ね?長門も鳳翔さんもそれで良いでしょ?」
「「異議な~し」」
「まとまってない!大体、何に乾杯する気なのよ!」
あ、コイツら問答無用で乾杯して強引に話を誤魔化す気だ。だって、私の意見なんて関係無しにお酒を注ぎ始めたもの。
「え~ではでは……。え~と…何に乾杯する?」
「いや、ノープランかい!」
乾杯しようとか言うなら、それくらい決めてから言いなさいよ。長門と鳳翔さんも『鳳翔が結婚できますようにとかは?』『長門さん、工廠裏に行きましょう。久々にキレてしまいましたよ』とか漫才じみた事始めたし。
「じゃあここは、本日の主役である桜子に乾杯の音頭をとってもらいましょう」
「「異議な~し」」
「いや、なんで!?乾杯しようって言いだしたの辰見じゃん!」
それなのに、私に乾杯の音頭を取れとか丸投げにも程があるでしょ!
だいたい、乾杯の音頭を取るって言っても何て言えばいいのよ。『桜子さん結婚おめでと~♪』とか言えとでも?自分で自分に!?ただのバカじゃん!
「絶対ヤダ!」
「ええ~。やってよ桜子~。やってくれないとぉ~。私はぶてちゃうぞ♪」
「辰見、マジに似合ってない。ぶっ飛ばすわよ?」
いやいや、『そんなに似合わない?』とか鳳翔さんに聞いてんじゃないわよ。鳳翔さんも律儀に『そんな事ないと思いますけど……』とか答えなくていい。って言うか、鳳翔さんも似合うと思ってないよね?めちゃくちゃ苦笑いしてるじゃない。
「桜子、本当に嫌?私は桜子にやってもらいたいんだけど」
「だ~か~ら~!嫌だって……。な…何よ長門、そんな顔で見てもやんないわよ?」
普段の戦艦 長門じゃない素の長門が、まるで優しく諭すように微笑みながら私を見てる。
そう言えば、長門は学校の先生だったって昔聞いたわね。先生だった頃は、聞き分けのないない生徒をこんな顔して諭してたのかしら。
「私は…いえ、私たちは、貴女の結婚を心から祝福してるわ。きっと、ここには居ない龍田も」
「だ、だから何よ……」
「だから貴女に閉めて欲しいのよ。今日、このひと時が、貴女を中心に集まった私たちの日常の終わり。明日の結婚式を機に、新しい日常が始まるわ。新しい貴女を中心とした日常が」
「私を中心とした日常?」
「そう、私達3人。いや4人は、全員貴女に惹かれる様に集まった。良い出会い方だったとは言い難いけどね。けど貴女が居なかったら、私たちはこんなに仲良くなってなかった。それどころか、私は弱さを克服できずに死んでたかもしれないし、辰見はバカのままだったかもしれない。鳳翔は、桜子に言ってた分の小言を他の子に言って五月蠅いおばさん扱いされてたでしょうね」
長門……。貴女は良い事言ってるつもりなんだろうけど、辰見と鳳翔さんが怖い目で睨んでるわよ?私も否定はしないけど、それじゃあケンカを売ってるのと変わらないわ。もしかして、素の長門って天然なのかな?
「長門さんには後でキッチリと落とし前をつけさせるとして、私もその通りだと思いますよ?桜子さんが居なければ、私たちはただの知り合い程度の付き合いだったと思います」
「そうね。桜子は私達のリーダー的存在だったんだもの。最後は桜子が閉めるべきね。妹も…きっとそう言うと思うわ」
まったく、私がリーダー的存在ですって?私ってこの中で一番年下なのよ?それなのに、皆して私を頼っちゃってさ……。
いや、頼ってたのは私も同じか。
鳳翔さんが小言を言ってくれなければ、私は今も身だしなみに気を使わなかったかもしれないし、長門が居なければ、私は睡眠不足で最悪死んでたかもしれない。
辰見姉妹が居なければ、きっと私は、心も体も強くなれなかった。
そう思うと、みんなが今の私を形作ってくれたようなものなのかもね……。
「わかった……。やったげる……」
私がそう言うと、3人は黙ってグラスを掲げた。
ありがとう、私と出会ってくれて。ありがとう、私とケンカしてくれて。ありがとう……こんな負けず嫌いで意地っ張りの私と一緒に居てくれて。貴女達は、私の大切な親友よ。
「私たちの友情に!」
「「「「かんぱ~い!」」」」
グラスを鳴らし合い、私たちは明日が結婚式だというのに日付が変わるまで飲み合い、語り合った。
今日の出来事を忘れないように。明日も今みたいに笑い合えるように。ずっとこうやって、大好きな親友たちと一緒に居られるようにと祈りながら。