艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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 イベント完走!浜波?知らない子ですね。
 
 この話も完走間近!と、言う事で残り三話の内の一話です。


結婚前夜 提督と円満

 

 

 心臓が早鐘のように鳴り続けている。

 ドキドキなんてもんじゃない。バックンバックン言ってるわ。こんな、痛いくらい心臓が鳴るのはいつ以来だろう……。

 もしかしたら、生まれて初めてかも知れないわね。

 

 「来て…しまった……」

 

 時刻は21時前。21時ジャストに寝てしまう朝潮は確実に帰ってる時間だわ。

 けど、桜子さんに焚き付けられたとは言え、本当に来る私はどうかしてる。

 ただ来るだけならまだしも、お化粧は桜子さんに止められたから眉を描く程度に抑えたものの、今日はいつもより念入りに体を洗い、ジャージの下にではあるけど『いつか着る時が来るわよぉ~』と言う荒潮の口車に乗って買った、ピンクの勝負下着とネグリジェ(共に公序良俗に宣戦布告するレベルでスケスケ)を身に着けてやる気満々。

 何をやる気なのかは聞かないでよ?そこは察してちょうだい。

 

 「しかも…あんな情報を知らされたら……」

 

 やるしかない。

 辰見さんからのラインで『桜子から聞いたんだけど、朝潮の許可が下りたってさ。だから遠慮なくヤっちゃいなさい♪』と知らされた私を縛るモノはもう無い。

 朝潮がどんな気持ちでそんな許可を出したかまではわからないけど、大方『浮気しても、最終的に自分の元に戻って来てくれればいい』とかそんな感じなんでしょ。

 

 「だったらヤってやる……」

 

 先生が朝潮一筋なのは嫌になるくらい知ってる。例え今晩、何かの間違いで私を抱いてくれたとしても、きっと私たちは体だけの関係にしかならない。

 けど、それでも良い。

 本気で好きな人と、体だけでも繋がれるなら本望よ。社会的にアウトだとか知ったことじゃないわ。

 

 『円満か?どうしたんだ?こんな時間に』

 

 「あ…えっと……」

 

 ノックをしようと右手を挙げた途端、気配で察したのか先生の方から声をかけて来た。

 おかげで、さっきまでいきなり抱きついてキスの一つでもしてやる!くらいの覚悟をしてたのに気勢を削がれちゃったわ。

 

 「やっぱり円満じゃないか。どうかしたのか?」

 

 「いや、あの……」

 

 ダメだぁぁぁぁ!

 ドアを開けて出て来た先生を目の前にしたら完全に怖じ気づいてしまったぁぁぁ!って言うか、桜子さんは私が来る事を先生に伝えてくれてないの!?

 

 「ん?その手に持ってる箱はまさか……」

 

 「え?箱?あっ!そう!お酒!先生が好きそうなお酒が手に入ったから一緒に飲もうと思って来たのよ!」

 

 「そりゃ気ぃ使わせてしもぉたのぉ。取り敢えず入れや。夜とは言え廊下は暑いじゃろ」

 

 「うん…お邪魔します……」

 

 よ…よし。部屋に入る事には何とか成功した。後は先生にお酒を飲ませて、良い感じに酔ったところで私のネグリジェ姿を披露すれば、いくら先生と言えども狼と化すはずよ。

 私なんかのネグリジェ姿で興奮してくれればだけど……。

 

 「摘まみは……。お、鶏皮のから揚げがあるじゃないか。あとは……野菜スティックか。塩辛がありゃ最高じゃったんじゃが」

 

 「あの…桜子さんから何も聞いてない……の?」

 

 「ん?何を?」

 

 「私が今晩来る事……」

 

 あ、これは聞いてないや。だって、冷蔵庫の中を漁ってた先生が一瞬キョト~ンとした後『んん~?』とか言いながら首を傾げてるもの。でも私的にはラッキーだったかしら。先生のキョトンとした顔なんてレアだもん。眼福眼福っと。 

 

 「やっぱり聞いちょらんのぉ。朝潮に飲み過ぎるなと注意はされたが……。まあ、アイツの事だ。言うたつもりで忘れちょるんじゃろ」

 

 「そう……。都合悪い?都合が悪いなら……」

 

 「いや、問題ない。そんな良い酒を持って来てくれたお前を追い返すのも気が引けるしのぉ」

 

 「私じゃなくてお酒をでしょ?」

 

 「そんなこたぁない。俺ぁ、一人で酒飲むんが嫌いなんじゃ」

 

 お摘みを持ったまま、私が座った場所の対面に腰を下ろした先生は、若干照れくさそうにそう言った。

 うん、知ってる……。先生が、気を許した相手の前でしかお酒を飲まない事も桜子さんから聞いて知ってる。その中に私も入ってると知ってすごく嬉しくて、誇らしかった。

 

 「おおそうじゃ、今日満潮が来たぞ」

 

 「この部屋に?」

 

 「ああ、朝潮が誘ぅたらしゅうてな。一緒に飯食うて少し前に帰った。なぜか大淀も一緒じゃったが……」

 

 「大淀さんまで来てたの!?なんでまた……」

 

 軽巡 大淀。

 各鎮守府に配備されている艦娘とは違い、それぞれが対空、索敵などの『大本営を防衛するため』に必要な性能を有した大本営付き艦娘のまとめ役であり、現海軍元帥の秘書艦。そして、朝潮姉さんの実の姉……。

 そんな人がどうしてここに?

 

 「どうも朝潮に会いに来たらしい。スマホの連絡先とかも交換しよったのぉ」

 

 「こんな平日に?非番だったの?」

 

 「そりゃあないじゃろ。大方、ジジイが息抜きでもさせよう思うて、適当な事言うて追い出したんじゃないか?」

 

 息抜きねぇ。まあ、大本営に居たらストレス溜まりそうだし、偶には息抜きしたくなる気持ちはわかるわ。

 私は一度しか言った事無いけど、あそこって常に監視されてるような視線を浴びせられるし、隙を見せれば即座に殺されてしまいそうな緊張感に満ちてるんだもの。

 実戦経験がない人たちばかりだからそういう空気に鈍感なのかもしれないけど、あそこで普通に仕事ができる人は神経がイカレてるわ。

 

 「美味そうじゃのぉ。早ぅ味わいたいわい」

 

 「ふぇ!?な、何を!?」

 

 美味そう?味わいたい?もしかして私を!?待って待って待って!私まだジャージ姿よ!?色気もクソも無い状態なのよ!?それなのに美味そう?そ、そりゃあ、容姿は平均以上の自信はあるし、美味そうと言われて悪い気はしない。けどやっぱり、順序と言うか雰囲気と言うか、そういうのは出来るだけ大事にしてほしいって言うか……。良いのよ!?先生が早く味わいって言うなら私は良いの!

 でもほら!私って初めてだし、だから心の準備はしたいって言うか……。

 

 「何って…酒じゃけど?」

 

 「え?あ…ああ!お酒ね!そうよお酒よ。やぁねぇ先生ったら変な言い方しちゃってぇ」

 

 「俺、何か変な事言うたか?」

 

 「いやっ…!あの……あ!箱!まだ箱に入った状態で美味そうも何もないでしょ!」

 

 よし!誤魔化せた!ちゃぶ台の上にドン!と置いて見せたお酒は箱に入ったままだもの。絶対に誤魔化せた!

 先生も『そう言われりゃそうじゃのぉ』って言ってるし、私が美味しそうとか言われて『あ、先生って私の事を美味しそうだと思ってくれてるんだ』とか妄想を膨らませてたのはバレてないわ。

 

 「じゃあ剥くか」

 

 「剥く!?待って!そういう事なら私が自分で……!」

 

 今日、着た後に姿見の前で実際に見てみたけど、勝負下着&勝負ネグリジェを身に着けた私は中々……。いや、かなり。いやさ!絶対にエロい!思わず『うわぁお……』って言っちゃったくらいだもん。胸の大きさが些細な問題に思えちゃうくらい挑発的だったわ。

 そんなエロスの権化と化した自分を見られるならできれば自分で脱ぎたい。焦らすように脱いで先生の理性を蒸発させてやりたいのよ。脱ぎ方だって、ネットで調べて練習したんだから!

 けど、それをするには心の準備が足りない。なんとか先生を思い留まらせて心の準備をしないと。

 

 「ちょ、ちょっと待って先生……。まだ…その。心の…準備が……」

 

 ダメだ!先生の瞳は私しか見ていない!左袖で涎を拭いながら無言で右手を伸ばして来てるわ!このままじゃ剥かれちゃう!問答無用で剥かれちゃう!

 それはそれで良いような気もしてるけど、折角気合入れて着て来たネグリジェ姿は見て欲しい。ああでも!押し倒されて無理矢理素っ裸に剥かれるのも捨てがたい!

 とか考えてる間に、先生の手は私の目の前だしぃぃぃ!どうする私ぃぃぃ!

 

 「待って先生!そんな乱暴に……きゃあっ……!」

 

 先生の手が胸元に届き、私を無理矢理……。無理矢理ぃぃぃ!って、あれ?待てど暮らせど、押し倒される気配もなければジャージが引き裂かれる様子もない。

 代わりに聞こえて来たのは、ちゃぶ台に置いてた赤と金で彩られたお酒の箱が破られる音。

 あぁ……。剥くってそっちか……。紛らわしい。早く飲みたいのはわかるけど、力づくで箱を破らなくてもいいじゃない。棚にでも飾っておけば、それなりに絵になりそうな程見た目は良いんだから。

 って言うか、箱より私を剥きなさいよ……。

 私を剥けば、そんな真っ赤なラベルに能面で言う『女面』が描かれたお酒じゃなく、白く透き通るような10代の肌が拝めたのよ?

 しかも能面はリアルに描かれてるからちょっと……。

 

 「怖いか?」

 

 「怖い…です……。正直…に言うと……。それに……凄く赤い……」

 

 うん、マジで怖い。あんまり見過ぎると夢に見そうなくらい不気味で赤いわ。そのせいで若干声も擦れちゃったし。味と匂いはどうなんだろ?先生が線を開けてグラスに注ぎ始めたけど……。

 

 「あ、でも。匂いは好きかも……」

 

 「エレガントさを感じる香りだろう?」

 

 高くもなく大人しくもなく、悪く言えば普通。だけど、確かな存在感を持った香り。先生の言う通り、エレガントさを感じるような気がするわ。

 

 「……」

 

 私が渡されたグラスに注がれたお酒の匂いを堪能している最中、ふと先生の方を見ると、酒瓶の底を無言で凝視しているのに気づいた。

 何を見てるんだろ?まさか、酒瓶の底にまで能面の絵が描いてあるのかしら。

 

 「え?なに?」

 

 一瞬だった。さっきまで、ちゃぶ台を挟んで私の対面に座っていた先生の顔が、何の前触れもなく私の目の前に突然現れた。

 1メートルも無いわずかな距離とは言え、瞬き程の瞬間に私の傍まで移動した!?

 いや、それ自体は良い。先生ならそれくらいの芸当が出来たって不思議じゃないわ。問題は、何のために吐息が感じられる距離まで私に詰め寄ったか。

 もしかして、勘違いの妄想でモジモジしてた私を見て欲情しちゃった?ガーってなっちゃったの?けど、このまま畳の上でってのも捨てがたいけど、贅沢を言わせてもらえるなら布団の上の方が……。

 あ、無理だわこれ。すでに、先生の手が私に伸びて来てる!

 

 「ちょっ!いきなり!?待って先生!いきなりは無理!せめて……んんっ!」

 

 伸びて来た先生の手に口を塞がれた事で、私はやっと覚悟を決める事が出来た。

 うん、良いよ……。先生が無理矢理が良いって言うなら無理矢理でいい。少し怖いけど、先生が相手なら何をされても構わないわ。ああでも、キスはして欲しいなぁ……。

 とか考えながら事が起こるのを待ってたんだけど、中々それ以上行為が進まない事を不思議に思って目をゆっくり開けてみたら、酒瓶を持ったまま口の前で人差し指を立てて『し~~』ってやってる先生の姿が目に映った。

 これは声を出すなって事…よね?

 

 (これをよく見ろ)

 

 私が意図を読み取った事を察した先生はゆっくりと私の口を塞いでいた手を退け、代わりに酒瓶の底を私の方へ向けて指さしながら、唇だけ動かしてそう言った。

 

 (それ、まさか盗聴器!?)

 

 (そうだ。おそらく桜子の差し金だろう)

 

 おのれ桜子ぉぉぉ!私を焚きつけた本当の理由はこれか!

 大方、私と先生の情事もしくは私が慌てふためいて変な事を口走るのを肴にして面白おかしく酒を飲もうって魂胆だったのね!しかも!お酒をくれたのは辰見さんだから間違いなく辰見さんも共犯!盗聴器を仕掛けたのはたぶん辰見さんだわ!

 

 (どうする?壊す?)

 

 (いや、壊す前にお仕置きはせんとな)

 

 盗聴器の存在を私に知らせた司令官は、ジェスチャーで耳を塞げと私に指示してゆっくりと息を吸い込み始めた。きっと大声を出す気なんだ。

 お約束な気がしないでもないけど、数分とは言え私たちは声を発していない。聞こえたとしてもゴソゴソと言う物音程度のはずだわ。だとすると、盗聴者どもは受信機の音量を上げて周りに集まってる可能性が高い。今この瞬間こそ、離れた場所に居る不届き者を懲らしめる絶好の機会!やっちゃえ先生!

 

 「コラ!お前ら!盗み聞きするとは何事だぁぁぁぁぁ!

 

 先生の声は思ってたより凄い声量だった。

 耳を塞いでいても私の鼓膜を震わせ、窓ガラスもガタガタと音を立てた。突風でも吹いたのかと錯覚したほどよ。盗聴者共の鼓膜は間違いなく逝ったわね。ざまぁ見ろ!

 

 「まったく、歳取る毎にイタズラが悪質になってきちょるのぉ」

 

 元の位置に座り直して、バキィ!っと盗聴器を握りつぶした先生が誰にともなくそう言った。

 でも、セリフの割に嬉しそうに見えるのは私の気の生かしら。見ようによっては、懐かしそうにしてるようにも見えるわね。

 

 「本当にね……」

 

 「どうした?妙に疲れちょるみたいじゃが」

 

 「ちょっとね……。気にしないで……」

 

 先生に襲われるのを妄想しすぎて疲れたなんて絶対に言えない。言える訳がない。言ったら社会的に死んじゃうもの。お酒飲んで少し落ち着こう……。

 あ……美味しいわねこれ。これならいくらでも飲めそう……。

 

 「すまんなぁ。俺がやらにゃいけん分まで仕事したせいじゃろ?」

 

 「え?違う違う!そういう疲れじゃないから!」

 

 「謙遜するな。おおそうじゃ!揉んじゃるけぇこっち来い」

 

 「ふぁ!?揉む!?」

 

 何処を!?いやいや、落ち着くのよ円満!ついさっき落ち着こうって思ったばかりじゃない!冷静に考えるのよ。男性が揉むと言ったら何処?男は女のどこを揉みたいと思う?いや、考えるまでもない。

 胸か尻しかないでしょ!何年も前だけど、荒潮が姉さんに『男はぁ、見たい揉みたい吸いつきたいっていう欲求を押さえつけながら日々過ごしてるのよぉ』って教えてたし!

 

 「そう遠慮すんな。お礼みたいなもんじゃ」

 

 「ふぇ!?いや、あの……」

 

 先生が手招きしてる。これは早く来いって事よね?お礼と言われたら断るのも悪い気がするし……。

 行くしか…ないか。いや!行こう!これはチャンスだわ!本当かどうか知らないけど、男に揉まれたら大きくなるって話を何処かで聞いた事があるし、揉んだでる内に先生もその気になるかもしれない!

 

 「じゃ、じゃあ……。お願いします……」

 

 私は先生の横に移動して、細やかな胸を精一杯先生に向けて突き出した。

 ジャージを脱いでからの方が良かったかしら……。でも荒潮が『脱がれるよりぃ、脱がす方が好きな人も居るらしいわぁ』って言ってから、先生が前者か後者かわからない内は様子を見よう。

 

 「あ~……。後ろ向いてくれた方がええのぉ」

 

 「う、後ろからが良いの!?」

 

 「まあ……そっちの方が揉みやすいけぇ」

 

 そっか、後ろからの方が揉みやすいのか……。勉強になったわ。

 でもどうやって揉むんだろ?私の両腕を抱え込むように手を回して揉むのかしら。それとも、腋の下からグワッと手を差し込んで揉むのかな?

 

 「痛かったら言うてくれ。久しぶりじゃけぇ力加減がわからん」

 

 「う…うん……。わかった……」

 

 久しぶりなのかぁ……。そりゃそうよね。奥さんが亡くなってからかなり経つし、仕事が忙しいのもあるけど、横須賀鎮守府の提督がその手のお店に通ってるなんて知れたら軽くスキャンダルになりかねないもの。

 性欲まで押さえつけなきゃいけないなんて、提督って大変だなぁ(小並感)

 

 「ひゃんっ!」

 

 「お?痛かったか?」

 

 「い、いや……。痛くはないんだけど…その、予想外の場所だったから……」

 

 「予想外?この体勢じゃ肩以外揉みようがないじゃろ」

 

 「肩!?肩を揉む気だったの!?胸じゃなくて!?」

 

 「いやいや、そんな訳ないじゃろ。そんな事したら後が怖そうじゃし」

 

 そうよね!先生は私の気持ちを知らないんだし、疲れた云々から揉むってなったら肩か腰くらいしかないわよね!何言ってんだろ私……。そのつもりで来たもんだから、どうしてもそっち方面にしか頭が働かない……。

 

 「だいぶ凝っちょるのぉ。今日一人でやってみてどうじゃった?」

 

 「単純に疲れたかな……。色々とアクシデントもあったし……」

 

 「アクシデント?敵襲でもあったか?」

 

 「ああ違う、その手のアクシデントじゃないわ。ちょっと色々あったのよ」

 

 言える訳ないよねぇ……。猥談で暴走して由良さんをスパンキングし、騒ぎを聞きつけて踏み込んで来た桜子さんが、執務室のドアを吹っ飛ばして窓が無くなったなんて……。

 しかもその後に、桜子さんと辰見さんに唆されてヤる気満々でここに来ましたなんて口が裂けても言えないわ。

 って言うか、先生って肩揉むの上手いわね。眠たくなってきちゃう。眠く……。

 

 「はっ!寝るな私!」

 

 「眠いんなら寝てもええぞ?」

 

 「絶対寝ない!寝るなら先生も一緒よ!」

 

 「俺も!?」

 

 しまったぁぁぁぁ!眠気のせいで変な事を口走っちゃった!

 このままじゃまずい……。なんとか話を逸らして誤魔化さなきゃ。何か話題は無い?何か…先生の興味を引きそうな話題は……。

 

 「せ、先生ってネグリジェ好き!?」

 

 「ネグリジェ?ネグリジェちゅうたら、あの下着か寝巻かわかり辛いヤツか?」

 

 どうしてネグリジェの話題出しちゃったのよぉぉ!先生は今、絶対『何言ってんだコイツ』ってなってる!話題を逸らそうとしてネグリジェがどうとか聞く人間は世界広しと言えどもきっと私だけだわ!

 でも、話題を出した以上は続けないと返って不審に思われかねないわよね。よし、押し通そう。

 

 「そうそれ!どう思う?好き?嫌い?さあどっち!」

 

 「好きか嫌いかで言うたら……。実物を見た事ないけぇ何とも言えん」

 

 あれ?桜子さんは好きって言ってなかったっけ?もしかして出鱈目!?とりあえずやらしい恰好しとけば先生も食いつくだろうって感じで出鱈目言ったの!?あんの赤髪自己中女めぇぇぇぇ!

 

 「じゃ、じゃあ…女の子が着てるのを見たいとか思う?」

 

 「眼福とは思うが……俺みたいなオッサンの前でそんな格好したがる子なんて居らんじゃろ」

 

 居ますぅぅぅ!オッサンな貴方に惚れてるばかりか、ネグリジェを着込んで来てる女の子は先生の目の前に居ますぅぅぅ!しかも肩揉まれてますぅぅぅ!

 

 「それに居ったとしても、俺はまともに反応できんじゃろ……」

 

 「ど、どうして?」

 

 「いやぁ……お前にこういう話をするのはセクハラになりかねんのじゃが……。去年の秋頃に、ダメージを負ってなぁ……。それ以来反応が悪ぅなっちょったんじゃが……。今日、桜子にトドメさされたみたいで……」

 

 「そ、それはつまり……」

 

 「ああ……。ぶっちゃけ起たん……」

 

 なん…だと……?去年の秋頃から反応が悪かった?その頃で思い当たる事と言えば、神風だった頃の桜子さんが先生を襲ってた事件。あの人、反応が悪くなるまで先生のナニを搾り取ってたの!?

 しかも、今日トドメを刺されたって言ったわよね?え?あの人、私を散々焚きつけといて、肝心の先生の主砲を使い物にならなくしてたの?

 なんでそんな酷い事するのよ!私がその気でも、先生の主砲が使い物にならなきゃ意味ないじゃない!

 

 「病院は……?病院は行ったの?」

 

 「行ってない……。その…恥ずかしゅうて……」

 

 「恥ずかしがることないのよ先生……。EDは病気なの。だから、ね?一人が心細いなら私もついて行ってあげるから」

 

 先生…そんなにションボリしちゃって……。ショックだったのね……。

 そうよね。先生ってまだ40前だもの。ヤリたい盛りかどうかはしらないけど、現役なのに使えないってショックよねきっと。私になんとかしてあげれたらいいのに……。

 

 「そうだ……」

 

 「ん?どうした?」

 

 私のネグリジェ姿でどうにかならないかしら。

 これは私の勝手な憶測だけど、先生は何年も女性の裸を見ていないはず。

 エッチな本やビデオで見てる可能性もあるけど、映像と生とじゃインパクトが桁違いなはずだわ。

 これだ!脱ぐなら今しかない!先生の主砲を修理すると言う名目で脱げば自然!い、いや待って、自然?ただの痴女のような……。ううん!きっと自然なはずよ!

 

 「ね、ねえ先生……。私の裸を見たら…その……。起つ?」

 

 「いや、何言うちょんじゃお前は。酔ったか?」

 

 「私は起つか起たないかって聞いてるの!酔ってるかどうかなんて今関係ないでしょ!」

 

 「女の子が起つ起つ言うんじゃありません!」

 

 「良いから答えてよ!これは治療なの!けっっっして!いやらしい目的で言ってるんじゃないの!」

 

 私は肩を揉んでくれてた手を振り払って先生の方へ体ごと振り向いた。

 かなり困惑してるわ。きっと、状況が特殊すぎてどう答えたら良いのかわからないのね。困ってる顔がちょっと可愛いかも……。

 

 「円満…貴女疲れてるのよ……」

 

 「疲れてない!私は突かれたいの!」

 

 「メディィィック!大至急来てくれメディィィィィック!円満が壊れたぁぁぁぁ!」

 

 話にならないわね。私は壊れてなんかない。むしろ壊されたいの!貴方に!ここで!

 だからもう、手段なんて選ばないわ。起たない?だったら起たせてやろうじゃない!羞恥心もプライドも何もかも投げ捨てた私の本気を見せてやるんだから!

 

 「お、おい…何をする気だ……。なぜ上着のジッパーに手をかけている?」

 

 「怖がらなくて良いわ先生。私が治してあ・げ・る」

 

 「お前の目が怖いわ!それレイプ目っちゅうヤツじゃろ!」

 

 「さあ先生。私を見て。貴方のために着飾って来たこの姿を……」

 

 ジャージのジッパーが下に降りて行くに従って、私の心臓の鼓動が高鳴って行く。

 解放感と高揚感のコラボレーションが私を何処までも大胆にしてくれてるわ。

 

 「そんな照れちゃって……。先生って意外と初心(うぶ)なのね

 

 「やめろ円満、お前に脱ぎ癖があるのはわかった。だからもうやめろ。いや、やめてください!お願いします!」

 

 「ダ~メ♪」

 

 私は上着を脱ぎ捨て、間髪入れずにズボンに手をかけた。

 これを脱ぎ終えた時、私は夜の蝶……いや!蜜を滴らせ、男を惑わす魔性の華と化す!

 

 「たっだいま~♪」

 

 「え……?桜子さん?なんで……」

 

 私がズボンを脱ごうとした瞬間、どこからどう見ても泥酔している桜子さんが、ドアを勢いよく開けて入って来た。

どうしてこのタイミングなのよ……。煽るだけ煽って、期待させるだけさせといて邪魔するとか悪魔かこの女!

 

 「飲~みす~ぎた~♪ういっひっひっひ~♪服が邪魔~♪」

 

 なんて早業!?桜子さんは、『服が邪魔~♪』と言った数瞬後には下着姿になっていた!しかも、ブラもショーツもド派手な赤!それに加え、私が着てるの並にスケスケ!表情はニヤけた酔っ払いだけど、プロポーションが抜群なせいでフラフラしてるだけなのに滅茶苦茶エロイ!

 

 「はぁ……。すまん、円満。少し待っちょってくれ」

 

 「ああ~♪おと~さんだ~♪しか~も二人~♪あひゃひゃひゃひゃひゃ♪」

 

 「はいはいお父さんですよ。ったく。泥酔するまで飲みおって。明日……もう今日か。が結婚式なん忘れたんか」

 

 「そう~♪結婚式~♪花嫁さんは~。私~♪」

 

 いいなぁ……。下着姿で先生の首に両腕を回して体重を預ける桜子さんは、まるで先生の恋人みたい。表情もなんだか色っぽく見えて来たわ。

 って言うか。桜子さんの艶姿を見て平然としていられるなら、私の下着姿なんか見てもピクリともしないか……。気勢と一緒に自信まで打ち砕かれちゃった……。

 

 「ほら、さっさと横になれ」

 

 「やーー!お父さんも一緒に寝るのーー!」

 

 「わかったわかった。すぐ行くけぇ先に寝ちょれ」

 

 「うん……。早く…来て……ね?」

 

 そう言って寝息を立て始めた桜子さんに布団をかけ、先生は私の方に戻って来て定位置に座りなおした。

 なんか、後ろ頭をポリポリと掻いて申し訳なさそうにしてるわね。娘の痴態を見せてしまって申し訳ないって感じなのかしら。

 

 「桜子さんって、お酒飲むとああなるの?」

 

 「飲み過ぎるとな。滅多にない事じゃが、あそこまで酔うと一人でも寝れるんじゃアイツは」

 

 「一人でも寝れる?どういう事?」

 

 「お前は知らんかったか?桜子は誰かが隣に居らんと寝れんのじゃ。昔、色々あったせいでな……」

 

 へぇ、そうだったんだ。なんだか意外ね。寝相悪そうだけど、隣の人は迷惑しないのかしら。今度辰見さんにでも聞いてみよ。確か、ラバウルに居た時は同室だった覚えがあるし。

 

 「それより円満。上…着てくれんか?」

 

 「え?あっ!ごめん……。こんな貧相な体見せられても迷惑よね……」

 

 「そんな事ぁない!俺みたいなオッサンに言われても嬉しゅうないと思うが、綺麗じゃ思うたぞ!」

 

 「ホ…ホントに……?桜子さんみたいに凹凸も無いのに?」

 

 「ああ!ホンマいや!俺ぁ桜子みたいなメリハリの利き過ぎた体より……ってぇ!何言うちょんじゃ俺は……」

 

 そ、そっか、先生は桜子さんみたいな体形より私みたいな体形の方が好みなんだ……。しかも綺麗って言ってくれたし。上を着ろって言う前にそう言ってくれてたら慌てて着たりしなかったのに。

 

 「桜子さん……。幸せそうな寝顔するのね……」

 

 「ん?ああ……。起きちょる時もあんななら、俺も安心できるんじゃが」

 

 「やっぱり心配?」

 

 「そりゃあのぉ。奇兵隊の総隊長にもホンマはなってほしゅうなかった……」

 

 「戦いから遠ざけたかったから?」

 

 「ああ……。桜子は十分戦った。退役する言うても誰も文句を言えんほどにな。ほいじゃのに、アイツは戦い続ける事を選んだ……。それが誇らしい反面、悲しゅうてな……」

 

 「どうして……そう思うの?」

 

 「アイツに戦い方を教えたんは俺じゃ。気弱で泣き虫じゃったアイツを、俺が兵士に変えてしもうた……。俺とさえ出会わんかったら……」

 

 「先生、それ以上言ったら怒るわよ」

 

 「円満?」

 

 俺とさえ出会わなかったらですって?その続きはなんて言おうとしたのよ。大方『普通の生活を送れてかもしれない』とか『幸せだったかもしれない』とかそんな感じでしょ?ふざけないで!

 

 「先生と出会ったから今の桜子さんが居るの。あそこで呑気に寝息立ててる桜子さんは、先生と出会ったからあそこに居るの。俺が兵士に変えた?桜子さんはその事で先生を恨んだりしたの?してないでしょ!」

 

 「じゃけど……」

 

 「じゃけどじゃない!少しは自信持ちなさいよ!貴女が育てた桜子さんは全艦娘最強!しかも!開戦以来誰も成し得なかった中枢棲姫討伐を成し遂げた英雄よ!?そりゃあ、普段の桜子さんは人を玩具にして遊ぶ人畜有害なクソ女だけど、誰よりも先生に感謝してる!誰よりも先生の事を想ってる!それなのに、貴方は自分と出会わなかった方が良かったとか言うの!?」

 

 「円満……」

 

 「あの人ね、今日私にこう言ったの。『お父さんの日常になってあげて』って。私に何を期待してそんな事を言ったのかまではわからないけど、桜子さんは自分が離れる事で先生の日常が壊れる事を心配してるの。そんなに想ってくれてる人に、自分と出会わなければ良かったなんて言わないであげてよ……」

 

 「すまん……。俺の失言じゃった……。じゃけぇ…泣かんでくれ…な?」

 

 先生に言われて初めて気がついた。私、いつの間に泣いてたの?感情が高ぶり過ぎてて全然気がつかなかったわ。けど、おかげで先生は納得してくれたみたい。女の涙は武器だとか言うけど、先生にも有効だったみたいね。

 

 「ごめん…私も感情的になり過ぎたわ……」

 

 「いや、ありがとう円満。おかげで、今日の結婚式に出る決心がついた」

 

 「ちょ、ちょっと待って?出ない気だったの!?」

 

 「いやぁ……。正直どんな顔してええかわらんくて……」

 

 呆れた……。この人、あわよくば隙を見て結婚式をボイコットする気だったのか……。もしそんな事したら、桜子さんとの間に修復不可能な溝が出来てたわよ?最悪、ボイコットした先生を探すために倉庫街を更地にするくらいはしたかも知れないわ。

 

 「絶っっっ対!ボイコットしちゃダメだからね!桜子さんが暴れたらどう責任取るつもりよ!」

 

 「はい…ちゃんと出ます……」

 

 「よろしい!だったら、さっさと飲むもの飲んで寝る!あと5~6時間位しか寝れないんじゃないの!?」

 

 「これじゃあ、どっちが先生かわからんのぉ……」

 

 「何か言った?」

 

 「いえ何も……。お注ぎしましょうか?円満先生」

 

 「しょ、しょうがないわね。そこまで言うなら注がせてあげる♪」

 

 両手で酒瓶を持ってお酌のポーズをする先生が何だか滑稽で、私は柄にもなくそんな事を言ってしまった。相手は私の上官で、しかも想い人なのにね。

 

 「じゃあ…帰るね……」

 

 「気ぃつけて帰れ……ちゅうてもすぐそこか」

 

 持ち込んだお酒を飲みほした後、私はそれ以上何もせず部屋に帰る事にした。

 桜子さんは泥酔して爆睡してるから、もし隣で事を起こしても気づかれる心配はなかったんだけど……。何か悪い気がしちゃってさ……。ああでも、せめてもの仕返しに……。

 

 「先生、襟元に何か着いてるわよ。取ってあげる」

 

 「ん?寝巻じゃけぇ別に少々汚れちょって……」

 

 私は、何も着いていない先生の襟を掴んで顔を引き寄せ、自分と先生の唇を重ね合わせた。

 ごめんね朝潮。たぶんだけど、先に先生の唇を頂戴しちゃったわ。私のファーストキスと引き換えに……。

 

 「円満…お前……」

 

 「良い事教えてあげるわ先生。私、お酒に酔うとキス魔になっちゃうの♪だから、これはお酒に酔った勢い。それ以上でも、それ以下でもないわ……」

 

 「そりゃあ……。次からは気ぃつけんとのぉ……」

 

 「うん……気を付けてね……」

 

 私はそう言って、真っ赤になった顔を先生から隠すように背を向けた。

 先生は今どんな顔してるんだろ……。困惑してる?照れてる?それともビックリしてる?もしくは全部?どれでも良いけど、これを機に少しでも私の事を意識してくれたら嬉しいな……。

 

 「おやすみなさい先生。また、結婚式でね」

 

 「ああ、おやすみ。円満」

 

 先生が部屋の中に入り、ドアを閉める音を聞きながら、私は自分の部屋へと歩き始めた。

 結局、当初の目的は達成できなかったけど、今はこれで十分。体は満たされなかったけど、心は満たされたわ。

 私の想い人は、本当なら想いを寄せてはいけない人。好きになっちゃいけない人。

 だって、相手が居るんだもの。例えその相手が許可を出したと言っても、それは許されざる事だ。それなのに、私はその状況を楽しんでる。

 

 「私って、不倫願望があるのかしら……」

 

 朝潮。アンタは私を想って許可を出したのかもしれないけど、私からしたらアンタがしてる事は非道よ。残酷と言っても良いわ。そんな余裕ぶった態度をしてたら、本当に取っちゃうわよ?

 だから、私が取り返しのつかない事をする前に先生の事を諦めさせて。

 私に、アンタと先生の事を祝福させて。

 私が、貴女の友人でいられる内に……。

 私が、貴女と一緒に笑い合えてる内に……。

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