艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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神風邂逅3 神風と鳳翔

 お父さん達と別れてから、私はある事に悩まされた。

 イジメとかじゃないわよ?右の頬をぶたれたら、相手の左頬にドロップキックが私のスタンスだったからね。やられたらやり返すってしてたら、イジメは気づいたら無くなってたわ。

 誰も近づいて来なくなっただけだけど……。

 

 そんな些事よりも、私を悩ませてたのは睡眠不足。

 ほら、私って夜一人じゃ寝れないじゃない?元帥さんったら、私が呉に着くなり他の艦娘と揉めたから、変に気を遣って一人部屋にしてくれたのよ。

 そのせいで夜寝れなくてさ、毎日のように『先生ぇ……先生ぇ……』って泣いてたわ。

 

 「ああっ!なんて可哀想な私!」

 

 「そういうのええけぇ、早ぉ続き話せや」

 

 まあ!なんて酷い父親かしら!

 可愛い娘が夜な夜な、父親を恋しがって泣いてたってのに、少しは悪い事したなぁとか思わないの?

 

 「まさか、昼夜逆転の生活しちょったんじゃなかろうの?」

 

 「してませんーっ!私は真面目な良い子ちゃんなんだからそんな事してないもん」

 

 「自分で自分を『真面目な良い子ちゃん』とか言う奴を初めて見たわ……」

 

 そう?割と居ると思うわよ?私も会ったことは無いけど。

 

 話を戻すけわね、今言った通り昼夜逆転の生活はしてなかった。泣き疲れて、夜明け前の1~2時間くらいは寝る事ができたからね。後は昼寝とかして保たせてた。

 ただ、昼寝は場所を探すのが大変だったかな。

 

 だって、私の可愛さを妬んだ軽巡や駆逐艦どもが、私が寝てる隙にイタズラしようとしてたのが態度で丸わかりだったもん。奴らの魔の手から逃れるために、私は執務室で寝たりしてたわ。

 

 「そのせいか知らないけど、今でも執務室だとグッスリ眠れるわ」

 

 「威張って言うな、それで執務室に入り浸っちょったんかお前は」

 

 そんなあからさまに嫌そうな顔しちゃって……。

 わかってるのよ?私が執務室に来てくれて嬉しかったんでしょ?お父さんって意外と親バカだからねぇ、可愛い愛娘が昼寝してるのを見て癒されてたに違いないわ。

 

 「鳳翔さんとか長門の部屋で寝たりせんかったんか?仲ええじゃろお前ら」

 

 「あの頃は仲悪かったわよ?ケンカもしょっちゅうしてたし」

 

 「長門はともかく、鳳翔さんともか?彼女がお前とケンカするところなんか想像できんが……」

 

 「あの人って、今はマシだけど意外と血の気多いのよ?」

 

 「そうなんか?」

 

 そう、鳳翔さんは人前じゃ猫被ってたけど、一度火が点くと長門以上に厄介だった。逆に長門は、あの頃は気が弱くてね、自分の主砲の音にビビって腰を抜かしてたわ。

 

 「だから!執務室でお昼寝をするのはやめてと、いつも言ってるでしょ!」

 

 「しょうがないじゃない!下手なとこで寝るとイタズラされそうなんだもん!」

 

 執務室で寝てる私を、鳳翔さんが怒鳴って叩き起こすのがあの頃のお決まりのパターンだったな。

 その後は、口喧嘩に飽きた私が執務室を退散して終わり。ケンカはしょっちゅうしてたって言ったけど、私と鳳翔さんは口喧嘩くらいしかしなかったわね。

 

 「まあまあ鳳翔君、仕事の邪魔をしてる訳じゃないし、別にいいじゃないか」

 

 「良くありません!元帥さんがそうやって甘やかすから、神風さんがつけ上がるんです!」

 

 今思い返しても、鳳翔さんの怒鳴り声が一番邪魔になってたと思うのよね。普段はお淑やかな癖に、怒鳴ると声が凄く大きいだもん。

 

 「夜、一人で寝れないなら鳳翔君と一緒に寝るかい?彼女も一人部屋だし」

 

 「絶対嫌、この人小言が五月蠅いんだもん!」

 

 「貴女が言わせるんでしょう!」

 

 この時は、元帥さんも頭を抱えてたなぁ。

 でも、鳳翔さんと同室は絶対に嫌だった。

 だって初日の印象が最悪だったし、お父さんたちが出て行った後も、やれお風呂には毎日入れとか、やれ歯磨きは朝昼晩しなさいとか、下着は毎日換えなさいとか、とにかく五月蠅いの!私は鳳翔さんの子供じゃないのよ?

 

 「男所帯に居たのがいけなかったのね。女の子らしさが欠片もないわ」

 

 「また先生たちを悪く言った!別に先生たちのせいじゃないもん!」

 

 「言わせたくなかったらちゃんとしなさい!貴女は女の子なのよ?艦娘だからって、身だしなみに気を使わなくていいなんて事はありません!」

 

 「お母さん気取りはやめて!そういうのは自分の子供に言いなさいよ!」

 

 「貴女みたいに大きい子供がいる歳じゃありませんから!」

 

 「貴女の歳なんて聞いてないんだけど!?」

 

 まあ、だいたいこんな感じかな。

 鳳翔さんと仲が悪い事が鎮守府内に広まってからは、鳳翔さんを慕う空母達も私の敵になっちゃって、私は針の筵状態だったなぁ。

 

 「いや、それお前が悪ぅないか?」

 

 「どこが!?お父さんちゃんと話聞いてた?」

 

 「歯を磨けとか、風呂入れとか、下着を変えろとか普通じゃろうが、鳳翔さんは間違った事言うちょらんぞ?」

 

 「それは……そうだけどさ……」

 

 そりゃあ鳳翔さんの言う事も今ならわかるけど。あの頃の私は、歯も磨けないしお風呂にも入れないような生活が普通になっちゃってたのよ?いきなり生活習慣を変えろとか無理よ。

 

 「一応聞くが、最後に下着を換えたのはいつだ?」

 

 「毎日換えてるけど!?言っとくけどそれ、セクハラだからね!相手が私じゃなかったら訴えられても文句言えないわよ!?」

 

 寄りにも寄って下着の事聞く!?

 私だってそのくらいは気にするようになったわよ。

 なんなら見せてあげようか?艦娘だった頃は下帯ばっかりだったけど、今はお父さんが白目剥いて失神するくらい、すんごいの穿いてるんだから。

 

 「はぁ……そんなに敵ばっかり作って、よう後ろから撃たれんかったな」

 

 「後ろから?あるわよ?実戦じゃさすがにないけど、演習で敵味方両方から滅多撃ちにされた事ならあるわ」

 

 そういう組み合わせにした元帥さんも悪いと思うんだけどね。

 あれは、私と仲違いしてる軽巡や駆逐艦、それに空母達で艦隊を組んで演習した時の事よ。

 きっと示し合わせてたんでしょうね、演習場に着くなり、私以外の11人が一斉に私を攻撃し始めたわ。あの頃はペイント弾なんてなかったから、火薬の量を減らしただけの模擬弾(仮)を使ってたんだけど、アレって当たると痛いし熱いの。私は、速攻で中破まで痛めつけれれたわ。判定は轟沈だったけど。

 

 「身の程を思い知った?陸でケンカが強くたって、海上ならスペックの低い旧型なんか敵じゃないのよ!」

 

 11人掛かりで何言ってんだコイツって思ったなぁ。

 今で言う、空母機動部隊に駆逐艦一人で挑んだようなものよ?最盛期の私でも勝ち目なんてないわ。そのセリフを言ったのが、初日に私が半殺しにした軽巡だったから余計に腹が立ったわね。

 

 だから私は、他の艦娘達から十字砲火を浴びながらも、ソイツだけは痛い目に遭わせてやろうと思って突っ込んだの。

 

 「何してるのよ!とっくに轟沈判定でしょ!?」

 

 「轟沈判定なのに攻撃を続けてるのはどこのどいつよ!」

 

 スペックでは負けてたけど、曲がりなりにも私には実戦経験があった。当たっても死なない戦闘なんて遊びと一緒、私は被弾しても関係なしに軽巡に接近したわ。

 

 「この!この!なんで止まらないのよ!」

 

 止まるわけがない。確かに当たれば痛かったし、あちこち火傷や裂傷だらけだったけど、頭に血が昇った私はそんな程度じゃ止められない。私を止めようと思ったら、殺すくらいしなきゃ無理よ。

 

 「ひっ……むぐ!」

 

 私は、軽巡に体当たりして押し倒し、馬乗りになって単装砲を軽巡の口に突っ込んだわ。歯が何本か折れた感触がしたけど、私は構わずこう言ってやったの。

 

 「旧型ですって?バカね!駆逐艦の実力は、スペックじゃないのよ!」

 

 ってね。

 まあ、その後は駆け寄って来た他の奴らに羽交い絞めにされてフルボッコにされちゃった。演習なのに大破寸前まで痛めつけられたわ。

 そして、動けなくなるほど殴られて、海上を仰向けで漂いだして一時間くらい経った頃だったかな。鎮守府の方から、鳳翔さんが私の方に向かって来てるのが見えたわ。

 

 「軽巡の子が工廠に運び込まれたから何があったのかと思いましたが……。もう少し、他の子と仲良くできないんですか?」

 

 私のそばに着くなりいきなり小言を言い出したっけ。

 正直、大きなお世話だって思ったな。

 

 「複数で一人をタコ殴りにするような奴らと、仲良くなんてしたくない……」

 

 「はぁ……。あの子達は後で私が叱っておきます。さすがにコレは看過できません」

 

 「あら、貴女も私の事嫌いなんじゃないの?」

  

 「そう思われても仕方ないかもしれませんけど、これでも私は、貴女を尊敬してるんですよ?」

 

 鳳翔さんが肩を貸してくれて、私は曳航されて工廠へ向かい始めた。

 どうやって帰ろうかと思ってたから助かったなぁ。あのままだと、そのまま海の底に沈んでたかもしれなかったし。

 

 「尊敬してる?その割には小言が多いけど?」

 

 「アレはあくまで貴女の私生活についての小言です。私が尊敬してるのは貴女の在り方です」

 

 「意味がわかんないんだけど……」

 

 「元帥さんから聞きました。貴女は何もかも奪われて戦う事を選んだと。あの人達の補給を確保するために、艦娘になる事を選んだと……」

 

 元帥さんに話した覚えはなかったんだけど、元帥さんはお父さんから聞いたのかしら?けど、人に話すんなら一言あってもよかったと思うのよね。人の過去をペラペラと話すなんて酷いと思うわ。

 

 「貴女のような歳でそんな事を決めるなんて、素直に凄いと思いました。どんな経験をしたら、そんな決断ができるのか私には想像もつきません……」

 

 「褒め過ぎよ、どっちも自分のためだもん。先生に置いてきぼりにされたくなかったから、私は戦う事を選んだの。艦娘になったのも、私が先生の役に立ちたかったらよ……」

 

 「それでも、私は凄いと思います。貴女は自分のためだったと言いましたけど、私から見たら献身そのものです」

 

 献身か、そんなつもりはなかったんだけどな。

 あの頃の私は先生が全てだったから、先生の役に立てるならこの身を捧げてもいいと思ってたし。ああ、これが献身って事か。

 

 「鳳翔さんは、なんで艦娘になったの?」

 

 「私ですか?私は……ちっぽけな正義感からです……」

 

 「正義感?」

 

 「テレビで各地の惨状を見て、私にも何かできる事はないかと思ったんです。それで艦娘の適合試験に応募したら、『鳳翔』の艤装と適合できたんです」

 

 テレビか、最後に見たのってお父さんの家だったっけ?あの頃はまだ報道されてなかったな。そういえば、いつ頃から報道されるようになったんだっけ?

 

 「ヒーローにでもなりたかったの?」

 

 「英雄願望がなかったと言えば嘘になりますね……。けど、最初は医療関係の兵科と思ってたんですよ?まさか、弓を担いで戦うことになるとは思ってませんでした」

 

 『かんむす』と聞いて『看娘』とでも脳内変換したのかしら。

 もしかして、艦娘になる前は医療関係の仕事してたとか?って聞いたら、ハッキリそうだとは答えなかったけど、鳳翔さんはこう言ったわ。

 

 「尊敬する偉人はナイチンゲールです」

 

 「あ、その人知ってる!患者さんに恋しちゃう人でしょ?」

 

 「たぶん『ナイチンゲール症候群』の事言ってるんだと思いますけど、意味が若干違いますから調べることをお勧めしますよ」

 

 「嫌よ面倒臭い、鳳翔さんが教えてくれればいいじゃない」

 

 「女の子が面倒臭いとか言っちゃいけません!大佐さんが迎えに来る前に、貴女を躾直す必要がありそうですね!」

 

 とまあ、こんな感じの会話を交わしながら鎮守府へ戻った。

 実は、演習でリンチされた事より、鳳翔さんが私を自分の部屋に引っ越しさせようとした事の方が大変だった。なんか変なスイッチが入っちゃったみたい。

 

 「それで?鳳翔さんの部屋に引っ越したんか?」

 

 「するわけないじゃない、四六時中小言言われるくらいなら睡眠不足の方がマシよ」

 

 でも、この日の事がきっかけで、鳳翔さんとよく話すようにはなったのよね。小言以外にも、鳳翔さんと私は普通にお喋りする関係になったわ。

 執務室で昼寝するのも五月蠅く言われなくなったし。まあ、代わりに秘書艦の仕事を手伝わされたりするようになっちゃったけど……。

 

 「それにしても、何度もお前に歯を折られてその軽巡も災難じゃのぉ……」

 

 「懲りもせず私にケンカ売るのが悪いのよ」

 

 高速修復材で治るとは言っても、歯を折られるほど殴られたら懲りそうなものだけどね。学習能力なかったのかしらあの軽巡。

 

 「で?鳳翔さんはどんな叱り方したんじゃ?彼女が怒っちょるところが想像できんのじゃが……」

 

 「あー……、酷かったわよ?下手したら、私に殴られるより酷かったんじゃないかな?」

 

 後日、鳳翔さんに叱られたケンカ相手共を見て、さすがの私もドン引きしちゃった。

 光が反射するほどツルツルに頭を剃り上げられた子達が、首から『私たちは人間のクズです』と書かれた看板をぶら下げて、食堂の入り口のそばで丸一日正座させられてたのよ?

 控えめに言って、拷問だったわね。

 

 「お前はその子達を見てどうした?まさか指さして大爆笑でもしたんか?」

 

 「私がそんな酷いことする訳ないじゃない。私はねぇ……」

 

 そいつ等の格好を見るなり、私は食堂のおばちゃんに頼んで茶碗を11人分用意して、そいつ等の前に並べたの。それから一人づつ順番に五円玉を茶碗に入れて、満面の笑みを浮かべて丁寧に手を合わせて行ったわ。

 

 「『ざまぁ♪』って言いながらね」

 

 「うわぁ……」

 

 うわぁって何ようわぁって、私はお父さんの教え通りの事をしたのよ?『敵に手加減など一切するな。息の根が止まるまで徹底的に叩きのめせ』っていう教え通りにね。

 これ以降、そいつ等が表立って私にちょっかいを出す事は無くなったけど、代わりに、他の艦娘にまで私の悪評を広めてくれたのよね。そのせいで、呉に居る間私が普通に会話できるのは鳳翔さんと長門、それに天龍と龍田だけになっちゃったわ。

 

 「長門とはどうやって仲良くなった?あの頃の長門は今と違って大人しかったろんじゃろ?」

 

 「大人しかったとは少し違うんだけど……」

 

 私は別に、長門と仲良くしてるつもりはなかったんだけどなぁ……。

 けど、アイツのおかげで、私は夜まともに寝る事が出来る様になったのよね。そこに関しては感謝してるわ。

 

 じゃあ、次はその時の話をしましょうか。

 後に『横須賀の守護神』、『ながもん』、『朝潮限定の天災』と呼ばれる事になる、戦艦長門と私の出会った日の事を。

 

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