艦隊これくしょん ~緋色の風~   作:哀餓え男

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神風邂逅5 神風と天龍と龍田

 軽巡洋艦と言えば水雷戦隊の親玉、駆逐艦の嚮導役って感じかしら。私が呉に着くなりケンカした軽巡も駆逐艦を何人か連れてたわね。 

 この頃も、軽巡は駆逐艦から慕われ、姉の様な存在だったわ。

 もっとも、私はその軽巡をいきなり半殺しにしちゃったせいで、どこの水雷戦隊にも入れずに一人だったんだけどね。

 私が呉に居る間につるむようになった軽巡は、現在横須賀でお父さんの補佐をしている、元天龍である辰見と、その実の妹の龍田の二人だけだった。

 

 「そのお前が、どうやって天龍と龍田と仲良くなった?あの二人は駆逐艦から人気があったじゃろ」

 

 「え~とねぇ。最初は天龍にケンカ売られたんだったかな?」

 

 「お前はケンカしかしちょらんのか……」

 

 そう言われてみれば……最初の好感度はマイナススタートばかりだったわね。

 鳳翔さんの場合は私が一方的に嫌ってただけだけど、長門と天龍は『食堂前ツルッパゲ事件』の実行犯を私だと思ってたから、最初からケンカ腰だったし。

 龍田は……アイツはどう思ってたんだろ?天龍の後ろでニコニコしてるだけだったから、アイツがあの頃何を思ってたかは私にはわかんないな。

 

 「あれ?長門と天龍の私に対する好感度がマイナスだったのって鳳翔さんのせいなんじゃない?」

 

 「いや、お前の手が早いのが原因じゃろ」

 

 「ちょっと、お父さん大丈夫?話聞いてた?呆けるにはまだ早いわよ?」

 

 どこをどう聞いたら私が悪いって事になるのかしら、私はイジメっ子一味の頭を剃って晒し者になんかしてないわよ?そんな事をする暇があったらその分昼寝してたわ。

 天龍龍田姉妹と出会った時も、その事から切り出された。

 たしかこんな感じで。

 

 「よう、お前だろ?神風とか言う、無抵抗な子をツルッパゲにする性悪な駆逐艦は」

 

 昼寝をするために、執務室へ行こうと廊下を歩いていた私の進路を塞ぐように壁に左手を当てて、マンガとかアニメとかなら速攻で退場させられそうなセリフを吐きながら、天龍が私に絡んできたわ。

 贔屓目に見ても、チンピラそのものみたいな態度だったわね。

 余談だけど、この頃の天龍はまだ眼帯をしてなかったわ。あの眼帯は、龍田が戦死した後から着け始めた物だから。

 

 「人違いです。その人なら向こうに行きました」

 

 「違うのか!?ご、ごめんな、真っ赤な色した駆逐艦って聞いてからてっきり……」

 

 長門もそうだったけど、なんで相手の顔も知らずに絡んで来ようとするのかしら。天龍も例に漏れず、私の顔を知らずに絡んできたわ。艦娘に美女美少女が多いとは言っても、私ほどの美少女はそうそういないのよ?顔さえ知ってれば一発でわかるでしょうに。

 

 絶対にお知り合いになりたくないタイプと思った私は、進行方向とは逆を指さして嘘の情報を教えて立ち去ろうとした。

 長門の部屋で寝るようになってから睡眠不足は解消されてたけど、昼寝が癖になっちゃってたから眠くてしょうがなかったんだもの。

 

 「間違ってないわよぉ。その子が神風ちゃんで合ってるわぁ」

 

 騙された天龍が私の前から立ち去ろうとした時、その少し後ろに居た龍田が余計な事を言って来た。

 最初見た時は龍田の方が姉だと思ったっけ。チンピラみたいな天龍と真逆で、どこかのお嬢様って言われても信じそうなくらい、清楚でおっとりとしてたんだもん。

 だけど私は、同時に底知れぬ恐怖を龍田に抱いた。

 お父さんや奇兵隊の隊員達といった実力者達と一緒に過ごしてたせいか知らないけど、私は相手の立ち居振る舞いである程度の実力は読める。だけど、龍田の実力はまったく読めなかった。

 

 ちなみに、天竜は大した事なかった。

 実際、この数日後に、私と長門と鳳翔さん、それに二人を加えて出撃する事になるんだけど、天龍は予想通りチンピラ程度の実力しかなかったわ。ただし龍田は……。

 

 「控えめに言って、天才だったわね」

 

 「どんな感じの天才だったんじゃ?」

 

 「どんな感じ?ん~……難しいわね……。」

 

 私が今までの人生で、心底天才だと思ったのは今の朝潮と龍田の二人だけ。

 朝潮は学ぶ事の天才かな。

 一度見た技術をトレースし、必要なら習得してる技術内で創作すらして見せた。『トビウオ』と『水切り』しか知らない状態で『稲妻』を思い付きでやられた時は度肝を抜かれたわ。

 

 そして龍田は、戦う事にかけては朝潮以上の天才だったわ。

 身体能力は超人的、朝潮程ではなかったけど、一度か二度見ただけで大抵の事は真似して見せたし、性格も戦闘向きだった。アイツはニコニコしながら敵の首を刎ねれるほど残虐だったから。

 

 「たぶん、単純な斬り合いならお父さんより強かったんじゃないかな?」

 

 「ほう?手合わせできんかったのが残念じゃの」

 

 お父さんと龍田の戦闘スタイルはよく似ているわ。

 二人とも基本的に一撃必殺を狙う。示現流の理念に近いかな?接近するために牽制はするけど、間合いに入った後は二の太刀を必要としない一撃で敵を仕留める。

 実際に手合わせしたらどっちが勝つとまでは言わないけど、一撃で勝負は決したでしょうね。

 

 「貴女、誰?」

 

 「天龍型二番艦、龍田よぉ♪そっちは一番艦の天龍ちゃん、可愛いでしょぉ?」

 

 私は龍田の名前が知りたかっただけで、別に天龍はどうでもよかったんだけどご丁寧に教えてくれた。

 今の辰見なら大人しくしてれば可愛いと言えなくもないけど、天龍だった頃のアイツは可愛さの欠片もなかったけどなぁ。不良に憧れる中学生みたいな感じだったし。

 

 「ふぅん、それで私に何の用?私、急いでるんだけど」

 

 「私は用なんかないんだけどぉ。天龍ちゃんがどうしても貴女とお話したいらしくってぇ」

 

 間延びした喋り方が癇に障ったけど、私は龍田から目を離す事が出来なかった。

 ちょっとでも目を離すと飛び掛かって来そうなくらい、何をするかわからない雰囲気を纏ってたから。

 ちなみに天龍は蚊帳の外だったわ。私と龍田が話してる間、『コラァ!』とか『無視すんな!』とか喚いてたっけ。

 

 「一応言っとくけど、アイツ等を晒し者にしたのは私じゃないわよ」

 

 「じゃあ誰だよ!あんな酷い事をしたのは!」

 

 「鳳翔さん」

 

 「はぁ!?嘘つくんじゃねぇよ!あの人があんな酷いことする訳ねぇだろ!」

 

 私は龍田から目を離さずに答えた、天龍があの件で私に絡んできたのはすぐに察しがついたからね。

 けど、天龍は私が言った事を欠片も信じなかった。鳳翔さんの普段の態度を見てたら無理もないけど、私だって普段の行いは良かったはずよ?なのに、なんでアイツは私のいう事を信じなかったのかしら。

 

 「信じないのは構わないけど事実よ。なんなら聞いてみる?執務室に居ると思うから」

 

 「上等だ!行って確かめてやろうじゃねぇか!」

 

 ちなみにこの間、私と龍田は天龍の方をまったく見てないわ。脇で一人で騒いでる天龍を、私が仕方なく相手したって感じね。

 

 「貴女、アレをやったのが私じゃないって気づいてるんでしょ?なんでアイツを止めないの?」

 

 「だってぇ、思い込みで突っ走る天龍ちゃんを見るのが大好きなんだものぉ♪」

 

 龍田の天龍に対する愛情は歪んでた。

 道化を無自覚に演じる天龍を見るのがたまらなく好きだったみたい。天龍が手柄を立てれるように動き、邪魔者は天龍が気づかない内に自分が始末する。その結果、天龍は自分の実力も知らずにつけ上がり、アイツの増長が元で龍田は死んじゃうことになるんだけど、それでも龍田は後悔なんてしなかったんでしょうね。

 

 「何してんだ二人とも!さっさと行くぞ!」

 

 「はぁ~い♪さあ、行きましょう?真実を知って動揺する天龍ちゃんを見るのが楽しみだわぁ♪」

 

 龍田が流し目で私を見ながら背を向けたことで、私はようやく緊張を解くことができた。

 いつ殴りかかられるかと思うと気が気がじゃなかったもの。正直、龍田とは絶対にやり合いたくなかったわ。勝てる気が全くしなかったし。

 

 その後、鳳翔さんから詳細を聞いた天龍の動揺っぷりは確かに面白かった。

 冷や汗流しなら『嘘だろ!?』とか『アイツ等がイジメを!?』とか言ったりして、終いにはなぜか『アイツ等がやった事は俺が責任を取る!』とか訳の分からない事を言い出したわ。

 

 「いや、アンタ関係ないじゃない」

 

 って、私は言ったんだけど、アイツはなぜかその場に正座して上着を脱ぎだした。何のつもりだったかと言うと。

 

 「介錯はいらねぇ……」

 

 とか言って切腹しようとしたのよ。

 天龍が右手を横に居た龍田に差し出したら、どこから取り出したのか抜き身の短刀を天龍に渡した。私は短刀に違和感を感じたわ。

 いや、違和感どころじゃなかったわね、刀身とかプラスチックにしか見えなかったし、天龍に渡す前に、私に見える様に龍田が刃をシュコシュコって縮めて見せたから。

 

 「ちょ!天龍さんやめてください!」

 

 もうね、私と龍田は笑いを堪えるのに必死だったわ。天龍は玩具の短刀を見て、大真面目な顔で『中々の業物じゃねぇか』とか言ってるんだもん。この時点で笑い出さなかった事を褒めてもらいたいわ。

 

 それから、私と龍田の様子には気づいてなかった鳳翔さんが、慌てて止めようとしたけど、天龍は構わず短刀を腹に突き刺し、一気に真横に引いた。

 うん、今思い出しても見事な切腹っぷりだったわ。もし短刀が本物だったら、執務室は血の海になってたことでしょうね。

 で、切腹をした気になってた天龍はと言うと。

 

 「フ……切腹ってあんま痛くねぇのな……これじゃ罰にならねぇじゃねぇか……」

 

 とか憂いの秘めた目をして言ってんの、この時点で私と龍田は限界を迎えて爆笑したわ。

 

 「ねぇ?可愛いでしょぉ?」

 

 とは龍田の弁だけど。私にはただのバカにしか見えなかったなぁ。

 でも、爆笑する私と龍田を交互に見ながら、キョトンとした顔で正座してる天龍は、たしかにちょっとだけ可愛かった。

 

 後から聞いたんだけど、どうも天龍は、あの一味から私のある事ない事を色々と吹き込まれてたみたい。天龍の中では、私は手当たり次第に艦娘をイジメる性悪女って事になってたんだって、ホント失礼しちゃうわ。

 それで天龍は、正義感から私を懲らしめてやろうとしてたらしいの。

 

 「アイツらしいと言えばらしいな、それで話すようになったんか?」

 

 「話すようにはなったけど、一緒に出撃するまでは絡まれる度に逃げ回ってたわ」

 

 「お前が?」

 

 「そ、私が」

 

 だって龍田が怖かったんだもん。

 天龍は『フフフ、オレが怖いか?』とか言ってたけど、ハッキリ言ってまったく怖くなかった。

 殴り合いをしたら、間違いなく私の方が強かったんだけど、常に龍田と一緒だったから殴って追い返すことも出来なかったのよ。

 

 そんなある日、駆逐艦たちに揉みくちゃにされてる天龍を食堂見かけた。

 アイツって駆逐艦にはやたら人気があったのよね。アイツの周りには、常に駆逐艦が集まってたって言っても過言じゃ無いくらい人気者だったわ。

 そんな光景を見ながらご飯を食べてたら、龍田が私に声をかけてきた。気配を消して後ろからね。

 

 「あらぁ?神風ちゃん一人なのぉ?」

 

 「気配を消して近づかないでくれない?私、貴女が怖くて仕方ないんだから」

 

 顔に動揺は出さなかったけど、背中は冷や汗で濡れてたな。

 そんな私にはお構いなしに、龍田は自分の分の食事を持って私の隣に座った。さっさと食べて退散しようって思ったっけ。

 

 「あらあら、貴女にも怖い物ってあるのねぇ。鳳翔さんや長門さんとケンカしてるところをたまに見るけどぉ?」

 

 龍田が言ってるケンカは口喧嘩の事ね。この頃はまだ、長門と殴り合いのケンカなんかしてなかったし、鳳翔さんとはそもそも殴り合ったことが無いもの。

 

 「怖いわね。強い人は何人も知ってるけど、貴女ほど得体の知れない人に会ったことはないわ」

 

 「強い人たちって、一緒に来た陸軍の人達ぃ?」

 

 「そうよ、きっと貴女より強いんだから」

 

 「ふぅん。でもぉ強そうなのって、士官服を着た人とぉ、大尉って呼ばれてた人くらいだったけどぉ?」

 

 私は全く見た覚えが無いけど、どうも龍田はあの場に居て、その時にお父さんと大尉を値踏みしたらしい。

 あ、ちなみに、大尉って左門みたいな顔して実は凄く強いのよ。陸軍に入る前は相撲取りだったらしくて、素手での格闘戦ならお父さんより強いんだって。

 まあ、戦場で格闘戦をする事なんて滅多にないから、お父さんに代わって指揮を執ったりするのに徹してたんだけどね。

 

 「あの二人より、自分は強いって言いたそうね」

 

 「どうかしらぁ?大尉って人はともかく、士官服の人とは出来ればやりたくないかなぁ」

 

 この言葉で、計りかねていた龍田の戦闘力にある程度の察しがついた。

 陸上での戦闘力はお父さんと同等かそれ以上、この時の私じゃ逆立ちしたって勝てない相手だと認識したわ。

 

 「今なら良い勝負が出来るじゃないか?」

 

 「勝負にはなると思う、でも勝つのは無理だわ。アイツの身体能力は化け物だったから」

 

 筋力とかじゃないわよ?確かに筋力も平均よりは高かったでしょうけど、アイツが凄かったのは反応速度と五感の鋭さ。人間の反応速度の限界は0.11秒だったっけ?アイツの反応速度は、たぶんその数値に比肩してた。

 相手の行動を見てからでも、即座に反応出来るくらい速かったのよね。

 大潮も似たような事が出来るけど、あの子の場合は相手の動きに反射的に反応してるだけ、だからフェイントで簡単に打破できるわ。

 目を潰すのもいいわね。夜戦で目が暗闇になれた頃に、探照灯とかで照らせば一発じゃないかしら。

 

 「大潮との最大の違いは、目に頼らないところね」

 

 龍田は五感全て、もしかしたら第六感まで使って周囲の状況を把握してた。

 よく、目が見えない人は残りの感覚が鋭くなるって言うわよね。けどアイツの場合は、健常者なのにも関わらず全ての五感が鋭かったの。それどころか、視覚以外で得た情報を脳内で映像化できるとも言ってたわ。共感覚って言うんだっけ?こういうの。

 だから、アイツには死角なんて存在してなかったろうから『戦舞台』も通用しなかったと思う。

 

 「ふむ、それが本当なら、龍田は脳内に全天周囲モニターを持っちょったちゅう事か……」

 

 「全天周囲モニター?何?それ」

 

 「知らんのか?操縦席内壁の水平・垂直360度に張り巡らされたモニターに映像を投影するんじゃ」

 

 「操縦席って何よ操縦席って……」

 

 たぶん、なんかのロボットアニメでそんなのがあったのね。お父さんって、いい歳してロボットアニメ好きだからなぁ……。横須賀に着任してから、たまに一緒に見たりしたっけ。

 まさかとは思うけど、『ワダツミ』の設計に関わったりしてないわよね?艦娘に『行きまーす!』させようとした張本人がお父さんだったら、親子の縁を切る事も考えるわよ?

 

 「一応聞くけど、朝潮はそんな事できないわよね?」

 

 「無理じゃろのぉ。龍田のソレは完全に身体能力に依るもんじゃし、見たところでコピーもできんじゃろ」

 

 少し安心したわ、あの子もそこまでチートじゃなかったのね。

 朝潮がコピーできるのは、あくまで自前の身体能力でできる範囲の事だけか。

 

 「龍田がそんなに強かったんなら、出撃した時は余裕じゃったろ?」

 

 「そうね、私は全くと言っていいほどやる事がなかったわ」

 

 元帥さんの指示で、私たちは、長門を旗艦として横須賀方面に向けて北上中の敵水上打撃艦隊を後ろから強襲する手筈だった。名目上は長門が旗艦だったんだけど、アイツはまだ、戦う意思を維持するのが精一杯で指揮を執るなんて出来なかったから、私が旗艦を代行してたわ。

 

 「なんで駆逐艦が旗艦なんだよ!ここはオレに任せるべきだろ!」

 

 もちろん、天龍が文句を言って来た。戦艦も軽巡も居るのに駆逐艦が旗艦をするなんて、よっぽどの事がない限り無いもんね。

 

 「まあまあ天龍さん、神風さんは私達の中で実戦経験が一番豊富ですから」

 

 「はぁ!?このチビがぁ!?」

 

 鳳翔さんが私をどうフォローしようと、天龍はまるっきり信じなかったわ。

 まあ、実戦経験が豊富って言っても、海上での経験はみんな似たり寄ったりだったんだけどね。

 

 「鳳翔さん、敵艦隊の位置は?」

 

 「3海里ほど先、戦艦ル級1、重巡リ級1、軽巡ホ級1駆逐ロ級1イ級2です。仕掛けますか?」

 

 「当然。鳳翔さんは長門の砲撃を合図に艦載機を上げて。長門、やれるわね?」

 

 「も、問題ない、私の砲撃だけで沈めてやるさ」

 

 冷や汗たらったらで何言ってんだコイツはって思ったなぁ。まあ、戦う意思はあったから何も言わなかったけどね。砲撃も上手くなってきてたし。

 この頃の長門でも、3海里くらいの距離なら鳳翔さんのナビつきで、初弾でも三割くらいは当てる事ができたはずよ。

 だけど、鳳翔さんが策敵機で観測した位置情報を長門に伝え、長門が砲撃姿勢に入ったところで、私たちは天龍に段取りを狂わされた。

 

 「砲撃も艦載機もいらねぇ!オレが全部片づけてやるよ!」

 

 そう言って、私が旗艦をしてるのが気に食わなくてしょうがなかった天龍が一人で突撃して行った。

 私は構わず長門に砲撃させようとしたわ。天龍が先走ったと言っても、敵艦隊までは距離があったし、最悪、天龍が砲撃に巻き込まれて死んでも知った事かって思ったから。

 

 「長門、構わず砲撃しなさい。無能な働き者が巻き込まれても気にしなくていい」

 

 天龍は仲間思いで気のいい姉貴分みたいな性格で、そこは私も気に入ってたけど。本気で殺してやろうと思った事は一度や二度じゃないわ。

 戦場でも職場でも、ただの無能より厄介なのは無能な働き者、この当時の天龍がまさにそれだったからね。

 旗艦の指示は無視、段取りも無視、実力もないクセに自信だけは満々、問題を指摘しても直す気は皆無。そのクセ真っ先に突っ込みたがる。艦隊に一番いちゃいけないタイプの奴だったんだもん。

 

 「だ、だが神風……!」

 

 「長門、よく覚えときなさい。ああいうタイプが部下になったら、戦場に出る前に殺しとかないとダメよ。じゃないと、無能一人のために艦隊が全滅しかねないわ」

 

 私は反対しようとする長門をそう言って窘めた。

 まあ、私が言った事はお父さんの受け売りだったんだけどね。

 お父さんが教えてくれた、どこかの軍人の有名な名言『有能な怠け者は司令官に、有能な働き者は参謀にせよ。 無能な怠け者は、連絡将校か下級兵士にすべし。 無能な働き者は、すぐに銃殺刑に処せ』それに照らし合わせれば、天龍はすぐにでも殺すべき奴だった。

 

 この時もアイツは最悪な事をしてくれた。

 威嚇のつもりだったのかどうか知らないけど、アイツは空に向かって主砲を撃ち、自分の位置を宣伝しながら敵艦隊に突撃して行ったの。

 ええ、おかげで先手を打つ算段はご破算、長門と鳳翔さんの攻撃で、数を最低でも半分に出来る算段だったのに敵が迎撃態勢を取った事で難しくなった。

 

 「しかし……私は……」

 

 「じゃあ、全艦取り舵。天龍が死ぬのを待って、側面から強襲するわ」

 

 私はこの戦闘で天龍には死んでもらう気だった。天龍を殺し、敵艦隊が警戒を緩めたのを見計らって、側面から敵艦隊を強襲する事にしたわ。天龍が生きてる間は、長門が砲撃できそうになかったからね。

 だけど、私はこの時、龍田の存在を忘れていた。

 私が天龍を見殺しにすると言ってるのに、龍田がまったく文句を言ってこなかった事を不思議には思ってたんだけどね。

 

 「あ、あれ?龍田さんは?」

 

 「そこに居るでしょ?って居ない!?どこに行ったの!?」

 

 私も長門も鳳翔さんも、龍田が艦隊を離れた事にまったく気づかなかった。

 どうも、天龍が無謀な突撃を開始したと同時に、気配を消して艦隊を離脱してたみたい。

 

 「見つけました!天龍さんの左舷後方500メートル!いつの間に……」

 

 「鳳翔さん、策敵機の映像を私に見せる事ってできる?」

 

 「できます、こちらへ来てください」

 

 長門に周囲を警戒してもらい、私と鳳翔さんは航行を停止して額を突き合わせた。

 不思議な感覚だったなぁ、額を合わせた途端、脳内に直接映像が浮かび上がった。

 

 「嘘……でしょ……」

 

 鳳翔さんを通して見た映像には、信じられない物が映し出されていた。

 戦艦を含む艦隊に一人で突っ込んだにも関わらず、天龍はほぼ無傷、アイツって射撃も回避も下手くそだったのよ?艦娘なりたての子の方が上手いと思えるくらい。

 そんな天龍が被弾してない理由はすぐにわかったわ。

 

 「これ、もしかして砲弾を撃ち落としてる?」

 

 そう、天龍に飛んでいく砲弾や魚雷を、龍田が全て撃ち落としていた。それどころか、敵艦を足止めし、砲身に撃ち込んで誘爆させ敵を無力化、天龍は無力化された敵にトドメを刺して回ってただけだったわ。実質、敵艦隊は龍田一人に壊滅させられてた。

 一番驚いたのは、天龍型になぜか配備されてる近接艤装。それで龍田が、リ級の両腕を切り落とした事だったわね。その時はまだ、斬れるんだ、くらいにしか思わなかったけど。

 

 「どうよ!オレ一人で楽勝だったろ?」

 

 私達と合流した天龍の第一声はそれだったわ。コイツは龍田がやった事にまるで気づいていなかった。一人で敵艦隊を全滅させたと素で思ってたわ。

 

 「バカじゃないの!?アンタがやった事は……」

 

 「あん?なんだよ、オレがやった事がなんだって?」

 

 『龍田が死に体にした敵にトドメをさしただけ』って言ってやりたかったんだけど、最後まで言う事が出来なかった。

 だって、龍田が天龍の後ろで『余計な事を言ったら殺す』と言わんばかりに殺気を放っていたから。

 私がどう言ってやろうかと思案していると、私と龍田の無言のやり取りを察した鳳翔さんが、代わりに当たり障りのない事を天龍に言った。

 

 「天龍さん、貴女がやった事は、下手をすれば艦隊を危険に晒す行為です。以後慎んでください。と、神風さんは言いたいんですよ」

 

 「はっ!オレが全部倒すんだから艦隊に危険なんてねぇよ!」

 

 天龍はまるっきり反省しなかったわね。それどころか増長しまくってた。

 私は、これからもコイツと組まされる可能性を考えて頭が痛くなったわ。長門と鳳翔さんも同じことを思ってたのかもしれない。長門なんて『うわぁ……』って感じで目を逸らしてたから。

 

 「つまんねぇ事言ってねぇで帰ろうぜ。腹減っちまったよ」

 

 そんな私たちなどお構いなしに、天龍は呉鎮守府へ向けて航行を開始した。

 私は、背を向ける天龍を撃とうと思ったわ。コイツは艦隊に居ちゃいけない、コイツのせいで、きっといつか仲間が死ぬ事になる。だけど、撃つ事は叶わなかった……。

 

 「ダメよぉ?撃つ前にその手、斬り落としちゃうからぁ」

 

 私が単装砲を持つ右手に力を込めた時、腕を上げるよりも前に龍田がそう脅して来た。

 たぶん、本当に天龍を撃とうと腕を上げようとしたら、上げ切る前に私の腕は龍田に斬り落とされたでしょうね。

 

 「貴女、アイツの危うさがわかっててそう言ってるの?」

 

 「わかってるわぁ。でもぉ、私がなんとかしちゃうから問題ないでしょぉ?」

 

 「大ありよ!さっきみたいな事を続けてたら、あのバカは際限なく増長するわよ!?」

 

 「増長させたいのよぉ♪だってぇ、楽しそうな天龍ちゃんって可愛いでしょぉ?」

 

 狂ってるって思った、龍田は天龍を玩具にして遊んでるんだって思った。調子に乗らせ、つけあがらせ、高慢になる事を龍田は天龍に望んでいた。

 この時は、そうとしか思えなかった……。

  

 「いつか死ぬわよ。アイツじゃなく、周りの誰かが。それは貴女かもしれないのよ?」

 

 「構わないわぁ。天龍ちゃんの幸せが私の幸せだからぁ」

 

 龍田が、愁いを帯びた瞳でこの時言った言葉の意味を私が理解したのは、龍田が死んだ後だった。

 やり方は歪んでいたけど、龍田は本当に天龍の幸せを望んでいたの。

 天龍に幸せな思いをさせてあげたかったの。

 天龍が龍田に負い目を感じていたように、龍田も天龍に負い目を感じていたんだから。

 まあ、この話はもう少し後にしましょうか。

 

 これ以降、私たち五人は半ば固定メンバーとされたわ。横須賀に異動になるまでも、なった後も五人は行動を共にした。

 なんだかんだで、打ち解けるにつれて連携は取れる様になっていったわ。天龍が真っ先に突っ込みたがるなら、龍田と一緒に突っ込ませればいいだけだったからね。

 もっとも、天龍のせいで長門と鳳翔さんは何もできない事の方が多かったけど。

 

 「横須賀に来てからも、お前は天龍の文句ばかり言っちょったな」

 

 「いや、文句も言いたくなるでしょ。アイツのせいで死にかけた事って一度や二度じゃないのよ?」

 

 「殴り合いして発散しちょったろうが、その度に朝潮……先代の朝潮に二人して叱られちょったが」

 

 「そうね、朝潮には完全に目を着けられてたわ」

 

 私と天龍がケンカを始めるたびに、何処からともなく出て来て私達を叱ってたなぁ。

 私と天龍がケンカして、朝潮が仲裁するってのが、当時の横須賀鎮守府の日常風景だったわね。

 

 コンコン……。

 

 私が先代の朝潮を懐かしんでいると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 時計を見ると昼前、たぶん朝潮がお昼ご飯を作りに来たのね。

 

 「お、もう昼か?」

 

 『朝潮です、お食事を作りに参りました。入ってもよろしいですか?』

 

 「ああ、構わんよ」

 

 「失礼します。って、桜子さん、もういらしてたんですか」

 

 やっぱり朝潮だった、左手にエコバックを下げてるって事は、酒保で買い物をしてきたのかしら。と言うか、この子っていまだに入室の許可をいちいち取ってるの?真面目も度が過ぎると嫌味よ?

 

 「予定より早く来てな。暇潰しに、二人でちょっと昔話をしちょった」

 

 「昔話?ああ、昨日見つけた日記を見ながらですか?」

 

 待て、もしかして朝潮も私の日記を読んだんじゃないでしょうね。

 さすがにそれは看過できないわよ?

 

 「安心せぇ、朝潮は読んじょらん」

 

 「あっそ、ならいいわ」

 

 別に読まれて困る事は書いてないけど、勝手に読まれるのは気に食わないからね。

 

 「気にはなりましたけど……さすがに娘の日記を勝手に読むのはどうかと思いまして」

 

 「私を娘呼ばわりしたいんなら、さっさと籍を入れなさい。籍も入れてないのにお母さん面しないで」

 

 「ママでも可、ですよ?」

 

 「貴女、私の話聞いてた?」

 

 お父さんにプロポーズくらいしとけって言った日くらいから、朝潮は私を見るたびに『お母さん』と呼ばそうとするようになった。どう見ても、貴女が私のお母さんってのは無理があるわよ。

 チンチクリンでスットントンのくせに。

 

 「そういえば、日記の一番最初のアレ、朝潮の事じゃないんか?」

 

 「私ですか?」

 

 「貴女の訳ないでしょ……貴女の先代よ……」

 

 言わなくたってわかるでしょ、なにキョトンとしてるのよ。

 

 「なんて書いてあるんです?私、気になります!」

 

 興味津々か!

 相手をしたら高確率で厄介ごとに巻き込まれそうなセリフを言うんじゃない!

 別に読ませてもいいけど、確か一言しか書いてなかったような覚えが……。それよりお昼ご飯作りなさいよ、貴女そのために来たんじゃないの?

 

 「お昼食べたら見せてあげるわよ。お腹空いたから早くご飯作って」

 

 「桜子さんは手伝ってくれないんですか?」

 

 「今日の私はゲスト、お客さんよ?客に作るの手伝えって言うの?」

 

 「手伝ってくれたらお小遣いあげますよ?」

 

 「いくら?」

 

 「100円」

 

 「子供のお手伝いか!1000円くらい出しなさいよ!」

 

 「ダメです、我が家のお手伝い一回の相場は100円です!」

 

 完全にお母さん気取りだわこの子。

 この桜子様を100円でこき使おうなんて図々しいにも程があるわよ。

 私を雇おうと思ったら時給1万は確実にかかるのよ?

 お父さんは私と朝潮のやり取りを見て妙にニコニコしてるし、お父さんが手伝えばいいんじゃない?

 

 まあ、結局手伝ってあげたけどね。私って優しから。

 材料的にカレーかしら?今日って金曜日だったっけ?あ、でも肉が一切ない、野菜オンリーだ。

 

 「ねえ、たまにはお肉も食べさせてあげてよ。お父さんってお肉好きだけど、あんまり量は食べれないんだから」

 

 「食べさせてあげたいんですけど……。司令官のコレステロール値って凄く高いんですよ?異常とまでは言いませんけど……」

 

 「だったら鶏肉とか羊肉、牛ならモモ肉かな、全くないとは言わないけどコレステロールは少ないからその辺を食べさせてあげなさいよ。魚と野菜だけじゃ栄養が偏っちゃうわ」

 

 「なるほど、お肉を選べって事ですね?」

 

 「そういう事。じゃないと、お父さんって隠れて干し肉とか食べちゃっうわよ?」

 

 「一考してみます。たまにはお肉を食べたいのは私も同じですし」

 

 これで、お父さんが『肉が食いたい』って嘆くことはなくなるかな?お父さんの健康に気を使ってくれるのは嬉しいけど、朝潮はやる事が極端すぎるわ。

 良い嫁だとは思うけどね。

 

 ってな感じの事を話しながら朝潮と一緒に料理してる間、私は日記の一冊目、その一ページ目に書いた内容を思い出そうとしていた。

 あれを書いたのは、迎えに来ないお父さんにしびれを切らして横須賀に行った日、先代の朝潮にあった日の晩だったかな。

 

 そう、確かこう書いた。

 その時の朝潮への感情を、一言だけ書き殴ったの。

 

 『私、あの子の事大っ嫌い!』って。

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