私は
上岡の土地神、菊理様のところですそはらい代行をし始めてから約一年。代行の理由は自分が断ったためだ。断った理由は、私は皇流符術や陰陽術を用いてオリジナルの物を製作したり、式神の製作を行うのが好きで、学生というだけでも時間が減ってしまうのに、さらにすそはらいに割いていたら製作する時間が減ってしまう。そういう理由で断ったのだが、ほかに良い人材がいないからどうしてもと土地神自ら頭を下げてきたので、正式が見つかるまでの代行者として任につくことになってしまった。
そして今日は正式なすそはらいにする人物を呼んできて欲しいと言われ、学校を休んでまで向かっている。もちろん親には話している。最初は断ったのだが、巫女である黒耀さんに最初お願いしたが役に立たなかったため私に来たということだった。またこれは出来る限り穏便に済ませることと言われた。
「こちらにはいませんでした」
「そうですか。…しかしなんですか?その抱えている食べ物は?別れる前はなかったはずですが」
菊理様が決めたすそはらい候補がいる高校の校内に侵入し、一緒に来ていた黒耀さんと別れて探していたが合流後になぜか食べ物を抱えていた。まさかだと思うが……それらはここに通っている生徒たちの弁当ではないだろうか?
「拾いました」
「え?」
予想外の返しに驚いたアリスだったが、もうどうでもよくなった。早く終えて帰りたいと。すると黒耀さんがエビフライを口に運びながらまさかの行動を起こす。
「加賀見一也はいるかっ!」
がたんと教室の扉を開け声を上げる黒耀。まだ授業の時間は終わってはいないはずなのだが……穏便はどうしたんですか?とアリスは言いながらため息をつく。
「お前が加賀見一也だな?」
「ちがいます」
生徒の一人に指を差しながら聞く黒耀に、聞かれた生徒はさっと答える。なぜ冷静なんですか?周りの生徒達も。驚きのあまり声が出ないとか、思考停止に近いようなものですか?いやそれよりも。
「黒耀さん。菊理様から頂いた似顔絵とは全く違います。さらに言えば眼鏡をかけてませんよ」
「なに、そうだったか?」
アリスの注意に振り返った黒耀だったが、似顔絵を見せるも見分けがつかんといったように首をかしげていた。この人の記憶力はやばいんじゃないかと思ってしまった。その直後に生徒の一人が黒耀さんを指差してなにやら言い出しているが、アリスはそれを無視して似顔絵と生徒を見比べていく。
「あなたが加賀見かずやですね?探していました」
「え?僕を?」
「おまえがそうだったのか。来てもらうぞ」
「えっ、ちょ、まだ授業が」
「ちょっと待ったっ!」
黒耀が加賀見一也に迫った時、突然現れた女が声を上げた。アリスはその女が一目見て付喪神であることに気づいた。
「勝手にワシの下僕を連れて行っては困るな」
「神勅を妨げるな。付喪神風情が原形まで打ち払われたいか。それにお前は連れてくるなと厳命されている。失せろ、
「……いま、何と?」
黒耀の最後の言葉にその付喪神は機嫌を崩した声を出す。
「お呼びでないのだ『雑巾女』」
雑巾女とはっきりと強く言い切った黒耀に、その付喪神は切れた。
「く、くく…くくりの犬風情が吠えよってっ!勝負じゃ大女っ、その魔乳ごと三枚に下ろしてくれるわ!!」
「わー穏便に!穏便に!」
「ええい離せ一也ッ!」
一也が必死で怒り狂った付喪神を押さえつける。
「臆したか、雑k」
「挑発は止めてください黒耀さん」
挑発を続ける黒耀の口にパシッと
「あなたが菊理様の言っていた桐葉さんですね?ここは平和的にいきましょう」
アリスの案により、桐葉とアリスで『腕相撲』をすることになった。
広い屋上でやることに決め、生徒達は観客として見たいと言って来たため黙っても来るならまぁいいかと止めはしなかった。
「あっ、最初に言っておきます。私が勝っても桐葉さんが勝っても、桐葉さんは同行しても構いません」
「なに?」
「…おい皇アリス。菊理様からその雑巾女を連れてくるなと言われているんだぞ!」
アリスの言葉に桐葉は驚き、黒耀は止めの符を自力で剥がして反発した。
「私は言われていませんし、同行してもいいじゃないですか。それに私は菊理様から桐葉さんのことを聞いて、いつか一戦してみたいなと思っていました」
そう言うと桐葉は笑い始めた。
「なかなか面白い事を言う娘だな」
「桐葉さん。本気で来てくださいね?もし手を抜いていたら同行は取り消しますよ」
「雑巾女、手を抜け」
黒耀はアリスの言葉が気に入らないと桐葉に手を抜くよう言う。しかも挑発するかのように雑巾女と繰り返して言うため、桐葉の方も完全にキレてしまいそうだった。
「抜かぬわ!さっきから雑巾女と言いおって」
「……ええと腕相撲のルールは菊理様から聞きましたので問題ありません」
腕相撲のルール。この腕相撲は普通とは違う。
まず片腕のみ使用。そして両足は地面から離さない。この片方でも破れば負けとなり、また有効打を顔に当てれば勝ちとなるルールだ。
「ルールの確認を終えたところで始めようか、娘」
「はい」
二人は近づき、左腕を後ろ腰に下げ、右半身を前に出して互いの右手の甲を当て合う。
数秒の沈黙から右手甲を弾かせて始まる。桐葉から来る抜き手や手刀をアリスは冷静に見捉えて、掌で止めるか弾くかをしていく。そしてスキがあらば攻める。
「しぃッ!!」
桐葉の拳がアリスの顔を捉える。がアリスはそれを受け流しつつ手首を掴み取り、同時に摺り足で左足を桐葉の懐に入るようにして、そのまま引き下げる。足をかけての引き下げなため、桐葉の体勢が大きく崩れる。
「ふぐっ…」
しかし桐葉はそれを堪え、引き払って拘束を解き再び突き合う。アリスは驚きながらもそれらを受け流していく。さっきの足掛けからの引き下げで多少の違いはあるも、菊理様には何度もそれで勝っていた。それを堪え切った桐葉はそれ以上か?とアリスは思った。
「取った!」
アリスの親指を掴んだ桐葉は投げの体勢に入る。
「甘いッ!」
それをアリスは腕力と重心移動の合わせで逆に桐葉を投げ飛ばす。
「くっ、は……」
投げられた桐葉は背中を地に強く叩きつけられ、肺の中の空気を一気に吐き出して大の字で横たわる。
「はぁ…はぁ……桐葉さん、強いですね」
「何を…お前が勝っておいて何を言うか」
半身を起こした桐葉に、アリスは手を差し伸べた。直後観戦していた生徒達数秒の沈黙から歓声が沸き上がって騒がしくなる。その声で気づいて来た先生によって静まり、それに生徒達は気を取られた。アリスたちはチャンスと皆にばれないようにこの場から姿を消した。