アリスと黒耀は加賀見一也と桐葉、それからなぜかついて来た一也と同じクラスメイトの女子一人と共に菊理様のいる白山神社へ移動した。
白山神社に着くと、その女子……近石千里は事細かに鳥居をくぐる前にはなんちゃら、手水舎ではなんちゃらと注意をし始めてしまったがやっと菊理様の降神まで来た。
「白山妙理大権現、菊理媛大神…降神」
能面をつけた土地神様…菊理様が社から出てきた。
「おいくくり!久方ぶりの再会が能面ごしとは随分じゃな。勤めを果たしきれん自らを恥じて顔も合わせられんか!」
再会が能面ごし?とアリスはどういう意味だろうと思った。アリスは何度も菊理様には会っているが、いつも能面をつけていて素顔を見たことがない。それが常姿なのだろうと今まで思っていたからだ。
「私は一也さんだけをお呼びしたはずですが?」
「申し訳ありません。皇アリスが勝手に連れてきました」
「アリスさん、ですか。そういえば伝えていませんでしたね」
「すみませんね。でも彼女が先代様のパートナーである付喪神と知って、腕相撲で一戦したくなってしまって……。受けてくれたので付いて来る許可を出しました」
「そ、そうですか。で勝敗は?」
「苦戦しましたがギリギリ勝ちました」
「そうですか。私に勝ち越しているあなたなら勝つと思ってましたよ。私も桐葉には124勝123敗1引き分けで勝ち越していますので」
すると桐葉は反論するようにはぁあ?!と声を上げた。
「ワシが125勝123敗で勝ち越しているぞ!だいたい1引き分けって何じゃ?」
「勝負の最中に大雨が降って水入りした時があったでしょう」
菊理様の不機嫌が気候まで影響し、空をものすごい勢いで黒い雲が覆ってきた。
「あー濡れるのはやだなぁ。千里さんでしたっけ?菊理様は機嫌を悪くすると土砂降りになるので、あそこで雨宿りしましょう」
「え?あ、はい」
アリスは手水舎を指差しながら千里を誘って避難する。丁度間に合って土砂降りから逃れられた。降っていたのは数秒程だが、それでもかなりの量が降っていた。
「向こうではすごいですね」
本当に神様なんだなぁと千里が菊理様を見ていた。
「上岡の土地神様で水を司っている神様です」
菊理様と桐葉が腕相撲の時の構えで向かい合うが、先程アリスたちが避難している時に菊理様が砕いた燈籠の大きな欠片が両者の頭に降ってきて、二人仲良く同時に地へと倒れた。
「菊理様!天罰です!天罰ですよ!早く本題に入れと!そして用を済ませて皇アリスを帰してあげなさいという天罰です!」
「何ですかそれは!?それに私に天罰などありえませんっ!!」
笑いながら言うアリスに菊理様は痛む頭を抱えながら声を上げて返す。
「とりあえず本題には入ってくださいよ、菊理様」
「う、うむ…わかりました」
「待て、その前に」
菊理様の話を桐葉は止めて聞き始める。
「一也が成人するまで効くはずだった封が、何故今解けた?」
その問いにアリスが封?と呟く。桐葉はさらに話を続ける。
「加えてこの呪詛の乱れ。陽を極まる陰月とはいえ怠慢が過ぎる。何か理由があるのか?」
桐葉のこの問いにはアリスも気になっていた。代行とはいえアリスもすそはらい。その乱れが最近多く起こっていたことを疑問に思っていた。それにそのせいで仕事が増えてしまっていた。
「封は完全には解けたわけではありません。効力は弱まりましたが、その証拠に記憶は戻っていない……そうでしょう?」
「ああ。では再び霊威を込めてくれ。そして呪詛を鎮撫しろ。この二重苦では身が持たん」
桐葉からの二つの要求に菊理様は少し間を置いてから答えた。
「その二つの願い、すぐには叶えられません」
「なに?!」
「しかし、簡単な解決法があります」
そう言うと加賀見一也と言って一也の方を菊理様は振り返り見る。
「あなたに神勅を下します」
驚いている一也に菊理様は指を差して言う。
「この土地で起こる怪異を調伏する、すそはらいの役を命じます」
「か…怪異の、調伏……?僕が?桐葉さんでなく?」
自分を指差しながら確認する一也に菊理様は短くはいと答えると、桐葉が大きく声を上げた。
「バカなっ!?」
そして一也の方へ移動し、自らの後ろへ下がらせる桐葉。
「下らん冗談はやめろくくり!一也に何ができる!すそはらいならそこにいるだろう!なぜ一也に任せようとするのじゃ?」
菊理様とアリスを交互に見ながら言う桐葉に、アリスは目を逸らした。
「『石像の如く沈黙しなさい桐葉』。冗談ではありませんよ、加賀見一也さん」
菊理様は桐葉を言霊で封じ、話を続けた。
「貴方はここ数日の間、異常な現象に何度も立ち会いましたね?」
「はい」
「平穏なこの町で貴方の周りにより多く起きている……それが何故かわかりますか?」
「い…いいえ」
その問いに自分の周りにより多く?と一也は驚く。
「言うなくくりっ!!」
言霊を自力で解き訴える桐葉だったが、菊理様は『答え』を話す。
「貴方が呪詛を引き寄せる源だからです。常なる人々、常なる世界にとっての禍事の種……それが貴方。呪詛による禍源、自ら打ち祓うのです。合理的でしょう?」
「あ、相手にするな一也!嘘八万でお前を従わせようとしておるのじゃ。帰るぞ二人とも!」
一也の手首を掴んで引き、二人に言う桐葉。しかし境内に張られた結界に弾かれる。
「結界?閉じ込める気か!」
「
そして数度言葉を交わし合い、決裂した菊理様はもう一つの能面……怒った老男のような面、『悪尉』に変えた。