「菊理様……私はなぜここに呼ばれたのでしょうか?」
やや不機嫌気味にアリスは菊理の顔を見て最初に聞く。
日曜日。今までならすそはらいで呼ばれることがなければ、一日符術の鍛練や体作りのトレーニングをしたりしている日だ。そして前に加賀見一也がすそはらいになったため今日は符術の鍛練を朝からやろうとしていたのだが、邪魔をするかのように呼び出しを受けてしまった。それも早朝の目を覚ました時にだ。
「それに何故加賀見一也の…家に?」
連れてこられた場所は白山神社ではなく、加賀見家だった。しかも神社にあった物…賽銭やらなにやらと置かれている一室にアリスは疑問が積もる。
「この家に連れて来たんは…うちの神社が倒壊してしもうて……」
「え…」
「前ので傷ついたのに、止めに台風が来てしまって……一時公園におったんやけどそこもだめになってな。今はここ、加賀見家にお世話になっているんや」
「そうでしたか…。で、私を呼んだのはどうしてですか?」
神社の状態に興味がないアリスは自分を何故呼んだのかという本題を聞く。
「今日呼んだのはほかでもない。かずやんの鍛練の指導をお願いしたくてな」
「……はい?」
菊理様の言葉にアリスは聞き間違えたかと耳を疑ってしまった。
「も、もう一度…聞いてもいいですか?」
「かずやんの鍛練の指導をお願いしたいんや」
「お断りします!必要ないでしょう。菊理様の氷の壁を壊したり、水の大蛇を凌いだりしたのですから」
前の戦いを見ていて私が指導しなくても、すそはらいは十分にこなせる力を持っているとアリスは思った。確かに霊力を大幅に消耗してしまい、桐葉さんは縮んだ上に分身である写し身を出すのは大変かもしれない。それでも一也の方は結構なほど力を持っているので、桐葉さんが回復するまでの間も一人で問題ないだろう。
「あ、あれな。実はまぐれだったんやって」
「ま…まぐ?まぐれであそこまで?」
予想外な返しにアリスは声を上げてしまう。
「せやから、お願いするで」
「…私は私の鍛練がありますので」
「すそはらいの養成所『つづら殿』もいいんやけど、あそこだと数年間かかってまう。せやとアリスがその間、代行続行てなことになるけど?」
「そ…それでも私は……」
「そ、それじゃ神勅や!神勅にするで。かずやんが十分一人前になるまで指導したってや」
「なっ、神勅って…それは職権乱用ではありませんか?!」
あまりの理不尽さに声を上げるアリス。しかし菊理様はお願いを続ける。
「かずやんが一人前になるまででいいんや!せやからアリス、お願い!」
「……わかり、ました…」
アリスはしぶしぶ受けることになってしまった。
早朝。アリスは加賀見一也と桐葉と並んで走り込みをしていた。走り込みは毎朝のアリスの日課であり、それに二人をあわせる事にした。そして平日の放課後は一也に筋トレをさせ、アリスは様子を見つつ自分の鍛練をしていた。アリスの鍛練は符術の技術向上を基本に行っている。
日曜などの休日は準備運動を済ませた後、桐葉と一也で組み手。次にアリスと疲れるまで試合をした。
「さて、準備はいいですか?」
「うん」
「おう」
「では始めましょう」
桐葉は帯になり、一也のリュックから本体と写し身二本が伸びる。前までは少なかったがやっと写し身を二本出せて、合わせ三本の帯を操作することが出来るようになった。
アリスは左腰の『アリス』カード用の鞄から一枚引き抜く。そのカードには『闘(トウ)』という文字が書いてあり、発動させることでその術者を身体能力を格闘戦向きに向上させるカードだ。
「では…『来なさい』!」
「はい!」
一也はアリスに向け走り出し、自分の間合いまで近づく。
「おびづき!」
写し身での帯突き。アリスは右手でそれを弾く。さらに一也は帯突きを放つがそれも弾かれる。
「せいッ!」
「た、たてつづり!」
アリスの手刀に一也が咄嗟に帯二本でたてつづりを作るが、当たる寸前アリスは飛び跳ね、盾を飛び越え、着地からすばやく動いて手刀が一也の首筋に触れる。
「詰み、ですね」
「…はい」
ふぅとアリスは手刀を解く。
「やっぱり、そのたてつづりは視界を奪っていますね。戦い中に相手から目を離すのはダメ。まぁ気配で動きがわかって、対応もできるならいいんですけど」
「はい」
「でも技から技への切り換えはよくなってきましたね。たてつづりの展開が速くなっていました」
「ええと、ありがとうございます」
一也の鍛練を見始めてまだそれほど日数は経っていないが、結構な上達を見せていた。最初は写し身が出せず、帯に戻った桐葉に意を込めて操作することもほとんどできなかったのだが、才能以外にも一也には覚えもいいようだ。
「私は帯の扱い方まではわからないからあまり言えませんが、桐葉さんから他にあれば技を教えてもらって覚えるとか、新技を考えるのもいいかもしれません。あ、新技の場合はなるべく少ない数で繰り出せるのが好ましいですね。もしも桐葉さん本体が傷ついた時、出せる写し身が減るかもしれません」
「うむ確かに。本体の回復に霊力が行ってしまい、出せる数が減るかもしれん。そこは帰った後にでも一也と話し合うとしよう」
鍛練を終えた後、加賀見家に居候している菊理様に一言終えたことをアリスは伝える。いつもなら鍛練場で別れるのだが、今日は呼び出しを受けたのだ。
「今日もお疲れ様です、アリス」
菊理様は能面をつけて大人姿だった。なぜつけていたのか少し気になったアリスだが、早く用件を聞いて帰りたいためそこには触れなかった。
「今日はなぜ私を呼んだんですか?」
「それはですね。急ですが明日の指導は休みにして、私達と金羅神社に同行して欲しいのです」
「金羅神社……確かたぐり様が居られる?」
「はい。あまり行きたくはないのですが……すそ予報を買うお金を借りに行くのです」
それを聞いたアリスは最近ニュースで話題となった言葉を思い出した。
「まさか……私に連帯保証人とやらになってくれと?いくら菊理様が土地神で逃げないからと、私はなりたくはないです」
「い、いえ、そういうのではありません。着いて来てもらいたいのです。桐葉と一也さんも着いてきますが……アリスさんにもお願いしたいのです」
「……わかりました。断ったらまた神勅話になりそうなので一緒に行きますよ」
「ありがとうございます、アリスさん。それと、あなたの式神達も一緒にお願いしますね」
「私の式も…?わかりました」
どうして式神もなのかはわからなかったが、最近は一也さんの指導で出せなかったのでたまにはいいかとアリスは思った。
そして集合時間と場所を聞いて、アリスは家に帰った。