雄英高校入試の1年前
緑谷は学校からとぼとぼと帰っていた。その顔は暗い。なぜかというと教師に自分が希望している雄英高校にいけないだろうと言われたからだ。確かに緑谷は成績こそいいが雄英高校の入試には実技がある。無個性である緑谷に実技試験を突破する力などない。もしの話だが体を幼少期から鍛えていれば、実技を突破できるような道具を持っていれば話は別であっただろうが。
「はぁ」
「少年、さっきから陰鬱そうなため息をついているな」
「えっ?」
何度目かのため息をついたとき、緑谷に誰かが話しかけてきた。その人はモデルでもしているかのようなスタイルの良い大人の女性であった。髪は黒髪で腰まで届くくらいのストレート。化粧はほとんどしていないようにみえる。ただここまでなら普通の日本人なのだが彼女には普通の日本人とは違う点があった。それは目の色が虹色に光っているように見えることだ。
「少年、なにを悩んでいるのだ?」
「え、えっと・・・・・・」
緑谷は初対面といっていい人物に相談するのに少し躊躇したが女性の無言の催促に負けて今日あった出来事を女性に話した。女性は最後まで話を聞くと一つ頷いた。
「そういうことか。少年、まず無個性で雄英高校に受かるのは難しいことは理解しているな?」
「もちろんです。でも・・・・・・」
緑谷も無個性で雄英高校に受かることは難しいことは理解していた。それでも憧れのヒーローであるナンバー1ヒーローであるオールマイトの母校である雄英高校に行きたかった。
「それでも受けたい理由があるというわけだな?」
「はい」
「なら任せておけ。私が少年を雄英高校に受からせてやろう」
「ほっ本当ですか!?」
自信満々にいう女性の言葉に緑谷は本当にびっくりした。さっきまで無個性では無理だと言っていたというのにどうやって雄英高校に受からせるというのか。まさか個性を授けるとかそういう個性でも持っているというのか。緑谷は嬉しそうにしながらも女性が自分を受からせる方法が思いつかず内心口だけなんだろうなと思っていた。
「少年、今私を口先だけのペテン師だと思ったな?」
「えっいえ。そんな・・・・・・」
「まあそう思うのも無理はない。普通ならそんなこと無理であろうからな」
内心を言い当てられて緑谷は焦ったが女性はよく言われるのか大して気にしているようには見えなかった。それにほっと安堵の息を吐いた。
「まずは怪我をするであろうから少年の親に了解を取らねばならないな」
「やっぱり危険なんですか?」
「もちろん。ヒーローになったら無個性で個性持ちを制圧しなければならないのだから当たり前であろう」
「そうですか」
やっぱり個性がないと大変なんだと緑谷は暗い顔をする。そんな緑谷に笑みを浮かべながら女性は話を続ける。
「少年の親から許可を得られたならすぐに私の個性を使って3つの技を覚えてもらう。その後は時間が許す限りという事になるな」
「? どういうことですか?」
「少年が3つの技をどのくらいの時間で覚えるのか私にはわからないのでな。時間が余ったら他の技も教えるがもしかしたら試験までに1つも覚えられない可能性もある」
「そっそんな・・・・・・」
もし1つも覚えられなかったら。最悪のケースを創造して緑谷の顔色は悪くなる。今の自分の力では実技試験はどうしようもない。なら技を1つも覚えられなければ試験に受かれないだろう。
「まあ1つは必ず覚えられるものだ。1年もあるのだからな」
「そっそうですよね。1つくらい覚えられますよね」
「うむ。少年がやる気であればな」
女性のフォローに緑谷はやる気を再燃させる。絶対に1つは覚えてやると。無個性であろうと雄英高校に受かれるのだと証明してやると。
「だがまずは少年の親の許可をとるのが先だ。少年、家に案内してくれないか?」
「わかりました!」
緑谷は元気良く答えると女性を家に案内する。その途中で女性の正体に気づいた。特徴的なコスチュームを着ていなかったので緑谷は話している間は全く気がつかなかった。
「もっもしかして・・・・・・」
「うん? ・・・・・・もしかして私が誰かわかったのか?」
「はっはい。武仙ヒーロー『蔵人』ですよね?」
武仙ヒーロー『蔵人』。様々な武術の流派を免許皆伝レベルで修めていると言われているヒーロー。その武術を見込みのありそうな者に教えていることでも有名なヒーローである。そしてヒーローが世に出た初期から活動しているにもかかわらず容姿が全く変わらないことでも有名なヒーローである。
「正解だ」
「ということは・・・・・・僕にも何か武術を?」
「いや、少年には武術は体格的にも身体能力的にも向いていない。だから他のことだ」
「ほかのこと?」
蔵人にきっぱりと武術に向いていないといわれて落ち込みながら緑谷は疑問の声を上げる。蔵人が武術以外教えてくれるという話は聞いたことがなかったからだ。
「あぁそのことについては少年の親も交えて話したい。かなり話しづらいなことなのでな」
「そっそうですか」
蔵人の雰囲気からこれ以上訊こうとしても無駄だと緑谷は判断してその後いろいろと話題をふりながら家に帰る道を歩く。家についたらどんな話をすることになるのかドキドキしながら。
「そういえば少年の名前を聞いていなかったな」
「あっ! ・・・・・・忘れてました。僕は緑谷出久っていいます」
入試のことについてなどでいっぱいいっぱいだったので今の今まで名前すら名乗っていなかったことに緑谷は今更気づいた。大変失礼だったのではないかと緑谷は思ったが蔵人の様子を見るかぎり大して気にしているようには見えない。だが気づいたのなら名乗っておくべきだろうと遅すぎる自己紹介を行った。
「そうか、いい名前だな。出久と呼んでいいか?」
「もっもちろんです。」
笑顔で蔵人にそう言われて緑谷は内心テンションが上がっていた。幼馴染である爆豪に名前をもじった蔑称をつけられたこともあり緑谷は自分の名前が好きではなかったのだが蔵人に良い名前だと言われて少し好きになった。
そして家に帰ってから緑谷引子も交えた説明会が始まった。最初蔵人のことを警戒していた引子だが、蔵人の言葉から伝わる熱意とわかりやすい性格によって蔵人による出久への伝授について最終的には承諾した。
「出久、これから1年間よろしく頼むぞ」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
個性:伝授
タイプ:発動系
自分の覚えているもの(武術、知識、家事など)を対象に教える個性
教えたものはよっぽどのことがない限り忘れることはない。
相手の個性や体格などによっては教えられないもの、教えても効果が薄いものがある。(緑谷の体がある程度鍛えられていたら武術を教えていた可能性があった)
教えることによって相手が覚える時間が上下する。具体的には相手に向いているか向いていないか。覚えるものの難易度などによって変わる。
ちなみに
最初に教えたのは受け身と逃走術とサバイバル技術であった。
その後に伝授したのは道具を活用するための知識と製造技術である。緑谷はこれを用いて試験までに様々な道具をつくり実技試験をクリアした。
最後に試験前に道具をつくるために必要だろうと『良縁と金運を引き寄せる』という個性を伝授した。これにより製造するための材料や施設を購入する資金を得てこれからヒーローとなる上でお世話になることになる人と出会った。
師匠の影響か肉弾戦をする人に好意を抱きやすくなった。出久は1年B組になったためクラスメイトの中では男子は鉄哲と女子は拳藤と一番仲が良い。