職場体験中
切島鋭児郎はB組の鉄哲轍鐵とともに任侠ヒーローフォースカインドの下で職場体験をしていた。その途中とある路地で奇襲を受けた。
「いてっ! なんだよいきなり!」
「知らねえよ! 敵の襲撃じゃねえか?」
「そいつの言う通りだ。これはこの近辺に出没したという情報があった敵の奇襲だ」
パトロール中だった切島はいきよいよくとんできた何かを避けられず、咄嗟に使った硬化の個性によってはじいた。ただそれでも痛かったのか叫び声をあげてから文句を言う。それに鉄哲は律義に返答しフォースカインドが鉄哲の言葉を肯定した。
「いったいどんな奴なんですか?」
「わからん。ただ遠距離から奇襲をしかけてくるということしかわかってねえ」
「なんですかそれ!?」
「この敵の目撃情報はほぼなくてな。遠距離から奇襲されていることに気づいたのも3件目に入ってからだった」
「えっ? こんなこと何件もしているんですか?」
「そうだ。確認されているだけで15件。未確認なものを含めたら30件を超えると言われている」
「被害はどうなんです?」
「幸い軽いけがをおう奴はいるが命に関わったってケースはねえな」
「そうですか」
相手の目的がわからず切島たちは首をひねる。フォースカインドもそこら辺はわからないようで周りに気を配れ以外の指示は出さなかった。ただねんのために個性の使用の許可は出したが。
「遠距離からの奇襲って気づきにくいもんなんですね」
「あん? 確かにな。だが奇襲してくるってわかっているなら対策は取りやすい」
フォースカインドは切島が奇襲を受けた方向から自分が見えないように遮蔽物を利用しながら進んでいく。それに切島たちも続く。そんな中鉄哲に向けて何かがとんでくる。遠距離から何かが来るとわかっていたので警戒していた鉄哲は風切り音をなびかせて接近してくる矢のような形状のものを視認し腕に個性を使用しながらはじいた。
「矢、か?」
「そうみてえだな」
鉄哲がとんできたものを確認するとフォースカインドは肯定した。次に曲線を描いてとんできたので銃の類ではなく弓矢の類だろうと切島たちは推測した。
「矢の材質とかはわからねえか?」
「軽かったってことしかわからねえです」
「そうか。ってことは鉄とかじゃあねえだろうな。いってもアルミってところか?」
「それなら軽傷ですんでいるっていうのにも納得いきますね」
「おう。ただ油断すんじゃねえぞ。どんな武器だろうと急所に当たれば死ぬからな」
「はい!」
フォースカインドの注意に元気よく答えながら矢がとんできた方向に向かう切島たち。そこは建築途中のビルだった。おそらく最上階付近から切島たちを狙撃したのだろう。
「奴さんはまだここにいるみてえだな」
「なんでわかるんですか?」
「あそこをよく見ろ」
フォースカインドの指さした場所には建築途中のビルを囲むようにある泥があった。足跡1つない。数分前にこのビルから出たのであれば足跡がないとおかしい。だからこそフォースカインドは敵が中にいると確信しているのだろう。
「こっちじゃなくて他の方向から出た可能性はないんですか?」
「ないな。このビルの入り口はあそこだけだ。ここらにある建物の構造は全部頭に入れてある」
フォースカインドは鉄哲の懸念を一蹴した。敵に使われそうな建物についてフォースカインドは事前に調べていた。そしてそこを重点的にパトロールしているらしい。もし敵に使われていたら即座に見つけるために。他にも近所の住人と交流を図って情報を集めたり様々なことをおこなっている。
「よう。お前が俺らに喧嘩を売ってきた輩か?」
「ええ。狙いやすかったので」
建築途中のビルの屋上にそいつはいた。顔は中性的で男にも女にも見える。黒髪黒目で小柄なその人物は左手を和弓に変形させて右手に矢を持っていた。服装は弓道着で胸当ての所が膨らんでいるので女性なのだろう。
「目的はなんだ? わざわざヒーローに喧嘩売る奴なんて今時いねえぞ」
「目的、ですか」
女性はフォースカインドの質問に口ごもる。まるで自分の考えが自分でもわからないかのように。ただその目には明確な憎悪が込められていた。それに気づいた切島が思わず身震いしてしまうほどに。
「しいて言えば、練習でしょうか?」
「練習だ?」
「ええ。あの時の復讐のために」
女性の矢を握る手に力がこもる。まるで何かを思い出してつい力をこめてしまったかのように。過去に起こった何らかのことに怒りを再燃させているかのように。顔は険しくなり女性が浮かべてはいけない顔になっていた。まさに般若。
「復讐? そんなことのためにこんなことをしてるっていうのか?」
「そんなこと? そんなことって言いましたね?」
切島の不用意な言葉で女性の怒りのボルテージが跳ね上がった。持っていた矢を握りつぶし怒気と殺意をこめた眼で切島を睨みつけた。切島は思わず1歩後ずさった。
「レッドライオット! てめえ何言ったかわかってんのか!?」
「すいませんフォースカインドさん。つい」
「ついじゃねえ。敵を怒らせてどうすんだ!」
フォースカインドの叱責に切島は謝ることしかできない。鉄哲はそんな切島を呆れた眼で見ていた。そして自分はこんな失敗はすまいと自戒した。
「レッドライアットでしたか? 貴方は必ず殺します」
女性は戦意を高め弓に矢をつがえて臨戦態勢に入った。切島たちもすぐに構える。事ここまでいたったら話し合いによる解決は不可能。戦闘による捕縛以外に道はない。
個性:弓
タイプ:変形系
左腕を和弓にする個性。矢は自前である。普段から20本以上持ち歩いているらしい。
彼女はヒーローと敵の戦闘による二次災害で付き合っていた男性を亡くしていてヒーローに恨みを持つようになった。その経緯から周りに被害が出ないように狙撃するという戦闘方法を取るようになった。今はその時のヒーローを探して日本中を回りながら見かけたヒーローを仮想敵として狙撃の練習台にしている。