とある国
その国は1人の敵に滅ぼされようとしていた。いや、もう滅ぼされていると言っていいだろう。黒い泥のようなものが国境線から国土を侵食し触れた生物を黒く染め上げていく。
黒く染め上げられた人間は全員全身真っ黒に変わり目に光がない。他の生物も同様に全身を真っ黒に染め上げられていた。そして泥が流れてきた方向に目を向けている。まるで何かを待っているかのように。
生物以外の者は全て泥に押し流されてしまった。この国には歴史的建造物も植物も水も民家も何もない。あるのはうつろな目をしている生物だけだ。
「これで1国目。次はどこに行こう?」
そんな所業を起こした人物はまるで自分のやったことに罪悪感を感じさせないような音色でそんなことをのたまった。まるで他の国にもやろうとしているかのように。いやおそらくやるのだろう。誰かがこの人物を止めるまで。
「ん? 対応が速いわね」
その人物は何かに気づいたようで体を振り向いて空を見上げた。そこには戦闘機が飛んでいた。おそらく黒い泥を何かで観測して偵察に来たのであろう。国境線に戦闘機を飛ばすなど普通なら問題になるのだがこの非常事態でそんなことを考慮している場合ではないと判断されたのであろう。
「まあいいわ。これで私のやることも決まったし。挑発したのだから向かってこられても文句は言わせないわよ?」
その人物は戦闘機を確認した直後足元から黒い泥を湧き立たせて戦闘機に向けてウォーターカッターのように高速で噴射した。戦闘機はよけることができず黒い泥にのみこまれた。
「ふふ。さあこの国を呑みましょう。そして私が支配する王国にしてあげる。光栄に思いなさい。私に支配される2つ目の国になるのだから」
戦闘機を堕とした人物は笑いながら黒い泥をさらに湧き立たせて戦闘機がとんできた方向に侵食させていく。国境線を考慮して他の国に被害が出ないように気をつけながらゆっくりと国土を侵食していく。
「俺たちはヒーローだ! なんとかするぞ!」
「おうっ!」
「ぐっ! がっ!」
「どうした! なにがあった!」
「ガァ!」
「てめえなにしてやがる!」
「やめろ! 黒くなった奴は敵になっちまうんだよ! 何を言っても無駄だ」
「なんだと!? 黒化の原因はなんだ!?」
「あの泥に触ることだ」
「じゃあ近接系の俺たちじゃどうしようもないってことか!」
「そうだ。ただ遠距離系のヒーローでもこの量を処理できるのか?」
その泥を何とかしようと現地のヒーローたちは奮闘したが無駄に終わる。触れば侵食されるため近接戦闘しかできないヒーローは役に立たず。遠距離攻撃ができるヒーローも膨大な量の泥を消しとばすことができるほどの実力はなかった。
逆に泥にのみこまれて全身真っ黒に染め上げられたヒーローが市民たちに牙をむいた。どうやら黒く染め上げられると泥を放った人物に従うようになるようだ。そのことに気づいたとあるパイロットは本部にそのことを報告し他国への警告をおこなってほしいと打診したあと特攻して果てた。
「こんなもの? そんなわけないでしょ? 私に喧嘩を売ったのよ? そんなわけないわよね?」
目の前の惨状を何とも思っていないようにその人物はそんな言葉を言い放つ。まるで目の前の地獄のような風景に対抗できるだろうと不思議そうに。できないのであればあんな事しなければよかったのにあざけるように。
「もうすぐこの国も終わりね」
国を黒く染め上げることに歓喜しているかのように自分の所業を止められないことに悲しむようにその人物は言葉を紡ぐ。その顔からはいろいろな感情が感じとれる。だがその中でも一番感じられるのは空虚であった。その人物の中には何もない。黒く染め上げてそこにいた生物を支配しているというのに。
「次はもっと派手にいこうかしら? それとも・・・・・・」
2国を染め上げた人物は次はどうしようと頭を巡らせる。その間もその人物の足元から黒い泥が湧き出てくる。そしてその人物を中心に泥は全方位に流れていく。その人物の考えなど知らぬというかのように。
「やっぱり制御できないわね。まあ構わないわ。全世界を黒く染め上げる前に私を討てるものが来ることを後は期待するだけね」
そんな黒い泥の様子を傍観しながらその人物はなにもすることはなかった。自分が死ねばこれ以上被害は出ないと理解しながら。死にたくないというどんな人物でも持っているであろう思いを胸に抱いて。でも誰かがあの黒い泥を抜けてここにたどりついたら自分の首をくれてやろうと覚悟を決めながら。
「さて誰がここに来るかしら? 日本の『全能』? アメリカNO1? 誰でもいいわ。私の所に来てみなさい。死の泥を越えて」
個性:細胞強制
タイプ:発動系
黒い泥を足元から湧き立たせる。
その泥に触れた生物は侵食されて全身真っ黒になる。
真っ黒に染まった生物は発動者の支配を全面的に受け入れる(死ねと言われれば躊躇なく死ぬし殺せと言われれば長年の盟友だろうと妻だろうと関係なく殺す)
非生物には効果はない。ただ濁流のような泥の流れに流されるだけ。
黒い泥のある場所以外に発動者は移動できない。
防御機構などは存在しない。ただ発動者の足元を起点に全方位に流れるだけ。
故に弱点は発動者自身。
元ネタはfate/grand orderのティアマトの細胞強制(アミノギアス)