とある山
断崖絶壁というべき場所に複数の人間がいた。肌の露出を極力なくし長距離の移動に適し砂利道などでも対応できる靴を履き大きな鞄を背負っている。手には杖のようなものを持っているその集団の正体は山岳部の部員達だった。
「ここからか?」
「ああ! 俺の個性を使えばここから登ることができる」
「確かにお前はそうだけどよ。他の奴らはどうするんだ?」
「俺がつけた傷を利用して登れないか?」
「・・・・・・いけるだろうな」
その集団をまとめているのは集団の中では小柄といっていい男だった。山岳部に所属しているのでそれ相応の筋肉がついているようだがそれでもこの崖を登るのは難しいのではないかと思わせるその男は自信満々に登り切れると断言した。
それを聞いた集団の副長は男の個性を知っているのと男の自信満々の態度から嘘ではないのだろうと判断し他の者に対する対応について尋ねた。男はそれに対して具体的に説明せず端的に答えた。だがそれでも副長には男の伝えたいことは伝わったようだ。
「よし、いくぞ! 『鉄爪』」
男の宣言と同時に男の爪が伸びた。それは鋭く男の言うように鉄で作られたような光沢があった。その詰めを何回か目の前の崖に振るった男は満足そうに頷いて崖に爪を突き刺した。
崖に碌な抵抗もなく突き刺さる爪を見ながら男は上を見上げる。これからどの位置に爪を突き刺していけばいいか考えているようでその目は真剣だ。男の失敗は他の山岳部員の危機を招く。そのため男からさっきまで感じていた緩い雰囲気は一切感じられなくなっていた。
「・・・・・・こういくのがいいだろうな。行くぞ!」
「おう!」
男は爪を引き抜き他の山岳部員の方に振り向き声をかけた。それに全員が答えた。その声は大きく響くことはなかったがそれなりの音量があったため近くの木にとまっていた鳥が鳴き声を上げながら飛びたった。
「・・・・・・まずいな」
「そうだな。あの鳥によってヒーローに気づかれるかもしれない」
ヒーロー以外の個性使用は固く禁じられている。私有地ではあれば問題ないのだがこの山は山岳部の部員のものではない。なのでここで個性を使うと敵として捕まる可能性があるのだ。今までは何とかばれずに来れたが今回も大丈夫だとは限らない。男と副長はどうするか少し思案した。
「・・・・・・今更か」
「そうだな」
男は諦めたように覚悟を決めたように言い副長もそれに同調した。今更この方法以外を取ろうなんて思わない。ここまできてヒーローに捕まるのなら自分たちはその程度の奴らだったということだ。それに障害は高ければ高いほど燃えるものだ。
「それでも極力相手にしたくないからな。急ぐぞ!」
「おう!」
「だから大声出すな!」
山岳部員たちに注意しながら男は爪を突き刺した場所に足場となるボルトを鞄から取り出して設置した。その後も上に登りながら足場となるボルトの設置場所を爪で突き刺して確保する。
ヒーローに見つかっても問題ないように爪を伸ばすのは一瞬で見られても問題ないように手の位置をなるべく隠すようにしていた。だがそれでも気づかれるときは気づかれるものだ。
「君たち止まりなさい!」
「ここはそんな装備では登れないはず。誰か個性を使ったね?」
「個性の無断使用は駄目だって教わらなかったかな?」
猫をイメージしたコスチュームを身につけた女性4人組が登りきった崖の上にいた。彼女たちは山岳救助を専門にしている4人組の数少ない連名性のヒーロー事務所を構えているヒーローチーム『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』である。
「もう来てたか!」
「予想より早いな」
「まあ・・・・・・」
「まあ・・・・・・」
「「問題ないがな」」
男と副長はこの事態を予想していたようですぐに鞄を地面に置き戦闘態勢をとる。他の部員たちも男と副長たちの様子を見て慌てて態勢を整えようとする。だがそれよりもプッシ―キャッツの動きは早かった。すぐに捕獲用のアイテムを使って部員たちを捕縛したのだ。
「俺ら以外は全滅か」
「これも想定の内だろ?」
「まあな。相手はプッシ―キャッツなんだ。このくらい予想できない方がおかしい」
男は伸ばした爪で捕縛アイテムを切り裂き副長は何とかやり過ごしていた。男の個性の練度にプッシ―キャッツは驚く。あそこまで個性を使うには相当な練習が必要なのだ。プッシ―キャッツは警戒度を1つあげた。今までは学生だからとどこかなめていたがそれをとりはらったのだ。
「君、相当にやるね」
「そうか? これぐらいやれないとコイツラの頭はできないんだよ」
「こいつは身体が小さいからな。他の部分でどうにかするしかなかったんだよな」
「そう。君が努力してきたのはよくわかった。でも私有地以外での個性の使用は認められていないのよ」
「それくらい知っている。俺らがやっていることは犯罪だ」
「それでも山の頂に行きたい。そういう奴らが集まってできたのが俺らだ」
「? 君たちどこかの山岳部の部員じゃないの?」
「そうだぜ? ただ誰1人同じ学校の奴がいないだけさ」
「え?」
男の言葉にプッシ―キャッツは戸惑う。誰1人同じ学校の人間がいないということはこの集団は誰かが音頭を取って全国から集まった登山マニアであるということだ。そこまでのリーダーシップを目の前の男が持っているとは思えなかった。横の副長でも難しいだろう。
「まあこの集団を集めた奴は今日来ていないんだけどな」
「あいつがいない時は俺ら2人がまとめることになっていてな」
「そうなの」
「ああ。・・・・・・もう話すこともないしそろそろ本気でいくか」
「おうよ!」
個性:かぎ爪
タイプ:変形系
爪を伸ばしてかぎ爪のようにできる。
長さ、鋭さ、硬さなどは自由自在。