空には蒼い星が浮かんでいた。
人類は、アソコから来たらしい。
だからどう、というわけでは無い。
“月の廃棄物”とか呼ばれる孤児である自分たちには空の向こうの昔の話だ。
老いて死にに来るこの緑の月も、その老人向きのサービスがあって、働く人間がいて、そうすれば子供も産まれて、だから捨て子も居る。
ただ、それだけの話だ。
月産まれ、というのはそれだけで良くは見られない、と自分が所属するストリートギャングの団長は言っていた。
ここで代を重ねすぎると低重力に体がチューニングされていって虚弱化、つまりゴブリン化していってしまうということだ。
だから、ここでの出産は“ナシ”にしたい。
この国、この世界で、ゴブリンの悪名以上の存在はそういない。
故に、そんな女達は、多いらしい。
あの星に行ったこともないし、この月で自分たちが蔑まれるのはいつものことだ。
団長の言うとおり、殺して、奪って金にする。
この世の最果てで産み捨てられた俺達に他の道は無い。
強化外骨格、パワードスーツと呼ばれるソレはピンキリだ。
サイボーグ化と比較した利点は自分の肉体を削る必要が無いこと。
達人や術者というものは、サイボーグ化を選ぶことが出来ない。
己の持ち味を潰すことになるからだ。
どちらでも無い自分が強化外骨格を使っているのは、ただより強さが欲しいときに手に入ったモノがサイボーグのパーツではなく、強化外骨格であった、ただそれだけの話である。
神経接続型の旧式。
そのための手術は、幼馴染みの少女がやってくれた。
俺に埋め込まれた強化神経はどうやらオーバースペックだったらしいが、使う分には問題ないのでどうでもいい。
堅く、俊敏に、確実に殺す。
それだけでいい。
俺が団長の使う武器であって、それでみんなが生きていけるなら、それ以上のことは無い。
今日もそんな日だった。
団長の作戦通り、動いて、殺して、奪って大もうけ。
それで、仕事の前に飲んだ戦闘用のドラッグが抜けてきて、トレーラーハウスの寝床に戻って横になろうとして。
「……」
「……」
家の前に、なんかいた。
若い女。
少女だ。
縋るように持つ骨董品のような二振りの剣以外、何も持っていないような出で立ちだ。
「そこ、俺の家なんだけど」
ぐい、と強化外骨格のヘッドパーツを空けて淡々と少年は言う。
「あ、ご、ごめん……」
びくり、と震えた様子で、少女は少年を見上げ、しかし動こうとはしない。
きゅる、きゅる、ぐぅぅ。
「ぁぅ………」
恥じらうも、立ち去る様子はない。
「なんだ、お前、腹減ってんの?」
その音に察しがついた少年は直裁にそう言う。デリカシーなど無い生活だ。
「う、うん……」
「ふーん」
ちろり、とこちらを見上げてくる少女の視線に無造作に銃口を向ける。
「ひっ、……ひゃんっ!?」
「うるさい」
「っ……はい……んっ……」
そして、ボディチェック。
無遠慮なまでに触れて回り、コムリンクと剣以外武装が無いことを確認する。
「剣にコムリンクだけ……」
「アデプト」
「へぇ、初めて見た、普通の体だったけど」
弾を切り払い、避け、鉄板を易々と両断してのける魔術の如き武術の遣い手。
それが、食うや食わずである。
「ぅぅ……」
ガチャリ、とドアを開ける。
中には、冷蔵庫とマットレス、シャワーとシンク、テレビと銃器、強化外骨格用のハンガーそれだけだ。
「先に入れよ」
「……え、い、良いの?」
「家の前で襲われたり斬った張ったされても面倒だし」
淡々と事実だけを述べる口調に、そろそろ、とおびえた猫のように室内に向かう。
「……お邪魔します」
剣を壁に立てかけさせ、チーズ味の固形食料を渡すとガツガツと食べ出した。
自分も強化外骨格を脱いでハンガーに掛けてから食べ始める。
“草創期財閥”の一つ、寄食飯店の商品で、自分からすれば高級品だ。
ぽつり、と言った名前は、最初名前だと気づかなかった。
喋り始めた事によると、この剣客少女はシャドウランナーの、見習いらしい。
庇護してくれていた者が死んで、色々あって先祖伝来の剣だけ抱えてここに流れ着いたらしい。
ままある話だ。
この世界、落ちて流れ着いてく場所はそう多くない。
この月か、蒼い星の犯罪都市か、そのほかの大都市の大きくて深い影の中。
「そっか、じゃぁ俺寝るから」
飯も食い終えたし、団長に帰宅の連絡だけを入れれば、用は無い。
「えっ……」
ドラッグの残りか、眠気はすぐに来て意識は闇へ落ちていった。
まさか、居着くとは