ひぐらしのなく頃に 酔醒まし編   作:赤いUFO

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かなり急ぎ足でしたがなんとか完結しました。

この作品、最初の予定では去年の終わりには完結してる筈だったのに。伸ばし伸ばしで半年遅れてしまいました。


酔醒まし編其の伍【カケラ】

「くそっ!どこ行ったんだよ梨花ちゃん!」

 

 林の中を圭一は闇雲に動きながら友人である梨花を探していた。

 圭一がこの時間に梨花の所へ訪れたのは夕方の梨花の様子が気になったからだ。

 

 特に最後は何かを伝えようとしていたように思える。

 それが帰ってからも気になり、どうしても確かめたくて梨花の下へと訪れたのだ。

 時間が時間だし、梨花の風邪もあり、電話で済まそうかとも思ったが、こうしたことは直に会って話した方がいいだろうと思い家を出た。

 いつまでも梨花が出ないことを不審に思っていると梨花の絶叫が聞こえて何事かとその場所に行ってみると丁度後ろ姿の梨花が見えた。

 すぐに追いかけたが慣れない林の中で思うように走れずにいつの間に見失ってしまった。

 

 こうなったら一度梨花の家に戻って電話を借りて魅音にでも助けを乞うか?

 そう考えて来た道を引き返そうとすると少し離れたところで微かな物音がした。

 

「梨花ちゃん?」

 

 この辺りには梨花以外に人はいない筈だ。なら、彼女に何かあったのかと考える。

 先に誰か呼んだ方がいいのかもしれないがもし助がいる状況ならと思い、立ち止まる。

 どうするか少し考えて圭一は物音がしたところまで移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 林の中をがむしゃらに裸足でかけながら古手梨花は息を切らせて涙を流していた。

 

 羽入が自分を殺した犯人かもしれない可能性。

 それに怯えて逃げ出した梨花は混乱する頭で必死に考えていた。

 

 どうする?これからどうする?

 とりあえず園崎家まで行って魅音に保護してもらう?

 なんて説明して。

 自分はオヤシロさまに殺されるから守ってくれとでも?

 

 そもそも羽入の存在を証明できなければ病人か子供の戯言と一蹴されてしまうだろう。レナや沙都子も同様に。

 なら入江には?

 最近体調がおかしいとか理由を付けてしばらく診療所に泊まらせてもらう?

 だが羽入も診療所の場所を知っていて、そもそもどちらにしろ1日2日で家に帰されるだろう。真正直に話したとしても信じてもらえないどころか治療の名目でどんなことをされるかわからない。

 

 なら誰に助けを求める?なにが正解?

 

「クールに……クールになるのです、古手梨花……!」

 

 木に背もたれしながら必死に考える。

 ここで正解を導き出さなければ殺されてしまうのだ。

 

 

 ―――――あぁ、それにしてもどうしてこんなにも首が痒いのか。

 

 

 既に血が出始めている首の痒みに苛立ちながらとにかく移動しないとと動き始める。

 ペースの遅くなった足と暗い視界。

 疲労による集中力の散漫から梨花は足元の石に気付かずに躓いてしまう。

 

「―――――っ!?」

 

 それなりに急な坂に転がり落ちる梨花。

 体を起こすと足に痛みが走った。

 

 どうやら転がった時に足を捻ってしまったらしい。

 腫れた足首に触れて痛みを確認する。

 

 周りは暗くひとりぼっちだ。

 慣れ親しんだ雛見沢の暗闇も今は自分を飲み込み、どこかへ連れ去ろうとする怪物に感じる。

 

 恐い。

 

「たすけて……」

 

 もしくは既に飲み込まれているのか。

 

「たすけて、おかあさん……!」

 

 恐怖から梨花が最後に縋ったのはもういない母の存在だった。

 

 何かと自分を叱り、村の老人たちから可愛がられていることを快く思っていなかった母。

 何度も説明しても羽入の存在を信じてくれず、いつしかすれ違ってしまった。

 それでも雛見沢症候群の研究に協力を求められた際に梨花の身の安全から最後まで反対してくれた人。

 

 今はその母の存在が無性に恋しかった。

 

 それでももういない存在にいつまでも助けを求めるわけにもいかず、梨花は腕で涙を拭って立ち上がろうとする。

 

「つっ!?」

 

 指に痛みが走った

 

 暗くてよく見えないが、手触りから大きめのガラスの破片と思しき物に触れてしまったらしい。

 その些細な痛みでまた泣きたくなった。

 

 すると――――――。

 

「梨花ちゃんっ!」

 

 四つん這いのまま振り返るとそこには圭一がいた。

 

「圭、いち……?」

 

「なにがあったんだよ梨花ちゃん!裸足でこんなところで……」

 

 圭一が近づき左手を差し出してくる。

 自分を心配している声で。

 

 しかし、その右手にはギラリと光る包丁が握られていた。

 

「あ、あぁあああああっ!?」

 

 梨花はガラスの破片を拾い上げる。

 捻った足の痛みなどもう大して気にならなかった。

 

 そして、拾ったガラスの破片の先端を、圭一の身体に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梨花に腹を刺されて圭一は手にしていた()()()()を落とした。

 

「死にたくない……!死にたくないのです!」

 

 ガラスを握った両手と圭一の返り血で手を赤く染めた梨花はただ死にたくないと繰り返す。

 その怯え切った表情がかつて自分が傷つけた子供たちと重なった。

 

 腹を刺された痛みなんかよりそっちのほうがよっぽど痛い。

 何故かわからないが梨花は自分が彼女を殺しに来たと思っているらしい。

 

 でもそんなこともどうでもよくて。

 きっとそんなのはこの暗がりで怖がって勘違いしているだけなのだ。

 だから少しでも安心させたかった。

 

 いつもにぱーと笑うこの少女には怯えて泣きはらした顔なんて似合わない。

 圭一は梨花の両肩を掴んで笑みを見せた。

 

「怖がるなよ梨花ちゃん。大丈夫だ。なんにも怖いことなんてないんだ……」

 

 その笑みは刺された痛みで多少引き攣ってはいたがそれでも無理矢理笑った。

 梨花がこれ以上怖がらないように。

 次の言葉できっと梨花は正気を取り戻すのだ。

 

「俺を信じろ、梨花ちゃん……!」

 

 そう言った圭一に梨花はもう一度その体にガラスを突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 倒れた圭一を見下ろしながら梨花は肩で息をして持っていたガラスを落とした。

 

 仕方がなかった。

 圭一が包丁を持って迫って来て、自分を殺そうとしたのだ。

 だからその前に殺すのは仕方のない―――――。

 

「え?」

 

 そこで梨花は気が付く。

 包丁などどこにも無い。

 転がっているのはただの懐中電灯で。

 

 包丁はどこに行ったのだろう?

 いやそもそも圭一は本当に包丁など持っていたのだろうか?

 

 記憶を掘り返す。

 さっき手を差し伸べてくれていた時に見えた光は確かに懐中電灯のモノで。

 包丁なんて最初から持っていなかった。

 

 それを理解した瞬間に梨花は血の気が引き、身体を震わせた。

 

「圭一!圭一ィ!!」

 

 自分で刺してしまった少年の身体に縋りつく。

 どうして、懐中電灯を包丁と見間違ってしまったのか。

 

 何度も圭一の名前を呼んでいると彼の指がピクリと反応する。

 

「りか、ちゃん……」

 

 目を覚ました圭一が梨花の名を呼んだ。

 起き上がった圭一はその場に座り込む。そのお腹に手が当たるとどろりと気持ち悪い感触がした。

 

「圭一、ごめんなさい!い、いま入江を!」

 

 そうして来た道を急いで戻ろうとするとその手を圭一が掴む。

 

「梨花ちゃん、さ。さっきはなんで、あんなに怖がってたんだ?」

 

「今はそんなことより入江を!?」

 

 自分の手を離そうとしない圭一に梨花は顔を伏せて説明する。

 

「ボクは、圭一が都会で起こした事件を知って……それで……」

 

 それだけの説明だったがそれで圭一の中で合点が言った。

 

「そっか。知っちまったのか……なら、仕方ねぇな」

 

「―――――っ!違います!圭一は悪くないのです!ボクが勝手に勘違いして……!」

 

「ハハ。ありがとよ、梨花ちゃん。でも俺だってそんな危ない奴が夜にいきなり訪ねてきたら同じ行動を取ったかもしれねぇしさ。それにこれはきっと罰なんだよ。俺が都会でやっちまった罪が回りに回って俺のところに戻ってきた。それだけなんだ」

 

 だから梨花ちゃんは気にするなと血の付いた手で頭を撫でる。

 

「ほら梨花ちゃん。笑えって。梨花ちゃんにそんなぐちゃぐちゃな表情なんて似合わねぇだろ」

 

「圭一はむちゃ、言うのです……」

 

 笑えるわけない。

 自分で自分の仲間を刺して笑えるわけない。

 

 それでも圭一が望むなら。

 梨花は涙を流したまま笑った。

 それはさっきの圭一の笑みより引き攣った笑顔だった。

 それでも圭一は安心したように顔で。

 

「あぁ、うん。やっぱり梨花ちゃんは笑ってるほうが……」

 

「けいいち……?」

 

 それを最後にこの世界の圭一は目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 羽入が梨花を見つけた時、梨花は圭一の身体に縋りついて泣いていた。

 

 ここでなにがあったのか。大凡を察するとゆっくりと近づく。

 

「梨花……」

 

「羽、入……ボクが、ボクが圭一を……」

 

 顔を上げて自分を見る梨花の表情は先程の羽入に対する恐怖はなくなっていた。

 それに若干の安堵を覚えながら何とか慰めの言葉をかける。

 

「梨花。今回は梨花のせいではありません。梨花はただ運悪く雛見沢症候群に発症してしまっただけ―――――」

 

「違います!」

 

 しかしその慰めを梨花は遮った。

 

「ボクは疑ってしまったのです。圭一を!羽入を!入江から、この病気を抑える方法を聞いていたのに!」

 

 それは信じること。

 疑いそうになっても、相手を信じることでこの病気は抑制できると入江は言っていた。

 信じなかった。その結果として梨花は仲間を自分の手で殺めてしまった。

 

 少しの間そこで蹲っていた梨花はその顔を上げる。その瞳は何かを決めたかのような強い決意を持っていた。

 

「羽入……」

 

「梨花?」

 

「次の世界では、もっと長い時間を戻してほしいのです。今更都合が良いかもしれませんが、お願いします」

 

 そうして圭一を刺したガラスを手にして自分の喉に当てる。

 

「梨花!なにを!?」

 

「次の世界では。ボクは絶対に仲間を疑いません。圭一がボクたちを疑っても、きっとボクが助けてあげるのです」

 

 それに入江が言っていたように沙都子と同居するのもいいだろう。

 それからもっと周りと話し合って。

 

「圭一……次の世界でまた会いましょうです」

 

「梨花!やめるのです!梨花っ!!」

 

 そうして古手梨花は自分の喉にガラスの破片を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あら?懐かしいカケラがあるわね。

 

 これは酔醒まし編のカケラ。

 

 古手梨花がまだ身体同様に心が幼い頃に生まれたカケラなの。

 

 梨花がまだ周りを信じられずに疑うことしか知らなかった時のカケラ。

 

 全てが終わった今ではこのカケラは鷹野たちの真実を知るのには大して役立つカケラではないわ。

 

 でもこれを中心に近い位置にして他のカケラを組み合わせないと、どうしても歪な形になってしまうの。

 

 これは古手梨花が雛見沢症候群の怖さを身をもって体験した。ただそれだけのカケラ。

 

 でもこのカケラがきっと梨花が仲間たちを信じる基盤となるカケラなのね。

 

 もっとも本人は昔過ぎてもうほとんど覚えていないだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、犬さんなんだ。猫さんのところへ代わる代わるやって来て、忍び込んだんだろうって問い質してくるんだ」

 

「…………」

 

 圭一が顔を手で覆い隠して震えている。

 梨花はその姿に僅かに表情を曇らせたがすぐに笑顔を作った。

 

「大丈夫なのですよ。猫さんはボクが守ってあげます」

 

「え?」

 

「猫さんは怖がってますが、本当はそんなに大変なことではないのです」

 

 いつかの日にあなたがボクに手を差し出してくれたように。今度はボクが圭一を守りますです。

 

「ちょっと大変ですが、頑張ってみますです」

 

 だからいつか。

 

「ファイト、おーなのです」

 

 全てが解ったその時は、圭一もあの時のようにボクに手を差し出してくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話は鬼隠し編、梨花verみたいな感じをイメージして書きました。

最後の部分は綿流し編の最後の圭一と梨花の会話です。つまりこの後の梨花の展開はお察しくださいというわけです。




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