(いてて、こりゃスパルタ式護身術習ってて正解だったな)
「いくら艤装無しとはいえ本当に頑丈なのね」
「これでもそこそこ鍛えてるから、それでも痛かったけど」
「あの2人の願い、聞きそびれちゃったわね」
「さすがにそこまで空気読めないアホじゃないよ? それに」
藤丸は山城に殴られた頰を撫ぜながら呟く。
「山城さん、きっと人間のこと嫌いでしょ?」
「どうしてそう思うのかしら? 」
「似たような目つきの人達を知ってる、彼らは大なり小なり人間っていうものに嫌気をさしていたから」
「人達って、随分変わった知り合いが多そうね。
たしかに山城は人間嫌いの艦娘だけど、他にも似たような奴はいるわ。
特に悲惨な
「叢雲さんはどうだったの?」
「躊躇いなくトラウマ抉りにくるわねあんた。
ま、私の最後は船としてはそこそこ悪くなかったわ」
「そうなんだ」
勉強不足だなぁ、と頭を掻く。
仕事をして勉強も進めながら艦娘達と交流をする、想像以上に骨が折れそうだ。
「じゃあ、次は弓道場に行きましょう」
「弓道? なんでそんなのがあるのさ」
「んー、艦娘って妖精の力が宿った武器を使うでしょう? その中でも空母達は特にオカルトが強く出ている艦種なの」
叢雲が言うには正規空母を始めとする空母勢は自らが放った矢なり式神なりを戦闘機や爆撃機などに変化させるらしい。
どんな理屈があるのか尋ねたら「妖精に聞け」とのことだった。
「大丈夫? 今度は入った瞬間に半裸の人が居て眉間にズドンとかされない?」
「さすがに心配しすぎ、いきなり人に向けて打つような奴はそんなに居ないし半裸の奴も1人だけよ」
「いるんじゃないですかやだー!」
聞けば、空母というのも戦艦に負けず劣らず力が強いのだと言う。
叢雲に引きずられながら件の道場へ到着した。
「お邪魔するわ、誰か居るかしらー?」
「あ、叢雲さんちょうど良かった。
瑞鶴と加賀さんが喧嘩してしまってどうしようかと!」
「また? 赤城はどうしたのよ」
「それが、昨日ご自分で釣って捌いた魚が当たったらしくて」
「また?」
「またです」
盛大なため息を零す叢雲、どうやら厄介な現場に来てしまったらしい。
「あの、後ろにいらっしゃる方はもしかして提督でしょうか?」
「あ、どうも提督の藤丸です。
もう目を開けても平気ですか? 半裸の人とかいたりしません?」
「えっと、祥鳳さんなら今日は間宮さんのお手伝いに行ってるので訓練はお休みです」
目を開くと、
和弓を携えた彼女は翔鶴と名乗った。
(良かった、服を着てる)
「えっと、今凄い納得し難い評価をされたような」
「気にしないで翔鶴さん、それより喧嘩というのは?」
「この翔鶴の妹の瑞鶴と同じく空母の加賀っていうのは犬猿の仲でね、飽きもせずしょっちゅう言い争ってるわ」
ひょこっと壁際から顔を出して覗くとサイドポニーの女性とツインテールの少女が言い争っていた。
正確にはツインテールが噛み付こうとしてしっぺ返しを受けているように見える。
「バストサイズは加賀さん? の勝ちだなぁ」
「あの、女性の第1印象がそれなのはどうかと」
「変質者」
「ぐはぁ!?」
叢雲の視線がエグめに刺さった。
「ちょっと一航戦! なんで私とおんなじタイミングで打つのよ」
「別に、わざわざ合わせているわけではないわ。
あなたがゆっくり狙いすぎなのではないかしら?」
「じゃあなんであたしが構えてから矢をつがえてるのよ!」
「お隣さんがのんびりしてるせいじゃないかしら」
「むかつくーーーーー!」
「ほんっといつもの同じようなやりとりしてるわね」
「すみませんすみません、妹がいつもご迷惑をかけけててすいません!」
「いっつもあんな感じなのか、なんかじゃれついてるだけに見えるんだけど」
「そこ! 聞こえてるわよ!」
「何故私が五航戦と戯れなければならないのですか」
似たような地獄耳でこちらの呟きを捉えた2人が同時にこちらを向く。
似た者同士とはこういう事を言うのだろう。
「もしかして、あなたが先日着任した提督かしら?」
「天龍さんが噂してた『なよっちいけど面白そうな奴』ってことね」
「ええ、藤丸立香って言います。
どうぞよろしく」
差し出した手は、握り返されることは無かった。
「第1航空戦隊の加賀よ、握手はしないわ。
私の願いはただ1つ、『今度こそ、勝利を』」
「うっへぇ、せっかく生まれ変わってまでそんな事を言ってるの?
あたしはそんなに事ないわ、そうねとりあえずはこの一航戦と同じ部隊にしないでくれればいいかな」
「あら、私に気を使ってくれるなんて。
少しは見直そうかしら」
「誰もあんたに気を使っちゃいないわよ!!」
「なんだ、やっぱり仲よさそうじゃん」
「「よくない!!」」
次回は特別企画
『静謐ちゃんの長い夜』です。