「不幸だわ」
山城は本日、何度目かになるため息をついた。
思い返せば今日は短い人生の中でも特に不幸な日である。
未明には枕元の謎の幽霊に撫でられるし何故か全身が麻痺してるし目覚ましが壊れていて8分早く鳴ったし着替える時に帯が絡まって転ぶしその後転んで来た姉様に肘鉄を鳩尾に頂くしタンスの角で両方の小指が逝くし下駄を履き損ねて転ぶしその後転んで来た姉様に肘鉄を頂くしドアノブが壊れてたし味噌汁に咽せてあっつい汁が顔に掛かるし歩いていたら鼻緒(下駄の紐)が切れて転ぶしその後転んで来た姉様に肘鉄を頂いて気絶するし、しかも、
「ああ、山城さん気分はどう? なんか凄まじい有様だったみたいだけど、もう身体の痺れとかない? 」
「気分は最悪よ、誰かさんの顔のせいでね」
「そうか、元気そうなら良かった。
あ、幽霊? は叱っといたからもう大丈夫なはず」
「意味がわからない事を言うのね」
体を起こすと提督が水を差し出して来た。
少し迷ったが受け取ることにして深呼吸してから口に含む。
「そんな警戒しなくても細工なんてしてないよ?」
「ングッ……こうしないとむせるのよ」
「ああそう、筋金入りなんだね」
苦笑いを浮かべる提督、他の艦娘に言わせれば『人懐っこい』や『無害そう』と言う評価になる表情らしい。
(私にはもっと『油断ならないナニカ』の様に見えるのだけれど)
前世の自分が知るのは軍人と言う人物ばかりだったが、それでもこの提督の様な者は居なかったと思う。
ある意味では『ただの若者』だが、その裏でブラックホールの中を覗き込んだ事がある様な印象を持たせる一面を醸し出す男だ。
「姉様は何処に居るのかしら?」
「扶桑さんならさっきまで凹んでたけど、山城さんのおかゆを作ってもらう様に間宮さんのとこに行ったよ」
「そうなの」
もう少し早く目を覚ませばお顔を見れたのに、やはり運が悪い。
「山城さんはさ、自分が不幸だって言うのをどうにかしたいと思う?」
「なにそれ? まさか提督がよく聞いてるっていう艦娘の願いとやらですか?」
「うん、そのつもり」
「はっ、なにをいうかと思えばそんなことですか。
そんなくだらない事を聞かれるなんて」
「くだらない事、なのか?」
首を傾げる男に向けて言葉を吐き出す、生きているものにはわからないだろう思いを。
「ええ、くだらないわ。
確かに私の前世は納得いかない終わり方だったしそのせいで今も幸運とは言い難いけれどね、それでも私は生まれた事を悔やんだりしないわ」
人間とは違い、兵器であった自分たちは多くの人間の思いを受けて生まれて来た。
機材一つ、ネジの一本、そして砲弾のひとつまでが明確な意思を込められていた。
例え志しの半ばであっても望郷の念を持ちこそしても、未練も後悔もない。
「そして、今は肉体を持って姉様と再会出来た。
不幸に見舞われたとしても、こんな奇跡みたいな日々を送っているのに誰かに願いを託す必要なんてあるのかしら?」
「つまり、今は満足しているから特に願いはないと?」
「おせっかいな貴方には悪いけれどね。
そもそも、後でどんな代償を払わされるかわかったものじゃないもの」
「おせっかいだったのか……」
腕を組んで考え出す提督。
「提督がどうして他人の願いとやらを気にするのかは知らないけれど、私たちの中には非業の最期を迎えた子もいるわ。
そういう地雷だけは気をつけない」
「なんか、昨日俺をタコ殴りにした人とは同じに見えないんだけど」
「お望みなら完膚なきまでに叩きのめしてやってもいいのよ?」
ベッドから降りて下駄を履く。
どうやら鼻緒は妖精が直して置いてくれた様だ。
「まだ寝てたほうが良くない?」
「姉様を1人にしておけないもの、ほら着物を着付け直すからさっさと出ていきなさい覗き魔」
「その評価はやめて!」
俺は一体なにを書きたかったのだろうか?