そしてストレスが加速的に溜まる。
とりあえず酒店童子が全力で抱きしめたい。
『戦闘が終了したわ! これから羅針盤を回して進路を決定するわ!』
『あ、暁! 私! 私が回したい!』
『い、電にもやらせて欲しいのです』
『よーそろ』
『『『あぁ!! 響ぃ!?』』』
藤丸は通信機から漏れる声を聞いて安堵した。
知らないうちに中腰になっていたようで椅子へと腰を下ろすと叢雲がクスクスと笑う。
「ずいぶん緊張してたみたいね?」
「当然だろ、できれば俺だって一緒に行きたいくらいなんだから」
「それも呆れるくらい聞いたわ、海上に立てもしない奴が付いてこれるわけないでしょう」
「それでもなぁ」
地図を万年筆で突きながらどうしたものか考える。
深海棲艦と艦娘の出現によって海戦のあり方は一変した、見た目はただの少女なのに恐るべき武力を有する存在。
「だから私たちは鎮守府から出られないし、移動する時にも監視が着くわ。
そんな奴らに混ざってなにが出来るって言うの?」
「いやー、そりゃ声出して応援とか」
「それでお荷物が増えちゃ意味ないでしょうよ」
やはりダメか、と落ち込む。
『提督ー、観測所のある島が見えたわ』
「暁ちゃんか? ありがとう、燃料を回収して一息ついてくれ。
30分休憩の後に再出撃するよ」
『しれーかん! 次は雷が活躍するから待っててね!』
『次のMVPも私が頂くよ』
「あんたたちはしゃぐのもいいけど、そこから先はなにがあってもおかしくない未知の海域よ。
警戒だけは怠らないようにね」
元気の良い返事を聞いて通信を落とした。
彼女たちが出撃してからずっと緊張していたらしく凝り固まった肩を解す。
「そんな調子だとこれから身がもたないわよ?」
「仕方ないだろ、座ってるだけなんて性に合わないんだから」
「なら今のうちに気を休めておきなさい」
「そうするよ」
ぬるくなったお茶で唇を潤す。
「なぁ叢雲さん、今回の編成ってどう決めてあるの? もし敵の数がわからないなら巡洋艦とか戦艦とかの人に来てもらった方が良くないか?」
「そうしたいのは山々なんだけどね、この海域の特徴としてうちの戦艦は出す事が出来ないのよ」
叢雲が言うには海に出ると風向きや潮の流れによって目に見えない『道』のようなものがあるそうだ。
その道筋を見つけるために羅針盤を回しているらしいのだが、羅針盤も万能ではないと言う。
「今出撃している海域は渦潮が多くってね、足の遅い船だと引き込まれてしまうの。
それを知らずに扶桑と山城を出撃させて進路が逸れちゃって、しかも2人とも大破」
「それで資源がほぼ尽き掛けてたのか、この鎮守府」
「戦力として十分とは言い難いけれど、あの子たちが今出せる戦力の中で最高のものである事は間違いないわ」
「それならもっと他の海域で慣らせるのも手としてはあったんじゃない?」
「もともと此処の攻略が遅かったせいで大本営から突かれてるのよ」
疲れたように言う叢雲、聞いてみるとかなりしつこく伝令を受けていたらしい。
主に大淀が。
(そんなに切羽詰まるほど日本って打撃受けてたかなぁ?)
『司令官、聞こえるかしら?』
「こちら藤丸、まだ休憩時間のはずだけどどうしたの」
『かんそくじょの人が最近おかしな反応するって言うの』
「どういうことかしら?」
『それがよく分からなくて、れーき反応? とか言うのがどうとか』
「霊基反応?」
「艦種を特定する為のものよ、どうおかしいかわかる?」
『ちょっと待ってください。えっと、これはどう使えばいいの?』
『しょーがないわね! 私に貸しなさい』
少し間を置くと叢雲の頭部ユニットからメロディーが流れた。
すぐに叢雲の前にホログラムのディスプレイが投射される。
「ん、来たわね。
これは戦艦の、ル級のパターンのように見えるけれど」
「ル級って、あのゴツい砲台のねーちゃんか」
「確かに、基本はル級のものね」
叢雲の手元を覗き込んでみるがグラフや細かい文字ばかりでよく分からない。
「叢雲さんどうなんだ? これは危険なのかそうでないのか」
「わ、からないわ。
通常のル級なら戦術次第では、って所かしら」
「俺は可能なら撤退させたい、未知の相手なら未知なりの準備をするべきだ」
けど、
「そうも言ってられないんだろ?」
「ええ、正直これ以上は大本営から本格的に干渉されかねないわ」
「暁ちゃん、響さん、雷ちゃん、電ちゃん聞こえてたかい?」
『待って司令官、なんで暁じゃなく次女の響だけさんなのかしら?』
『司令官、暁は無視して続けてくれ。
雷は暁を抑えておいて、それで司令官、私たちはどうすればいいか?』
「君たちはどうしたい」
『それは愚問というものだよ
ならば司令官の思うように私たちを使うべきじゃないかい?』
「だから聞いたんだ、君たちはどうしたいかを」
近くにいた叢雲が机に手を置いて自分に強い視線を送ってくる。
あまり艦娘に踏み込むなと言いたいのだろう。
『私は沈みたくないし、姉妹の誰も沈ませたくない。
けど、此処で成果を出しておかないと不味いんだろう?』
『電も聞いちゃったのです、このままだと鎮守府が解体されちゃうって。
そしたら電たちの姉妹もみんなも離れ離れになってしまうのです、それは寂しいです』
『なにがあってもこの雷がなんとかしてあげるわ!』
『んーーー! ンゴモゴー!!』
出撃する前と変わらない、元気な声が返ってくる。
艦娘とはいえその精神は人間と同じだ、戦場に立ってなお明るさを失わないのは船の記憶を持つが故かそれとも彼女たちの強さのおかげか。
「わかった、第六駆逐隊はこのまま進軍させる。
ただし条件を増やすし観測所で少し装備を調整してからだ、叢雲さん」
「やりたいようにしなさい。
少なくともあんたがやらかしても私が一緒に責任負うし、この子たちもあんたを恨むような事は無いわ」
頼れる秘書艦の言葉に自分も頷く。
手袋の下の、握りしめた右手の甲が不意に熱くなったように感じた。
あー、艦娘の誰かにマッサージして欲しい。
足の裏踏むくらいでいいからして欲しい。
誰か養って。