…最新話、投稿です。
「ぅ…うぅん、朝か…」
ある日の朝、顔に眩しさ感じて目が覚めた提督。どうやらカーテンの隙間から入り込んだ陽の光が、彼を照らしていたようだ。
「あと…もぅ…少し…」ゴロ
この提督は朝には弱いのか、また寝ようとして反対側に寝返りを打つ。だがそこで違和感に気づく。
(うぅ…何か目の前に違和感が…息が苦しい)
顔に何かが当たっていて息ができないようだ。ぼんやりとしたままソレが何なのか手で触って確認する。
(柔らかい…?枕…か?)
ソレは何やら柔らかいモノらしく、瞼を徐々に開けていくと目の前には白と茶色?のような、二色が見えた。
「おはよう♪朝から大胆だな、相棒?」
「………」
目の前には、いつの間にかベッドに入り込んでいたであろう武蔵がにこやかにそこにいた。
~数十分後~
「ほら、出来たぞ?冷めないうちに召し上がれ♪」
「……あぁ、ありがとう…」
ベッドから起きた後、テーブル席に座らされた提督の目の前には朝食が用意された。ご飯、味噌汁、焼き魚の三品は、まさに朝食の定番といったメニューだった。
「…い、いただきます…」
初めに味噌汁に手をかけ、ソレを口に含む提督。
「…美味しい…!」
「フフッ、それは良かった♪」
思わず味の感想を口に出してしまい、それを聞いた武蔵は嬉しそうに微笑んだ。
その後も、黙々と食べ続ける提督を武蔵はずっと見続けていた。
「………」モグモグ
「……♪」
提督が朝食を食べ終わるまで、その状況はずっと続いていた。
「…ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした♪どうだ?旨かったか?」
「うん、すごく美味しかったよ。これって武蔵が作ったんだよな…?」
「ああ、お前の為にな。口に合ってくれたようで良かったよ」フッ
「そ、そうか…ありがとう。(…武蔵って料理出来たんだ)」
正直、今彼の中では、朝食を食べた満足感よりも、彼女がその朝食を作ったという事実に驚いていた。
食べ終わったのを確認した武蔵は、食器を流し台まで持っていき皿洗いを始める。提督はそんな彼女の後ろ姿をぼうっと見ていた。
(…驚いたな、てっきり武蔵は武人ってイメージだったから家庭的な事とか無縁なものだと思ってたんだけど…)
「ホラ、食後の珈琲だぞ」スッ
一人でそんな事を考えていると、食器洗いを終えた武蔵が目の前に珈琲を差し出してきた。珈琲のいい香りでハッと我に返る提督。
「…あ、ありがとう武蔵。悪いな朝から」
「なに、気にするな。私がしたいから勝手にしている事だ…それと、何か考え事でもしていたのか?ぼうっとしていた様に見えたが…」
「…いや…別にそんな事ないよ?寝起きだからそう見えただけだろ?」ズズッ
「そうか?私には、まるで私が料理出来るのが意外だった、と思っている様に見えたんだが?」
「!…ゴホッ!ゴホッ!」
思っていた事をズバリ当てられ、思わずむせる提督。飲んでいた珈琲も淹れたてだったので、熱さで余計に喉がやられて苦しんでいるようだった。
「その反応、どうやら図星のようだな…」
「ち、違っ!決してそんな意味があったんじゃ…!ゴホッ!ゴホッ!」
「あぁ、大丈夫か?」サスサス
提督の傍に寄り、その背中を優しく擦る武蔵。提督が落ち着いてくると、今度は冷たい水を持ってきてソレを飲ませた。
「ふぅ…それで、こんな朝はやくからどうしたの?今日は非番のはずだったと思うけど」
「ん?あぁ、特に理由はない。ただの気まぐれさ」
「気まぐれって…わざわざ人の部屋に入り込んでまで何を…」
「ふむ、まぁ強いて言うなら…お前の寝顔が見たくなってな」フフッ
「…からかうなっ」
「からかってなどいないさ、本当に可愛らしい寝顔だったよ。早起きした甲斐があったというものさ♪」
武蔵は微笑みながらそう口にする。普段からこう笑ったりする事も中々ないので珍しくも思う。
戦闘中のあの凛々しくも大胆な姿からは想像できないほどに、今の武蔵はこの状況を楽しんでいるようだ。
「そもそも人の部屋に!それも寝室に忍び込むヤツがいるか!」
「私だけではないだろう?それに何を今更言っている。今に始まった事でもないだろうに」
「それが当たり前みたいに思ってるところがお前達は少しばかりどうかしている!」
そう、過去にも今回のような出来事が何回かあった。
始まりは加古が寝ぼけて自身の部屋と間違えて入ってきてしまった事があり、そのままベッドに入り込んでしまい、俺を抱き枕状態にして朝を迎えるという出来事あった。正直、あの時目が覚めた時は驚きよりも、身体中の節々の痛みの方が辛く感じた。抱かれていたよりも、あれは締め付けられてた方に近い。
「加古はまぁ寝相が悪いのは知ってたから合点はいくけど、その後に初月と木曾、挙げ句に古鷹と大鳳までくるのは一体どういう訳なんだ!」
加古一件を皮切りにしてか、後日から代わる代わる別な艦娘が忍び込むプチ事件が立て続けに起こった。
初月は馬乗りで跨がり、木曾は俺の寝ているベッドに腰を掛けながら目覚めるまでそのままでいたり、大鳳はベッドの隣に椅子を持ってきて座り、まるで病人を見舞いにきたかのような様子でいたり
…まぁ、病人には変わりないんだろうけど…。
その中でも、古鷹の行動には少しばかり恐怖を感じた。だって起きた瞬間に目の前には朝食が用意されていたのだから。『あ、おはようございます提督♪朝御飯できてますよ♪』と、目の前には古鷹お得意の車海老カレーが出されており、少し辛い思いをしながら食べた事があった。
あの時の古鷹の行動と笑顔は、今でもちょっとしたトラウマだ。
「それに…ましてやお前まで」
「気まぐれ、と言っただろう?私だってこういった事をする時もあるさ」フッ
「だとしても、少しは節度を持った行動というものを…」
「…まさかお前知っていないのか?」
「何を…?」
「他の艦娘達がこの部屋の合鍵を持っていることを、だ」
「………え?」
今、武蔵からとんでもない事をカミングアウトされた。俺は予想外の言葉に思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「………それって、どういう事なの?」
「む?いや少し前に、お前が急に倒れてしまった事があっただろう?その後に艦娘同士の話し合いが行われてな。その時に決まったことなのだが」
「…具体的にその話し合いの内容は?」
「もし、お前が一人だけで前のような状況になってしまった場合すぐ対応できるようにだ。と言っても、基本的にお前には秘書艦として常に誰かが着いている、問題はないはずなのだが、例外もある。それは…」
「…一日の仕事が終わった後のプライベートな時間?」
「そういう事だ」
「はぁ…話は理解できたけど、そんな大事なことはまず俺に伝えろよ…」
「ふむぅ、私も他の誰かが伝えてすでに知っているものだと思っていたからな。まぁ、許してくれ」
「怒ってるわけじゃないから別に…けど、逆に言えばそれは俺が本当に一人でいられる時間がないってことじゃ…」
「裏を返せばそう捉えられなくもないが、お前の為なんだ。理解してくれ。それに…お前に何かがあっては私も気が気じゃないからな」ギュッ
「む、武蔵…?」
俺の背後に回ってきた武蔵はそう言いながら、そっと覆い被さるように腕を前に回してきた。俺よりも武蔵の方がずっと身長が高いせいもあってか、すっぽりと埋まってしまう。
「私だってお前のことを大事な仲間だと思っている…いや、それ以上に大切な存在なんだ。お前が居てくれたから今までやってこれたんだ、そしてこれからも、な…」
「…それは俺だってそうだよ。皆が、武蔵が居てくれたお陰で今も提督としてやってこれたんだ…本当に、毎日助けてくれてありがとう」
「フフッ、やはり相棒は優しいな♪」
武蔵は、俺と二人だけの時は相棒と言ってくれる。それはつまり、俺を信頼してくれているからだろう。
彼女はここの艦娘達の中ではもっとも付き合いが長く、お互いをよく理解している。だからこそ、俺も彼女に対しては絶対の信頼を置いている。
「でも…正直、武蔵は本当に頼りになるよな。俺よりよっぽど提督に向いてるよ」
「む?」
「普段の書類整理とかもそうだけど、戦闘の時だって俺の指揮がしっかりしていないせいで危うい状況になった時とか、率先して皆を率いて的確な指揮でその状況を打破してくれて…」
「………」
「目の前と周りの状況をよく見れている証拠だよ。俺なんかいなくても、充分やっていけるほどに…って、イテテテッ!」
喋っている最中に急に両頬に痛みを感じる。どうやら武蔵が頬をつねったようだ。
「全く、長のお前がそんな事で卑屈になってどうする。いい加減呆れてくるぞ」
「む、武蔵?」
「お前との付き合いも長い、何を思っているかも大体は想像がつく。だがな…どんな理由があれ、私にはお前が必要だ」
「…っ」
「無論、そう思っているのは私だけではない。他の皆にしてもきっとそうだろう。それは、お前も重々承知のはずだろう?」
「…うん」
「提督という立場だからといって、全てのことを完璧こなさなければいけないわけではない、人というのは半端な位が丁度いいのさ…まぁ、艦娘の私が言うのも何だがな…」
「武蔵…」
「だからこそお前と巡り会えたのだからな…お前が悩んでくれたお陰で、繋がりを持てたのだから。もし、お前が何でも完璧にこなせる人であったのならば、私の手など借りることもなく、今の関係を築けなかっただろう…」
「…」
「だから半端者でいいんだよ。見栄を張らなくたっていい、出来ないことだってあっていいんだ。そのお陰で、お前とこうやって楽しく過ごせているんだからな。他人と自分を比べて落ち込む必要はない、過去の事を気にして卑屈になる必要はない、その事実があったから充実した今があるんだ、今までのお前の行動に間違いなんてなかったんだよ…」
「…ぅ、ん」
「というより、私がしたくてやったことだからな。お前が気にする必要は全くない…頑張っているよ、お前は」ナデナデ
「………」ウルッ
「む、どうした?」
「!な、何でもないっ」
武蔵はそう言いながら俺の頭を撫でている。
優しい、先程武蔵は俺にそう言ってくれた。けど、本当に優しいのはお前の方だろ?急にそんな言葉をかけられたら…
「…グスッ」
「泣いてるのか、相棒?」
「ち、違う!これは…あ、アレだ!下を向いていたから鼻水がだな!」
どんな言い訳だよ、と思わず自分でも思ってしまう。それほど気が動転していたのだろう。
俺は顔を見られないよう必死に抵抗していたが、相手が艦娘ではその抵抗も無意味。
ましてや武蔵、それも戦艦級ならばパワーは半端ではない、何の抵抗もできないまま顔を無理矢理向かされてしまう。
「…ぅぅっ」
「っ…相棒」ドキッ
「み、見るなよぉ…」
大の男が泣き顔をまじまじと見られている。その事実が俺の羞恥心を異常なまでに駆り立てる。
やばい…色々と本当にやばい。
「………相棒」
「……ぅ」
「…お前の泣き顔…本っっっ当に可愛らしいなあ♪」
「ひっ…!」
「もっとよく見せてくれ…!」グイッ
「あぅ…!」
興奮した武蔵は俺更に引き寄せる、お互いの額が付いてしまうほどに。
勢いよく引き寄せられたせいで息が苦しくなってきた。
「む、むさし…苦しい」
「…!す、すまない!私としたことが…」パッ
「ハァハァ…ううん、大丈夫…」
「ほ、本当にすまない、こんな事をするつもりでは…」
「大丈夫だって、本当に…」ハハッ
先程の武蔵の眼は間違いなく獲物を見据えたハンターの眼だった。蛇に睨まれた蛙とはこの事か、全く動けなかった。
戦闘時の武蔵でも、あのような眼を見たのは初めてだったから驚いている。
「むぅ…ん?相棒、その首はどうした傷か?」
「え?あぁ…これ、前に初月に…ね」ハハッ
「!…あの時か…。まだ痛むのか?」
「あぁいや…痛みはほとんどないんだけど、何か妙に痺れるっていうか、くすぐったいような感覚がまだね」
服が乱れたせいで首もとが露になっていたようだ。丁度あの時にできてしまった噛み痕が武蔵の目に写ってしまっていた。
「治療はしているのか?」
「いや、特にしてないよ。傷口はもう治ったみたいだし、まぁ痕は残ってるけど」
「本当に大丈夫なのか?完治したのなら、そのような症状はしないと思うが…医療箱はどこだ?」
「えっ?いや、大丈夫だよ本当に痛みもないから」
「何かあってからでは遅いだろ…これか。よし、ベットにうつ伏せになれ」
「えぇ!い、いいよ、大丈夫だって!」
「いいからこっちにこい」グイッ
「うわっ!ちょっと武蔵!?」
医療箱を持ってきた武蔵はそのまま俺を抱き上げた。前にもこんな事があった気がするが、今はそれどころではない。
そのまま寝室のベットに寝かされてしまった。
「むぐっ、お、おい武蔵!?」
「いいから大人しくしていろ」シュルッ
「ちょ、ちょっと!」
Tシャツまで無理矢理脱がされた俺は、上半身裸のままうつ伏せに押さえられ、されるがままの状態にされてしまった。
「いい子だから大人しくしていろ」スッ
「いや、だから!……うぅっ!?」ビクッ
噛み痕の部分に消毒液がしみた布をあてがった瞬間、全身を電流が駆け巡った感覚に襲われ、思わず体が反応してしまう。
「はぁ…!む…さし…だ、大丈夫…だから!コレとって、あぅっ!」ビクッ
「…落ち着け、ゆっくりと深呼吸してみろ」
そのまま俺は武蔵に治療をされ続けた。
続く
えと、続きます。はい。