ありふれた生成(機械)魔法士を   作:禍津伊邪那岐大神

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今回から時間を遡ってクラスメイト編です!


Side Story クラスメイト編
第17話


 

 

 

 

これは、ハジメとライキが奈落に落ちてから五日たった日の物語である。

 

 

 

 

 ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は、泣き崩れた表情で未だに眠る親友を見つめていた。

 

 

 

 あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から既に五日が過ぎている。

 

 

 

 

 あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いだったとは言え勇者の同胞二人が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

 

 

 

 それに、厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

 

 

 

 

 雫は、王国に帰って来てからのことを思い出し、香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。

 

 

 

 

 帰還を果たしライキとハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが“無能”のハジメとライキと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

 

 

 

 

 国王やイシュタルですら同じだった。強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

 

 

 

 

 だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。中には悪し様にハジメとライキを罵る者までいたのだ。

 

 

 

 

 

 もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた。まさに、死人に鞭打つ行為に、雫は怒りに身を任せてしまいそうになった。

 

 

 

 

 実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ貴族達を滅多切りにしても可笑しくなかった。光輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、二人を罵った人物達は処分を受けたようだが……

 

 

 

 

 逆に、光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、ハジメとライキは勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

 

 

 

 

 あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者も歯が立たなかった化け物をたった二人でというのに。そんなハジメを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った流れ弾・・・そしてそれを助けようとしたライキだというのに。

 

 

 

 

 クラスメイト達は図ったように、あの時の誤爆・・の話をしない。自分の魔法は把握していたはずだが、あの時は無数の魔法が嵐の如く吹き荒れており、“万一自分の魔法だったら”と思うと、どうしても話題に出せないのだ。それは、自分が人殺しであることを示してしまうから。

 

 

 

 

 結果、現実逃避をするように、あれは二人が自分達で・・・何かしてドジったせいだと思うようにしているようだ。死人に口なし。無闇に犯人探しをするより、ハジメとライキの自業自得にしておけば誰もが悩まなくて済む。クラスメイト達の意見は意思の疎通を図ることもなく一致していた。

 

 

 

 

 メルド団長は、あの時の経緯を明らかにするため、生徒達に事情聴取をする必要があると考えていた。生徒達のように現実逃避して、単純な誤爆であるとは考え難かったこともあるし、仮に過失だったのだとしても、白黒はっきりさせた上で心理的ケアをした方が生徒達のためになると確信していたからだ。

 

 

 

 

 こういうことは有耶無耶にした方が、後で問題になるものなのである。なにより、メルド自身、はっきりさせたかった。“助ける”と言っておいて、二人を救えなかったことに心を痛めているのはメルド団長も同様だったからだ。

 

 

 

 

 しかし、メルド団長は行動すること叶わなかった。イシュタルが、生徒達への詮索を禁止したからだ。メルド団長は食い下がったが、国王にまで禁じられては堪えるしかなかった。

 

「あなたが知ったら……怒るのでしょうね?」

 

 

 

 

 あの日から一度も目を覚ましていない香織の手を取り、そう呟く雫。

 

 

 

 

 医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。

 

 

 

 

 雫は香織の手を握りながら、「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。

 

 

 

 

 その時、不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。

 

 

 

 

「!? 香織! 聞こえる!? 香織!」

 

 

 

 

 雫が必死に呼びかける。すると、閉じられた香織の目蓋がふるふると震え始めた。雫は更に呼びかけた。その声に反応してか香織の手がギュッと雫の手を握り返す。

 

 

 

 

 そして、香織はゆっくりと目を覚ました。

 

 

 

「香織!」

 

「……雫ちゃん?」

 

 

 

 

 ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら香織を見下ろす雫。香織は、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう? 違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

 

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

 

 

 

 

 そうやって体を起こそうとする香織を補助し苦笑いしながら、どれくらい眠っていたのかを伝える雫。香織はそれに反応する。

 

 

 

「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 

 

 徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた雫が咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、香織が記憶を取り戻す方が早かった。

 

 

「それで……あ…………………………南雲くんと風間くんは?」

 

「ッ……それは」

 

 

 

 苦しげな表情でどう伝えるべきか悩む雫。そんな雫の様子で自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど香織は出来ていない。

 

 

 

 

「……嘘だよ、ね。そうでしょ? 雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも風間くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? 二人は……訓練かな? 訓練所にいるよね? うん……私、ちょっと行ってくるね。ちゃんと二人にお礼言わなきゃ……だから、離して? 雫ちゃん」

 

 

 

 

 現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎハジメを探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。

 

 

 

 

 雫は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と香織を見つめる。

 

 

「……香織。わかっているでしょう? ……ここに彼らはいないわ」

 

「やめて……」

 

「香織の覚えている通りよ」

 

「やめてよ……」

 

「二人は……」

 

「いや、やめてよ……やめてったら!」

 

「香織! 二人は死んだのよ!」

 

「ちがう! 死んでなんかない! 絶対、そんなことない! どうして、そんな酷いこと言うの! いくら雫ちゃんでも許さないよ!」

 

 

 

 イヤイヤと首を振りながら、何とか雫の拘束から逃れようと暴れる香織。雫は絶対離してなるものかとキツく抱き締める。ギュッと抱き締め、凍える香織の心を温めようとする。

 

 

 

「離して! 離してよぉ! 南雲くんも風間くんも探しに行かなきゃ! お願いだからぁ……絶対、生きてるんだからぁ……離してよぉ」

 

 

 

 いつしか香織は“離して”と叫びながら雫の胸に顔を埋め泣きじゃくっていた。

 

 

 

 縋り付くようにしがみつき、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣く。雫も同じく泣いていた、だってあんなに友達思いのライキまでもが…………

 

 

 

 どれくらいそうしていたのか、窓から見える明るかった空は夕日に照らされ赤く染まっていた。

 

 

 

「香織……」

 

「……雫ちゃん……南雲くんも風間くんも……落ちたんだね……ここにはいないんだね……」

 

 

 

 囁くような、今にも消え入りそうな声で香織が呟く。雫は誤魔化さない。誤魔化して甘い言葉を囁けば一時的な慰めにはなるだろう。しかし、結局それは、後で取り返しがつかないくらいの傷となって返ってくるのだ。これ以上、親友が傷つくのは見ていられない。

 

 

「うん………」

 

「あの時、二人は私達の魔法が当たりそうになってた……誰なの?」

 

「わからないわ。誰も、あの時のことには触れないようにしてる。怖いのね。もし、自分だったらって……」

 

「そっか」

 

「恨んでる?」

 

「……わからないよ。もし誰かわかったら……きっと恨むと思う。でも……分からないなら……その方がいいと思う。きっと、私、我慢できないと思うから……」

 

「そう……」

 

 

 俯いたままポツリポツリと会話する香織。やがて、真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、雫を見つめる。そして、決然と宣言した。

 

 

 

「ごめんね?………雫ちゃんだって辛いのに………」

 

「え………あ………」

 

 

 瞼を擦るといつの間にか涙が溜まっていた。

 

 

「風間くんに恋………してたんだよね?」

 

「…………けど……してたとしても、もう」

 

「だったら………一緒に探そう?」

 

「………え?」

 

 

香織の目を見つめる。香織の目には揺るぎのない炎が宿っているように感じた。まだ諦めていないのだ。

 

 

 

 普通に考えれば、香織の言っている可能性などゼロパーセントであると切って捨てていい話だ。あの奈落に落ちて生存を信じるなど現実逃避と断じられるのが普通だ。

 

 

 

 おそらく、幼馴染である光輝や龍太郎も含めてほとんどの人間が香織の考えを正そうとするだろう。

 

 

 だからこそ……

 

 

「もちろんいいわよ。納得するまでとことん付き合うわ」

 

「雫ちゃん!」

 

 

 香織は雫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。「礼なんて不要よ、親友でしょ?」と、どこまでも男前な雫。現代のサムライガールの称号は伊達ではなかった。

 

 

 その時、不意に部屋の扉が開けられる。

 

 

「雫! 香織はめざ……め……」

 

「おう、香織はどう……だ……」

 

 

 光輝と龍太郎だ。香織の様子を見に来たのだろう。訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。

 

 

 

 あの日から、二人の訓練もより身が入ったものになった。二人もハジメの死に思うところがあったのだろう。何せ、撤退を渋った挙句返り討ちにあい、あわや殺されるという危機を救ったのはハジメなのだ。もう二度とあんな無様は晒さないと相当気合が入っているようである。

 

 

 そんな二人だが、現在、部屋の入り口で硬直していた。訝しそうに雫が尋ねる。

 

 

「あんた達、どうし……」

 

「す、すまん!」

 

「じゃ、邪魔したな!」

 

 

 雫の疑問に対して喰い気味に言葉を被せ、見てはいけないものを見てしまったという感じで慌てて部屋を出ていく。そんな二人を見て、香織もキョトンとしている。しかし、聡い雫はその原因に気がついた。

 

 

 

 現在、香織は雫の膝の上に座り、雫の両頬を両手で包みながら、今にもキスできそうな位置まで顔を近づけているのだ。雫の方も、香織を支えるように、その細い腰と肩に手を置き抱き締めているように見える。

 

 

 

 つまり、激しく百合百合しい光景が出来上がっているのだ。ここが漫画の世界なら背景に百合の花が咲き乱れていることだろう。

 

 

 

 雫は深々と溜息を吐くと、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織を尻目に声を張り上げた。

 

 

 

 

「さっさと戻ってきなさい! この大馬鹿者ども!」

 

 





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