あの後、八重樫と別れた俺は一人ベットで考えていた。
(ハジメ以外の友達、か)
笑い話とでも思ったが八重樫の表情から察するに本気なのだろう。
(俺の前で八重樫があんな顔したの初めてだったなぁ・・・)
今でも脳裏を通過していく八重樫の頬を染めた顔に俺は自然と顔が緩んだ、悪くないと。
それを記憶の片隅に閉まって明日のことを考えようとしたら睡魔が襲って来たので直ぐに寝てしまった。
翌日の陽が登り始めた頃、俺達は【オルクス大迷宮】のゲート前に来ていた。
【オルクス大迷宮】の中は、縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明りの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。
一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。暫く何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天上の高さは七、八メートル位ありそうだ。
その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。
「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」
その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。
灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。はっきり言おう。スゲッゲエキモイデザインダナ!
前衛のチームが攻撃を開始する。間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。
光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。チートなステータスがあってこそだが元々スポーツ万能なので基本の立ち回りもしっかり出来ている。
龍太郎は、天職が空手部らしく“拳士”であることから籠手と脛当てを付けている。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。
雫は、サムライガールらしく“剣士”の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、とても綺麗である。
気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。
「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」
生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。
それを見ていた俺は酷く期待外れな視線を送る、初めての魔物討伐でテンションが上がるのは認めよう。だが、力を出し過ぎである。あんな戦い方ではチート地味ているとはいえ直ぐにガタが来るはずだ。
そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。現在の迷宮最高到達階層は六十五層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十層越え、二十層を越えれば十分に一流扱いだという。
「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」
ここまで、俺とハジメは特に何もしていない。一応、騎士団員が相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、おこぼれを二人で協力して倒しただけである
騎士団員が弱った魔物を俺とハジメの方へ弾き飛ばしてきたので、溜息を吐きながら接近し、ハジメは手を突いて地面を錬成。万一にも動けないようにして、魔物の腹部めがけて剣を突き出し串刺しにした。そして俺の戦い方はと言うと・・・
「・・・せいっ!」
魔物の頭上に
そして二十層の最奥でメルド団長が声を上げる
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
そして前衛が戦闘態勢に入る、どうやら擬態した魔物が出てきたらしい。ロックマウントと呼ばれる魔物を前衛パーティが倒す遠目で見ていたが光輝がオーバーキルし過ぎたらしくメルド団長に拳骨を喰らっていた。
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
ふと呟かれたその言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。
そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。
「素敵……」
確かに綺麗だが俺の直感はそれを危険と判断していた。何故なら普通珍しい鉱石なら人のての届かない所にあるはずだ。なのにあの鉱石は取ってくださいと言わんばかりに壁からむき出している。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。どうやら俺の直感は当たっていたらしく・・・
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
案の定トラップが作動した。
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。
部屋の中に光が満ち、ライキ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。
ライキ達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。
尻の痛みに呻き声を上げながら、俺は周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは俺やハジメと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。
どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。
俺達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。
「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」
雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。
しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……
その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。
まさか……ベヒモス……なのか……
次回からようやくベヒモス戦です
そして申し訳ありません!自分の都合で投稿するのが遅くなりそうです。勝手な理由で誠に申し訳ありません!