我等が女王に、跪け。   作:白蛆

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ん?ランポスくらい1話で倒せ?
いや、無理でしょ。


第4話〜踊れよ、我に捧ぐ舞を。〜

爪に赤いオーラを纏わせたランポス=ケプトス達が、一斉に攻勢に転じた。

 

爪が赤い軌跡を残し、触手や木々を掻い潜って俺の周囲を駆け回る。

森に絶妙な保護色となっているランポス=ケプトスの青い鱗も相まって、それはまるで森の中に赤い光の帯だけが物凄い速度で舞っているかのような……呑気なことを言っている場合では無いのだが、それはなかなかに幻想的な光景であった。

 

俺は慌ててそれを触手で迎え撃つも、先程とは明らかに違うランポス=ケプトス達の動きにより、その触手達は軽々と躱され、またある時には『深淵』によって喰らう速度よりもさらに早く振られた爪によって易々と切り裂かれ、包囲の輪はあっという間に狭まっていく。

 

外見上の違いはただ赤い光を纏ったという程度なのだが、それによってもたらされた効果は段違いだ。ステップの速度、爪の連撃、移動スピード、攻撃や防御の精密さ、どれをとっても上昇度合いが凄まじい。

 

何よりも厄介なのは、「早い」ことだ。

「速い」ではなく「早い」である。武術なんてかじったことも無いので言葉では上手く説明出来ないのだが、そこには「速度」とは違った「早さ」があった。

 

 

《告、全方位からランポス=ケプトスが攻撃してきます。》

 

んなこたぁわかってらぁ!!

急激に悪化した戦況に、完全な八つ当たりで『禁書』を怒鳴り散らす。だが、ただの能力に過ぎない『禁書』に怒鳴ったってどうにもならない。ただ自分が虚しいだけだ。

 

そうしている間にも、ランポス=ケプトスは刻一刻と包囲の輪を縮めている。どうやら彼等からの俺の評価は完全に「餌」から「敵」に変わったようだ。奴等の黄色く輝く目に映っているのはどう見ても食欲ではなく殺意である。

それだけの本気の殺意を向けられ、俺は未だかつてないほどに震え上がるが、それでもランポス=ケプトスを出来るだけ近づけないように禍々しい触手を懸命に振り回す。

 

しかしそれは所詮、幾許かの時間稼ぎにしかならない。

このままではランポス=ケプトス達の鋭い爪によって殺されるのは時間の問題だろう。なんとか打開策を見つけなければ。

そうだ。時間さえあれば方策は色々とあるのだ。問題はその時間をどうやって稼ぐか……

 

 

……目潰し。

 

 

『禁書』!『黒の法衣』を発光させることは可能か!?

 

《解、可能。ただし視界不良にさせるにしても一瞬しか持ちません》

 

それで充分だ!

『黒の法衣』よ、強く発光しろ!!

 

『黒の法衣』をそんな意思によって操作したその瞬間、俺の視界は真っ白に塗りつぶされた。

 

『黒の法衣』が放った強力な光によって、一時的にその機能を失った視界だが、それは一瞬のうちに復活する。体に纏っていた『黒の法衣』が俺の目を保護してくれたのか、それともこれも体のスペックによるものなのか……詳しいことはわからないが、今はそのような事はどうでもいい。

 

それより、周りのランポス=ケプトス達は、未だに視界の機能が完全に復活せず、こちらを攻めあぐねているのだということが重要だ。

 

当たったら非常に危険な、しかも何本も高速で振るわれる触手を見切るために凝視していた彼等は、閃光の影響を最大限に受け視界を潰されていた。

凄いのは、それでも前に進まないだけで触手を回避し続けていることだろう。恐らく触手が風を切る僅かな音だけで判断しているのだ。とんでもない奴等である。

 

だが、そんな連中でも、あるいはそんな連中であるからこそ、流石に目を潰された状態で攻勢に入るほど無鉄砲ではないらしい。一時的に流れは後退へと切り替えられた。

 

その隙を突いて、俺は膝を深く曲げ、足回りの『黒の法衣』を鼓型コイルバネのような形に変化させた。これでスプリングのように飛び跳ねて離脱を図ろうというわけだ。

 

直後、凄まじい衝撃と重力がこの身を襲うとともに、俺の体は高速で天へと浮き上がった。

予想よりも高出力だった『黒の法衣』によるカタパルトは、地面を抉る程の威力で俺を吹き飛ばす。

 

そのまま林冠を飛び越えて天高く放り投げられる前に、俺はやや硬質化させた触手で木の幹を掴み、巻き戻すことで方向を転換、高い木の幹にしがみつく。

物凄いGに猛烈に吐きそうになったが、取り敢えずランポス=ケプトスの包囲網から脱せられたので良しとしよう。

 

俺は地上から20メートルといったぐらいの地点の木の幹にしがみつきながら、目下のランポス=ケプトス達を見下ろした。

どうやらすぐに目潰しの効果は消えたようで、ランポス=ケプトス達は恐ろしい形相でこちらを見上げてくる。

 

だがまあ、ここまで来ることは……

 

そして、ランポス=ケプトス達は、手足の爪を器用に幹に引っ掛け、垂直な大木を真っ直ぐに登ってきた。

 

何がお前らをそこまで駆り立てる!?

 

俺は慌てて『黒の法衣』を意思の力によって操作し、手と足の間にムササビの翼のように変形させて広げると、別の木へと飛び移った。

思いっきり顔面から突っ込みそうになったが、そこはちょっと不気味だけどとっても優秀な『黒の法衣』さんが見事にクッションになってカバーしてくれたので問題ない。

 

前世におけるムササビのスーツで空を飛ぶあのスポーツ?的なものを思い出してやってみたが、なかなかに恐怖である。本当は特殊な訓練がいるはずだから当然だ、むしろ初見成功させたこの体のスペックに感謝である。

飛ぶことはおろか逃げることすらもしたことがない俺は、当然のことながら、飛んで逃げるなんて初の試みだったが、どうやら上手くいったようだ。

俺は高速で空中を滑空するという、通常の人類であるならば滅多に経験できないであろう行為をしながら、ランポス=ケプトスからの逃走を図った。

 

 

だがランポス=ケプトス達の執念は恐ろしい。俺が飛んだ姿を見ても、なおも脚力だけで追いかけて来る。目測で走行速度は60〜80km/hくらいか?自動車ぐらいの速度がある。

 

そして、俺が今現在掴まっている木の根元まで来たランポス=ケプトス達は、驚くべきことに三頭一組になり、一頭がジャンプしてもう二頭がそれを放り投げるという暴挙に出始めた。

やはりただの馬鹿共ではなさそうだ。そうでなければこんな協力プレイなど思い付きもしないだろう。ましてや一発で成功させるなんてとんでもないことである。

 

しかもさらに恐ろしいのは、その飛距離だ。あのランポス=ケプトスの巨体が縦方向に10メートルくらい浮き上がるのである。

 

つまりは、それだけで既に奴等の攻撃範囲内に俺が来てしまうということを意味している。現に、飛び上がって来たランポスが振るった爪が、俺の足には届かなくても『黒の法衣』の一部を切り裂き、幹を深々と抉った。

慣れない木の上ということもあって、流石に俺にも反撃するような余裕は無い。

危機感を覚えた俺は、触手を木の枝まで伸ばし、それを縮めることで急速にランポス=ケプトスから距離を取る。しかしそれもランポス=ケプトスの驚異的な身体能力から来る木登りの異常な巧さにかかれば大した差にはならない。

 

俺は枝から枝へと飛び移り、ランポス=ケプトス達から逃げ続ける。

 

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