我等が女王に、跪け。 作:白蛆
右腕を失ってから、一週間が経った。
幸いにも…なのかはわからないが、精密検査の結果、脳などに特に異常は見られなかったため、俺は早期に仮退院という状態になった。
だが、仕事としての戦力を失った俺は、当然の如く会社をクビになった。退職金なんて雀の涙だ。寧ろ、出ただけで奇跡と言っても過言ではない。
保険金は入院、治療費で大部分が消し飛び、新しい就職先など見つかろうはずもない。右腕が無い関係上、力仕事や接客業のアルバイトだってできやしないし、飛び入りでちゃんとした事務職ができるような能力は俺には無いのだ。
食費と電気代と光熱費と安アパートの家賃は、なけなしの貯金を切り崩して支払われた。このペースだとどんなに不摂生な節約生活を送っても、後一年と持ちそうに無い。
税金などを考えればさらに短いだろう。
そしてそこへ追い討ちをかけるように、あの少女の葬式と、そして月咬家とのOHANASI☆だ。
そう、俺にぶつかって線路に落ちたあの少女は、驚いたことにあの月咬家のご令嬢なのである。
しかも、優秀な長女が半年くらい前に死んで、残る跡取りがあの少女という状況だったらしい。短期間に娘を二人も失って、親御さんは怒り心頭に発するというものだろう。ハハッ、死んだわ。たとえただの事故でも死んだよ。完全に。
というわけで、葬式に逝ってくる。
あ、俺が死んでも無縁仏だから気にするな。
誰に言うでもなく、何故かそう思った。
・・・
葬式の式場には、おそらく月咬家のものなのだろう、名前は忘れたが物凄くお高そうな高級外車が止められていた。
参列客も予想より多い。それも質の良い喪服を着ている人もちらほらと見受けられるほどだ。
こんな人種の人間共とは一生関わることは無いだろうと思っていたが、まさかこんな形で関わることになろうとは誰が想像しただろうか?
改めて自分の状況を思い出して、深い溜息を吐く。
完全なる事故とはいえ、彼女が死ぬ直接的な原因を作ったのは俺だ。参列すればしたで凄い目で見られるだろうし、しなかったらもっと悪評が立ちかねない。
目立たないようにしようとしても、隻腕の男なんてどうしても目について仕方がないだろう。
自分の一ヶ月分の食費に匹敵する香典を置き、葬式の列に並んだ。
葬式は粛々と、淡々と行われた。
当然、その最中で、あの少女の親…月咬家の現当主とも目が合った。
中年に差し掛かったにしては若々しいが、眉間に刻まれた皺によって逆に老年的な印象も受ける月咬家の現当主の目が、ギロリと此方に向けられる。
その瞬間、俺はまるで金縛りにでもあったかのように、全身の筋肉が硬直し、あらゆる汗腺から嫌な冷や汗が噴き出した。精神はおおよそ恐怖に支配され、動けぬが故に目を逸らすこともできない。
その目は、一言で言うならば、冷たい理性を持った猛獣だ。
聞いたところによると、何でも、昔は弓道や剣道などの武道で、全国レベルの実力を持った猛者だったらしい。その上で、社長を務めることができる頭脳まで兼ね備えているのだから、本当に世界というのは不公平だ。その才能の一部でもいいから自分に分けて欲しかったものである。それさえあれば、俺ももっとマトモな人生を歩めていたかも知れないのだから……。
数秒だったのか数分だったのか、それはわからないが、当主の目がまるで興味を失ったように俺から離された。
俺は拘束から解放され、荒い呼吸を繰り返しながら、久しぶりの空気の味を堪能する。
怖すぎる。
この後俺は、あんな人間と向き合わなくてはいけないのか?
逃げたい。
今すぐにでも逃げ出したい。
だが、他ならぬ俺が、それを許さない。
それは、ここで逃げ出しても何にもならない、少なくとも謝らなくては。などの前向きな感情というよりは、「逃げ出す勇気さえ無かった」というのが正しいだろう。
葬儀が進んでいくと、ふと何処かで見覚えがあるような……あの少女と恐らくは同じくらいの年齢の少女が、静かに線香を立てていた。
何故、「恐らくは」なのかと言えば、その瞳には、とてもあの年齢の少女がしていいものではない、昏い「虚無」が浮かんでいたからだ。
………彼女は大切な親友を失ったのだろうか。
また自己嫌悪に襲われる。
俺は結局、そうでないと体裁が悪いからという自己中心的な理由で、この葬儀に参列しているのだ。
あの娘のように、少女の死を本気で悼んで来たわけでもない。
虚ろ目の少女が俺を一瞥した。
親友の仇敵を目の前にしても、相変わらず、その瞳には少しの光も宿っていなかった。
やがて興味を失った……いや、もともと周りのものに一切の興味が無いかのように、虚ろ目の少女は参列者席へと戻っていった。
何故だ。
何故俺に怒鳴り散らさない。罵らない。
掴みかかって罵声を浴びせ、「親友を返せ!」と喚かない。
俺はどうすればいいんだ。
俺はいつ、誰に、どれだけ「ごめんなさい」と言えばいいんだ。
教えてくれ。そして、謝らせてくれよ。
俺はどうせ、相遠くないうちに野垂れ死ぬんだ。だったらせめて命使って償わせてくれ。
そうでないと俺は……
……「俺は」……か。
また「俺は」かよ。
ハハッ!これじゃあ、償わせてくれる筈もねぇわな……。
…
葬式は大きな問題も起こることなく、恙無く終わった。
もう二、三時間後に、少女の遺族たちと面と向かって話すことになる。……もう逃げる気さえも起きない。
どうにでもなれ。
こんな醜い人間は、あの時少女の代わりに線路に落ちて死ねば良かったんだ。そうすれば、誰も苦しまずに済んださ。俺が死んだって泣くような人間は一人もいない、それが皆んなが笑って過ごせる幸せな道だった筈だ。
自暴自棄になりながらも葬式会場を出た俺の目の前に、ふと、一人のタバコを蒸している男が現れた。
――コイツは……、
「まさか、再開がこんな形になるとはな……大己貴。」
まさかのあの人その2。
大丈夫かなぁ……。
ちょっと妄想で色々とでっちあげ設定を作りまくり過ぎた気がする。
まぁ、三次創作なんてそんなもんだよね!!(開き直り)