我等が女王に、跪け。 作:白蛆
……え?まだ原作本編に殆ど関わってすらいない?
それはさておき、これでも最大限避けるように頑張ってるんですけどねぇ……。難しい。
それからしばらくの間、俺は彼と情報共有やらちょっとした相談やら、虚ろ目の少女を救う計画やらの話をしてから別れた。
帰り際、「あの親とOHANSI★か……まぁ、頑張れ。」と、彼の車の中から心の底から同情するような視線を投げかけられた時は思わず引き攣ったような苦笑いをするしかなかった。
お察しの通りである。
とうとう月咬家との待ち合わせの時間になったのだ。
案内に導かれて通された部屋は、あの月咬家が招いた場所としては随分と簡素なものであった。まぁ、俺に良い部屋を取るわけが無いのは当然の理なのだが…。
そのせいか、部屋そのものにはさして威圧感などはなく、案外印象としてはシンプルなものであった。いや、シンプルであるからこそ、そこに座す二人の威圧感が、より一層強まっているとも言える。
長身で鋭い目をした、いかにも「出来る男」という雰囲気を漂わせる中年の男。式場でも目が合った月咬家の当主だ。
彼の目は伏せられており、葬式の時のように此方を見ている訳ではない。にも関わらず、俺はまるで蛇に睨まれた蛙のように竦み上がってしまった。それだけの存在感が、ただ座っているだけの彼にはあったのである。
そして、その隣にいる、目を赤く泣き腫らした女。滅多にお目にかからないような美女で、とてもあの年齢の子供がいるようには見えない。だが、その肌の艶は、青白くなったのを無理矢理化粧品で上塗りしたようになっており、整った顔立ちのせいで寧ろどこか恐ろしさすら感じさせる。
俺はそんな二人を前にして、しかし逃げ出すことなく席に着いた。その瞬間、二人の視線が同時に此方に投げかけられる。
緊張を抑えるため、深く深呼吸をする。
そして、ガバッと、二人に向けて勢いよく頭を下げた。
「娘さんの件、本当に、申し訳ございませんでしたっ!!」
・・・
話し合いは一時間近くに及んだ。
ありのままを話し、力の限り謝罪し、出来る限りの償いをすると誓った。
本当に、緊張やらなんやらで必死(比喩では無い)過ぎて、何を話したのかの詳細は全くと言っていい程覚えていないが、とにかく自分の気持ちを伝えることは出来たし、相手の気持ちを知ることもできた。と、思う。
主に母親の方には怒鳴られたり罵られたりもした。でも、それで良かったのだ。やっぱり、その方が百倍マシなのだ。
だが、その会話の中で、ずっと寡黙に目を伏せていた月咬家の現当主の言葉に、所々気になるところはあったりもした。
「琥珀も死に…そして今度は姫星も死んだ。会社を継がせられる者が居なくなってしまった。酷い損失だ。」
勿論、彼の言い方はもう少し違っていたが、要約するとおおよそこんな風な事を言っていたのだ。実の娘が死んだのを「会社の損失」と、そう言っていたのだ。
それについて俺がどうこう言える口ではないし、それぞれの家風というものがあるだろうから、口を出す事も出来なければ出すつもりもない。だが、気分が悪くなったのも確かだ。
それだけではない。
「どいつもこいつも恩も知らずに言うことは聞かないし迷惑かけてばっかりで、挙句の果てには両方死んでしまいおった。」
ぶっちゃけこのあたりは、此方に聞かせる気の無い小さな声で言っていたために、殆ど聞いていなかったが、そんなニュアンスのことも呟いていた気がする。俺も流石にたしなめようとしたら、あの鋭い視線で睨まれ、言葉を出す前に黙らされた。
目に見えて心拍数が上がったのがわかったから、もう魔眼の類だと思う。
俺が彼に抱いた最終的な印象は、「娘の事を道具のように考えている冷たい人物」というものであった。もちろん、人の本質なんて俺に見抜けるわけが無いのだが、しかし少なくとも面と向かって話した印象ではそうだった。
ちなみに賠償金のようなものの請求は結局されなかった。
完全な事故であるし、おそらく俺に支払い能力が無いことも見抜かれていたのだろう。つまりは、「こんな奴には時間をかけたって一文の得にもなりはしない」ということだ。
そこはまあ、良かったと言えよう。
きっと、良かったはずなんだ。
そして、日が西に傾き始めた頃、俺は帰路についた。
元同級生や、少女の両親と話した内容を反芻しながら、少し古くなったコンクリートの道を歩く。
その途中で、俺はふと自分のアパートの鍵がないことに気が付き、慌てて来た道を探しながら戻っていった。
……こんな風に注意散漫だから、あの事故も起きてしまったのだろうか?
鍵を探して自分の歩いた道を戻っていくと、やがて先程あの少女の両親と話していた部屋の廊下に辿り着く。
そして、その床に、キラリと光るものを発見した。
……間違いない、自分のアパートの鍵だ。
俺はすぐにそれを拾ってしっかりと保管すると、ふと、その部屋から声が聞こえてくることに気が付いた。
……なんだろう?
俺は好奇心に駆られ、その部屋に聞き耳をたてる。扉の隙間からは僅かに酒の匂いが漂って来て、部屋の中からは、渋い男の嗚咽の声が聞こえて来た。
間違えない、この特徴的な威圧感のある声は、月咬家当主の声である。
「クソッ!!」
悪態を吐く声と共に、何かを机に激しく叩きつけるような音が部屋に響いた。
「クソッ!クソッ!クソッ!!」
それは、やり場のない苛立ちをぶちまけるような、そんな声だった。
「今まで育てるのにどれだけ苦労して来たと思ってる!?どれだけこっちがそっちの為に妥協してきたと!?…その恩を、こんな……仇で返すようなマネを………ッ!!」
……。
「この…親不孝者共が……っ!クソォ!……琥珀……姫星ぃ………っ!」
男の悲痛な泣き声だけが、その部屋の中には響いていた。
俺は、黙ってその場を立ち去った。
何も言えなかった。
どんなに恐ろしく見えても、どんなに冷徹に見えても、その時の彼は、娘の死に嘆く、ただの父親だった。
ひょっとしたらそれこそが、「月咬家の当主」としての彼ではなく、「死んだ少女の父親」としての、誰にも見せない彼の姿だったのかも知れない。
俺は一人、沈み行く夕日を背に、トボトボとアパートへ戻っていった。
過去を顧みないのは、凄いことだし、自然界で生き延びる上では当然必要なことだ。厳しい自然界において、過去に囚われている暇など片時もありはしないのだから……。
でも、それってちょっと寂しくて、残酷だ。
……ふぅ、決め台詞はこんなものでいいかな?(楽屋裏を見せるな!)
……え?前書きと後書きが五月蝿い?そりゃごめんなさい。