我等が女王に、跪け。 作:白蛆
俺が殺してしまった少女の所属していた部活の顧問だったという、俺の元同級生でもある彼から呼び出されたのは、彼女の葬式の翌日のことであった。
幸いと言っていいのかはわからないが、職を失い再就職の目処も立たそうに無い俺は、身辺整理の他に特にやることもないので、彼の呼び出しにすぐに応じることができた。
丁度いい、俺も伝えたい事があったんだ。
俺は彼に待ち合わせの場所と時間を確認し、その場所に向かう準備をした。別に金なんて特に気にする必要はない。どうせすぐ使わなくなるんだからな。
・・・
彼に会うと、要件はやはりあのことであった。
即ち、あの虚ろ目の少女のことである。
「月咬が死んでからずっと学校には来てねぇよ。担任が毎日連絡してるからまだ生きてるってことは分かるんだが、それも時間の問題だろうな……。済まんな。本当は生徒の問題は親や教師が片付けてやるべきなんだろうけどよ、お前まで巻き込んじまって。」
「いや。全ての元凶は俺さ。寧ろ巻き込んだのはこっちかもしれない…。それに、これは俺がやるべきだと思ったからやるんだ。お前は関係無い。」
最初はどうしても卑屈になり合いから始まってしまう。これが日本人の性というものなのだろうか。
大の大人が互いに頭を下げあう姿は、側から見れば少し滑稽だ。
彼は、あの虚ろ目の少女のことを「なんとかしなくては」と思いながらも、しかしどうすればいいのかがわからなくて困っているのだと言ってきた。相談しようにも、彼は周りからあまり好かれていないらしい。
確かに、最早あれでは言葉はマトモに通じないだろうし、彼の話だと、今の状況で彼女を無理に登校させたり表に出させるのは、最悪と言って過言では無い選択肢だ。
話によると、どうやら彼女は虐めを受けているらしいな。
まあ、人を立ち直させるなんて経験は一生に一度も無い方が多いだろうし、わからなくて当然だよ。
俺だってそんなものはないし、彼女を
だけど、
或いはこの方法ならば、彼女に生きる気力を与えることも出来るかも知れない。
それは正しいとは決して言えない愚行に他ならない、成功率だって高いとは言い難い、最低の行為であった。
…でも、それこそが何もできない俺にできる、俺にしかできない「最善」だと思っている。
俺がもっと頭が良かったら、選択肢なんていくらでも浮かんだのだろう。だが、俺は愚かで不器用だから…
こんなことしかできない。
俺は口を開き、彼にその計画を話し始めた。
・・・
「……っ!?お前、正気か!?……そんなことしようとする奴、物語でしか見たことないぜ。」
計画を聞いた彼は、半立ちになりながら驚愕の声を上げた。
突如として大声を上げたことにより周囲の視線が一瞬彼に集中するが、すぐに大衆の興味は離される。
……まあ、彼のこの反応も妥当だろう。
俺のやろうとしていることは、結局は物語的だ。とてもではないが、正気の沙汰とは思えない。
俺はおそらく、あらゆる人に軽蔑されることだろう。あらゆる人に恨まれることだろう。そんなことを、俺はやろうとしているから。いや、寧ろそれこそが、目的なのだから。
しかし、彼は何も言わなかった。
何を言われても俺がそれを辞める気がないということを、気付いてくれたのだと思う。
ただ、彼は驚いたように顔を上げ、俺の目を見て呟いた。
「……お前まさか、」
……まさか、何なのだろうか。
俺は一体、どんな目をしているのだろうか。
それを彼は、どう捉えたのだろうか。
…いや、俺の事など既にどうでも良き事だ。
そう、
「俺のことはどうでもいいんだよ。」
俺に言えるのはその言葉だけである。そして、その言葉で、彼は全てを悟ったのだろう。
彼は俺の言葉に数秒絶句した後、しばしなにやら塾考し、やがて諦めたように溜息をついて、言った。
「本当にやるのかよ……?」
それは、俺の覚悟を問うための……或いは彼自身が覚悟を決めるための、最後の質問であり確認であった。
俺はそれに、静かに深く頷いた。
その答えに、彼も覚悟を決めたらしい。
「……はぁ、わかった。俺も協力する。いや、協力させてくれ。……で?具体的にはどうするつもりなんだ?」
彼はそこで息を切り、念を押すかのように強く、しかし周囲には聞こえないほどの小さな声で言った。
「–––––––あの娘に、復讐をさせるなんて。」
…俺だから出来ること。
……俺にしか出来ないこと。
思い返せば、そんなことを見つけたのは、この時が、俺の人生で初めてのことだったかも知れない。
・・・
あの虚ろ目の少女は今、生きる理由を失っている。
ならば、新たに生きる理由を与えてやればいい。
それが、どんなに後ろ向きの内容であっても、生きてさえいれば、また新しい生きる理由というものが生まれてくるはずだ。
実際、そう上手くいくとは思っていない。それで万事解決するなんて夢物語だし、それで万事解決するほどあの二人の絆は浅くは無かったらしい。
だが、少しでも可能性があるのならば……それが俺にしか出来ない事ならば、やるべきだと思ったのだ。
彼女は今、少女が事故死したという事実に打ちのめされている。
怒りのやり場さえも考えられず、結局は自分にその矛先が向いているという状況だと思う……。
だが、もしそれが「事故ではなかった」としたら?
「少女が人為的に殺された」と思ったら?
彼女は当然憤るだろう。
だが、即座に復讐に走るほど、彼女は無鉄砲でも気が強くもないというのが彼の見立てだそうだ。そして、復讐に走るにしても計画を練るだろうし、そこには時間を要するはずだ。
その時間さえあればいいのだ。
俺は彼と様々な計画を話し合い、そして別れた。
その日の夜のことだった。
俺に、彼から緊急の連絡が届いたのは。
何か計画に問題が発生したか!?と、俺は慌ててもう暫くすれば契約が切れる携帯を手に取った。
その文面を、俺は信じることができなかった。
信じたくなかった。
そこに書いてあったのは……、
―――虚ろ目の少女の、訃報であった。
後1話で現世編は終わるから!
現世編が終わったら、ほぼ別作品と言って過言ではないほど、百八十度毛色の変わったモンハン転生モノになるから!なるはずだから!