我等が女王に、跪け。 作:白蛆
大丈夫だから!
このまま永遠にプロローグとかそういうことは無いから!
一体どうすれば、俺は許されるのだろうか?
いや、この際許される許されないは問題ではない。
俺は、どうすれば、償いをすることができるのだろうか?
この咎人には、二人の少女の命を奪った大罪人には、
償うことさえ、許されてはいないのか…。
俺はどう行動すれば良かった?
どう行動すれば、こんなに苦しまなくて済んだ?
あの日あの時、あの少女にぶつかっていなければ…もう少し俺が注意していたら、……電車が来たあの一瞬、迷いさえしなければ、こんなことにはならなかった筈だ。
俺がもっと早く行動していたら、もう一人の少女だって自殺するのを止めることぐらいはできたかもしれなかったし、そもそもあの少女が死んでいなければ、もう一人の少女も死ぬことはなかったのだ。
だが、「していたら」や、「すれば」というのは、所詮は現実逃避に等しい「たられば」に過ぎず、どれだけ過去について振り返ろうとも、どれだけ自分がするべきだった行動を考えても、結局何にもなりやしない。
今を変えることは出来ないし、変わることは決してない。
俺は、どこまでも暗愚で、無力だった。
いっそ殺してくれ。
そんな感情すら湧いてくる。
俺も……なのだ。俺も、生きる理由が無いんだ。
そして、死ぬ理由がある。少なくとも、俺はそう思っていた。
生きる理由が無く、生きる術も持たず、生きる気力さえ湧いて来ない。
そうであるから、俺は当然逢着するべき最も安易な逃げ…即ち、「自殺」を選んだ。
――なんとも、無責任な選択だ。
どんなに謗られようと否定はできないだろう。
だが、俺の心はほぼほぼ一つの感情に支配されていた。
「……消えてしまいたい」
……死に場所は何処がいいだろうか?
そうだな、死体が見つからない自殺の名所として知られているあの谷がいいだろう。人生最期の金をパーっと使って行ってみようじゃないか。
そうと決めたら、俺は身辺整理を完全に済ませ、残りの金を全て掻き集めて、駅へと向かった。
名所まではかなり距離があるだろうから、電車を乗り継いで到着するのはおそらく夕方頃だろう。夕日をバックに自然の中で死ぬなんて、俺には贅沢すぎる死に方ではないか!
自殺を決心したときの気持ちというのは、一体どんなものなのだろうと、同僚の死を聞いた時に考えたことがあるが、いざこうしてみると、なんだか却って清々としていた。
今の自分は、何も背負っていない自由なのだ!
誰にも理不尽な仕事を押し付けられないし、不摂生な生活や疲労からくる苦痛に悩むことももうない。金も、名誉も、あらゆる柵が存在しない!
何にも縛られない存在なのだ!
そんな開放感と不思議な全能感。
ある種狂気じみた好奇心すら持っていた。
まるでまだ社会の苦しみなど知りもしない子供の時代にに戻ったかのようにも感じる。
というより、このときの俺の心情というのは、本当に稚拙な、子供じみたものだったと思う。
やがて、電車は来た。
俺が握りしめる切符は、地獄への片道切符。さしずめ電車は、三途の河の渡し舟といったところか。
俺はそれを、ただ黙って待っていた。
ドンッ!
だがその時、俺の背中を何者かが強く押した。
それは、あの時のような事故によるものではない、確かな意思を持って、両手を使って俺を線路へ向けて押し出したのだ。
当然の結果として、俺はバランスを崩し、駅のホームから転落する。
戻ることは出来ない。電車はもうすぐそこまで来ている。
明確な、「死」が迫っていた。
……おかしい。
俺は元々死ぬつもりだったのだろう?ならば、この状況は願ったり叶ったりではないか。
ちょっと死ぬ時刻が早まっただけ、ただそれだけのことではないか。
なのに、
なのに何故、
……俺は、こんなにもそれを恐れている?
結局俺は、死ぬ覚悟すら、決めることが出来ていなかったというのか?既に二人の人間を殺しておいて、自分は死を恐れると?
自分が嫌いだ。
身勝手な自分が嫌いだ。
無責任な自分が嫌いだ。
無力な自分が嫌いだ。
惰弱な自分が嫌いだ。
嘘吐きな自分が嫌いだ。
小心者な自分が嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ!!
今尚、死を恐れ、嫌う自分が……嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
「嫌だぁぁぁぁぁっっ!!」
心の底から、力の限り叫んだ。
本能のままに、命を惜しむ叫びを上げた。
その行為に、意味などないことくらい、俺でもわかっている。
しかし、俺は叫ばずにはいられなかった。
結局、誰が俺を突き落としたのか、それはわからなかった。
ただ、俺は最期の最後に幻視した。
友との絆の証に、小さく、しかし楽しそうに微笑む少女が、何もわからぬまま、駅のホームから転落していく、その姿を。
少女が死んで、この世の全てに興味を失ってしまったかのような、親友の少女の虚ろな目を。
そして、そんな二人が、楽しそうに笑い合いながら、同じゲームに興ずる、見たことなどあろうはずもない光景を……。
そして、龍と人を結びし姫巫女と、全てを統べる龍の女王の姿を。
それは、走馬灯によく似た、しかし走馬灯とは、明らかに違ったものであった。
死の瞬間、俺は強く願った。
何に対して願ったのかは、よくわからない。
だけど、その願いは、おそらく俺の人生の中でも一番強いものであった。
二人に会って、謝らせて欲しいと。
今度は誰も悲しませることのない、立派な人になりたいと。
自分を好きでいられる、自分になりたいと。
――そう、願ったのだ。
……そして、俺の視界は、完全に暗転した。
それは終焉だった。
それは……始淵だった。
これにて転生前パートはひとまず終了!
次回からはモンハン転生パート!ということで作風を270度チェンジ!いや、350度くらいチェンジ!(殆ど変わってないとか言わない)
いい加減真面目な話を書くのが辛くなってきたところだったんだぜ。
なお、転生パートは転生パートでそこそこ真面目な話な模様。