てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~   作:青の細道

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出来心さんが勝手に作りました。
最近がっこうぐらし!の単行本をまとめ買いし、ゾンビサバイバルものへの欲求不満が出てきたので勢い投稿。最初は完全シリアスなバイオハザードやウォーキング・デッドなどの他ゾンビものとのクロスオーバーも視野に入れてましたが、真面目な話が不向きだと分かりこっち路線に逃げました。


ぷろろーぐ

「お前ら何してんの?」

目の前に立ち不機嫌そうな顔でこちらを見下ろすオッサンと、何故か正座させられている俺と悪友である○○。

 

はて、ここは一体どこでこのオッサンは誰だ?

 

俺は改めて周囲を見渡す。一面に広がる白い空間。よく見ればうっすらと雲のようなふんわりした物が漂い正座させられている地面も雲のような形。……形だけでアスファルトのように硬くどのくらいの時間が経ったのか知らないが足の感覚がそろそろ無くなってきた。

 

さてもう一度問おう。

 

ここどこ?

 

「おい聞いてんのか人間」

突然足を蹴られた。麻痺した下半身に電流が走る……変な意味じゃない。

 

「あんた誰だよ」

痺れた足に悶絶しながらオッサンに問いかける。

するとオッサンは俺と悪友が仕出かした事について思い出せと言ってきた。

 

こんなオッサンに怒られるような事を俺達はしただろうか?

少なくともこの18年間警察に世話になるほどの事はやらかしてない筈だ。

 

この空間で意識を取り戻す前の事を思い出してみる。

 

……たしかそう、あれは卒業式を間近に控え授業が午前中に終わった日の帰り、悪友である○○を含めクラスの連中と渋谷に行く電車を待っていた。

「もうすぐ俺らの高校生活も終わりか」と他愛のない話をしながら駅のホームで俺達は学校生活の思い出に浸っていた。……正確には俺と悪友以外『が』である。

 

強制的に参加させられた高校生活の思い出作りに遊びにいこうと連行され、一秒でも早く帰って先月のバイト代で買い占めたウ=ス異本を開封したかった俺とさっきから眠たそうに欠伸を何度も繰り返す悪友の○○。はっきりいって俺達二人はあまりクラスの輪には馴染めていないはみ出し者だった。

根暗でオタクな俺ととにかく五月蝿いのと面倒くさいのが嫌いな○○。何でそんな俺達がクラスの思い出作りの場に連行されたかといえば「最後くらいクラスメイトらしいことしようぜ」というクラスの善意からだった。

 

はっきり言おう。余計なお世話だ。

 

俺は少なからず義務教育の延長線で、高校くらい卒業しておけと煩い親の申し出で進学し適当に暮らしていたかっただけだ。何が悲しくて頭お花畑な連中と一緒に思考停止しなきゃならんのだ。三年間の苦痛がようやく終わると言うのに「おかわりもいいぞ!」とガス室送りにする某クソコラ素材漫画のごとき鬼畜の所業でこんな生産性もない行事に参加せにゃならんのじゃ。

 

俺はスマホに入れた音楽を最大音量で聴きながら外界との繋がりをシャットアウトする。やっぱり……An○elaの歌を……最高やな!

 

画面に集中し自分の世界に引きこもる俺の視界に影が映り混む。チラリと目線を向けると眠たそうな目で○○がスマホを見ていた。

 

「どした」

テンションの低いいつも通りの声で問いかけるとどうやら眠たすぎて時間が見えないらしく「今何時」と聞かれた。心優しい俺は親指を立て「オヤジ」と答える。

答えた直後に脇腹を小突かれる。

冗談の通じない奴めと正しい時刻を教えると、一際大きな欠伸をし「面倒くせぇ……」と呟いていた。口癖のように事あるごとに「面倒くせぇ」というコイツとどうして悪友になれたのか未だに不思議だが、ちっこい頃から腐れ縁のように一緒だったせいだろう。親ですら俺達の性格に関して匙を投げ、互いに理解できる仲がお互いしかいないと分かっているからか何をするにしても一緒であった記憶がある。いや記憶しかない。

 

根暗で煩くない俺と、面倒くさいからと一々人にとやかく言わない○○。なんだかんだでコイツ以上に友人として親しくなれた奴は他にいないだろう。

 

俺はスマホの画面をLi○eに切り替え、唯一の交信相手へ「面倒だから乗り遅れたフリして帰るか」と送る。着信音に気付きスマホを見た○○は「あーいいっすねぇ~」と返してくる。よしそうと決まれば行動に出るぞ。

 

俺は所持金が心許ないといいその場を離れ、○○は便所と伝えホームから離れる。正直このままバックレてもいいと思うんだが後から何言われるか分からんし参加しようとする意思だけはあったと思わせるようにしなければという意味のわからん使命感があった。

 

ホームのスピーカーから電車が来るとアナウンスが流れ、合流した俺達は急いでいるフリをしながら階段を駆け下りていく。間に合わないように他の乗客の波にワザと揉まれながら扉が閉まりますというアナウンスに口角が上がる。

 

ふっ、勝ったぞ……!

 

そうアイコンタクトを○○へ送った時だった。

 

「あ」

 

「あ」

 

俺達は盛大に階段を踏み外し視界がグルリと回転する。グギリッとアニメのようなSEを最後に意識は暗転。

 

そして現在の至るわけだ。

 

なに? 前置きが長い? ほんとうにもうしわけない……。

 

まぁようやくすれば俺達は死んだのだろう。んで俺のオタク脳が正しければここは天国かそんな所だろう。

 

ふふ、これは所謂「神様転生」ってテンプレですねわかります。

となれば目の前で青筋を立ててるオッサンが神様ってことになるが……なんか神様っぽくねぇな、普通にオッサンやが。

 

ありきたりな展開なら俺達の死は神様のミスだとかで異世界にでも転生できるって流れだが……ふむ、どうもそういう流れじゃない様子。

 

「お前らの勝手な行動でこっちの計画は台無しだ人間。どう落とし前つけるつもりだ」

イライラしているのか、オッサンは貧乏揺すりしながら俺達の足を交互に蹴り飛ばしてくる。やめて地味に痛い、死んでるはずなのに痛い。

というか神様が落とし前って……893かよ。許して欲しかったらヨツンヴァインになって犬の真似しなきゃならんの? あんたホモか?

 

突然顔を蹴られた。「下らねぇこと考えてんじゃねぇ」じゃないよ人の思考読むなオッサン。

 

「俺らなんかしました?」

隣で未だ眠たそうに欠伸をする○○を尻目に、俺はオッサンに聞いてみる。計画が台無しだと言っていた、ということは俺達の行動がオッサンの怒りの原点だろう。

とはいえなぁにがいけなかったんですかねぇ……。

 

オッサンは何もないところから新聞を取りだしこちらへ放り投げてきた。……神様が新聞ってすっげぇシュール。

 

記事を読んでみる。なになに? 電車脱線事故、乗客○○○名全員死亡。

 

「これがなんスか?」

 

今一要領を得ない俺は首を傾げる。これとオッサンの計画とやらに何か関係があるのだろうか。

 

「察しの悪い奴だな、その電車は本来お前らが乗るはずだったやつだ」

 

へぇー……。

 

……は?

 

「いや意味わかんないんだけど」

 

「だから、本来ならお前らもあの脱線事故で死ぬはずだったんだって話だよ」

横にいた○○が新聞をするりと奪っていく。

 

ちょっと待て。まるで意味が分からんぞ!

 

「なのにお前らは勝手に乗り遅れるフリしてその決定から逃れやがった。上の幹部連中がカンカンなんだよ」

 

オッサンの話を纏めると、10年に一度。纏まった人間の魂を一度にかき集めるために事故や災害で死者を選別する行事があるらしい。集めた魂はそれぞれ割り当てられた神が部下に指示して天国へ逝くべきか地獄へ堕ちるべきかを決めるとのこと。

色々ツッコミたいところはあるが、つまり「本来あるべき死に方とは違う死に方をした俺達の魂をどうするべきか」という会議が今お上で話し合っているらしい。

 

輪廻の環からハズレた魂の処理はクソ面倒くさいらしく、誰もやりたがらないとか。それでいいのか神様連中。つーか今までの大災害だとか事故って全部アンタらの仕業かよ。まぁだからどうしたって話だけどな俺からすれば。

 

「でだ、会議が平行線を辿っていい加減ウンザリしてきたからお前ら、ちょっと別次元に行ってやり直してこい」

 

また話がぶっ飛んでまいりました。なにその「ちょっとコンビニ行ってこい」みたいなノリ。

 

「お前ら人間の言葉でいうパラレルワールド? まぁとにかく俺達とは管轄が違う場所で魂の処理をして、一度人生リセットしてからもう一度死んでこいや」

 

いや意味わかんねーよ何で管轄違うだけで人生リセット? しかももう一度死んでこいって死ぬの確定かよ。やだよ俺そんなの。

 

「いいのか? お前らオタクの夢が叶うんだぞ? 俗にいう神様転生って奴だ」

 

マジ? 二次元の世界に行けんの? 作品のヒロインにキャッキャウフフできんの?

 

や っ た ぜ。

 

「んじゃあ行くぞー」

 

おっ、ちょ待てぃ。肝心なこと忘れてるゾ。転生先は? チート能力は?

 

「あん? ねぇよんなもん」

 

ちょっ。

 

「はい、よーいスタート(棒読み」

 

バァカヤロォオオオオオオオオ!! プザケルナァアアアアアアアァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます! 元気な男の子です!」

元気じゃねーよ既に死にたいよ。なにこれ前世の記憶引き継ぎできてもチート能力も何も貰えてないしここが何の世界かも知らないんだけど。というかここ本当に転生先なの? あ、でも医者っぽい人の顔めっちゃアニメ調だわこれ。でもそれだけじゃ何の作品かわかんねぇ……。ヒントらしい人物か用語ねぇの?

魔術とか超能力とか。

親らしき人物の顔を見ても今一ピンと来ないし名前を聞いても分からない。この様子だとお家を聞いても分からなくて泣きそう。

 

こうして俺の……この世界では『木村 秀樹(きむら ひでき)』と命名された新しい人生が始まった。

 

……そういや○○はどうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィィイィィィィィィィィィィィッス! どうもぉ~Hideでぇ~す……えぇー今は、転生4年目ですけども!

手掛かりは……何一つ……ありませんでした。

 

バンと読んでいた歴史文学の本を叩きつけるように閉じる。

あれから四年。思い出すのも嫌になるトラウマを植え付けられた俺の精神は一回り大人の階段をボソンジャンプし、見た目は赤子、頭脳は青年のまま赤ちゃんプレイで死にかけました。残念ながら俺にそういう性癖は無かったらしい。

 

そんな訳で四年。木村家の長男として生を受けた俺は羞恥心を殺し、時間という激流に身を任せ同化できずどうにかなってしまいそうになりながらもこの世界についていろいろ調べてみた。が、特にこれといって手懸かりになりそうなものは見つからなかった。

 

歴史を見ても過去にこれだという物もなく、住んでる場所が日本であるということ以外これといった収穫はない。まだ手足がうまく動かないし父親のPCには地味にセキュリティロックが掛かってやがる。母親のママトークやらに耳を傾けてもこれといったワードは出てこなかった。

 

近所に翠屋っていう店もなく、ここも海鳴市なんて地名じゃない。ファック。

時代は2001年。正直人の顔がアニメ調になったこと以外前世を変わりがないのだ。

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁ(クソデカため息

 

とりあえず俺は前世の記憶を頼りにこの世界を一刻も早く知ると同時に、悪友である○○と合流できるように色々とがんばってみた。

 

第一に、前世から引き継いでしまった根暗思考を改め子供らしく喜怒哀楽をしっかり演じて見せる。小さい頃から死んだ魚のような目で根暗とか絶対に病気だと思われて施設に放り込まれるのだけは避けたかったからだ。

 

とにかく辛い。何が辛いって面白くもない事で笑わなきゃならんしどうでもいいことで怒るフリをしなきゃならんし……なんだこのクソゲー、やっぱ人生ってクソだわと再認識するが微かな希望を胸に俺は今日も往く。

だが俺の努力は無駄ではないらしく、他の同世代と比べしっかりした子供だと近所では評判になり、この体の両親である夫婦も満更ではないといった様子で俺を誉めちぎる。くくく……マヌケな人類め、騙されたとも知らずに……。

 

悪魔のような内面を押し殺し、俺はとりあえず優秀な子供を演じた。

 

そして第一の転機が来た。それは小学校に上がり二年目の夏。一人の子供が俺のクラスに転校してきたのだ。

 

「はーい、今日は皆に新しいお友だちを紹介しまーす」

ニコニコと作り笑顔を見せる担任の傍らに立つ『ソイツ』は明らかに面倒くさいといった顔で溜め息を吐いていた。自己紹介もせず黙っているソイツに困惑するクラスと担任。慌てて名前を担任の方から紹介する。

 

「え、えーと今日からこのクラスに新しく仲間入りする『田所 拓三(たどころ たくみ)』くんで「ブフッ……!」どうしました木村くん?」

名前を聞いて思わず吹き出した俺は口元を押さえ「何でもないです」と答えた。

 

まさかなと思いつつ。担任の指示にされるがまま指定された席……俺の隣にドカっと座り大きく欠伸をするソイツ。明らかに周りから「なにこいつ」という目で見られているがまったく気にする素振りがない。

 

ああ、やっぱ『お前』は相変わらずだな。

 

「ぬるぽ」

 

「ガッ」

本来1年早い上に小学生では知るよしもないはずのネタフリ。脊髄反射で答えたソイツは少し遅れ、驚いた様子で俺の方を凝視する。

その顔が何とも面白く、この世界では本気の笑いを押さえ込みながら拳を突き出す。

 

「久しぶり」

 

「ああ、本当にな」

こうして俺達は再会を果たしたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや終わんねぇよ?」

いきなり誰かへ声をあげる○○改め拓三。最初は野獣先輩と呼んでたが「流石にやめろ」と言われたので止めた。まぁ多少はね?

 

さて前世の悪友とも合流でき目的を一つ達成したところで俺達は互いに状況確認に移った。とは言っても俺はもちろん拓三のほうもこれといってこの世界についての情報は何も持っていないらしい。というよりもコイツはずっと自を通したため何もしないでダラダラ過ごしていたらしい。ほんまつっかえ……。

 

とはいえ人のことを言えないのが事実。結局俺達は合流してもこれといった収穫もなく前世同様にツルんで過ごしていた。

そして化けの皮が剥がれた俺は拓三と共にクラスで浮く存在となる。歴史は繰り返す。その事で親には色々言われたが迫真の演技で「これが本当の俺なんだ」というアピールを両親に打ち上げ1年もすれば、既に親からは何も言われなくなった。見捨てられた……というよりも「今まで良い子であることを強いていたのは自分達なのかもしれない」と謎の解釈をした二人はむしろ今まで以上に俺を自由にしてくれている。好都合である。

 

拓三の両親も「ようやく友達らしい友達を見つけてくれた」と涙ながらに喜んでいた。今ではすっかり家族ぐるみで交遊関係にあっている。

 

俺と再会してからは拓三のヤツも少しはモチベーションが上がったらしく、あれやこれやと今後について計画を建てるようになった。

とりあえず目先の準備としては金を貯めることと体を鍛える事を前提に活動するという方針で決まった。拓三……というより前世からコイツは基本的に面倒臭がりだが、その行動に100%意味があるならやる奴であるため特に揉めることもなく着々と準備を進めていく。小学生の内はとにかく運動系のクラブ活動で体力をつけ、アルバイトができるまでは小遣いなどを貯金し、この世界が何か分かり次第それに必要なものを集めるという計画だ。

 

中学に上がり、拓三は野球部。俺はサッカー部へと入る。俺よりも体格に恵まれた拓三はいつの間にか筋肉に目覚め、某殺戮マシーンもとい元コマンドーな樵にでもなるつもりかと言わんばかりに体を鍛え抜いていく。……お前そういう奴だったっけ?

 

人間的に変化があったのは拓三だけではない。俺ももちろん小学校で一度落ちた評価を改めるべく部活はもちろん学校行事などにも率先して参加しクラスや教師からの評価もウナギライジング。多少その事で一部の思春期少年たちに色々されることはあったが内面的に一回り以上大人である俺達は余裕を持って対処した。

 

前歯だけで勘弁してやったんだありがたく思え?

 

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ去り、中学最後の年。未だに情報が集まらずそろそろ心が挫けそうになったある日の事。

 

拓三からメールでこんな内容が送られてきた。

 

Re:やばい

本文:お前の持ってた漫画の世界っぽいぞ

 

俺はようやく掴んだ手掛かりを求め、勿体振らずに何があったのか説明を要求した。すると件名のみが帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

Re:巡ヶ丘学院高等学校

 

 

 

 

 

 

 

俺は天を仰いだ。


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