てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~   作:青の細道

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えんそく

「遠足行こうよ! 遠足ぅ!」

それはある日の出来事。全員が学院での生活にも馴染んできた頃。朝のミーティング中に寝坊した丈槍が部室に飛び込んでくると共に放った一声がソレだった。

 

 

は? という顔で全員の視線が集中する。何故か満足げに鼻を鳴らし興奮ぎみにホワイトボードの前まで歩いてくると取り出したるはマジックペン。キュキュキュっと景気よく筆を走らせデカデカと『遠足!』と書き込み、再度誇らしげなドヤ顔で振り替える。

 

 

「いや、意味がわからん」

真顔で首を横に振る恵飛須沢と、またおかしな事を……と言いたげに溜め息を吐く直樹。そんな反応にも慣れてきた祠堂が苦笑しながら「突然どうしたんですか?」と丈槍の発言に疑問を述べる。

 

 

「みんな毎日学院で過ごしてばかりじゃ退屈だよ! やっぱりここは冒険に行かなくちゃ!」

 

 

「オレ達は探検家じゃねーぞぉー」

机に体を伸ばしだらけ切った拓三のツッコミに「人の心は探求心だよたっくん!」と訳のわからない事を言い出す。哲学者かな?

 

 

「そもそも『遠足の時期』にしては少し早いんじゃないか?」

不安げな佐倉先生に目配せし、俺は丈槍の心理状況を鑑みて発言する。たしか原作でも彼女が遠足を促す発言が元となってシナリオが進み、本来であればそこで『一人』だった直樹との遭遇を果たす流れだった。

しかしこの世界では既に直樹は祠堂と共に学園生活部の初期メンバーとして在籍しているため遠足という行動にメリットらしいものは無い。そもそも原作では初期メンバーが三人だったため移動は楽だったが現在は9人。明らかに外部へ遠征するには規模が大きすぎる。

 

 

班を分ける体で話を進めてもいいのかもしれないが、やはりメリットよりも危険性の方が上を行くと踏んでいる俺からすれば賛成しかねる。

 

 

「遠足と行っても送迎バスも無いし、この人数ではねぇ」

若狭は目を細め、やれやれといった様に小さく呟いた。「ええー」とショボくれた丈槍。がしかし、少しして何かを思い付いたのか佐倉先生へ突進する。グフゥと女性にあるまじき悲鳴を聞かなかった事にし、何を思い付いたのかと思えば──。

 

 

「めぐねえって車持ってたよね!」

 

 

「え? え、ええ……まぁ……でもこの人数は乗れないわよ?」

佐倉先生の車は自家用車の中でも小さいBMWのミニ。原作やアニメ版でも主要人物たちの行動をサポートしていた車だ。だがしかし彼女の言うとおり、明らかに定員オーバーである。

 

運転席に佐倉先生、助手席に若狭姉妹を乗せ、残りを全員後部座席にギチギチに詰め込んだとしても不可能だ。それこそ俺と拓三が乗るスペースなんて有りはしない、カーゴスペースなんて体格的に死ねる。

 

 

「私にいい考えがある!」

どこぞのヘナチョコ司令官みたいな事をサムズアップしながら叫ぶ。嫌な予感しかしないんですがそれは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやおかしいだろこれよぉ!」

拓三の悲痛な叫びが校庭に響き渡る。予想はまんまと的中、前述の通り女子メンバーが全員で車にぎゅうぎゅう詰めになり、俺達野郎はどうするのかと気まずい車内に目を向ければ、丈槍から渡されたのは長めのロープ二束。疑問符を浮かべる俺と拓三に、彼女はにこやかな笑顔で車の天井を指差した。

 

 

つまり──。

 

 

「こんなの……人の運び方じゃありませんよ!」

 

 

「ルーフキャリアに取り付けられたサーフボードの気分だ……」

ミニの天井に仰向けでロープに縛られた全身迷彩柄の俺達の姿は滑稽以外の何物でもないだろう。何故こんなことを思い付いた丈槍。お前さては鬼畜だな?

 

 

ちなみに悠長に騒いでいていいのかと思われるが安心してほしい。校庭で巡回していた感染者は全て排除してあります(プロ並感)……まぁおかげで一回着替える羽目になったが。

 

 

「ね、ねぇ……やっぱり止めないかしらぁ」

いたたまれない佐倉先生の言葉から同情の色が伺える。

 

 

いやもういい……考えるのはよそう(思考停止)

 

 

「いや折角だし、行きましょう」

 

 

「え、でも「行きましょう」アッハイ」

威圧感を放ちながら俺は天井から幽霊のごとくフロントガラスから頭を覗かせる。ヒェッと悲鳴のような声を漏らす祠堂と直樹。ゲラゲラ笑う恵飛須沢と丈槍、不思議そうな顔で首を傾げる若狭妹が小さく手を振ってくる。唯一の癒しや……丈槍と恵飛須沢は後でお仕置きだかんな。

 

 

「つーかマジで行くのか?」

拓三がげんなりと顔を歪ませながら項垂れる。俺は懐から一枚のメモ用紙を取り出し「一応現時点で不足or補給して起きたい物のリストは作ってある」と紙を若狭に手渡す。もちろん天井から。ヌッと出てきた俺の手がそんなに面白いのかアホ二人が未だに笑っている。どうしてくれようこの怨み……。

 

 

「流石に食料じゃないものの消費も早ェな」

食料に関しては地下の備蓄でも十分だが、それ以外……衣類や洗剤の類いは思った以上に消費が早い。まぁ女性は清潔さに余念がないし多少はね?

山籠り生活もしていた俺達からすれば数日くらい風呂に入らなくてもなんて事はないが、あの汚物を見るような目は心にクる。とはいえ衛生管理はジッサイ重要。古事記にもそう書かれている。

 

 

感染者を始末した際の洗濯は別個にし、手洗いは勿論沸騰させた湯水での熱殺菌。薬品による抗菌も欠かせない。

 

 

まぁ周辺探索も兼ねて、何か原作と違う展開があるかもしれないと自分に言い聞かせる。パンデミックから最初の数日は飛んでいく旅客機の音やヘリのローター音……どこからか響くサイレンなんかも一週間経たずで聞こえなくなってしまった。感染の侵攻速度が早いのか、それとも別の要因があるのか。何はともあれ自衛隊や国連、在日米軍などの行動も気になる、まだ先になるが学園生活部のとある行動が元となって事件が発生するのだがそれはまた別の話なので今はいいだろう。

 

 

「そ、それじゃあしっかり捕まっててねぇ~」

エンジンが始動し、車体が微かに震える。サーフボードよろしく天板に張り付けの刑になっている俺達は望遠鏡とトランシーバーを手に持ち、風避けのゴーグルを下ろす。

ゆっくり前進する車に、人生(前世含めて)で今まで感じたこともない虚無感と僅かな高揚感を胸に遠征が始まった。

 

 

 

 

 

 

余談だが、割と天井で風を感じるのは存外気持ちよかった(小学生並の感想)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中、事故を起こして道を塞ぐ車に何度も遭遇し若狭のナビゲーションを受けながら、定期的に邪魔な感染者を天井から降りた俺達が排除し緩やかなスピードで進むようになってからはロープで体を縛ることもせず天井で胡座をかいている。

 

 

「れ……れ……レコード」

 

 

「ドクダミ」

 

 

「み……味噌田楽」

 

 

「く? くぅ……く、口紅」

 

 

「に……肉豆腐」

 

 

「蕗の薹」

 

 

「う……う……ウグイス!」

 

 

「スかぁ……ス、スルメ……はもう出たし……ス、スゥ……。……スペイン! ──あ」

 

 

「はぁーい恵飛須沢の負けぇープスークスクス」

暇をもて余した俺達はいつの間にかしりとりをしてお茶を濁していた。なお戦績は祠堂と直樹が一敗、恵飛須沢二敗、丈槍四敗。俺達無敗の状態、年期が違うんだよ年期が。

 

 

「皆~、そろそろ着くわよぉ~」

佐倉先生の声にしりとりが中断される。目的地である場所は俺と直樹、祠堂の二人が初めて遭遇した場所。『リバーシティ・トロン・ショッピングモール』である。地味に設定上例の『ランダル・コーポレーション』の傘下であり緊急避難用の区画まで設けられている大型ショッピングモールだ。

 

 

周囲の安全を確認し、俺と拓三で駐車場までの道を誘導する。なんだかんだで使っていなかったコンパウンドボウを持参、初実戦だったりする。

 

 

いや学院内だけなら近接と投げナイフで事足りるし……え? 普通足りない?

 

 

とにかく物は試しだ。手頃な距離にいる感染者の一体に矢を射る。

左手に持った本体を前方に構え、腰に下げたナイロン製の矢を入れる管が三つに別れているタイプの矢筒に差してある内の一本を取り出し、筈(ミズノ)と呼ばれる矢のケツに取り付けられた二股のパーツを弦に引っ掻け人差し指・中指・薬指の三本でゆっくりと引き絞る。

 

 

照準器と目標の距離を調整しながら狙いを定め……射る。

 

 

ヒュン。と弦が風を切る音と共に発射された矢が吸い込まれるように感染者の頭部に突き刺さる。通常の鏃では貫通力が高すぎるため、鏃を別売されているステンレス製の2枚ブレードが付いた幅広い菱形状の物に取り替えてある。これにより貫通力は下がる代わりに威力とインパクトの衝撃で簡単に感染者を無力化できる。

 

 

普段は動かない的にしか射た事がなかったので少し心配だったが何て事はない。元々動きのトロい感染者、余程長距離で不安定な撃ち方でもしなければ外すことはないだろう。

 

 

第一射で感覚を確かめ、今度は素早く先程の手順と同じように射る、問題無く命中……なんだよ……結構当たんじゃねぇか……。

 

 

2~3本射ては使った矢を回収し、手拭いでこびり着いた血糊と肉片を拭き取る。投げナイフよりも射程距離と威力はあるが回収して洗うのは割と面倒だな。まだ学院や自宅含めて在庫は大量にあるにしても使い捨てるには忍びない。それ以上に『証拠』を残すわけにはいかないしな……。

 

 

俺達と共に極限式ブートキャンプに勤しむようになった恵飛須沢と直樹により大抵の感染者達はあっさり駆逐されていく。まだまだ体の動かしかたにぎこちなさが残るが、二人とも懐への踏み込みや流れるようなバックスタブ、俺でなきゃ見逃しちゃうねと言わざる終えないくらいに手慣れ始めている。

 

 

それはさておき周囲の掃除を終えて車を駐車し、全員でリバーシティ内部へと侵入する。平和だった頃の面影は欠片もなく、停電し暗くなった店内……散らばった商品やガラス片、至るところに付着する血の紅。

 

 

夜目に慣れる練習もしていたおかげで、灯りが無くとも周辺の状況は確認できる。手の届く距離を維持した間隔で移動し息を潜める。足早に四階へ上がり洗剤や消毒液、絆創膏といった応急キットに役立つ物を買い物カゴに放り込んでいく。恵飛須沢と直樹の二人に入り口を警戒させ、俺と拓三は少し離れたところで周辺の探索に当たる。

 

 

「これと言って目ぼしい物はないなぁ」

子供用のぬいぐるみを拾い上げ、ポイポイとお手玉よろしく弄びながら吹き抜けから下の階を眺める拓三。

 

 

「騒動から半月……ここを拠点にしていた生存者の姿も無いな」

五階へと続く『バリケードが築かれた』階段を見上げる。本来であれば直樹と祠堂の二人はここで他の生存者に保護され生活していた。が、途中でグループの中心人物が感染しそれを隠した事から事態は一変。二人を残して全滅する。そして小さな物置に閉じ籠った二人はやがて行き違い、祠堂は外へと飛び出して消息を絶った……。

 

 

「おぉーい! ひーくんたっくん!」

突然大声で叫ぶ丈槍の声、すぐに「他の客に迷惑だから静かにしろ」と注意する。口元を抑え、にへらと笑いながら謝る丈槍。

 

 

「めぐねえがもうすぐ帰ろうって」

後ろへ視線を向けると荷物を集め終えた一同が店の前で待機していた。

 

 

「了解だ」

丈槍の大声で寄ってきた感染者を素早く仕留め、拓三の肩を叩き佐倉先生たちと合流する。

 

 

「随分大荷物になりましたね……」

 

 

「ま、まぁ色々とねぇ~」

何故か苦笑いを浮かべられる。

とりあえず荷物の纏まったバッグを受け取り、来たとき同様ゆっくり慎重に、それでいて足早にショッピングモールから退散する。

 

 

時刻は既に昼過ぎ、感染者たちの習性からか『お昼時』って事もあって徐々に数が増えてきている。

 

 

「車まで急ぐぞ、離れるなよ」

先頭を拓三、恵飛須沢、直樹の三人に任せ最後尾を俺が勤める。

進路上の感染者のみを排除し車へと一気に駆け抜ける。

 

 

サササッと乗り込む女子メンバーと荷物ごと天井に飛び乗る俺達。

 

 

「いいぞ!」

 

 

「しっかり捕まってて!」

エンジンの音で集まり始めた感染者達の隙間を縫うようにして駐車場から離脱する。

遠ざかっていくリバーシティへ視線を向けた俺は、不意に視界の端にキラリと何かが光ったように見えた。

 

 

「ん?」

首から下げていた双眼鏡を手に取り、その光ったところへ向ける。

 

 

「どうした?」

 

 

「いや……何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~!」

部室の扉を開け放ち、丈槍は「楽しかったー」と椅子に腰かける。俺達も荷物を下ろした後一息付き若狭の淹れたお茶を飲みながらまったりと時間を過ごす。

 

 

「そういや、色々集めてたみてェだけど何集めてたんだ?」

思い出したかのように疑問を浮かべた拓三が、パンパンになったバッグを手に取って中身を開けようとした瞬間。恵飛須沢のパンチが炸裂する。恐ろしく早い右ストレート、俺でなきゃ見逃しちゃうね……。

 

 

「勝手に覗くな変態」

 

 

「理不尽すぎる」

 

 

「下着や生理用品を漁ろうとするお前が悪い」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「…………ん?」

無意識に呟いた俺の一言に静寂が訪れる。周りを見渡せば全員の視線が俺に集中していた。

 

 

「何で中身知ってんだよ」

眉間にシワを寄せ、ジト目で睨んでくる恵飛須沢。そう、あくまで俺がメモ用紙に記載したのは洗剤などの日用品。後から独自に現地調達していたであろう女性陣の視線が痛い。

 

 

「知ってるも何も普通に見えてたからな、というか一々そんなもので意識しすぎだ。逆に怪しいぞ」

すると直樹から「デリカシー0ですね」と冷たい声で言われる。

 

 

「えぇ……?」

ドン引きされる俺の肩に手を起き、何故か達観したような顔で拓三は頷きながら「そういうところだぞ」と言ってくる。意味がわからん。

 

 

「と、とりあえず集めた物を片付けましょう。こっちのバッグは私達でやるから木村くん達はもうひとつの方をお願いねぇ~」

パタパタと女子メンバー全員を引き連れていく佐倉先生。

俺達も任された方のバッグを整理していく。

 

 

まずがメモ通り集めた洗剤や応急キット類を戸棚にまとめる。

 

 

「風船……?」

途中で恐らく丈槍が入れたであろう幼児用の物が大量に出てきたが……まぁスルーで。

筆記用具やノートの類い、食品用のジップロック、乾電池などなど。

 

 

10分と経たずに事を終え、適当に茶菓子を貪っていると佐倉先生たちが帰って来た。

 

 

「あ、先輩。ノート一つ貰ってもいいですか?」

祠堂が棚に纏めておいたノートの一冊に手を伸ばす。

 

 

「ああ、別に構わないが……何かに使うのか?」

 

 

「はい、日記……でも書こうかなって」

変ですかね? と苦笑する彼女に、俺は別にと短く返す。日記とは言わば記録だ、書くことではなくて残すことに意味がある。価値のあるなしを決めるのは書いた本人だけだ、俺がどうこう言う資格は無いだろう。

 

 

でも頼むからかゆうま状態にだけはならないでほしい。

 

 

「さ、遠足も終わったことだしお昼にしましょうか」

昼食の支度を全員で分配する。料理は基本的に若狭と佐倉先生、あと地味に料理なんて覚えている拓三の三人に任せ、他はテーブルなどを寄せて食器の用意。二週間ほどになる9人の集団生活。最初こそ壁を感じていたが今となっては慣れたもので……。

 

 

「それじゃあ──」

 

 

「「「「「いただきます!」」」」」

こうして、俺達の学園生活はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは記録だ。

思い付いたのがごく最近。先輩と一緒に訓練する親友の美紀を見ていたら、自分も何かしなくちゃいけないんじゃないかと思っていた。とはいえ私は胡桃先輩や美紀みたいに戦えないし、りー先輩やめぐみ先生みたいにお料理もそこまでできる訳じゃない。

 

 

そんなある日思い付いたのがこの日記だ。今までの出来事をノートに残して、もしかしたら誰かの役に立てるかもしれないという身も蓋もない期待感からの行動……。

 

 

いや、どちらかといえば何も出来ない自分への言い訳……なのかもしれない。

 

 

とにかく、私はこれまでの出来事をこのノートに書き残そうと思います。

 

 

まずは始まりから……二週間ほど前。私、祠堂 圭は親友の直樹 美紀と一緒に学校帰りにリバーシティ・トロン・ショッピングモールへ来ていた。何の変哲もない日々のなか、当然のように明日も続く日常を何の根拠もなく信じていた私は文字通り、世界の終わりに遭遇した。

 

 

モール内に響き渡る悲鳴。中だけでなく外からも……まるでゾンビ映画のような人が人を食らう光景。おぼつかない足取りで人々を襲う亡者。恐怖で頭に中が真っ白になりながらも私は美紀の手を取って脱出を試みるも多くの人だかりで道が塞がれ、下の階では既に被害が広がり始めていた。

 

 

逃げている途中でモール全体の照明が落ち、闇の中で怯える私達は身を隠すしかなかった。

助けを求める声、耳を裂くほどの悲鳴。

 

 

肩を寄せ合い、静かに時間が過ぎるのを待っていた。

そしてどのくらい時間が経ったかは覚えていないけれど……私達は一人の男性に出会う。その人は私達と同じ学院に通う一つ歳上の男子生徒。名前は木村 秀樹、彼は至って冷静に物事を捕らえていた。学生とは思えないほど落ち着きのある立ち振舞い。『感染者』と呼称するゾンビを持っていたナイフで無力化する姿は映画宛ら。

 

 

脱出した私達は、彼が直前に助けた母娘の乗る車に乗せてもらい事なきを得た。

 

 

大通りは避難する車の渋滞で一向に進まず、どうしたものかと困り果てていると……突然彼は携帯電話ではなくトランシーバーを取り出し誰かと連絡を取り始めた。

 

 

聞けば私達の通っている学院『巡ヶ丘高校』で事態から逃れた友人である人が、数名の生徒と教員と共に屋上で籠城していると言う。

 

 

目的地を変更し、途中で小学生の女の子を救出した彼と共に母娘と別れ、学院へ向かう。

 

 

学院には三年生の女子生徒3人と、女性教員1人、男子生徒1人が生き残っていた。その男子生徒は木村先輩の親友であるという田所 拓三先輩。二人は一部の生徒に噂されるほどの変人であるとされている生徒であるのは事前に思い出した。

 

 

女子生徒は丈槍 由紀先輩、恵飛須沢 胡桃先輩、若狭 悠里先輩。そして唯一の大人である女性教員の佐倉 慈先生。ちなみに木村先輩が助け出した女の子は悠里先輩の妹さんだったらしい。

 

 

こうして私達9人は学院での生活が始まる。

 

 

学園生活部という名前を冠したこの関係は、当初こそ人間関係の縺れもあって不安だった。

だけど時間が経つに連れて皆の結束は強くなっていった。いつも危険な事を率先して受け持つ木村先輩と田所先輩を中心に、一日一日を無事に生き残ることができた。

 

 

もしも彼らと出会えなかったら、私も美紀もどうなっていただろうか……考えたくもない。

 

 

学院の防御を固め、居住スペースを確保したり皆で掃除をしたり。学院が緊急時に避難施設と備蓄があることが分かって地下へと探索に向かい、数多くの食糧を見つけた時は嬉しかった。普段は当たり前のように食べていたご飯の温もりを、今ではかけがえの無いものなのだと痛感している。

 

 

たまに対立する事や意見が別れる事もあった。胡桃先輩と田所先輩が不穏な空気になってた事もあったけど、とある一件でそれも収まった感じに見える。

それ以降、なんだか胡桃先輩がどこか吹っ切れた様子で彼に接するようになったけど……。美紀と二人で先輩たちのブートキャンプなるものを始めた時は驚いた。

 

 

何が驚いたってその容赦の無さ、女の子相手に本気で格闘技を叩き込むのはちょっとやり過ぎなんじゃないかなと思うけど、二人ともヘトヘトになっても楽しそうにしてるから良いのかも?

 

 

 

 

 

 

 

私達は生きている。今日も、明日も。きっと生きていく、だから私は……その証を残そうとこの日記を書き記していく。

 

 

こんな世界でも、私達の日常が永遠に続くと信じて……。

 

 




フラグを建てますよー建てる建てる(違法建築


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