てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~   作:青の細道

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げきめつ

結論から言って、彼らの敗因は大まかに分けて4つあった。

 

 

一つ、相手が女子供の学生であるという油断。

 

 

一つ、チームを二つに分断したこと。

 

 

一つ、木村 秀樹と田所 拓三という存在。

 

 

そして最後に──。

 

 

 

 

 

彼らはその二人を『怒らせた』こと。

 

 

 

 

 

部隊の中で偵察兼狙撃手を勤める男『チャーリー』はマスクの下で口角を吊り上げ、今にも笑い出しそうなほど劣情に心を踊らせていた。

彼らは所謂『懲罰部隊』と呼ばれる存在だった。隊長である『アルファ』に始まり『ブラボー』『チャーリー』『デルタ』『エコー』『フォックストロット』の6名は全員が何かしらの要因で投獄されていた存在である。

元軍人である隊員も居れば、元テロリストだった男などで編成された部隊。

 

 

そしてこの男、チャーリーも例に漏れない。だが彼の経歴は他のメンバーとは少し……いや、大いに違っていた。

 

 

彼は俗にいう『ネクロフィリア』である。

女の死体を好み、犯し、貪る殺人鬼が彼の正体だ。出身であるアメリカにて48件もの殺人と強姦を繰り返し死刑判決を受け投獄されるも雇い主によって監獄から釈放され、訓練を受けた彼は狙撃手としての才能を認められる。スコープ越しに見る女子供が自分の銃弾によって撃ち殺される瞬間に快感を覚え、表だって出来ないような汚い仕事を受け持つのが彼ら『Scarecrow』の任務である。

 

 

暗殺から証拠隠滅、名前と戸籍を無くした彼らは文字通り『自由』を勝ち取った。任務によって与えられる報酬は金以外にも『現地調達』する事を許されている。

 

 

金品、酒、女。あらゆる行為が容認された彼らを止めるものはいなかった。

銃火器を使い、脅し、殺し、奪う。

 

 

誰にも俺達を止められない。

 

 

実績を重ね、部隊としての能力も評価された彼らに舞い込んできたパンデミックによる混沌とした世界。死と恐怖が支配する其処は彼らにとっては天国のような場所だった。

武力を行使し、屍と化した人間を好きなだけ殺し、助けを乞う生存者を殺し、与えられた任務の中でなら今まで通りに自由が約束される。

 

 

だからこそ今回の任務も今までと変わらない簡単なものだと確信していた。しかも目標の過半数は若い女子供、二人ほど男が混じっていたようだが彼らの中では既に殺した前提で事が進み、トランプによって『誰が一番最初に好みの奴をヤるか』という権利を賭けての勝負に見事勝ったのがこのチャーリーである。

 

 

ネクロフィリアであるチャーリーが楽しめるのは基本的に最後であった為いつも満足するには物足りないと感じていたのだが、今回は勝利の女神さまが微笑みかけてくれたとチャーリーは喜んだ。

 

 

誰を殺そうか、誰を犯そうか。

 

 

目的地に到着するまでの間、彼の頭の中はそれだけのことで埋め尽くされていた。

愛用しているスプリングフィールドM14自動小銃の近代化モデルを構え、スコープを覗く彼が最初に目にしたのは屋上に佇む一組の男女。一丁前に迷彩服に身を包んだ顔立ちの若い男と、その隣には日系人特有の凹凸の少ないスッキリとした顔に長く艶のあるブラウンの髪をした少女。

 

 

恋仲か?

 

 

そう思ったチャーリーは照準を少女へと合わせる。

目の前でオンナを殺される絶望をプレゼントした後にお前の前でたっぷりと遊んでやるよ。

 

 

そう唱えるように醜い笑みを浮かべ引き金を引く。

 

 

が、彼の銃弾は少女庇った男によって命中を免れ、追加の数発も全て防がれた。倒れた所に追撃しようとした瞬間にヘリのパイロットによって邪魔が入り、その隙に屋上は煙によって視界を妨げられた。

 

 

「fuck!」

思わずチャーリーは床を叩く。出鼻を挫かれたのが相当腹が立ったらしい。

 

 

ヘリから降下し、周囲に亡者の影が無いことを確認した彼らは一直線に学園の入り口へと向かう。この時、少しでも校庭に『一切』感染者の姿がない事に疑問を抱いていたのなら、彼らの命運も少しは違っていたのかもしれない。

 

 

「clear」

 

 

「clear」

 

 

「move」

感染者が徘徊する一階を素早く制圧し先頭を行くアルファ、デルタの背を追い、ブラボー、エコー、フォックストロットの三名ずつに別れそれぞれ北階段と南階段を上がっていく。

南から登ったブラボーチームが二階を担当し、アルファチームは三階へと向かう。

 

 

一階とは比べ物にならないほど綺麗に清掃が行き届いている三階。生活の痕跡が見られる三階がアタリだと笑い混じりに呟くと、部屋を一つ一つ捜索する。まるでかくれんぼのようだとデルタが呟く。

 

 

そう、屋上ではしてやられた事から少しは頭の回転が早いようだと関心したが、所詮相手は子供。今頃どこぞの部屋でガタガタ膝を抱えて怯えていることだろう。

 

 

さぁ出ておいで、可愛い仔猫ちゃん達。

 

 

込み上げる興奮に舌舐めずりをするチャーリー。一つ、また一つと部屋をクリアリングしていく。

 

 

ふと気がつくといつの間にかデルタの姿がなかった。

アルファを呼び止め、少し後退。するとデルタはあっさり見つかる。日本語には乏しいが、数多く並べられた瓶や科学薬品特有の臭いからしてそういう部屋なのだろう。

 

 

入り口に背を向け、何故か微動だにせずにいるデルタ。てっきり隠れていた標的を盗み食いするつもりなのかと思っていたチャーリーは拍子抜けし、アルファが溜め息を吐きながら彼の肩を叩く。

 

 

ゴトリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポンと叩かれたデルタからナニかがずり落ちた。サッカーボールほどの大きさの黒い何か。

あまりの事にソレが何であるか認識するまでに僅かな時間を有した。

 

 

ガスマスクのゴーグル越しに目と目が合う。

 

 

まるで壊れたマネキンのように取れたデルタの頭。

 

 

目を見開き、oh my Godと叫びそうになったチャーリーの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタタタタと炸裂する発砲音を聞き、ブラボーチームの面々は「お、やってるな」とゲームの開始を合図するゴングとでも思っているのかと言うほど楽観的な雰囲気だった。

 

 

元軍人のアルファ、異常性癖のチャーリー、爆弾魔の元テロリストであるデルタに比べてブラボーチームの面々は比較的マシな方である。元麻薬密売人であるブラボー、国家機密に不正アクセスし他国へ売り捌いた元ハッカーのエコー。幾度となく窃盗と脱獄を繰り返してきたフォックストロット。

 

 

とはいえ彼らもまた懲罰部隊などに入れられる程度には歪んだ人格と才能を持つのには変わらない。

元密売人ということもあって人一倍周囲への警戒心の強いブラボーは入念に部屋の捜索をし、そんな彼を「真面目だなぁ」とエコーとフォックストロットは半ばサボり気味に煙草を吹かしながら適当にぶらつく。

 

 

三階が拠点であるとは既に全員が確信しており、上では発砲音。もはや仕事は終わったも同然だと打ち上げムードな二人を他所に、ブラボーが探索を終えた部屋から出てくる。

 

 

上の連中に合流するかと全員が階段の方へ振り向くと、そこには一人の人影が立っていた。電気のない廊下で、唯一日の光から外れた階段付近。

 

 

大柄な身長と黒い服装。顔を覆い隠しガスマスク、アルファチームの一人かと勘違いし「どうかしたか?」と何気なく声を掛けるエコー。違和感を覚えたのはやはりブラボーだった。

銃器や手榴弾などの装備が一切なく、左腕には直径50cmほどの円形のライオットシールドが装着され、右手にはハンドル部の長い大型マチェットが握られていた。

 

 

エコーを押し止め、抱えていたFN SCAR-Lの短銃身モデルであるCQC仕様の安全装置を外しその人物へ銃口の先を向ける。

 

 

「contact!」

懲罰部隊の無法者集団と言えど、部隊としての訓練は受けている。ブラボーの声と共に先ほどまで呆けていた二人もそれぞれの得物を構えた。

 

 

瞬間、跳ねるようにして黒い服装の人物が前方へ飛ぶのと同時に全員が引き金を引く。ブラボーの突撃銃とフォックストロットのIMI ネゲヴ軽機関銃。エコーの散弾銃ケルテック KSGが火を吹く。

 

 

当たれば致命傷は免れない。既に前方へ踏み込んでいた哀れな時代遅れの剣闘士(グラディエーター)が蜂の巣になる光景を確信すりブラボーチーム。

 

 

しかしその男、田所 拓三は銃弾が体に当たるよりも先にすぐ真横へと飛び、ライオットシールドで窓ガラスを突き破って図書室の中に消えていった。

 

 

まさかそんな大胆なことをするとは思ってもいなかったため一瞬だけ呆けたが、すぐに頭を切り替え図書室に向かって一斉掃射を行う。

 

 

圧倒的発射レートを持つ軽機関銃が木製の本棚を打ち砕く。

 

 

20秒ほどの掃射が終わり、最後の空薬莢が地面に落ちる音が響き渡る。既に三階からの発砲音は無くなっていたが、ブラボーチームはそれを気にする暇はなかった。

 

 

「Is he dead?」

フォックストロットの問いに、ハンドサインで前進を指示するブラボー。ゆっくりと扉を開け、本や木片、埃が充満する室内へ足を踏み入れる。左右をカバーする二人を背にブラボーが一つ一つ慎重に本棚の隙間を確認していく。

 

 

「ガッ──!」

バキリという音と僅かな悲鳴。反射的に振り向いたブラボーが引き金を引くよりも先にライオットシールドで顔面を殴られマスクの割れたエコーが目前に迫る。

 

 

突き飛ばされたエコーを払い除けている間にもマチェットによって片腕を切り落とされたフォックストロットの絶叫が木霊し、激痛に悶えながらも残った左腕でバックアップ用の拳銃を引き抜き発砲。

だがその銃弾はシールドによって防がれ、痛みによって照準が定まらない内に手を銃ごと蹴り飛ばされ、しまったという顔のまま、水平に凪ぎ払われた凶刃によって頸動脈を切断された彼はゴボゴボと声にならない声と共に崩れ落ちる。

 

 

「The brat!」

悪態を吐き、ブラボーから放たれる銃弾はただただ後を追うように剣闘士の軌道をなぞるだけで一発たりとも命中することはなかった。

 

 

先を読んで銃身をズラしても、その先読みを更に読んでいるかのように不規則な歩幅とステップによって目で追うのが間に合わないほどの挙動。

 

 

 

──What is this guy!?──

 

 

 

あまりにも人間離れした動きに冷や汗が流れる。弾倉内の弾が撃ち尽くされ、交換している暇はないと懐の拳銃を取り出し、迎撃する。

 

 

が、やはり掠りもしない。

 

 

「ズェリェァッ!」

本棚を挟んで飛び出した田所は、隠れると同時に剥がしたシールドを飛び出すと共にブーメランの如くフルスイングで投げ飛ばし、おおよそ人の腕力で投げられたとは思えないほどのスピードで飛翔するソレはブラボーの拳銃を粉砕し、弾けた衝撃で倒れたブラボーの体を踏みつける。

 

 

「ふぅ、ンだよ大した事ねぇな」

何と言っているかは解らなかったが、鼻で嗤われたことにより馬鹿にされたと察したブラボーは怒りを露にする。ナメるなと腰のナイフを引き抜き体を押し付けている足へ突き立てるも、済んでの所で避けられる。

 

 

だが好機、運よくすぐ側に落ちていたエコーの散弾銃まで転がり、ガシャリとポンプを引いてトリガーを引──。

 

 

「遅ェーんだっ……よォ!!!」

圧倒的スピード差、振り返った時点で目と鼻の先まで踏み込んでいた田所の渾身の腹パンチが突き刺さる。防弾チョッキを身に付けていたにも関わらずくの字に折れ曲がったブラボーの体は、さながら車に追突された歩行者の如く面白いように吹き飛び、窓ガラスを突き破って廊下へと投げ出された。

 

 

脳震盪を起こしたエコー。片腕と首を切られ絶命したフォックストロット。腹部に強烈な打撃を受け、失神するブラボー。

 

 

三名の特殊部隊員は、たった一人の少年によって撃滅された。

 

 

「ま、こんなもんだろ」

パンパンと手や体についた埃を叩き落とし、どこか満足げに鼻を鳴らす田所。だが振り返って図書室の悲惨さに思わず溜め息を吐いたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Motherfuckeraaaaaaa!!!」

懲罰部隊『Scarecrow』のリーダー『アルファ』は、怒号をあげながら一心不乱に手に持つ短機関銃FN P90を撃ち放つ。フルオートで放たれる50発もの弾は周囲に風穴を開けながらも、彼が望む目標には一発も当たることはない。

 

 

「This monster!」

言葉通り、彼には『ソレ』が化け物に見えていた。

両手に持った二本の鎌を構え、獣のように姿勢を低くし視線は絶対にこちらを向き続けている。全身がバネで出来ているのかと錯覚させるほどの身軽さで部屋中を縦横無尽に跳ね回り、床、壁、天井を踏みながら銃弾をかわしている。デルタは頭部切断され、背後から奇襲されたチャーリーの安否は不明。

 

 

ピクリとも動かないため戦力としてはもはや期待できない。

 

 

 

こんなはずではなかった!

 

 

 

アルファは歯を食い縛る。この任務もいつも通り終わらせるはずだった、いつも通りに終わるはずだった。たかが子供の始末と『サンプル』の回収。何てことのない仕事だ。さっさと終わらせて確保した生き残りの女に徹底的に凌辱の限りを尽くし、酒を飲みながら部下と楽しむはずだった。

 

 

 

どうしてこうなった!

 

 

 

アルファの頭には疑問だけが浮かび上がる。どうして自分が、自分達がこんな無様に狩られているんだ。

 

 

 

ふざけるな、狩るのは自分達だ。狩られるのはお前だろう!

 

 

 

力こそが正義である。それがアルファの軍人時代からの理念であった。弱者は強者に虐げられる、弱さは悪であり強さは善である。力ある者が支配する世界、そんな思想に溺れていたが為に軍を追い出され……酒に溺れ、気がつけば牢獄に囚われた。

 

 

 

ふざけるな、俺はこんなところで終わる男ではない。

 

 

 

自分には他者にない決定的な価値がある。それに気付き、腐った肥溜めから救い出してくれたクライアントには感謝もしているし、今の生活はまさに望んでいたものだ。だからこそ狗として従い続けるのも苦ではなかった。

 

 

部下と共に暴力の限りを尽くし、歯向かう者を殺し、欲しいものは手に入った。

 

 

 

なんて素晴らしい世界だ。

 

 

 

そして拍車を掛けるようなこのパンデミック。発生原因などには興味ない、例えクライアントが何かを知っていたとしても関係ない。今まで通りに……いや、今まで以上に自分達は生存競争の頂点に君臨するんだ。

 

 

そう思っていた。そう確信していた。そう願っていた。

 

 

……だが今の状況を見たらどうだ。

 

 

部下二人をあっさり無力化され、傷一つ付かない敵、今まで出会ってきた有象無象などとは訳が違う。

 

 

 

誰だ、何だ、どうなってるんだ!?

 

 

 

アルファはただただ引き金を引き続ける。何度目かの弾倉交換をし、地面に散らばった薬莢などお構い無しに弾丸をばら蒔く……弾幕のおかげか、懐まで攻めあぐねる死神にようやく勝機を見いだし始めた。

 

 

恐らく奴は弾切れを狙ってくるだろう。向こうから来るのであれば仕留めるのは容易い!

 

 

 

カチン!

 

 

 

「っ──!」

予想通り、短機関銃が弾切れを起こした時の特徴的な音と同時に一気に距離を詰めるべく床を蹴る死神。

 

 

 

──馬鹿め!

 

 

 

わざと焦ったように後ずさる素振りを見せ、見えないように後ろ越しから引き抜いた拳銃を突き付ける。

 

 

 

 

 

──パァン!

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

 

「……what?」

アルファは目を白黒させる。ほんの一瞬、寸前まで3m以上距離があったはずだった。

にも関わらず放たれた弾は地面を穿ち、構えていた右手が宙を待っている。

 

 

恐る恐る後ろを振り向けば、腕を左右に振り抜き背後に着地したままの姿勢で静止する死神の姿。

 

 

馬鹿な……一体何が起きた?

 

 

視界がブレる。首にドンと衝撃を受けるのを最後に……アルファの意識は死神によって刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……何とかなったな」

刃にこびり着いた血糊を拭き取り専用カバーへ仕舞う。被っていたマスクを剥ぎ取り乱れた髪を掻き上げる、傷は浅かったものの頭部に受けた傷が思いの外脳を揺らしていたせいで意識も視界も今一はっきりしていなかったが、何故か逆に体は軽かった気がする。

 

 

銃弾を避けるためとはいえあんなキモい動きしていたのに疲れや体の痛みをほとんど感じなかった。鎮痛剤を投与したのとアドレナリンの作用だろうか。

 

 

とりあえず何とか奴等を退ける事ができた。

 

 

「秀ぇ」

最初に殺した一人を除いて無力化した特殊部隊員の二人を拘束し装備を全て剥ぎ取った後、引きずるように廊下へ出ると同じように拘束した隊員を両肩に一人ずつ抱える拓三が現れた。

 

 

「そっちも無事だったか」

 

 

「ったりめぇ~ダルルォ。……それにしても、こいつら一体なんなんだ?」

床にぼとりと放り捨て、倒れた一人の頭を小突く。ガスマスクを剥ぎ取り目出し帽を脱がせれば欧米人特有の高い鼻、深い彫り。やはり在日アメリカ軍の隊員か?

 

 

「……あ?」

しかし他のメンバーも同じように顔を拝見すればフランス人特有のラテン系、ゴツい骨格のドイツ系、肌の黒いアフリカ系と全員がバラバラの国籍を思わせる特徴の顔だった。

 

 

「ドッグタグも無けりゃ部隊のワッペンすらない。何者なんだこいつらは」

全身黒で統一された服装以外に身分を証明するようなものが何一つない。

 

 

「戦闘もお粗末だった……ほぼ奇襲に近いとはいえ俺達に一方的に負けるって事は真っ向からの戦闘は不得意だったのか?」

 

 

「いやオレ真っ向からぶつかったけどこのザマだったぞ」

 

 

「は……?」

 

 

「いやだから真っ正面から──」

 

 

「お前アホだろ」

これだから脳みそきんに君は。と溜め息を吐きながら再び隊員の襟首を掴んで引きずる。

若狭達の居る部室の前まで行き、ノックをしながら「俺だ」と声を掛ける。カチンと鍵が解錠される音と共にゆっくりと扉が開き、恐る恐るという顔で隙間からこちらを覗く生活部のメンバー一同。

 

 

「終わった」

淡々とそう告げた瞬間勢いよく扉が放たれ、若狭が飛び込んでくる。

 

 

「無事でよかった……!」

肩を震わせながら顔を埋める若狭、微かに嗚咽が混じった声。泣いているのか?

まぁこんな奴等から襲撃されりゃ感染者とは別ベクトルで恐怖だろう、何せただの一般的な女子校生なのだから当然か。

 

 

「木村……そいつらは?」

眉間に皺をよせ、怪訝な顔で俺達が抱えている四人の黒迷彩を見る恵飛須沢。

 

 

「気絶させてある。情報を聞き出さなきゃいけないしな……まぁ二人は殺しちまったが」

殺した、というフレーズに顔を歪める佐倉先生。

 

 

「人を……殺したんですか……」

曇った表情で視線を下げる直樹。

 

 

「ああ、殺した。そうしなきゃ俺達だけじゃなくお前達も危なかったからな、こいつらには明確な敵意があった。殺さなきゃ殺られる。感染者だけがこの世界の危険じゃない、こういった連中の方が厄介極まりないのさ」

 

 

「その人達も……その……」

言葉を濁し目線を泳がせる祠堂。おそらくこいつらの処分について気にしているんだろう。皆が皆、殺されかけた自分達より殺しにきた連中の心配をしている。

 

 

……まったく甘い奴等──いや。それでいいのかもしれないな……。

 

 

「殺すか生かすかはこいつらの答え次第だ」

 

 

「秀」

廊下で待っている拓三に「おう」と返事を返し再び廊下へ出る。何処へ行くのかと問われた俺は「まだ一人残ってるからな」と縛り上げた連中を連れ、下の階に降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……こんなことが」

校庭へ出て、待機着陸していたヒューイまで向かうと降りてきた唯一自衛隊の迷彩服2型を着用していた男が俺達の姿を見て信じられないといった表情で呟いた。戦闘の意思は無いようで、俺達がヘリに到着する時点でコクピットから降り両手をあげて降伏の姿勢に入っていた。

 

 

話が早くて助かる。

 

 

「アンタ等の目的はなんだ」

俺の問い掛けに、自衛隊員は首を横に降りながら「誤解しないでくれ」と説明を俺達に述べた。曰く自分は救助活動という名目で駐屯基地からここに向かうはずだった事。上層部の命令で急遽同行を余儀なくされたこの連中については何も知らされていない事。

 

 

話してみれば何てことのない、良心的な自衛隊の男性であると認識する。……だからと言って信用できるわけではない。

 

 

「アンタはこれからどうする」

 

 

「……『生存者は発見できず、部隊は全滅した』……と上には報告するつもりだ」

要するに黒服の処分は好きにしていいという事か。

 

 

「オレ達の事は黙ってるってのか?」

 

 

「……君たちがそれを望むならね」

 

 

「信用できねェーな」

現に俺達は命を狙われた。あくまでその命を受けていたのはこいつら黒服かもしれないが、どっちにしろ彼も加担した側の人間だ。そう易々と見過ごすわけにはいかない。

 

 

「今回の件で自分は……いや、俺は基地の上層部が何かを隠していると確信している。戻って独自に調査をしてみようと思うんだ」

ヘルメットを取り、懐から差し出した一枚の紙を受け取る。

 

 

それは以前丈槍が描いた学園生活部のメンバーが描かれたものだった。裏面には若狭の記した学院の座標。これを入手して救助へ向かったって来たのが彼なのだろう。

 

 

「君達が生きていた……それだけで俺は十分だ。本当なら安全に連れて帰りたいところだが、きっと君達は我々を信用してくれないだろう。当然だ、だからこそ俺は一人で帰る」

 

 

「任務を失敗した責任を問われるんじゃ?」

 

 

「もしそうなったら大人しく従うよ」

 

 

「…………」

 

 

「大丈夫、君達の事は墓まで持って帰るさ」

最後に握手を交わしてほしいと頼まれ、俺達は渋々それを了承する。変な人だと思うが悪い人間では無さそうだ。

 

 

「ああ、そうだ。どうせもう必要無くなった事だし、もし良ければ積み荷は君達に渡そうと思うんだが」

そういって後部ハッチを開くと、その中には数多くの武器弾薬。戦闘食料などが詰め込まれていた。

 

 

「流石にそれはどうよ」

苦笑する拓三。「こんな世界で生きていく君達には必要かなって。使い方も……何となくだが大丈夫そうだろう?」とはにかむ。

 

 

流石に全部は持ちきれないため弾薬や手榴弾などを譲り受ける。武器は黒服から奪ったもので十分だろう。持ちすぎれば逆の意味で危険だしな。

 

 

「それじゃあ……俺は戻るとするよ」

 

 

「……お気をつけて」

見よう見まねで敬礼をすると、どこか嬉しそうに敬礼を返す自衛隊員。「君達の生存に祝福を」そう最後に言い残して彼の乗るヒューイは上空へと飛び立っていった。

 

 

「……さて、と」

 

 

ヒューイを見送った俺達は静まり返った校庭で僅かな余韻に浸り、改めてやり残した事を片付けるために校舎の中へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 




特殊部隊は強敵でしたね……。
次回は情報収集(物理)のお時間ですよぉ~。

ようやく二人のキチガイさの片鱗を魅せられる……と思います。



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テンテンテンテテテテンテンテン(木こりのテーマ
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