てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~ 作:青の細道
「…………」
「…………」
襲撃のあった日から夜が明けた早朝。俺達は総出で散らかった学院の掃除と言う名の証拠隠滅作業に取り掛かった。……とは言っても壁や床、滅茶苦茶になった図書室なんかはもはや手の施しようがない。
壊されたバリケードを応急修理程度で済ませ『卒業式』に向けての準備を兼ねた作業。
二人一組で分担し、くじ引きによって俺は若狭とペアを組んで図書室の掃除をしていた。
まるで破裂した豆腐みたいにぐちゃぐちゃな室内。生き残った書物の中で使えそうなものなんかも確保しつつ既に二時間。特に会話もなく淡々と続いている。
横目で若狭を見るとどうにも気まずそうな顔をしている。聞くべきか聞かざるべきか……といった思い詰めた表情だ。
朝起きてすぐに俺と拓三は学院を放棄する提案をした。もちろん驚かれたし説明を要求された。
かいつまんで言えば学院での生活水準の低下と昨日の銃撃戦により集まった感染者の数、そして何より俺達の存在を外部に知られた事が大きい。直樹が「外部に知られたのがいけない事なんですか?」と聞かれたが非常にマズい。純粋に存在が漏れたのがマズいのではない。俺達の存在を知った相手が自衛隊だからマズいのだ。
何がマズいって?
考えてもみろ。パイロットはまだしも自衛隊の上層部は明らかにこの襲撃に関与している、そんな連中がいる中で同じ拠点に住み続ける馬鹿がどこにいるんだって話だよ。
パイロットが俺達の情報を漏らす可能性だって0じゃない。話してみた結果、多少は言葉の通じる相手だったとはいえ所詮は下っぱ隊員だ、脅されてゲロっちまうかもしれない。
送り込んだ特殊部隊を退けた相手だ。二度目の襲撃があるとすれば徹底した戦力を投入してくるだろう。
件の部隊から銃器を頂戴し、ある程度の弾薬もあるがこればっかりは多勢に無勢だ。
銃撃戦の中で全員を守り抜ける自信はない。
銃撃、狙撃、爆撃、強襲、夜戦、訓練された兵士相手に二人でどうしろってんだ。
ただでさえ先日の件で「人間に襲われる」って恐怖を叩き込まれたんだ。まさか国の平和を守る存在だったはずの自衛隊・防衛省がもしかしたらこの事件に関わっている……なんて知っておいそれと保護して貰えるなんて思わねぇだろ普通。
案の定、特に反対意見は出なかったが……全員が不満の表情を浮かべたのは言うまでもない。
だが実際こうするしかない。
捕らえた連中の末路はそれぞれ「放してやった(筋肉式)」「帰った(土に)」と誤魔化したが理解力のある直樹、若狭、佐倉先生は察した上で何も言っては来なかった。
得た情報よりも失うものの方が多いが、宛がないわけではない。
『聖イシドロス大学』
巡ヶ丘学院同様に太陽光発電システムや地下物資など共通した設備の整った施設。大学という事もあって規模はこの学院よりも整っている。規模もそうだが医学学科などの道具が揃っているならば細菌の研究に着手できるかもしれない。既に大学のとある人物が独自に調査しているだろうが、物語が進み学園生活部が大学へ合流するまで、そこで生活するコミュニティはほぼ籠城状態になり、しかも内部分裂まで起こしている始末だ。
俺達の介入によってどう変化するかは不明だが……できるのであれば殺さずに済むのが最良。
入手した武装で脅しをかけるのも手だが、そんな事をしてろくな事になるはずがないというのはもはやパニック映画の黄金パターン。
だがそう簡単に行くとも思えん……場合によっては──。
「ねぇ……木村くん」
「……どうした」
考え事をしていたため手が止まってしまっていた俺へ声を掛けてくる若狭。今朝から暗く不安げな顔、学院での生活が板に付き、ようやく軌道に乗ったかと思えば昨日の襲撃……先の見えない外への脱出に恐れを抱くのは当然のことだろう。
「また、難しい事考えてるの?」
そう言って、何故か俺の裾を引く若狭。昨日からどうも様子がおかしい……まぁ狙撃の対象にもなったんだ、一番恐怖に駆られていたのは若狭だっただろうから仕方ない。
「気にするな」
掃除を再開しようと歩を進めるが、更に裾を引っ張られる。まだ何かあるのかと振り替えると黙ったまま俯いているばかり……そんなに不安なのだろうか。
いや、不安なのも当たり前か……こんなくそったれな世界で不安を抱かない方がどうかしてるんだ。
「不安か? 学院から出るのが、だがこうする他に方法がない。俺達は──」
「違うのっ」
言葉を遮られる。裾を引いていた手はいつの間にか俺の手を握っており顔を上げた若狭の表情に息を飲んだ。今にも押し潰されてしまいそうな顔、目には僅かに涙が浮かんでいる。
「何で泣いてんだよ……」
「昨日の襲撃があって……二人は私達を守るために戦ってくれたのは分かってるの……でも……でも」
震える手で体の方へと腕を引き寄せ、何かを確かめるように俺の手を強く握りしめる。
「今までだって、私達を助けてくれた事に感謝してるの……るーちゃんの事も、皆の事も。ずっと……ずっと戦ってくれてる貴方達が居たから私達はこうして生き残ることができた。きっと二人が居なかったらって思うとゾッとするの……」
本来歩むはずだった『原作』のシナリオが頭を過る。たしかに俺達がこの世界に来なければ彼女たちはシナリオ通りの展開を歩んでいただろう。だがあくまでその世界は漫画の世界だ……現実じゃない。
だったらこの世界は?
俺達というイレギュラーが介入したこの世界は漫画の世界と言えるだろうか。表情も声も温もりも、何一つ現実と変わらない。元居た世界とほとんど変わらない世界で生きている。
俺にとって……この世界は──。
「ずっと……私達の側にいて……どこにも行かないで」
懇願するように腕を抱き震える声で若狭は寂しがり屋の子供のような事を言った。
彼女にとって……いや、若狭だけではない。丈槍や恵飛須沢、直樹に祠堂、佐倉先生と若狭妹。……あとついでに太郎丸。学園生活部にとって俺達の存在がどういった認識かは分からない。
今までの行動から推測してもおそらく完全な信頼関係は築けていないんじゃないかと思う。俺達は嘘を多くついた。恐らくこれからも嘘をついて騙して行くことだろう。
「……ああ、約束する」
そして俺はまた一つ、嘘をついた。
「…………」
「…………」
僅かな静寂、腕を抱いたままの若狭と正直どうしたらいいかわからん俺はただジッとその姿勢のままで時間が過ぎていく。何がなんだかよくわからんが、こうすることで若狭の気が済むなら別に構わないが……。
「……ん、ありがとう。ごめんなさい、我儘言って」
目元を拭い、小さく笑うと「さぁ、お掃除の続きをしましょう」といつも通り?に戻った様子で掃き掃除を再開する。
「おっとっと……あっ、木村くん。丁度よかった」
図書室の清掃を終え、纏めたゴミを体育館裏の焼却炉へ入れた俺が三階へ上がろうとすると大量の書類を持った佐倉先生が現れた。見た目はかなり細身な割に結構力があるのか頭頂よりも高く積み重なった本の束をフラつく足取りで運んでいる。
「持ちますよ」
半ば強引に奪うように8割以上の書類をふんだくる。しかしこんな数の書類、一体どうするつもりだ?
「ごめんなさいね、忙しいのに」
「いえ」
階段を上がり、三階の職員室まで向かう。
以前から佐倉先生の席だった場所へと荷物を置くと、どこか懐かしそうな顔で机を撫でる。
「なんだか、昔を思い出すわね」
そういって少し苦笑する「まだそんなに時間も経ってないのにね」と。1ヶ月だ、たった1ヶ月前までこの世界は何の変哲もない至って平和な世界だった。それが一体全体、どうしてこんな事になったのか。
残念ながら知識として知っている原作は完結していないままで俺達はこの世界に来た。
しかも原作とは違う、何か別の要因が混ざっている可能性がある。原作以上にやばいことにだって成りかねない。そんな世界で生きていかなきゃならない学園生活部のメンバーをどうにかして救う方法を画策せねば。それがこの世界に生きる俺達の存在理由なのだから。
「傷の方は大丈夫?」
きめの細かい指先が頬を撫でる。僅かに目を曇らせこちらを見上げる彼女の表情が、先程の若狭とダブって見えた。どうしてこう俺の周りにはお節介というか、心配性な人間が多いのか……。
「ええ、完治……とまではいきませんが痛みも特には」
左側のこめかみから額に向かって抉るように掠めた傷痕は、くっきりと痕が残るだろうが頭骨や脳へのダメージがなかったのが幸いだった。肩や手足の傷も全て掠り傷。我ながら剛運だったと安心する。とはいえろくに処置もせず撃退に向かったため出血量が多く、朝の目覚めは最悪だった。
レバ刺し食べたい。
しかし実際、この世界が将来的にどうなるか考えると不安でしかない。日本だけでなく世界規模でこのパンデミックが発生していると仮定すると大規模な感染拡大にともなる人口の現象、細菌が環境へどの程度の影響を及ぼすかもわかったもんじゃない。
仮に感染を押さえられたとしても初期段階で既に減った人口は数億はくだらないだろう。たった一月でそれだけ減ったとしたらこの先ワクチンの開発にかかる時間を踏まえてもまだまだ増えると思われる。
医療関連の人員がどれだけ生き残り、施設や材料などの確保も加えて安全を確保するための要員も必要になる。
秩序が崩壊した世界で、生き残った人間がどういった行動に出るかは容易に想像できるだろう。誰もが私利私欲のために力を誇示する。
そういった世界で力の弱いものはどうすればいい?
ただ食われるだけの存在か?
それとも……。
「──いつまで触ってるんです?」
また考えに耽っていたが、いい加減突っ込ませてもらう。特に何も言わないからか延々と俺の頬を撫でている佐倉先生の腕を掴む。ハッと目を見開き慌てて手を引くとパタパタと書類を片付け始めた。
「結局その資料ってなんなんです?」
「……これ、は……」
手に取った一枚を見るとそこには人の名前がズラリと並んでいる。
名前のリストから数多くの写真が記載されているアルバムの数々。まだ平和だった頃の名残、写る人が誰もが皆笑顔でカメラに向かってピースサインなどを送っている。
俺の記憶が正しければ、俺が入学した時期……当時佐倉先生が赴任した頃から現在までに関わってきた生徒や教員達の記録だろうか。見覚えのある名前が数多く記載されているようだ。
「…………」
「ごめんなさい。こんな時なのに、まだ私はあの頃に縋ろうとしてるなんて……」
愛しそうに写真を指で触れる。それは彼女が『教師』として積み上げてきた思い出だ。今が地獄のような世界でも、例え過去の記憶であってもその事実は揺るがない。
「いいんじゃないですか、別に。……過去に縋ったって」
書類を山の上に乗せ、背を向けている佐倉先生の頭に手を乗せる。さっきの仕返し、と言うわけではないがやられっぱなしってのも尺だ。肉体的には歳上だが精神面では俺の方が歳上だ。とはいえ前世でも社会人として世にでたわけではないため厳密には何とも言えない。
とはいえ幼児ではないので撫でられる事に抵抗がないわけではない。さぁ俺が後から感じた羞恥心を思い知れ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………………あの」
「ウェァッハ、ハイ!?」
何でされるがままなんですかねぇ(困惑)
「おぉーいめぐねえー!」
ガラリと職員室の扉を開け、現れた丈槍の声にびっくりした佐倉先生が大きく肩を弾ませる。俺に背を向けたままそそくさと飛んでいくように丈槍と共に出ていく。表情は見えなかったが出ていく最中「めぐねえお顔真っ赤だけどどーしたのー」という丈槍の声で俺は勝利を確信した。
ふっ、勝ったな。
「何してるのひーくんも早く~」
「アッハイ」
「それではこれより、巡ヶ丘学院高等学校の卒業式を始めます」
「またこの制服を着るとは思わなかった……」
「オレのはまだしも、予備なんてどっから持ってきたんだ?」
司会役の佐倉先生が教卓の前で宣言し、生徒である俺達7人と来賓役の若狭妹がパチパチと少ない拍手をし、犬の太郎丸が一吠え。何とも寂しい卒業式だと内心苦笑するが、この行いに意味なんて必要ないのかもしれない。きっとこれは彼女たち学園生活部の新しい一歩になる大切なものだ。これから辛いことも苦しいことも沢山あるだろう、それを乗り越えて生きていくことが彼女達の試練だと言うのなら、俺達はそれを支えるだけだ。
ちなみに「卒業式くらい学生として正しく」と全員にゴリ押しされ、俺も拓三も1ヶ月ぶりに巡ヶ丘の制服に腕を通している。三年近く着ていたはずなのに何故か照れ臭い……まぁ中身36歳のおっさんだし多少はね?
開式の言葉を言い終え、国歌と校歌を斉唱。そういえば原作漫画を読んでいた時から気になっていたんだが何故この学院の校歌はこんな意味深な歌詞になっているんだろうか……。舞台となるこの巡ヶ丘市は前世でいう横浜が元と思われるが、この世界では数十年前までは『男土』と呼ばれていたものの、とある事件により人口が半減し、現在の巡ヶ丘市へと名前を変え復興に勤しんだという。
歴史の書籍を調べ上げたが結局その『とある事件』について詳細な記録は残っておらず、当時の関係者も既に全員が他界、真実は闇の中……。今回のパンデミックに何かしら関係があるのは間違いないがいったいどれだけの謎がこの世界にあるというのか、自衛隊、ひいては国そのものが関与している疑惑がある。
もしそうだとするなら俺達の敵は──。
「卒業証書授与、卒業生代表、若狭 悠里」
「はい」
教卓へ佐倉先生に向き合う形で立つ若狭。手書きで作られた粗末なものだが、彼女達にとっては立派な卒業証書だ。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
受け渡す者と受け取る者、前世ではなんだかんだ出来なかった卒業式。以前まではどうでもいい面倒くさい行事だと腐っていたが……この世界で俺は少し学んだ事がある。
物事には始まりがあって、終わりがある。だが決して終わりが最後じゃない、終わりの次には新しい始まりがある。
この卒業式は、今までの終わりでありこれからの始まりだ。
前世での人生を不本意とはいえ終えた俺と拓三が、どういう訳か転生などという非現実的な騒動に巻き込まれ、こうして新しい世界に生まれ落ちて18年。月並みだが世界を知って改めて『自分が産まれた意味』を考えたこともあった。
「在校生、送辞。在校生代表、直樹 美紀」
「はい」
佐倉先生に変わって教卓の前に立った直樹。気恥ずかしさからか微かに頬を赤らめ、咳払いをすると懐からメモ用紙を取り出し読み上げていく。
「月日の流れるのは本当に早いものです。先輩たちに会ったばかりと思ったら、もう卒業の季節なのですね」
物語の始まり、出会いは必然だったとは言え劇的なものだった。未来の結末を知る俺達が介入した事で救えた命があった。名前も知るはずもなかった、物語の外側に生きる人々を知った。恐怖に立ち向かう覚悟を決めた……。奪った命があった。
「私達の学校の外には大きな未来が広がっています。社会の荒波の中に漕ぎだしていく自分を思うと、誇らしさと同時に不安を感じます、そんな私達に……手を差し伸べてくれた人が居ました」
僅かに俺へ視線を向けてくる直樹。約1ヶ月前、リバーシティ・トロン・ショッピングモールにて俺は直樹と祠堂に出会った。恐怖に怯える二人を見たとき、俺は特にこれといって何かを感じることはなかった。二人を助け、それより前に意図せず救った親子によって脱出に成功し、若狭の妹を救うために単身で救助に向かった。同じく生き残っていた他の生存者を逃がし、若狭妹を連れ戻った俺達は親子と別れ学院へと向かう。
「この学校で私は多くの事を学び、そして教えられました
自分の力を信じて努力すること
苦難に立ち向かう勇気
どんな時にもくじけない明るい心
誰かを思いやる優しさ
何かを失う辛さ
戦い続ける覚悟を知りました」
学院で丈槍、若狭、恵飛須沢、佐倉先生、拓三と合流し学園生活部を発足した。学校施設を拠点とし生活の基盤を整える作業に追われる日々。事前に知っていた俺達と違って、ただの被害者である彼女達が立ち直るのにも時間を有したりもした。
これから彼女達は、また新しい一歩を踏み出す……その先にある苦難は数知れず、感染者だけでなく別の要因との戦いを強いられるかもしれない。
だからこそ俺達が辿る道を作ってやらなくちゃいけない。
前世で運命に逆らって死んだ俺達だ、なら何度だって死の運命とやらに立ち向かってやる。
例えどんなことをしてでも。
「だからもう……不安はありません。私達なら──学園生活で培ってきた事を活かせば、これから何があっても立ち向かっていけると思うからです」
深く頭を下げる直樹へ拍手を送る。
「続いて、卒業生答辞」
「はい!」
ふんすと鼻を鳴らし、今度は丈槍が教卓の前へ立つ。手に持った作文用紙を盛大に掲げるが「顔隠れてンぞー」という拓三のツッコミが入り、にへらと笑う。
「えーおほん。直樹美紀さん、心に迫る送辞をありがとう。みなさんとの出会いは私にとって大切なものでした」
俺や拓三にとって、漫画の世界のキャラクターとの出会いはどういうものだっただろうか。この世界の正体──字面だけだとなんか格好いいな──を知る前から転生した世界についての情報が無く、ようやく掴んだ手掛かりで挫折しそうになったのも数年前の思い出。
両親達を説得し巡ヶ丘へ訪れた俺達、入学し……初めてクラス内で原作キャラの一人──俺が若狭と初めて会った日の事を思い出す。
まだ髪も短く、どこか高校生活にドギマギしているような姿を見て何とも言えない気持ちになった。約二年後に待ち受ける地獄を知らない彼女達の姿があまりにも度し難い。不憫で仕方なかった。
何事も起きず、ただただ平和に過ごせるならばどれだけよかっただろうと今でも思う。
だが現実にパンデミックが発生し、この世は混沌に包まれることになった。
どうしようもない程に、この世界は彼女達に優しくない。
それでも手を取り合って、前へ進もうと言う皆の姿は光に溢れている。
「あのね、ひーくん……たっくん」
「…………」
「…………」
ギュッと原稿を握り締める。沸き上がる何かに胸を締め付けられるような感覚を覚えながら丈槍の顔を見る、笑っているようで泣いている。泣いているようで笑っている。そんな表情を浮かべる瞳からはポロポロと大粒の涙が溢れ落ち、嗚咽を混じらせながら彼女は感謝の言葉を俺達へ述べた。
「一緒に卒業できてうれしい……です。これからもずっと一緒にいま……しょう」
丈槍を囲むように若狭たちが慰める。たしかにそこにある命の存在を確かめるように、俺と拓三は見えないように拳を合わせた。
「いやぁ~終わってみりゃ呆気ないもンだな~」
頭の後ろで手を組み、ボロボロの校舎を見上げながら呟く拓三。増えた荷物を積載するには小さすぎると車を佐倉先生のミニから鍵付きのまま放置されていたハイエースを改造し、ルーフボックスを取り付けた物を用意。愛車を手放す悲しみに打ちひしがれそうな佐倉先生を慰める丈槍と祠堂。
テキパキと荷を積み込む恵飛須沢、若狭、直樹の三人。若狭妹は太郎丸とかけっこ中。
「なぁ二人とも、マジで『これ』も持ってくのか?」
そう言って持ち上げたのは一丁のライフル銃M14 EBR。例の特殊部隊連中から拝借した武器の数々。今までの近接武器やコンパウンドボウももちろん持っていく。武器があれば良いって事はないが、逆説的にあって困る事もない、何より感染者以外との遭遇で銃器の有無は優位性を確保できる最適なハッタリにもなる。使う使わないは別として、相手に抵抗させる意思を持たせなければ無闇な殺生は避けられるだろう。
まぁ……それも時と場合によりけりだが。
「ああ、当然だ」
むむむ、と顔を曇らせる恵飛須沢。まぁ銃なんて一般人の女子高生ではまず関わるものじゃないからな。
「でもこれだけの荷物だと、やっぱり全員は乗り切らないんじゃないかしら……」
後部座席の大半を締める荷物。運転席には以前同様佐倉先生、助手席には若狭姉妹+太郎丸。後ろのシートに丈槍たち四人を乗せたらもう一杯。では俺と拓三はどうするのか?
「また上にしがみつくんですか?」
前回の醜態を思い浮かべ、微かに笑みを浮かべる直樹。俺はクククと喉を鳴らし、すぐ側の木陰に置いてあるビニールシートを勢いよく引き剥がす。
「そうはいかんざき!」
取り払われたビニールシートから姿を表したのは2台のバイク。
片やHONDAネイキッドのフラグシップである『CB1300スーパーフォア』
大排気量の水冷並列4気筒は力強いトルクで低速域から高速域まで全ての領域で安定感のあるパワフルさを誇り、アクセルを開ければどこまでも加速する様な気持ちよさがある。
また1300ccのビッグネイキッドでありながらニーグリップのし易いタンクと、軽快なハンドリングで車体との一体感が高く、非常に乗り易い仕上がりとなっている。
初心者からベテランまで、幅広い層に人気の傑作ネイキッドバイク。
そしてもう片方はかの有名なハーレーダビッドソンが誇る初の水冷エンジンを搭載した従来のモデルから一新されたスポーティーな外見と走りを楽しめる『VRSCDXナイトロッドスペシャル』
ドラッグレーサーを彷彿とさせる弾丸マシン。初代ナイトロッドが登場した06年から最長ラインナップ歴を誇りV-RODの顔となったモデル。240㎜の極太リアタイヤに、倒立フォークを装備。
どちらも僅かに傷があるが動作に異常はない。どこの誰かは知らんがこんな優良バイクを打ち捨てるなんてとんでもない! ということで俺達で有効活用させてもらう事にした。
多少のメンテナンスとパーツ交換は探しだしたマニュアルを読んで素人なりになんとか出来た程度。折れたサイドミラーや汚れの掃除とエンジンオイル等の交換で試運転も済ませてある。
ちなみにCB1300が俺で拓三がVRSCDXを貰い受けた。特にジャンケンとかはせず互いに好みの方を選んだ末である。
「いつの間にこんなものを……」
「うぉおおお、かっけぇな!」
呆れる直樹とは正反対に、割とサバサバした性格の恵飛須沢は目を輝かせている。そうだろうそうだろう、この良さが分かるか恵飛須沢よ。
「もう天井でサーフボード気分は御免だからな」
キッと恵飛須沢と丈槍を睨む。音のでない口笛を吹きながら視線を反らす二人が荷造りが完了し集合を掛ける佐倉先生の声に一目散でかけていく。
「それじゃあ皆……」
横一列に並び、一斉に今まで過ごしてきた学院へ向けて礼をする。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
太郎丸を除いて9人は静かに頭を持ち上げ、少しの感傷と名残惜しさを胸に踵を翻す。
車へ乗り込む学園生活部のメンバーと、バイクへ股がる俺達。
「んじゃァ行くか」
「ああ」
キーを回しエンジンを始動する。ドゥルンと大きく唸りを上げ、出発の合図を佐倉先生へハンドサインで送る。
さぁ、俺達の新しい旅が始まる。
「なんか打ち切りエンドみたいだな」
「俺達の戦いはこれからだ!」
「おいやめろ」
長々とダラダラ描いてたらもー水曜日になってるぅ!(しかも夜
すいません遅くなりました!
もぉーしわけナス!
なんか一気に話が跳躍し「え、急すぎじゃない?」と突っ込まれる気がしてならない。