てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~   作:青の細道

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唐突な「てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~」のイメージソング紹介コーナー(ただの自己満足
物語を読んだり作るとき、既存の音楽を掛け合わせて「この作品はこの曲調に似合ってるなぁ」なんて妄想するのは俺だけじゃないはず。MADとか作る才能ないけど。

この作品全体を通してだと(俗に言うOP)は『岸田教団&THE明星ロケッツ』の『ワールド・エンド・エコノミカ』

キチガイ二人のイメージソングは『ONE OK ROCK』の『アンサイズニア』


りょこう

「シッ──!」

本能の往くままに両手で掴みかかろうとする感染者の脇をすり抜け、膝裏を蹴り姿勢を崩させ腰の高さまで落ちた頭部にナイフを突き立てる。続けざまに引き抜いた勢いで別の個体へなぞるように刃を滑らせ怯ませた隙に半回転からの遠心力を持たせた蹴りを叩き込むと、面白いようにねじ切れた首がボンと飛ぶ。

 

 

ふぅ、と一呼吸置いて3mほど離れた位置から起き上がってきた奴へスローイングナイフを投げつける。だいぶ感覚に慣れてきたおかげか、直視せずとも横目からで額のど真ん中へ吸い込まれるようになった。

 

 

そろそろゾンビスレイヤーを自称してもいいだろうか?

 

 

ネオサイタマに居るやべーやつか、銀等級のやべーやつか悩むところ。

 

 

「ドォラァアアアッ!」

最後の一匹を片手で持ったマシェットで頭の先から股にかけて綺麗に一刀両断するやべーやつ……もとい拓三のフィニッシュで終了し何度目かになる感染者の群を撃退する。

 

 

「うっしゃ終わりィ」

 

 

「乙」

得物にこびり着いた血糊を拭き取りケースへ仕舞う。投擲したナイフの回収も忘れずにな、持ってこれた数も限りがあるから今まで以上に節約しなければ。とはいえ感染者ごときに銃を使うまでもないかな。

 

 

「あんだけ……派手に動いてッ──ハァ……ッ汗一つ掻かないどころか息も切れないとかッ──!」

 

 

「どういう、体力してるんですか……ハァ……ハァ……」

愛用している大型のククリナイフ二本が地面に転がり、ドカリと座り込む恵飛須沢と息も絶え絶えになりながら何とか立っている直樹。

 

 

「いや、何回も言うけどオレらに追い付こうとしなくていいから車の護衛だけしてりゃいいって──」

座っている恵飛須沢に手を差し伸べようとする拓三だったが、その手は本人によってパンと叩かれた上に「うっせ」と一蹴されてしまう。

 

 

「もう学院の頃みたいにお前らだけに無理させられっかっての」

叩かれた手の代わりに取り出した水筒を投げ渡され、一気に中身を呷っていく。ゴクゴクと流し込みぷはッと仕事上がりにビールを飲むおっさんみたいな顔で直樹に水筒を手渡す恵飛須沢。

 

 

「んっ─ぐっ……ぷぁ。……とは言っても先輩達に付いていくのは正直キツいです」

汗を拭ったハンカチを絞り、おおよそ人一人が掻いた量とは思えないほどの汗が地面を濡らしていく。

実際フル装備の俺達が飛んだり跳ねたり回ったりとアクロバティックに変態機動を見せる中、ほんの少しまでただの学生だった二人には到底追い付けない領域に居るのは間違いない、と言いたいがそもそも追い付こうとすること事態が間違いな気もする。

 

 

「鍛え方からして違うし、陸上部の恵飛須沢はまだしも直樹は運動部って柄じゃ無さそうだしな」

特に深い意味を込めて言ったつもりはなかったが、俺の言葉にムスッと不機嫌そうな顔をされてしまった。

 

 

「悪かったですね、運動音痴で」

不貞腐れたようにそっぽを向く。

 

 

「怒るな怒るな、別に馬鹿にしてるわけじゃない。俺からすればお前も恵飛須沢もセンスは悪くない」

渋い声で「いいセンスだ」と呟く拓三へ肘鉄を叩き込み黙らせる。陸上部だった恵飛須沢は力こそ人並みだがスピードに関しては良い線だ。腕力の無さをヘビー級のククリナイフを振り回す事で重さを乗せた一撃が感染者の首を跳ねれるようにもなったし、鍛え続ければ俺に勝るほどかもしれん……。

直樹は直樹で観察眼の高さと的確に答えを導く判断の速さ、ナイフで急所を狙うのも上手い。いっそのこと弓を持たせた方がいいかもな。流石に銃を持たせる訳にはいかんし前線要員だけでなく後方支援も欲しいところだったしな。

 

 

「何ですか?」

視線を向けられていた直樹にジト目で睨まれてしまった。

 

 

「いや、ナイフはあくまで護身用として教えたしな。お前にはこっちの方が良さそうだなと」

背中に掛けていたコンパウンドボウを手に取り、直樹に渡す。引きの重さは55ポンドだが滑車のおかげでその1/3程度の力で引ける。それなり鍛えさせた女性の直樹でも十分引けるはずだ。

 

 

「え、ちょ……こんなの使ったことないんですけど」

 

 

「使い方は教えてやる。まぁ使いこなせってんじゃない。多少使えりゃそれでいい程度に思っておけ」

そう言うと「はぁ……」と力の無い返事を返してくる。俺と拓三は良いとして、人形のものに肉薄するのは誰でもできることじゃない。むしろ後方で視野を確保してくれる奴が居るだけでも大分助かるってもんだ。

 

 

若狭か祠堂、佐倉先生の誰かにって案もあるがこの三人はあまりにも『戦闘』という行為に不向きな性格というか……若狭と佐倉先生に至っては下手するとつっかえるしn──。

 

 

「ぐっほ!?」

不意に腹へやたら気合いの入った一撃を貰った。身軽さ重視でベストを着ていなかったとはいえ中々いいパンチくれんじゃんかよぉ。

 

 

「またデリカシーのない事考えてましたね」

なんだこいつエスパーかよ。

おかしい、俺は考えてることが読めないことに定評があったはずだ。

いやたしかに胸の大きさについて考えていたのは事実だが、別に大きさで偏見を言っているわけじゃない。そもそも俺は大きさに拘りは……。

 

 

──何の話だ。

 

 

「とにかく、これからはそっちをメインで使ってく方針にしてみ。ナイフは緊急か白兵戦の時だけだ」

 

 

「はぁ……わかりました。やってみます」

腰に下げていた矢筒も渡し、さっそく適当なところにあった掲示板へ矢を射っていく。

 

 

「お疲れ様」

撃退した感染者を一ヶ所に纏めて火を放つ。派手にやるじゃねぇか、なんて思っていると離れた場所で待機していた車から降りてきた若狭。手には全員分の水筒とエナジーバーを抱えており適当に貰っておく。

 

 

「これで何度目かしら」

風下で燃やした感染者の炎を見つめながら小さく呟く。覚えているだけでも学院から出て一日を跨ぐ間に3度、今回で大掛かりなものは4度目。数匹程度の始末ならその2・3倍はあっただろうか。

 

 

「車とバイクのエンジンがあるんだ。仕方ない」

環境音が少ない以上、爆音で響くエンジンによって感染者が群がってくるのは当然である。今のところ対処する事はできるがいずれ囲まれてしまうかもしれない可能性も無きにしもあらず。

 

 

早いとこ安全な拠点を確保する必要がある。まぁそのための『卒業旅行』なんだがな。

 

 

「マッピングの調子はどうだ?」

若狭が取り出した地図を確認する。ここまでの道のりで一部の道が事故車などで塞がれ、大分聖イシドロス大学までの道が遠回りになってしまっている上に迷路のごとくあっちへ行ったりこっちへ行ったりの繰り返しだ。

 

 

原作でも数日費やしていた。道順までの描写は割愛されてしまっていたので知りようがない、こればっかりはなぁ……。

 

 

「そろそろ日が傾いてきたな」

時計を確認する。時刻を指し示す短針は午後16時を指し示している、季節的にはまだまだ春……日の傾きも夏に比べると早い。夜目の効かない状況で車内野宿は避けたい。

 

 

前日は適当な民家に押し入ったが、他のメンバーから「人の家には勝手に入らない」と強く拒否されてしまった。

 

 

「すぐ近くにコンビニがあるな……今日はそこで凌ごう」

赤ペンでコンビニに印を付けて渡す。「めぐねえに渡してくるわね」と若狭が去っていく。丁度入れ違いで太郎丸を連れた若狭妹が駆け寄ってきた。

 

 

「ワンワン!」

ブンブンと尻尾を振りながら足をよじ登ろうとする太郎丸の頭を撫で、若狭妹にどうかしたのかと訪ねる。

 

 

「ひーにぃが疲れてるかもってめぐみせんせぇが」

小さな手に包まれていたのは塩飴。感謝を伝え一粒貰い、俺以外のメンバーにも渡してくるように促すと笑顔で頷き駆け出す。まだ小学生で、ただでさえこんな恐怖の世界に居るってのに他人への気配りができるなんて大した子供だ。

 

 

「よぉし、そろそろ出発するぞ」

 

 

「ノリコメー」

声を張り、全員へ撤収を促す。居座る理由もなし、上がった煙で何が寄ってくるかもわかったもんじゃない。さっさと離れるのが得策だ。

パタパタと女子メンバーが車に乗り込み、俺達もバイクへ股がる。明日の朝にはガソリンの補充もしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「車は見える位置に停めて、俺と拓三が中を確認してくる。恵飛須沢と直樹はいつも通り車の護衛」

車からKSGとP90を取り出し、拓三へKSGを渡す。感染者だけが驚異なわけじゃない、他にも危険な要因は少なくはない。それが何であれ刃物よりも銃器での対処が求められる存在かもしれないため念には念を置く。

 

 

無論発砲はしない、せっかく周辺に感染者の姿はないのに銃声で呼び寄せてしまっては意味がない。

 

 

「二人だけで大丈夫?」

心配性な佐倉先生に軽くサムズアップしながら店内へ入る。

当然だが電気の供給は絶たれ店内は薄暗い。テープで固定したLEDライトを頼りに店内を捜索する。

中は荒れに荒れ放題。食料などはもちろんほぼ取り尽くされた後のようで安物の菓子などは多少残っている程度だ。逆に食料以外だったらある程度のものがあった。

 

 

「クリア」

 

 

「クリア」

事務室とバックヤードも含めて全体を探索し終える。運が良いことに感染者の姿や血糊の後もない。これなら軽く掃除するだけで済みそうだ。

 

 

表はガラスなどが割れているせいで風も通るし侵入し放題だ。それなりの広さのあるバックヤードなら横にもなれるだろう。

外で待機していた面子を呼ぶ。

 

 

人数分の寝袋と持ち運び式の調理器具やポケットストーブ、ランタンなどを運び出す。

スプリンクラーも作動しないだろうし火には十分注意しておかなければ……。

 

 

台所がないため食事はインスタントオンリー、贅沢は言ってられない。

コンビニのバックヤードで食うカップ麺ってのも乙なものやな。

 

 

食事を終え、明日の早朝に向けて早めの就寝を言い付ける。

 

 

「えー! せっかくの卒業旅行なんだからひーくん達も一緒に寝ようよ~」

部屋を出ようとした俺達に待ったをかける丈槍。

 

 

「アホか、全員寝ちまったら誰が見張るンだよ」

 

 

「俺達は事務室の方にいる、何かあったら呼んでくれ」

バックヤードを後にし、俺達は四時間交代で外の見張りをする。太陽が沈み、文明の光すら無くなった夜は闇そのものだ。月明かりがあるとはいえ影になっているところなんて数m先がほぼ見えない。

タラップを登り屋上へ上がった俺は目を閉じ聴覚に神経を集中させる。

微かにそよぐ風が建物の隙間をくぐり抜ける音。足音や呻き声などは今のところ聞こえない。

 

 

「ん──」

ぼんやりとした時間を過ごしていると足元から気配を感じる。下を除き見るとブランケットを肩にかけた直樹が周囲を見渡しながらひっそりと出てきた。

 

 

「眠れないのか」

 

 

「わ──っ……!」

上から声をかけられビクリと体を震わせる。思わず声が漏れ慌てて口を塞ぎながらこちらへ視線を向けた直樹は小さく溜め息を吐いて「いきなり声かけないでください」と苦言を申し立ててきた。

 

 

「まだ夜中だぞ。一人で出歩くな」

別に出歩くつもりじゃないです。なんていつものツンケンした態度で口を尖らせる。

 

 

「……どこから登ったんですか?」

俺を見上げていた直樹が突然そんなことを訪ねてきた。とりあえず裏にあるタラップから登ったと答えると「そうですか」と店の裏へと歩いていく、少しすると金属質のカンカンという音と共にタラップを登ってきた。

 

 

「……。っあの、隣……いいですか」

僅かに頬を赤く染める直樹、ブランケットに包んだ肩がすぼんでいるようにも見えた。寒いなら部屋に戻った方がいいぞと言うとまたしても不機嫌そうな顔になり自分で聞いておきながらこちらの許可を聞くまでもなく隣に座り込む。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

しばらく肩を並べて空に浮かぶ月を眺めている。チラリと直樹の顔を横目で見るが、複数の感情が合わさったような表情をしていて今一読み取れない。

 

 

「卒業式で──」

唐突に口を開いたと思うと、特に受け答えを待つでもなく淡々と語り出す。

 

 

「卒業式で、私は『もう不安はない』って言いましたけど、正直いって嘘でした。不安が無くなるなんてありえないですよ……こんな世界で」

 

 

「…………」

 

 

「でも昔ほど外の世界が怖いと思わなくなってるのも事実なんです。先輩や、ゆき先輩達と出会って生活部の中で過ごしていく内に。最初は『どうして私がこんな目に』って頭を抱えてた事だってありました」

 

 

「…………」

 

 

「先輩から戦い方を教わりたかったのも、自分を変えたい……何かしたい……誰かの役に立ちたいって思ったからでしたし」

戦うことで自分の脆弱さを改めたい、そう直樹は言うが別に弱さは罪ではないと思う。誰も彼もが強くあれるわけじゃない……どうあったって人間は弱い生き物だ。

普通に産まれて、普通に育って、普通に生きてきた女子校生がいきなりゾンビ映画宛らの世界で生きていく覚悟なんてそうそう出来るわけがないんだから。大の大人でも無理な話だ。

 

 

え? 俺と拓三はどうなんだって?

それはまぁ……アレだ。

 

 

「これから先……どうなっちゃうんですかね」

膝を抱え、見えない未来に思いを馳せる。小さく鼻を鳴らし、直樹の頭をグリグリと撫でる。生活環境は劣悪なのにケアはしっかりしてるのかサラサラとしたクリーム色の髪が指先を擽る。

 

 

「ちょっ、やめ──っもう!」

両手で俺の腕を押し退けられる。まったくこいつといい若狭といい佐倉先生といい、思い詰めるのもいいが自分を追い詰めすぎだって話だ。

 

 

「先の事考えたってどうにもなんねぇもんはどうにもならん。お前達はお前達に出来る事を今やるだけでいいんだよ」

明日も早い、今のうちに寝れるだけ寝ておけと言いつつ立ち上がろうとすると袖を引っ張られた。

 

 

「なんだまだ何か──」

 

 

「あの……もう少しだけ……」

歯切れの悪い口調で俺の顔を見上げる直樹、自分の言っている事を自覚してかしてまい僅かに赤い頬。心細い時に異性の……それも歳上である相手に側にいて欲しいと思うのは思春期の性ってやつなのだろう。流石に鈍感系朴念仁じゃない俺は空気を呼んで再び直樹の隣へ腰かける。

 

 

しかしこいつももう少し危機感というか自身のルックス高さを自覚するべきだと思う。勘違いして相手をその気にさせかねない行動は慎むべきだ。

 

 

俺のような精神おっさんでなければ襲われても文句は言えないぞ。

まぁ、直樹に限ってそんなつもりはないんだろうが。まだまだ子供なんだこいつも……。

 

 

「……痛いんだけど」

二の腕の肉を思いっきりつねられた。なんだこいつ構って欲しい犬猫か何かか?

 

 

「うるさいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~た~らし~い、あーさがっ来た」

 

 

「希望は無いけどな」

 

 

「「HAHAHAHAHA」」

 

 

「馬鹿やってないで早くいくぞ」

まだ若干薄暗いが、空に微かな太陽の光が差す午前5時。軽い体操などを済ませた俺達のケツを蹴り飛ばす恵飛須沢がテキパキと荷物を片付けている。

 

 

日に日に容赦がなくなってないか?

 

 

「イシドロス大学まではまだ距離があるわねぇ」

 

 

「まだ時間かかりそう……」

地図を眺めていた佐倉先生と祠堂。巡ヶ丘高校から発って二日目の朝、潰れた道や感染者との遭遇もあって進行距離ははっきりいって芳しくない。この調子だと大学まであと二、三日は掛かるだろうか。

 

 

「まずはガソリンスタンドに寄ろう、できればポリタンクごと回収しておきたい」

 

 

『わかったわ』

トランシーバーで連絡と指示を出し、大学へ向けて出発する。

だがまず先に挟むべきイベントがある。場合によっては原作で叶わなかった願いが叶うかもしれない。

 

 

ゆっくりと移動を続けながら、俺は片手間にトランシーバーの周波数を調整していく。

 

 

「どうだ?」

 

 

「ちょい待ち」

 

 

『ザー……──ぇ……か

やがてノイズまみれだった音の中に、小さくだが人の声が聞こえたような気がした。

 

 

「ヒットだ、1422」

合図を送り、拓三が後ろの佐倉先生たちへ連絡を取る。

 

 

「ラジオだ、AMラジオをつけろ。周波数は1422!」

 

 

『えっなになに?』

 

 

『……ねぇねぇ、誰か聞いてる? こちら巡ヶ丘ワンワンワン放送局!』

聞こえてくるのは女性の声、ラジオ放送を通して周囲へ声を届け続ける生き残りの一人。どのくらい長い間この放送を発信し続けていたかはわからないが確かにその存在を俺達へ指し示していた。

 

 

突然のラジオに思わずブレーキを掛けた佐倉先生、バイクを降りて合流する。

 

 

「ねぇ、これって!」

ある意味初の自分たち以外の生存者。若狭たちの顔が明るいものになる、交信するためにトランシーバーを操作する。

 

 

『この世の終わりを生きてるみんな、元気かーい!』

 

 

「あー、もしもし応答せよ。こちら巡ヶ丘高校学ぇ『ガッシャーン!!』っ!?」

スピーカーの向こうから盛大に何かが倒れる音が響き渡る。

 

 

まさか緊急事態か!?

 

 

『わっ! わっ! ビックリした! うそうそ、もしかして誰か居るの!? 幻聴じゃない!? 現実!?』

 

…………。

「……あー、とりあえず現実ですね。どうもおはようございます」

 

 

『あっ、ご丁寧にどうもおはようございます……じゃなくて!』

ノリのいい人だな。詳細は知らないが作中の中で見る限り成人女性であるのは間違いないはずだが。どうもテンションがおかしい、まぁ長い間孤独の中で過ごし続けていたら突然交信が繋がって驚くのも分かるが……。

 

 

『本当に生き残り!? 貴方一人だけ? 他には? どこにいるの?』

 

 

「待て待て、落ち着いてください。順を追って話しましょう」

興奮気味にこちらの状況を聞いてくる相手を落ち着かせ、少しずつこちらの存在を明かしていく。

 

 

『──ふむふむ、君達は巡ヶ丘高校の生徒さんと先生なんだね。学校でずっと生活してたけど事情があって聖イシドロス大学に向かってる……と』

 

 

「ええ、あそこなら拠点として良物件なもので」

 

 

『そっかぁ……いやーよかったよかった! うん、こうして誰かとお話しできただけで私は満足。頑張ってね、応援してるから!』

すると丈槍が俺の手からトランシーバーを奪っていく。

 

 

「お姉さんも!」

 

 

『えっ……』

 

 

「お姉さんも一緒に行こうよ!」

その発言に若狭や直樹、恵飛須沢が俺達へ視線を向ける。きっと俺達の事を考えてリスクを背負ってまで迎えにいくとは思えなかったんだろう。

 

 

本来であればそうするのが当然だ。見ず知らずの人間のために俺達だけじゃなく他のメンバーにまで危険に晒すつもりはない。

 

 

本来であれば……な。

 

 

「決まりだな」

トランシーバーを丈槍から受け取り、俺はスピーカーの向こうで困惑しているであろう女性にできるだけ急かさないような優しい声色で語りかける。

 

 

「俺達は今からそっちへ行きます、その間に一緒に来るか来ないか……選ぶのは貴女だ」

 

 

『で、でもほら……私なんか居たら迷惑じゃ──』

 

 

「そう思ってたらこんな事言わないっすよ」

 

 

『っ──!』

僅かに聞こえる嗚咽の音。どれほど心細かっただろう、ラジオと音楽で居るかもわからない生存者へ希望を届けようと奮闘する彼女を見捨てる事が俺達にできるだろうか。

 

 

いいや、俺達は──『学園生活部』はそれを許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……ですよね?」

到着したコンクリートで固められた箱形のガレージに似た建造物。大きなシャッター以外に入り口は無く屋上へ続くタラップが一つあるだけだった。

 

 

「すごいわね」

 

 

「なんか強そう」

 

 

「俺と直樹……それから佐倉先生の三人で行く、車の方は任せたぞ」

直樹に『あるもの』を持ってくるよう指示し、できるだけ歳の近いであろう佐倉先生という話しやすい相手役を連れていく。

 

 

「おう」

恵飛須沢と共に車や周辺の警戒に勤める拓三たちと別れ、屋上へと上がる。

一ヶ月以上という長い間、誰一人として立ち入った痕跡のない埃まみれの屋上。歩けばくっきりと足跡が残るほどだ。それだけの間一人だったということだろう。

 

 

「重そうな扉ですね」

クランク式の耐圧扉がポツリと取り付けられており、錆び具合からしても大分古い建造物であると思われる。

 

 

「ふんっ──ぬぇあ!」

両手でしっかりとクランクを握りしめ、全力で回す。数十kgはあるであろう鉛製の扉を持ち上げると下へと降りるための梯子がかかっていた。

 

 

さらにもう一枚の耐圧扉があり、この向こうが恐らく生活空間である部屋があるんだろう。念のために直樹と佐倉先生を後ろに下がらせ、すぐ引き抜けるようナイフの柄に手を添えたまま扉を開け──。

 

 

「いらっしゃい! 待ってたよぉ!」

 

 

「ぐぶっ!?」

瞬間、襲ってくる衝撃と頭を抱き寄せられる感覚。感極まった様子で扉を開けた俺に抱きついてきた件の女性。ぶんぶんと体を揺らし、目一杯の力で絞められる。

 

 

胸の柔らかさとか女性特有の匂いとかそんなチャチなもんじゃねぇ……持ってかれる!

 

 

「せ、先輩!?」「木村くん!」

 

 

「あれ……?」

やがて状況を理解した彼女の腕から力が抜けるのを感じ、隙をついて離れる。

 

 

「え、えーと……」

やっちゃった。という顔で頬を掻く女性。溜め息を吐いて「落ち着きましたか?」と乱れた前髪をかきあげた。

とんだファーストコンタクトだ。

 

 

 

 

「いやーごめんごめん。お姉さん嬉しくってつい」

たはは、とはにかむ女性──名を『五十鈴 奏(いすず かなで)』 と言うらしい。彼女はパンデミック発生直後から大祖父の所有物だったこの家に避難しており、周囲へ出る勇気もなく意気消沈していたが。少しして誰かとの繋がりを求めて例のラジオを発信し始めたという。

 

 

幼少の頃から秘密基地として親しんでいたらしいが、何故このような建築物になっているかは知らないらしい。

学園のような施設と備蓄物資を蓄えており、一人で生活するだけにはなに不自由なかったという。

 

 

「一人じゃ使いきれないし、こうやって出会えたのも何かの縁。遠慮せずに持っていってね」

 

 

「あ……ありがとうございます。それでえっと……五十鈴さん」「固いなぁ、奏でいいよ」

畏まった佐倉先生とは対照的にかなりフランクな五十鈴さん、ラジオDJを自発的にやるだけはある。

 

 

「それじゃあ奏さん。さっき通信した件なんですけど」

そういうと視線を泳がせ、あーと気まずそうな表情になる。

 

 

「えーと、お誘いは嬉しいんだけど……その、ほんとにいいの?」

不安そうな彼女の問いに、俺達は顔を見合わせる。彼女の中には未だに俺達へ掛けるであろう負担や赤の他人である自分がグループへ混じる事への抵抗がある様子。

 

 

「正直役に立てるかわかんないよ?」

 

 

「関係ありませんよ」

 

 

「ほら、友達じゃないし……」

 

 

「さっき自分で言ったじゃないですか、これも何かの縁だって。もう仲間みたいなものです──ってゆき先輩なら言いそうですし」

 

 

「う"ぅ……」

 

 

「どうしますか?」

 

 

「い"っし"ょに"い"ぐぅ~」

ダバーと滝のように涙を流す五十鈴さん。年甲斐もなく泣き崩れる彼女を佐倉先生と直樹が慰める中、俺は拓三へメンバー増員の一報を入れた。

 

 

 

 

 




おかげさまでついに作品第一話のUA回数が1万を越え、83名の方から評価をいただき実に1455名の方にお気に入り登録を頂いたことを感謝いたします。
正直ここまで見ていただけるとは思ってなかったです。サイト内には私自身も愛読している面白い作品が大量にあり、それらと比べると自分の作品なんて……と思いつつ頂ける感想や伸びる評価点、増えるお気に入り登録に励まされています。リアル忙しく、基本不定期ですが何とか週一投稿を心がけておりますので今後ともよろしくお願いします!

さて話は変わって、かなり駆け足ぎみで、まさかの丸一話で終わったワンワンワン放送局編。そして新メンバー加入(二話くらい引っ張るつもりだったのは内緒)

起承転結の欠片もないグダグダな話が続いていますがご容赦ください。
もっと戦闘描写や白熱したドタバタを期待している人には申し訳なく思っています。

前話と続いてやたらヒロインムーヴをスルーするKMRァですが。36歳の転生者故に原作キャラクターへの歪んだ価値観を持っているため今一関係が縮まらないようにしてます。


次回からはいよいよイシドロス大学編に入りたい……と思ってます(曖昧

たぶん皆さんが思っているようなドンパチはないです(無慈悲

俺は……単行本七巻の42話『きれつ』の表紙を尊いと感じたんや……。
みんな平和が一番! ラブ&ピース!(一悶着がないとは言っていない

あ、ネタバレすると『ある一人』のキャラクターが盛大にキャラ崩壊するんでファンの人は先に謝っておきます。本当に申し訳ない……。

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