てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~   作:青の細道

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みちのり

「──と、いうわけで新しく仲間に加わった五十鈴 奏さんだ。拍手っ!」

パチパチと歓声と共に歓迎される五十鈴さんはどうもどうもとヘコヘコしながら皆の前に出る。

原作では空気感染の被害者として、学園生活部との接触は叶わず転化してしまった女性。だがこの世界においては空気感染が進行するよりも先に接触を計り、軽く診断紛いなものをしてみたが感染の兆候は見られない。

 

 

Ω型と呼ばれる空気感染を経由したタイプの変異菌。マニュアルには詳細が黒く塗り潰されてしまっているため内容が不明瞭ではあるが、少なくとも他の二種にない感染経路を持つという特性というだけしか分からない。

 

 

だがそれだけでも十分な収穫と言える。100%とはいかないが予防のしようはある。

これはあくまで推測だが空気中に舞う細菌の量は感染者の密度によって差があると考えていい。時間の経過と共に風に乗って周囲へ拡散するだろうが濃度は低下する。

 

 

数百の感染者の死体のある下水道での呼吸と、死体のない環境下での呼吸。どちらの方が空気感染しやすいかと言えば答えは明白だろう。

 

 

俺達が排除した感染者を毎度焼いているのはこれが理由だ。移動中ならまだしも拠点となる場所に感染源である存在と同居なんて御免蒙るって話。

 

 

で、話はイシドロス大学に繋がる訳だが、何とあそこの連中は感染者を隔離するでもなくコンテナで道を塞いだだけの一角と理学棟に放置し、挙げ句生活空間との循環が繋がっているのだ。

 

 

正直アホかと、バカかと。感染に敏感なくせに空気感染という可能性を一切鑑みずに病原体の側で寝泊まりするやつがあるかっての。原作を知っているからそんな事が言えるんだって思われるかもしれないが、日常的に知られる細菌が原因で起こる病気というものには必ずと言っていいほど付き纏うのが『空気感染』というものだ。

 

 

代表的なもので言えば『結核』だろうか。名前だけならば誰もが一度は聞いたことがあるはずだ。

 

 

だがこと細菌に対して有効な予防の一つを俺達は有している。それが学院にあった備蓄の医療器具に含まれていた抗生物質だ。

これまた100%予防出来るかと言えば否である。だがこの一ヶ月、少なからず空気中に含まれる細菌を吸引しながらも運よく発症しないまま過ごしてきた者には多少の免疫力が生まれているだろう。

そこに抗生物質を投与すれば余程のことがない限り空気感染は免れる……と思いたい。

 

 

この辺は薬学や生物学に詳しくないので何とも言えん。

 

 

インフルエンザだって予防接種したところで100%防げるわけじゃないしな!!!

 

 

「取り敢えず五十鈴さんにも抗生物質の投与と錠剤の摂取をしてもらおう」

エンカウント時の衝撃ですっかり忘れていた処置を外に出た後にする。チョイチョイと直樹に指で指示し抗生物質の瓶と注射器を出す。

 

 

「予防なんで」

 

 

「えっいきなり注射器?」

歓迎初手でまさか注射を打たれるなんて予想だにしていなかったといわんばかりに顔を引き吊らせる。こればっかりは受け入れてほしい、空気感染がどのような性質の人間に発症するケースなのか明確でない以上。

 

 

「予防なんで」

ズイと一歩前へ進むと一歩後ろに下がる五十鈴さん。指を鳴らし拓三が後ろから羽交い締めにする。

 

 

「や、ちょっ待ってお願い! 注射苦手なの! お願い助けて!」

 

 

「予防なんで」

 

 

「ダレカタスケテー!」

先程とは違う意味で滝のように涙を流しながら高速で首を振る。そんな彼女の様子に苦笑いする学園生活部一同。

 

 

「ア"ッー!!!」

女性にあるまじき悲鳴を挙げる2○歳。丈槍や若狭妹ですらもう少し静かだったというのに……愉快な人だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ぅ……汚されちゃった……」

 

 

「語弊を生むような言い方はNG」

暴れたおかげで乱れた髪と僅かに滲む汗を額に浮かべ、すすり泣きながら針を刺された左腕を押さえ何故か着崩された上着も相まってハイエースされた後みたいになっている。

そしてそんな五十鈴さんに寄り添うように慰める女子達からの視線に棘がある。

 

 

解せぬ……。

 

 

「もう少しやり方って物があったんじゃないんですか?」

 

 

「正直すまんかった」

気を取り直して内部の物資を総出で運び出す。持参したハイエースに加え、ガレージ横に駐車してあったキャンピングカーも原作同様に拝借する。とは言っても運転事態は五十鈴さんに頼むのだが。

 

 

大型乗用車が二台になったおかげで荷物もそうだが乗員を分けてスペースに余裕が出るくらいにはなった。

くじ引きの結果、佐倉先生のハイエースには丈槍、恵飛須沢、祠堂、太郎丸。五十鈴さんのキャンピングカーには若狭姉妹と直樹に別れる事になった。

 

 

直営の護衛が出来る恵飛須沢と直樹は自動的に別れるようにしたのは意図しての事だ。

 

 

周囲の探索含め、感染者の有無を確認し少しばかり時間を設けて食事を取ることにした。キッチン付きということもあって調理の幅が広がるのはありがたい。

 

 

「──にしても意外だよなぁ」

ポツリと調理台に立つ若狭と拓三の姿を見て、納得行かないといった顔をする恵飛須沢。言わんとすることはわかる、そう……実は拓三の奴ああ見えて料理が出来るのだ。

簡単な調理なら俺でも出来るがアイツのそれは軽くファミレスだとかで出せるレベルには旨い。今までは若狭や佐倉先生に任せっきりだったがどうにも最近手持ち無沙汰になっているらしく、率先して調理場に立つ志願をし始めたのだ。

 

 

初めて拓三が包丁を持った姿を見た恵飛須沢が「感染者を料理するっていうギャグか?」と突っ込んだのは記憶に新しい。

 

 

「うぇーいおまたせっ。イタリア料理だけど……いいかな?」

出来上がった料理をトレイに乗せ、何人かで運ぶのを手伝い全員分を配っていく。

パッと見は普通のペペロンチーノとミネストローネ。

 

 

とはいえこのご時世ではかなり贅沢と言えるだろう。若狭と、前世から料理の腕を知っている拓三が作ったものだから不味いなんてことはないだろう。

 

 

「うぉほ~、おいしそー」

目を輝かせる丈槍に賛同するように、全員が目の前の暖かい料理に舌鼓を打つ。

 

 

「あんま作ったことねェ量だったから味付けはちょい適当だけどな」

自信無さげに呟く拓三だが、若狭が「味見してみたけど美味しかったわ」という保証を押される。

 

 

「それじゃあ──」

パン、と10人が手を合わせ、同時に「いただきます」と声を合わせる。

こんな何気ない一時が、今となっては貴重なものに思えるのは俺だけだろうか?

 

 

食事を終え、五十鈴さんにも今後の事や俺達の事情などを説明している内に日が傾き始めてしまったのでそのまま夜を越すことにした。

 

 

新メンバーである五十鈴さんとはすっかり打ち解け、言ってしまえば最初から居たんじゃね? ってくらいに距離が縮まっている。彼女のコミュ力が高すぎる。いやこれはある意味今後の進展にかなり有力な戦力かも知れない。

 

 

学院での襲撃で、人一倍他人への警戒心が強化されたはずの生活部メンバーと一瞬で打ち解けた手腕。交渉役や仲介役に持ってこいだな。

 

 

「んじゃまたいつも通りな」

屋上に建てたテントで女子面子を寝させ俺と拓三は交代制でキャンピングカーのソファーで仮眠を取ることにする。仲間が増えた事と、久しぶりのちゃんとした食事も相まってテンションが高い何人かがキャッキャと姦しいトークを楽しんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ねぇ、あの二人ってずっと『ああ』なの?」

 

 

タラップを伝って下に降りていく木村くんと田所くんを見送り、少し間を置いてから五十鈴さんが私達へ訪ねてくる。

 

 

「ああ──とは?」

 

 

「んー……はっきりとは言えないんだけど、なんか『隣に居るはずなのに側にいない』感じ? 新顔の私に対してならまだしも、今日一日貴女達との間柄を見てても……なんか付かず離れずって印象を受けるのよね~」

 

 

彼女の言葉に、私達は顔を見合わせる。五十鈴さんの感じているであろう違和感は概ね正しい。

この一ヶ月と少し、私達は彼らと共に過ごしてきた間柄で信頼もしているし大切な仲間だとも思っている。でも二人が私達をどう思っているかははっきりと聞いたことがない。

 

 

危機的状況で常に身を呈して私達を守ってくれて、不安な時は側に居てくれるのに……たまにどこか違う場所を見ているような……そんな感じが今でもある。

 

 

どうしてなのだろうという疑問を抱くが、それを尋ねる勇気が……私にはなかった。

なんだかんだで私は今の関係が心地好いと思っているのもたしかだ。

 

 

「ねぇねぇ、ところであの二人と誰かお付き合いってしてるの?」

先程までの空気はなんだったのか。あまりの突拍子もない爆弾発言に由紀ちゃんとるーちゃんを除く全員が吹き出し、上手く空気が吸えなかった事で噎せ返る。

 

 

「い、いきなり何だよ!?」

寝袋から起き上がり突っかかるようにして声を荒げる胡桃。

 

 

「ええ~? だってあの二人も同じ学校の生徒さんなんでしょ? 大人の私からしてもかな~り良物件じゃない?」

同じ成人女性であるめぐねえにも同意を求めるように促すが「そ、そうねぇ~アハハ……」と顔を背けながらどこか譫言のような返事を返すだけだった。

 

 

「木村くんはクールで落ち着きもあるし、なんだかんだで皆を取り纏めるリーダー的存在でしょ? でもちょっと可愛いところもあるわよねぇ。シベリアンハスキーみたい」

 

 

「か、かわいい──?」

美紀ちゃんは小首を傾げ、何とも言えない表情になる。たしかに冷静沈着でリーダーシップのある印象は持つけど……かわいい……かわいい?

 

 

「あれ、美紀ちゃん気付かなかった? 施設で私が彼に抱き付いた時、表情は至って普通だったんだけど顔が赤かったのよ?」

その言葉に、ピシリと空気に亀裂が入るような音がした。

 

 

「り、りーさん?」

恐ろしいものを見たような顔で圭ちゃんが声をかけてくる。私が「なぁに?」と答えたけどすぐに「ナンデモナイデス」と片言になって頭まですっぽりと寝袋を被ってしまった。

 

 

別に私には関係ないもの、彼が誰に抱き付かれたって……。

 

 

「りーねぇ、お付き合いってなーに?」

 

 

「るーちゃんはまだ知らなくていいのよ~」

 

 

「田所くんも逞しくて元気があるし、料理も出来てユーモアもある。木村くんとは違うタイプなのに二人とも仲良しだしねぇ。シェパードみたい」

 

 

「さっきから何で例えが犬なんですか?」

 

 

「私犬好きなのよねぇ」

 

 

「あれ、そう言えば太郎丸は~?」

由紀ちゃんが辺りを見渡し太郎丸の姿を探す。そういえば先程からずっと姿を見ない。

 

 

「太郎丸なら先輩達と一緒に降りていきましたよ」

田所先輩の頭に乗っかって、と美紀ちゃん。太郎丸も私達よりも二人に懐いているようだ。オスだからだろうか?

 

 

結局その後、根掘り葉掘りでやたらと二人と私達の関係を聞いてくる五十鈴さんによって強制恋バナという尋問を受けることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けて午前六時半。何故か一部を除いて目の下に隈を生成する女子グループと、反対に顔に艶のある五十鈴さん。昨日の夜中にやたら上が騒がしいと思ったが一体何をしていたんだ?

 

 

「あれ……どうしたんですか先輩」

眠そうに瞼を擦っていた直樹が一足先に装備を整えていた俺へ歩み寄ってきた。

スリングベルトを通し、背中へ背負う形にしたM14 EBRと右太腿にホルスターと共に固定されたM92。ジャケットの上に着たタクティカルベストは取り外し可能なタイプのマガジンポーチを最小限に取り付け、左肩と右脇の下にナックルガード付きのナイフと元特殊部隊の人間が考案し製作されたというTOPS製のカランビットナイフを装備。

グローブやブーツ、ニーパッドやエルボーパッドも装着し首には目出し帽が掛けてある。

 

 

今までで一番のフル装備だ。直樹の疑問に「まぁな」と呟きながら全員へ集合を掛ける。

集まった拓三以外の全員がこの格好に目を丸くしている。

 

 

「揃ったな。ならこれからの段取りを説明する」

まるでブリーフィングを始める部隊長のような口調で全員に見えるよう机に広げたのはイシドロス大学を含めた周辺地域の地図。現在地であるこの建物の住所に印を付け、目測での距離と到着までの時間を提示していく。

 

 

「さて、ここからが本題だが大学へ向かうにあたって俺は別行動をする」

その発言に全員が驚愕の声を上げた。順を追って説明するため落ち着くように促す。

 

 

まず単独行動をする理由については大学側の状況が原作準拠だと仮定して、資源の枯渇と籠城を強いられていることにより切羽詰まっている武闘派サイドに正面から接触した場合、多くの武器を保有している俺達の姿を見れば一触即発になる。

事前に武装解除した状態で接触するように拓三や佐倉先生には伝え、道具は出来るだけ車内に隠すようにする。

出来ることなら争いは避けたい。大学を拠点とする場合、巡ヶ丘高校とは土地の規模が違う。人手が多ければそれだけ安全な作業と見張りも建てられる。

 

 

グラウンドや屋上の一部を畑にし、定期的に外へ物資調達できるローテーションが組めるだけの余裕が産まれれば生活の基盤はなんとかなるはずだ。

 

 

武闘派の連中だって、殺しが好きで他の生き残りを見捨てていたわけじゃない。極限状態の中で半ば強引に選択を余儀なくされただけなんだ。

 

 

俺達の介入によって原作とは違う結末を迎え、少しでも穏便に済めばいいのだが……。

 

 

そのためにも相手を刺激しないよう立ち回らなければならない。

 

 

そこで俺が別行動を取り、拓三たちはあくまで人数のおかげで何とか生き長らえたキャラバンを装って貰う。一見戦力になるのが拓三だけしかいないこちらを見れば即戦闘行為に発展はしないだろう。

 

 

……下手に挑発するなよと拓三や恵飛須沢に釘を指しておく。拓三は元よりだが最近どうにも恵飛須沢が影響を受けて猪化している気がするんだよなぁ。

 

 

話を戻すが、俺が単独で動くのには意味がある。

まずもしもの場合、交戦となった場合はライフルでの支援射撃が出来るが……そうなれば武装しているとバレて和解に持ち込めなくなる。

 

 

とはいえ最初から武装を相手に渡すなんて選択肢はない……彼らもあくまで一般人、銃という武器の魅力に取り付かれ何をするかわかったものじゃない。

 

 

表向きは原作通りに接触を計り、一度撤退後武闘派とは別の大学側の生き残りである穏健派へ保護して貰う段取りをして貰う。その間に俺は別ルートから大学へ潜入し武闘派の監視を行う。

 

 

レーザーポインターでもあればハッタリにも使えるんだが……自作してみるのも手かもしれん。

 

 

大学潜入の後、拓三達と合流し恐らく穏健派と武闘派での接触があるだろうからそこに介入する事にしよう。

会話の通りなら彼らが欲しているのは情報と物資。立場を対等に持っていくためにも『交渉』に持っていく必要がある。

 

 

「上手く行くかしら……」

 

 

「そのための保険ですんで」

不安げに顎を指で触れ、俯く佐倉先生。地図を畳み拓三へ手渡す。

 

 

「今回はいつも以上に慎重に動くようにしてくれ。争う必要はない、危なくなれば逃げろ。絶対に戦うなよ」

 

 

「オーケーだ」

 

 

「わかった」

 

 

「はい」

グループの中で戦闘能力のある三人が返事を返してくるのを聞き受け頷く。拓三、恵飛須沢、直樹はそれぞれ武器を外し服装も学院の制服に着替えさせる。

 

 

拓三ならバットやバール程度で武装した相手でも遅れは取らないはずだが残りの二人はまだ対人戦の経験がない。そもそもそんな覚悟も持てていないだろうしな。

 

 

もう一度拓三へ「後は頼むぞ」と託し一人バイクへ跨がる。エンジンを始動しゴーグルを掛けた俺に若狭妹が駆け寄ってきた。今にも泣き出しそうな顔を向けてくるが出来るだけ優しく頭を撫で、安心するよう言葉を告げる。

 

 

「大丈夫だ、少しの間だけだ。姉さんと一緒に居れば安心できるだろ」

普段は聞き分けのいい若狭妹だったが、今回ばかりはどうも簡単にはいかないようだ。

とはいえ連れていける訳もなし。平和な世界だったなら「我儘を言うな」と叱りたいところだが生憎こんな世界で小学生が心の支えもなしに生きていけるはずがない。

 

 

若狭への姉妹愛はあれど、恐らく俺へ抱くそれは父親かアニメ特撮なんかに出てくるスーパーヒーローに抱く安心感に近いと言える。悪く言えば依存に近い。鞣河小学校での時も学校の教員よりも姉に近しい存在であった俺へ付いてくる選択を選んだ。

 

 

「お別れじゃないんだ。ちょっとだけお出かけするだけだ……俺の居ない間太郎丸のことをよろしくな?」

何とか説得し、若狭妹は離れていく。申し訳無さそうな顔で手を振る若狭や拓三たちへ軽く親指を立て一足先に大学へと向かってバイクを走らせた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んじゃあ。オレ達も行くべ」

走り去った秀を見送り、キャンプの片付けを終えたオレ達も同様に出発する。言われた通りに武装解除し制服に着替えたオレがバイクを走らせていると新しく増えたメンバーである五十嵐のアネサンがオープンチャンネルで話しかけてきた。

 

 

『ねぇ、ほんとに一人で行かせてよかったの?』

疑問半分、不安半分って感じの声色。他の連中と違って昨日今日知り合っただけの仲で『木村 秀樹』という人間を知らない側からすりゃ一人でこの地獄みたいな世界を動くのは自殺行為に見えるんだろう。

 

 

「少なくともアイツが一人でいる間はどう転んでも最悪な事にはなんねーと思いますよ」

こと生き残ることに関しては何年も賭けて鍛え抜いてきた。腕っぷしだけのオレと違って秀の奴は頭もキレる。常に二手三手先を読んで行動を起こし最善の道を探し続けている。

 

 

だがやはり現実的に『何かを守りつつ最善の道を探る』ってのは本人からしても難しいらしい。行動と結果の間にどうしても『他人の意思』が介入するからだって秀の奴は言っていたっけか。

 

 

オレ達が最善と思った選択でも、賛否が別れることによって対立が生まれる可能性があるからだ。

学院襲撃の件がいい例だろう。相手が武装し、既に臨戦態勢だというのに戦う決意ができず、俺達が奴等を始末すると顔を曇らせる。

 

 

人間全てが善良な生き物じゃない。そう痛感してなおこいつらの中には未だに『道徳的常識』が根付いている。それが悪いことと非難するつもりはねぇが、この先もそんな調子で行くと何かしらのしっぺ返しを受けるかもしれない。

 

 

まぁ、それを回避するためにオレ達がいるんだがな……だがもしも、仮にオレ達が居なくなった場合。誰も都合よく助けてくれる奴がいなくなった場合にどうしたらいいかの判断すら出来なくなっちまったら全滅は免れない。

 

 

恵飛須沢と直樹に戦い方を教えているとはいえ限界がある。

自衛隊が信用できないという状況で、生きていく術を無くしたら今までの苦労が水の泡だ。大学での武闘派との対立を避けるってのも人手と戦力の拡大を狙っての事だとは思うが……。

 

 

「──っとォ。ストップだ、まぁた行き止まりだ」

ブレーキを掛け、目の前の瓦礫に溜め息を吐きながら地図に印を残す。現在地と大学までの道程を再度見つつ回り道を指示する。

 

 

『あー……ついでに悪い知らせ、左右から感染者。多くはないけど少なくもない』

 

 

「マァー?」

ガシガシと頭を掻き毟る。遠回りで巻こうにも結局エンジン音で遅かれ早かれ感染者の群れを大学にご招待する羽目になりかねない。面倒くさいがここで始末していこう。

 

 

「武器だけ持って準備しろ、さっさと片付けンぞ」

サプレッサー付きのP90を引っ張り出し、恵飛須沢と直樹へ車を降りるよう準備させる。

 

 

『ちょっちょっちょ! 大丈夫なの!?』

慌てたように声を上擦らせるアネサン。大丈夫大丈夫と適当に返しつつP90のコッキングハンドルを引き安全装置を解除する。愛用のマチェットを腰に下げ、降りてきた二人と共に感染者の前へ立つ。

 

 

「しくじんなよ?」

オレの言葉に「お前がな」と一丁前な口を聞くようになった恵飛須沢が二本の大型ククリナイフを構え、腰を低めにし飛び出す姿勢に入り。

 

 

「まだ上手く当てれないので射線上に入らないでくださいね」

直樹が秀から渡されたコンパウンドボウに矢を掛け弦を引き絞る。

 

 

「行くぜ!」

グンと足に力を込め、一気に一番前の感染者まで距離を積め引き抜座間に首をマチェットで切り落とし、その脇をすり抜けていった恵飛須沢が独楽のように回転しながら一匹二匹と次々切り伏せていく。

 

 

前線を張るオレ達とは別に、反対側の道にいる感染者へ的確に矢を額へ命中させていく直樹。なんだよ……結構当たんじゃねぇか……。

 

 

「伏せろ!」

声を張り上げ、背を向けていた恵飛須沢が反射的に頭を下げたところへP90を横凪ぎに掃射する。常人なら手振れで弾道が安定しないだろうがそこは腐っても鍛えてきた腕力と握力のおかげでリコイルはほぼ感じない。

 

 

タタタタッと専用の5.7×28mm亜音速弾が横並びに迫り来る奴等を仕留める。サプレッサーと会わせてかなり消音効果を発揮するが多用は禁物か?

 

 

「撃つなら撃つって言え! 馬鹿!」

 

 

「何だとぉ!? ちゃんと伏せろって言ったダルルォ!」

 

 

「ちょっと喧嘩してないで真面目にやってくださいよ!」

軽口を叩きながらもなんだかんだ殲滅には五分と掛からずに終わった……叩き上げだが大分二人の動きが良くなってきてる気がする。

出来るだけ一ヶ所に感染者の死体をまとめ、ガソリンスタンドから拝借した灯油入りのポリタンクをぶちまけBONFIRE LIT。派手にやるじゃねェか!

 

 

「ねぇ……君達ってホントにただの学生……?」

顔を引き吊らせ、乾いた笑みを浮かべられる。「ついにお前らもオレらと同類視されたな」とからかうように笑う。左右から肘鉄と蹴りが飛んで来るがそう何度も食らうかっ。

 

 

ヒラリとかわしさっさとバイクへ戻る。

 

 

「気を取り直して、イクゾーデッデッデデデデ」

 

 

「頭大丈夫ですか?」

駄目みたいですね……。やっぱネタが通じないと退屈なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「掃除完了……っと」

仕留めた最後の感染者からナイフを引き抜き、一息つく。

丸一を掛け大学から300mほど離れた七階建てマンションの最上階を今日の根城として占領し、明日へ向けての準備を行う。地図と照らし合わせて丁度大学の正門と裏門どちらも見渡せる立地で身を隠すのに都合がいい建物があって助かった。バイクはエンジン音を聞かれるとまずいから途中から手押しで付近のガレージに隠しておいた。

 

 

夜も深まり、周囲が暗闇に包まれる中で大学の一部に電気が灯る。双眼鏡の倍率を最大に調整し、覗きながらピントを合わせていく。大学は最大で五階建て。三階部分から渡り廊下を繋いで図書室や理学棟にも経由しているようだ。

グラウンドの方は建物に隠れて見えないが、原作で使用している描写があった事から大学内は一部を除いて安全なのだろう。

 

 

L字に建てられている教室棟の正門に近い右側、恐らく武闘派が縄張りにしているであろう区域へ視線を向ける。明かりの灯る最上階の一室。窓際に立つ男と女が一人ずつとテーブルを挟んで座る男二人に女一人。外見的特徴からして武闘派のメンバーに間違いない。

何かを話し合っているようだが流石に読唇術は会得していないため会話の内容はわからない。

他の階層はどこもかしこも窓ガラスが割れているが掃除はされているようだ。とはいえやはりあのザマで隔離体制が完璧と言えるなんて……空気感染を鑑みてないのは間違いない。

 

 

アレでよく一月も持ったなと褒めてやりたいところだ。

 

 

さて続いては反対側の穏健派が住んでいる方の区域。こちらも同様に窓ガラスが割れ、隔離体制は万全ではないが生活空間に使用している部屋はちゃんと窓ガラスが補強されているようだ。

人をダメにするクッションが二つある部屋には眼鏡を掛けた女とオレンジと黒のプリン頭をした女が談笑しながら酒を飲みゲームをしている。自他共に認める自堕落っぷりだ……。

 

 

はて、穏健派にはもう一人黒髪の女が居たはず──。

 

 

「おっと」

思わず反射的に双眼鏡を下げ、目を瞑る。そんなつもりは無かったとはいえ女子大生の生着替えを覗き見るのは失礼である。俺は変態じゃない、OK?

 

 

誰に言うわけでもなく頭の中で言い訳をしながら謝罪と共に再度大学を観察する。

隣接している理学棟には電気が灯っている様子は無いが、あそこにも一人だけ生き残りが隠れている。名を『青襲 椎子』理学棟で独り感染者について研究を続けていた女……この事件の真相を探ろうとした一人だ。感染者を無断で隔離し研究をしていることを知られないようにひっそりとしているが、学園生活部の持ち込んだ緊急マニュアルの存在とランダル本社への遠征に同行する形でメンバーに加わる事になるのだが、彼女もまた物語の途中で空気感染に見舞われ命を落とす。

 

 

事件の真実を追い求める探求心と、不器用ながらも生活部のメンバーを励まそうと努力していた彼女もまた俺達の欲しい人材だ。研究者であるのと理学棟の設備があれば抗生物質の成分配列などが分かるかもしれない。

ランダル本社への遠征に伴って現場へ行くメンバーには重要な存在だ。

 

 

最後に渡り廊下の先にある図書室にも中立として一人の生き残りがいるが……姿が確認できないのでとりあえず保留。本の虫であること以外何とも言えない人だが少なくとも危険人物ではないはずだ。

 

 

「さてさて、何とか上手く行くといいんだがなぁ」

 

 

 

 




大学到着まで行けなかった(真顔

という訳で第16話でした。
なんか色々説明が抜けているような気がするんで、何か気になったり疑問に思ったり「これどういうこと?」って思ったことはジャンジャン送ってください(感想稼ぎ

今更ですがキャラクター達が使う武器(銃器以外)は基本的に「リバートップ」というサイトに掲載されているような物から抜粋しているので、見た目が気になったり人は是非見てみてください。カランビットナイフはいいぞぉジョージィ……。
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