てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~ 作:青の細道
炭治郎に応援されたいだけの人生だった……(´ω`)
「シッ──ッセイ!」
何度も振るった鎌の持ち手やグローブの血糊によって滑りが限界を越え、持ち換えたカランビットナイフを逆手に感染者の首を切り裂く。
刃渡りの関係上一撃で無力化できるわけではないので追撃の回し蹴りを叩き込み、切断面からブチブチと千切れるように回転しながら飛んでいく頭部。
続けざまに背後から襲ってきた一体を背を向けたまま片足を刈り上げるように素早く全身を使って顎まで届くように抉る。
脆くなった骨と腐敗した肉が剥がれ堕ち下顎を失いながらよろけたところを更に足を凪ぎ払う。普通の人間と違って避ける、身構えるといった行動を取れない感染者はそのままボーリングのピンのように倒れ側頭部に刃を突き立てる。
「オーッ──ルァア!!」
離れたところで感染者を相手に格ゲーばりの奮闘を魅せる拓三。周囲には打撃によって粉砕された頭部だけがない感染者が散らばっている。
裏拳で吹き飛びかけた一体の足首を掴むと、それを振り回し纏めて叩き潰していく。
やがて耐えきれなくなった感染者の足首が千切れ、拓三の「あっ」という間抜けた声と共にあらぬ方向……というか俺の方向にきりもみしながら飛んできた。
「ふん!」
跳躍し、勢いに上乗せするように踵落としを放ち地面へ落下したそれはベシャリと赤黒い血に華を咲かせる。うつ伏せで倒れ、左手の人差し指だけが上に向かって伸びるその姿がどこか既視感を抱いたがきっと気のせいだろう。
「わりぃわりぃ」
手に付いた土を払いながら周囲を見渡す。今の感染者が最後だったようで周りには無力化した感染者の亡骸だけが残っていた。時計を確認するとスコアタイムは15分。
「28、お前は?」
「……27」
俺の答えに、拓三はニヤリと口角を上げながら「オレの勝ち」と笑う。コツンと突き出した拳同士をぶつけ合わせ俺たちは戦いを終えた。
地面に落ちた武器や、投げたナイフなどを全て回収し死体を全て一ヶ所に集める。用意しておいたポリタンクの中身を掛け火を着けたマッチを投げ入れると一気に燃え上がる。
キャンプファイヤーなんてレベルじゃない大炎上を背に、俺達が外壁を登ると呆然とする大学メンバーともう慣れたというような顔で「お疲れ様です」と迎える生活部の面々。ガスマスクを取り外し受け取った水を飲み干していく。いくら鍛えたとはいえ15分フルスロットルで動き続けただけあって喉も乾くし汗も掻く。
血で汚れた上着を脱ぎ捨て、タオルで汗を拭いていると不意に直樹たちの視線が後ろに向けられているのに気付く。何とも言えない表情「え?」というような顔をする直樹や露骨に気味悪そうな顔の恵飛須沢。
「嫌な予感」
と慌ててガスマスクを被る拓三。どうしたのかと疑問を抱き、背後から迫っていた気配に何かあるのかと振り返った瞬間──。
「んぅ」
「むぐっ──!!?」
頭の中が真っ白になった。振り返ったと同時に視界いっぱいに神持の顔を捉えたと思った瞬間、口付けをされた。それも軽いなんて物じゃない。ガッツリ後頭部をホールドされ強引に舌までねじ込まれた上に色々吸いとられそうな勢いのえげつないディープキス。
思考停止した俺を良いことに、10秒……いや──もっと長かったのかもしれない。とにかく満足したのかようやく口を離した神持。高揚し赤く染まった頬、溢れた唾液を舌で舐めとり恍惚な笑みを浮かべる。
「……………………ナ、ナンノツモリダ」
何とか正気を取り戻し捻り出した声は上擦ってしまう。汗を拭いたタオルで口を拭う。
落ち着け俺。たかがこの程度で狼狽えるほど軟弱じゃないはずだ俺、いくら前世含めて彼女できない歴=人生二週目と言えども数多くの苦痛に耐えしのぐように肉体的にも精神的にも強くなる努力をしてきた筈だ。命のやり取りだって経験し、普通ではありえない程の茨の道を歩んできたんだ、たかがキス一つで何を狼狽える事がある。……あ、でもこれ地味に前世も含めてファーストキスやんけ。待て待て何を考えている今はそういう事じゃねーだろでもまぁ神持も外見だけは美人だし役得っちゃ役得なのか? いやいやだから落ち着け俺。COOLだ、COOLになれ木村 秀樹。
「決めたわ」
笑みを浮かべたまま瞳を閉じ、少し間を置いた神持はとんでもない事を宣言した。
「──私、貴方の子を産みたい」
………………………………………………………………………………は?
「──は?」
「は?」
「は?」
「は?」
「ブッフォッ!」
間の抜けた声を漏らす俺と同様に、直樹と若狭、そして佐倉先生も同様に声を漏らし拓三は盛大に吹き出した。
腹を抱えて笑い転げている。
「アハハハハハハハハ! アッハ──ングッハハハハハハ! あー! あー! ダメ腹痛てェアハハハハハハハハ!!!」
「あら、貴方の子も欲しいのだけれど」
更に追撃と言わんばかりに爆弾を投下していくスタイル。今度は恵飛須沢が瞼をヒクつかせながら「は?」とドスの効いた声を出す。
「…………」
先程までゲラゲラ笑っていた拓三は突然無言のまま立ち上がり、砂埃を払い呼吸を整える。そんな拓三へ一歩神持が歩み寄った、その刹那──。
「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ」
ありえない速度でバックステップしていく。それはもう某TASゲーに名高い変態機動を逆再生したような勢いでコンテナから飛び降り、瞬きする頃には学生寮の入り口に姿を消した。
ちょっと待てお前なんだその動き、そんだけ早く動けたのかお前初めて知ったぞ。
「逃げられたわね、まぁいいわ──」
振り返った神持と視線が合う、衝撃的すぎる衝撃に体が上手く動かない。デバフ効果かな?
「ねぇ、貴方の子を産ませて?」
耳元で囁くように腕を首へ絡めてくる。全身から汗が吹き出す、なんだこの恐怖は……まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。体が動かない、手が震え呼吸が乱れる。
そうか……これが恐怖か──!
ガシッ。目前に迫る神持の顔、しかしその肩を掴む者がいた。あら、と目を丸くし引き剥がされる。そんな彼女を引き止めたのは……二人の修羅だった。
「…………」
口元は絶えず笑みを浮かべたままだが、完全に目が据わっている。一瞬だけ手にノコギリを持っていると錯覚させるほどの殺気を放つ若狭、nice boatの単語が頭を過った。
こわっ。
「…………」
対照的に怒りの表情を露にし、プクリと頬を膨らませる直樹。しかしその怒りの矛先は何故か俺に向けられているのはどういうことなのだろう。
「何かしら」
「『何かしら』──じゃありません、何してるんですか?」
「そうですよ、こんな時に」
二人の問い掛けに神持はクスクスと笑う。盾にするように俺の後ろへ回り込み腰と首に腕を絡めてくる。されるがままの俺に怒りの沸点が上昇し二人から尋常ではない気配が溢れる。
「あら、何を言うの? こんな時『だから』こそでしょう?」
きめ細かい綺麗な手で顎を愛撫される。首筋に息を吹き掛けられゾワリとした寒気が背筋を駆け抜ける。が、それがキッカケとなったのか反射的に体を翻し神持の拘束から逃れる。
「──ふふ、つれないわね」
まぁいいわ、と踵を翻した神持は一人去っていく。
その背を見送り、気まずい空気の中で溜め息を吐いた俺が若狭と直樹へ視線を向けた。
パァン!!
瞬間、左右の頬に衝撃が走る。
理不尽すぎりだろう……俺が一体、何をしたって言うんだ……。
「というわけでまぁ……我々の新たな第一歩を祝して──乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
トーコさんの宣言と共に全員が乾杯と持っていた紙コップを掲げる。以前まで対立していたというサークルと武闘派、そして私達学園生活部。総勢20人が一つの部屋に集まって団欒を過ごすようになった。
まだ少し溝はあるけれど、そこにはたしかに談笑と温もりがあった。
これも全て、木村先輩と田所先輩のおかげ──なのだけれど。
「……っ──」
「ブフッンフフフ」
両頬に真っ赤な手形を残し、険しい表情のまま無言でお茶を飲む木村先輩と、そんな彼を横目に堪えきれない笑いを吹き出しお腹を抱えている田所先輩。
少し気の毒だと思ってしまう、美紀もりーさんも木村先輩の事好きっぽいし。二人はまだ自覚してないけど端から見て明らかに好意を寄せてるのがバレバレ……しかももしかしたら佐倉先生もって感じがするんだよねぇ。
たしかに木村先輩は目付きが鋭いとはいえ顔立ちも大人びてて性格も落ち着いていて優しいところもあるし、危険を顧みず私達を助けてくれたあの背中にときめくのも分かる。
でも私はどっちかっていうと──。
「どうしたの圭」
木村をからかう田所先輩と、鬱陶しがる木村先輩の二人。私達には一歩引いたような態度の二人だけど互いが言葉を交わすときはいつも普段とは違う様子を見せる。そんな二人を眺めていた私へ美紀が声を掛けてきた。
慌てて何でもないと答えお茶を啜る。
「ほらほらぁ! 君たちももっと飲め飲めぇ!」
ふらふらと危なげな足取りで現れたトーコさんが空っぽになったコップに飲み物を注いで──って!
「これお酒じゃないですか!」
「細かい事は気にしない気にしな~い」
完全に出来上がっているトーコさん、さぁ飲め飲めと酔っ払った中年のように絡んでくるが背後から現れたアキさんによって鉄拳制裁を受けて引き摺られていった。
もて余したお酒をどうしようかと二人で悩んでいると、いつの間にか隣に立っていた木村先輩によって私達のコップは木村先輩と田所先輩が使っていたであろうコップと交換する形で手渡された。
木村先輩は特に何も考えずの行動なのだろうけど、今先輩が口を付けてる紙コップはさっきまでお茶を飲んでいた美紀のもの。そして私が意図的に美紀へ渡したのは木村先輩が元々飲んでいた方のコップである。
つまり──。
「あ……ぁぅぁぅ」
顔を真っ赤にして頭から煙を立ち上らせる親友の姿が愛らしくて仕方ない。普段クールな感じなのに好きな男の人が出来るとこんなに変わるものなんだなぁと思わず笑みを溢す。
「というか、先輩お酒大丈夫なんですか?」
今更だけど先輩も私達と同じ未成年なのに飲酒して大丈夫なのだろうかと問いかけると「さぁな」となに食わぬ顔でお酒を飲み干していた。
…………まだ顔に手形がクッキリ残っているせいで決まっていないというのは黙っておこう。
懲りずにドンチャン騒ぎするトーコさんと、それを呆れた様子で溜め息を吐くアキさんとヒカさん。元武闘派の人達もぎこちない様子だけど、僅かに楽しんでいるようだ。
相変わらず例の女の人……えーと神持さん、だったかな。彼女が熱を帯びた目で木村先輩と田所先輩を見つめている。なんというか美紀やりーさん、佐倉先生とは違うベクトルの好意というか……獲物を前に舌舐めずりする猛獣とかそういう感じがする。
しかしああも直線的に好意?を向けられたとあってはどうなるか分からない。木村先輩だってどんなに凄い人と言えど男の子なんだ。外見だけで言えばトップクラスに美人な神持さんに言い寄られたらどうなることか。
既に先手を打たれちゃってる訳だけど……。先輩の狼狽具合からしてきっとファーストキス、このままでは盗られてしまうと親友に忠告するべきだろうか?
「ふぅ……」
数時間もの宴会を経て、皆が寝静まった頃……俺は一人学生寮の屋上で黄昏ていた。今日は色々と濃い一日だった気がする。ようやく取れた頬の痛みと手形、なんだかよく分からないが二人に謝ってはみたものの口では許してくれたがどこか不満げな若狭と直樹。どうすればいいのかと佐倉先生に訪ねてみたら「知りません」とやや怒ったような口調で見捨てられた。
困惑する俺の肩を叩き、達観した表情で首を横に振る五十鈴さんは「頑張りたまえ、青少年……」と言い去っていった。意味がわからない……。
「はぁ……」
「こんなところで一人溜め息を吐いているとはらしくないな」
塔屋のドアが開き、現れたのは銀色の髪を後ろで一纏めにした一人の女性──青襲 椎子だった。どうしてこんなところに……なんて疑問には浮かばない。何故なら呼んだのは俺だからだ。
「君達がくれた資料、読ませてもらったよ」
懐から煙草を取り出し、少し俺へ目配せしてくる。言葉も無く頷くと彼女はライターで火を灯し煙を吐き出す。
ゆらゆらと揺らめく紫煙が風にのって流れていく……微かに鼻を擽る煙草特有の臭い。
「随分派手な事までしたものだな」
正気を疑うよ、と苦笑される。彼女には俺達が纏めたこれまでの細菌を利用した実験結果などを含めたレポートを渡した。会議室で他のメンバーに渡したものとは別のものだ。
実験結果……つまり黒ずくめの連中に行った事も不必要な発言以外一字一句余すこと無く書き記したものを青襲さんには知らせておいた。
正直一種の賭けだった。もしも彼女がこの事で俺達を軽蔑し他のメンバーへ打ち明け、迫害される可能性もあった。だが彼女が研究熱心である事と、今後の事に関してどうしても俺達の行動を認識してなお付いてきてくれることに俺は賭けていた。
「本来であれば警察に突き出していたところだが……ふふ、その警察が機能していないのだから仕方ない。それに私だって研究者の端くれだ。研究材料が無償で手に入るのはありがたい」
そういって俺の隣まで来ると同じように手摺へ腕を乗せ、もう一度紫煙を吹く。
「…………」
「……何か?」
ジッと鋭い目で顔を見据えられる。
「いや、お前達のような生き方は──さぞ息苦しいだろうと思ってな」
その言葉に、思わず手が震えた。息苦しい……か、そうかもしれない。世界の命運だとか、皆を守る存在だとか、そういう事を考えたことはない。……いや、考えないようにしていた。
世界を知ったつもりだったが何もかも上手く行くわけがない、そんな事が可能なら最初からこの惨状を食い止めるだけの力があればよかった。でも俺達は転生しただけの存在だ。都合のいい力も無ければ奇跡を起こす魔法もない。だから俺達は自力で鍛えるしかない……鍛えて、鍛えて、鍛えて、それでも全部救える訳がない。
でもせめて、手の届く範囲にいる誰かを救うことができるならそれで良いと思った。例え恨まれたとしても構わない。
「…………」
「……一つ提案なんだが──」
「さて、今後についての話だが……」
翌朝、酒によって完全に眠りが深くなっていた大学メンバーを物理的に叩き起こし、二日酔いの酷い出口センパイや城下が魘されているのを無視し全員を召集した俺はホワイトボードに書き記した大学全体の見取り図を皆が見えるところまで拓三に動かさせる。
「まず拠点としてこの大学を使うに当たって、重点的に守りを固める場所。野菜なんかの自給自足できる食料を育てる畑や貯水槽の増設、見張り台の作成や生活空間の補強。やることは沢山あるぞ」
パシンと教鞭を叩き一つ一つ予定の計画を書き記した物を全員へ配る。
「この『訓練』ってのはなんだ?」
煙草を咥えたまま挙手を上げる城下。すると女子側からは「えっそんなのあった?」という声が上がる。
「訓練は文字通り、戦う術を身に付けるための訓練だ。受けてもらうのは頭護、城下、高上の三人だ」
指名された三人はそれぞれ「訓練か……」「げっ、マジ?」「ぼ、僕も?」と声を漏らす。
「当然だ、お前達はあまりにも弱すぎる。昨日の動き方からしてあまりにもお粗末だ、感染者相手でも多勢に無勢だろう」
だから鍛える、と追加で三人に数枚のプリントを配る。中身はもちろんビッシリと訓練メニューの内容が書かれている。初歩的なトレーニングに加え恵飛須沢や直樹に対して行ったものの倍以上はある内容だ。本当なら徹底的に山にでも混もって一年くらいは叩き込みたいところだがそんな余裕も時間もない。
「二週間だ。二週間でお前達を最低限のラインまで鍛える、拒否は受け付けん」
いいな? と睨みを効かせると反対的だった城下はガックリと項垂れ、頭護は溜め息を吐き、高上は「……これを受ければ……僕も強く……」とボソボソ呟き始める。
「ボク達は受けなくていいの?」
机に突っ伏していた出口センパイの疑問に、不安げな顔で俺を見る光里センパイと喜来センパイの二人。そう、二人は経緯は違えどあまりにも力で統率を図った武闘派から離れるためにサークルとして離反した。
俺達が新たに加わりこうして俺が頭目──のような行動に出れば結局同じように強要を強いられるのではと危惧されるのは必然だ。
「いや、訓練はあくまで男連中だけだ。センパイ方にはもっと別なことをしてもらう」
ページを捲ってみてくれと促すとそれぞれ一枚目のプリントを捲る。中身は生活空間の補強や掃除、道具の作成や修理など簡単なものから少し知識の要るものまで揃っている。それを強制ではないが率先して自分にあった仕事をしてほしいと告げる。
ここで生活するならば、その辺の時間くらいは余裕が持てる。
「道具の作成……?」
小首を傾げた喜来センパイ。
「ちょっとした武器や防具、フェンスとして使えるもの、必要なものがあれば随時追加していくが……まぁ基本的にそういったものの工作や修理なんかがメインだ。たしかセンパイは工学部でしたね」
「えっ……あ、うん……」
少し驚きつつも、期待してますよと告げると僅かに微笑み小さく頷くと顔をプリントで隠す。ふと殺気を感じ、視線を移すとまたしても若狭と直樹が機嫌を損ねていた。
俺はモチベーションを上げるために言っただけで別にそういう下心があって言ってる訳じゃないんだが……。
「そうだよね……そろそろボクらもがんばらないと!」
ようやく酔いが覚めたのか、元気を取り戻した出口センパイがやる気に満ちた顔で席を立つ。
「よーし! そうと決まれば早速宴会──」「それはもういいっての」
光里センパイの鋭いチョップが炸裂し、机に沈む。
「畑……といっても勝手が分からないと育たないんじゃないの?」
「この中に農業科だった生徒もいないし」と付け加える神持、その辺は学園生活部で若狭を中心に経験があるので各自で教わって欲しいと答える。
「ところで、どうして二週間なんですか?」
手を上げた直樹の質問に、俺はチラリと青襲さんへ視線を一瞬だけ向ける。
「二週間後、俺はランダルコーポレーションへ向かう事にした」
その発言に、拓三と青襲さん以外の全員が驚愕の声を上げる。
「一人で行くつもりなんですか!?」
「どうして何も相談してくれないの!?」
不安と困惑の表情で問い詰めてくる生活部の面々。一度手で制し事情を説明する。
「たしかに相談しなかったのはすまないと思っている。だがこれまでの経緯でお前達は肉体的にも精神的にも疲れが溜まっているだろう」
ただの高校生や一般市民に過ぎない彼女たちにとって、今の世界へ適合できるだけの余裕が今はまだ無い。人がゾンビになり襲いかかってくるなどという非現実的な世界に変貌し、限られた空間と理不尽な恐怖の中での生活。そして先日の人間による強襲、溜まったストレスは計り知れないだろう。
昔は少人数だったために常に気を張り詰めるしかなかったがこうして20人もの人員が揃ったんだ。少しでも負担を減らし心身ともに休みを取らせるべきだという俺達なりの配慮だった……んだがやっぱり先んじて言っておくべきだったか?
どうも言葉足らずなせいで無意味な不安を募らせる事が多い気がする……。
「でも、いくら何でも一人でなんて……」
俯く若狭に、俺が言葉を掛けるよりも先に「いや、彼には私が同行しよう」と青襲さんが席を立つ。
事前に青襲さんだけには俺がその内ランダルへ向かうことを資料を渡した時点で告げており、本来は本当に一人で行くつもりだったのだが、昨日の夜に彼女から同行を提案されたのだ。
最初は必要ないと言ったのだが研究者として今起こっている事態の記録を自分の目で確かめたいという強い要望と、専門知識を持つ彼女ならばランダルにあるかもしれない研究データで気付く事があるかもしれないと了承したのだ。
「──と、言うわけだ。何か他に質問あるか?」
全員を見渡すように間を置くが、特に挙手はないと判断し一度手を叩く。
「では今日は解散。男連中の訓練は午後からの開始だ、言っておくが生半可な根性じゃ耐えられないからな。死ぬ気でがんばれ」
カハッと城下が白目を向いて開いた口からは魂が漏れていた。
「無理しないでね、れんくん……」
心配する右原に、高上は苦笑しながら「がんばる」と強がってみせる。
「いつまでも弱いままじゃいけないもんな」
決意を抱くように拳を握り締める。体格は小さいが度胸はあるようだ、後はどこまで伸びるか……だな。
「あの……私も訓練を──」
高上を一瞥し、自分も同じように訓練を受けたいと名乗り出た右原。たしかに原作においてもフットワークの軽さや行動の正確さから作中の中でもトップクラスに身体能力の高い右原だ。直樹や恵飛須沢同様に筋がいいのだろう。鍛えれば二人に勝るとは思うが……。
「いや、ダメだ」
俺はその申し出を拒否する。本人が望むなら本来であれば受けてやってもよかった。
そう、本来であれば──。
「どうしてっ」
「シノウ!」
意思を蔑ろにされ、僅かに怒りを露にする彼女を高上が押し止める。そんな二人にだけ聞こえるように、俺は二人の肩に手をおいて呟く。
「新しく授かった命を大事にしろ」
その言葉の意味に、最初は何を言っているんだと言った様子でポカンとした二人だったが……やがて思い当たる節があったのか顔を真っ赤に染めた右原があわあわと鯉のように口を開閉させ、何事かと慌てる高上。
「おめでとさん、強くなる理由が増えたな──『お父さん』」
「えっえ……。……えぇええええええええ!?!?」
さぁ、次回からほのぼの()日常回だぞ退屈する用意は十分か!?
丸々二週間分の話をかっ飛ばすのは流石に忍びないので、少しの間気休めストーリーを挟みます。
その後は完全に原作とはかけ離れた(色んな意味で)シナリオを展開していくつもりです。
場合によってはちょいと必須タグを増やす事になると思いますので。
というか現時点で『アンチ・ヘイト』のタグを追加するべきか悩んでたり……。
他者様の作品を色々読ませて頂いたりして、徹底的に自分の文才の無さに打ちのめされそうですがこうして続けていられるのも数多くの閲覧やお気に入り登録、評価や感想を頂けたおかげです。
お金を払いたいレベルだねぇ!(貧乏兄貴