てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~ 作:青の細道
「始まったか」
響き渡る悲鳴を聞きながら、俺は最上階の非常口を予め開け縄と留め具で固定する。冷静な判断ができる人間がどのくらい居るか知らんが、各階層の非常口を事前に開けておいた。
一見『奴ら』の侵入経路を増やすだけのように思える愚策かもしれないが、初動で避難する人間が多ければ人の流れは出口へと集中する。メインゲートは当然としてエレベーターや駐車場へ続くゲートが一番人が集中するだろう。だが少し考えれば非常階段での脱出に気がつく奴も少なからず出てくる。鍵を開けて扉を開ける。複数いるなら扉を開け続け誘導する必要がある。
僅か数秒だけでも人は恐怖で混乱を起こす。少しでも逃げられる時間を短縮させるためだ。
原作に関係のない連中を助ける善良さが俺にある?
いいや違う。後々資源調達に来る際『奴ら』の数を一匹でも減らしておきたいからだ。店内で転化した生存者が減っていればいるほど後が楽になる。
全ての非常口を開け終え、俺は目標がいるであろう三階へと階段を使って駆け降りていく。エレベーターは既に避難が始まっていて行列が出来始めた。
「キャァアアアアアア!!」
三階に到着するや、甲高い悲鳴が木霊する。目を向ければ転化した一匹に覆い被さられ、もがく女性の姿。もうこんなところまで感染が拡がっているのか!?
いくらなんでも早すぎる。噛まれた感染者が上に逃げてきた後に転化したのか!?
感染を中心に蜘蛛の子を散らすように人が逃げていく。
「おかぁさん!!!」
覆い被さられた女性の子供だろうか。経垂れ込んで泣きじゃくり手を伸ばす。
誰もが我先にと逃げ回り、子供には見向きもしない。当然だ、赤の他人にそんなことするのは正義感のある馬鹿か、ただの馬鹿だ。
故に俺は後者に当てはまる馬鹿だったんだろう。
「ふんっ!」
サッカーボールを蹴るように振り下ろした爪先で感染者の顔面を蹴りあげる。肉の潰れるような感触と、グシャリと何かが砕ける音が体を通して伝わってくる。気持ち悪い、蟲を踏み潰す感触なんかより何十倍も生々しい。
蹴り飛ばされた感染者が剥がれ、女性の容態を確認する。顔は恐怖に震え顔や服には返り血が付着しているが噛まれた様子はない。
「早く逃げろ!」
ああ、クソ。なにやってんだ俺は。だがまぁいい、最初の獲物が決まった。今後のためにも遅かれ早かれ慣れて置かなきゃいけないんだ……早いに越したことはない。
リュックサックを下ろし、軽く構える。相手は一匹、ナイフは人の目もあるしまだ使えない。
思考能力のない肉塊相手なら打撃でも十分だろう。
やるぞ木村 秀樹。しっかりやれよ、感染したら終わりだ。この一歩を踏み外せばテメーは終わりだ。全部なにもかもが台無しになるんだ。
ふぅ……と呼吸を整える。ちゃんと練習して鍛えてきたんだ。覚悟だって何度も決めてきた。
ああ、でもやっぱ……。
「ちょっと怖ぇわやっぱ」
額に汗が滲む。蹴り飛ばされた感染者が立ち上がり、唸り声をあげながらゆっくりと近づいてくる。
ゾンビはゾンビ。散々映画や漫画で見てきたありふれた姿のゾンビ。それでもやはり創作物のと目の前にある本物とじゃ全然違うってのがよく分かる。
これも元はちゃんとした人間だったんだ。俺達と同じように笑ったり泣いたり喜んだり、料理を食べたり眠ったりしてきた歴とした人間だったんだ。
それを今から俺は殺すんだ。既に死んでいて元の人格なんて残っちゃいないのかもしれない。
っ……考えるな。これからお前は数えきれないくらい同じ事をするんだ……。今更弱腰になってんじゃねぇ。
やれ、やるんだ。
やれ!!!
「っ──!」
あと数歩といったところまで接近されたところで俺は姿勢を低くし、狩り取るように足で感染者の姿勢を崩す。受け身や避けるといった事のできない感染者はそのまま横向きに倒れ、頭部が地面にバウンドすると僅かに頭が歪んだ。
この程度で終わるはずもなく、透かさず大きく右足を振り上げ踵をこめかみに叩き落とす落とす。さっきよりももっと大きく肉々しい感触と共に、頭はスイカが割れたように飛び散る。
「……はぁ」
なんだかんだで初実戦。特別吐き気などに教われることはなかったのは幸いだ。慣れるまで一々そんなものに襲われてたら話にならない。
気が付けば周囲から視線を感じる。見るとこちらを畏怖の感情で見る人々の顔。まぁそれもそうだろう、いきなり人間だったものの顔面蹴り潰す奴が出てきたら誰だってそうなるわ。
居心地が悪く、下ろしたリュックサックを担ぎ上げるとザワッと人だかりが一歩下がる。……泣くぞしまいには。
「早く避難した方がいい。非常階段も空いてるはず」
そう言い残して足早にその場を後にする。スピードワゴンのようにクールにできないのは悲しいなぁ。
しばらく走って、途中途中遭遇した感染者を蹴り飛ばして中央の吹き抜けから突き落としている最中。原作通り店内が停電により暗くなる。まだ外が明るかったお陰もあって完全に暗闇というわけじゃないが、周囲への注意を一層強めなくちゃならない。
できれば明るいうちに遭遇したかったがどうにも上手く見つからない。だが停電が起きたならば答えはひとつ。『あの二人』は洋服売り場で身を潜めているはずだ。
体を屈め、足音を消しながらゆっくり洋服売り場のコーナーへと向かえば、数匹の感染者が生存者へ喰らい付いていた。グチャグチャと咀嚼音と微かに漏れる呻き声。生存者が絶命し、痙攣していた手がパタリと落ちてから一分足らずで、生存者『だった』者は転化した。
転化するまでの時間差は感染の度合いに依存するのか、それとも絶命してからがスタートなのかはわからない。
その内その辺の調査もしなきゃいけないが、今はとにかく目標の救出が先だな。
リュックサックを開け、中から一本の発炎筒を取り出し着火する。鮮やかな赤色に炎を噴出させるそれをできるだけ遠くへと投げ込む。地面と接触した音と炎の光に誘われ、その場にいた感染者が移動を開始する。
物陰に隠れ、様子を伺いながら数分ほど待機したのちにゆっくりと試着室へと近づく。左から二番目の、唯一カーテンが閉まりきった個室の近くまで行き、驚かせないように出来るだけ小さく、不信感を持たれないように声をかける。
「大丈夫か?」
カーテンの向こうから露骨に息を飲む音がする。返事は待たずにそのまま俺は続ける。
「近くに『奴ら』はもう居ない。だが大きな音や声を出すなよ、もし生き延びたいなら俺に付いてこい……ここから脱出するぞ」
これは半ば賭けだった。俺のように事態を受け入れて、その上で判断能力がどれほどまで残っているかわからない。恐怖から動けず隠れるのを選択し、やがて別のグループに救出されるだろう。
だがそうなった場合の末路を俺は知っている。可能であればこの場で『この二人』を助けられるのがベストだ。
「……」
「……」
「……」
数秒しても中々反応がない。かなり警戒されているようだ。当然と言えば当然か……、さてどうす──。
「あ……なた…は、誰ですか……」
震える声で何者かと訪ねられた。安堵からか少しホッとしながら俺は生徒手帳を取り出す。
二人は制服を着ているが、俺は今私服のままだ。同じ学院の生徒だと分かれば多少は警戒を解いてくれるだろうという期待を胸に隙間から生徒手帳を滑らせる。
「あっ……」
手帳を見て安心したのか。僅かにカーテンが開き二人の目が俺を見る。
紫色の瞳にクリーム色の髪、オレンジの瞳に栗色の髪。間違いない、目標の二人だ。
「お前たちも巡ヶ丘の生徒だったか」
さも偶然を装うようにそう呟くと、二人はようやく試着室から出てきた。立ち上がると目立つため姿勢を低くするように促す。
「俺は三年の木村だ」
手短に自己紹介すれば二人も少し間をおいて「二年の直樹 美紀……です」「同じく二年の祠堂 圭です」と返してくれた。まだ恐怖と疑いの目が晴れないが、とりあえず第一段階は終了。
よし、と頷き二人にこれからの事を説明する。留まり続けるのも危険なため、俺を先頭に慎重に行動しながら小声で説明していく。
今起きている惨状。脱出し、学院へ向かうこと。その途中で『寄り道をする』こと。
「あの……」
説明の途中で直樹が声を上げた。
「此処で救助を待つのは……ダメなんですか?」
もっともな意見だった。祠堂も同じ事を思っていたらしく賛同するように頷く。
「たしかにここなら食料や寝床の確保は容易だろうが、ここは広すぎるんだ」
俺の言葉に今一ピンと来ない二人が疑問符を浮かべる。
「例えばの話だ。お前たちがまったく別の場所で生き残り、食料を探す場合……どこいく?」
「それは……コンビニとか、スーパーとか」
「そうだな。だがそういった施設はすぐに荒し尽くされ物資が残らないだろう。そうなった場合、こういったショッピングモールが次の目的地になるわけだ」
それがどうしたのか。と眉を潜める二人。
「誰もが物資を求め、遠目からでも目立つこの場所は生存者にとってウッテツケ過ぎる場所なんだ」
「それって……」
「言いたくはないが、こういう場合。まず奪い合いの揉め事が起きる、そしてそういったトラブルが起きれば遅かれ早かれ大惨事は免れない」
映画などで見た惨状の一部を例え話にして言えば「そんな!」と声を荒げそうになる直樹の口を塞ぐ。
「お前たちも生き残りたけりゃ賢く生きる術を身に付けろ。これから先危険になっていくのは感染者だけじゃない、極限状態に陥った人間こそが一番危険なんだ。特にお前たちのような女子供は気を付けろよ」
「どういう意味ですか……?」
「……男の俺にそれを言わせるのか?」
溜め息混じりに返すと、ようやく意味を理解したのか二人とも顔を赤くし、後ろにいる直樹にいたっては背中を殴られた。解せぬ。
「とにかくここは籠城に適さないんだ、お前たちも学院の生徒ならあの学院の校風は知っているだろう。あそこには自給自足のための設備が整っている。目立つが此処よりは遥かにマシだ」
曲がり角に差し掛かり、徘徊する感染者の姿を確認した俺は二人に止まれと手で制止する。
「感染者だ」
二人の顔が青ざめる。距離にして50m程度の距離、非常階段と俺達の間に立ち塞がるように立ち尽くす感染者が3匹。さっきのように発炎筒で陽動するにしても反対側の渡り橋にも二匹確認できる。
非常階段側の三匹を陽動するために発炎筒を炊けばその瞬間渡り橋の二匹に捕捉されるだろう。
俺だけならまだ余裕だが後ろの二人は突発的な行動に付いてこれないかもしれない。
「いいか、俺がOKサインを出すまで絶対に動くなよ」
人差し指を立て静かにしているようにと付け加え、リュックサックを開く。
「っ……なんでそんなもの──!?」
取り出した大型のサバイバルナイフ二本を見て祠堂は息を飲む。それもそうだろう、折り畳み式のチンピラが持つようなポケットナイフやバタフライナイフでもなく、市販されている包丁でもない。
正真正銘銃砲刀剣類所持等取締法に違反するものだからだ。
某バラエティーショップのネット通販サイトで購入したオーストラリア産のサバイバル……正確にはハンティングナイフに分類されるこれは全長413mm刃渡り285mm、刃の厚さは4.6cmの重量630gと過酷な環境でも十分な実用性を兼ね備えた狩猟用のナイフだ。
こんなもの持ち歩いていれば余裕で警察に捕まるに決まってる。
「……護身用」
ボソッと呟くと「絶対嘘だ」って顔で睨まれた。
俺だって丸腰で逃げ切れるならそれに越したことないんですよ。わかる?
「動くなよ」
念押しするように二人へ言い聞かせ、姿勢を低くしたまま『奴ら』へと近づく。運の良いことに三匹ともこちらに背を向けている。一番近い中年男性だった感染者へと背後から頭蓋骨と背骨を繋いでいる空間に、骨にぶつからないよう一気に突き刺す。サクッとまでは行かないが手応えは踏み砕いた時よりも軽い。
ビクンと一度痙攣してから事切れた感染者を音を立てないようゆっくり寝かし、残りの二匹へ近づく。だが二匹の距離が近すぎりためバックスタブの要領で仕留めるのは不可能だ。
ここでミスをすれば他の感染者を引き付けてしまう。失敗は許されない。
「っ……ふっ!」
右手側をさっきと同じく一突きで穿ち、その音で振り向いた左手側の残りを逆手に持ったもう片方のナイフで口元から脳側に突き立てる。
流石に二匹分となるとかなり腕がキツイが、なんとか死体を寝かせる。
大きく静かに息を吐き、二人の方へサインを送る。物陰から顔を出し低姿勢のまま駆け寄ってくる二人を誘導しながら非常階段へ向かった。
階段から外を覗き見る。幸いにも近くに感染者は居なかったが数百mほど先の駐車場には襲われる生存者と、生存者の乗った車に群がる感染者の群が視認できた。
「向こうに引き付けられてる間に急ぐぞ」
「助けないんですか!?」
直樹の言葉に足を止める。まぁ薄々は言われるんじゃないかなとは思ってたが、やっぱり言うよなぁ。
「なんで」
「なんでって、だって──」
「俺を映画や漫画のヒーローか何かと勘違いしてるようなら諦めろ。俺は運良く生き残ったお前らだから助けた。場合によってはお前らでも見捨てるつもりだった。あんな数の感染者を退けて全員を助けるなんて不可能だ、リスクが高すぎるんだよ」
吐き捨てるように一蹴し、再び階段を降りていく。立ち止まっていた直樹は悲鳴の方へ視線を向けながら「そんな……」と震える手を握りしめていた。
「悪いな、俺も超人じゃないんだ」
聞こえはしなかっただろうが、自分に言い聞かせるように小さく呟く。そう、俺も拓三も超人じゃないんだ。感染に免疫力があるわけでもないし、無限に体力があるわけじゃない。俺達に出来る事だって限度がある。
これ以上俺に出来ることなんて──。
キィ!
突然現れた一台のミニバンが俺達の前で止まった。
なんだとナイフを構えると助手席の窓が空き、一人の女性が声を掛けてきた。
「君たち乗って!」
頬や衣類に血が滲んでいるが顔色は良く、何よりその顔には見覚えがあった。
「……」
「っ早く!」
急かされ、俺は二人を車に乗せる。後ろのドアを開ければまた見覚えのある子供の顔があった。
「お兄ちゃん!」
パァと笑顔を浮かべる幼い子供を見て、無意識に顔が綻ぶ。二人を後部座席に乗せた後、俺は空いている助手席へと乗り込んだ。
「シートベルトして! 飛ばすから!」
クルクルと手慣れた手付きでハンドルを操作する女性の横顔は、以前見た時とは比べ物にならないほど凛としている。
思いがけない形で脱出の足を手に入れられたのは運がいい。
「助けていただき、ありがとうございます」
車が走り出して時間が過ぎ、大通りに出て避難する他の渋滞と鉢合わせ立ち往生したタイミングで感謝の言葉を告げる。
「いいのよお礼なんて、命の恩人だもの」
そう微笑む女性。すると後ろで聞いていた直樹が恐る恐る話に入ってきた。
「あの……二人はお知り合いなんですか?」
彼女の問いに「いや、赤の他人だ」と言おうとしたら被せるように「彼にはあの『化け物』に襲われてるところを救われたの」と女性が答える。そんな女性の答えに「えっ」と疑うような目を向けられた。
なんだその目は。
「俺が誰彼構わず見捨てて、自分は生き残るような薄情者に見えたか。大正解だ」
皮肉気に鼻で笑うとしゅんとした顔で「いえ……」と顔を俯かせる。
「彼に助けられてなければ、今頃私もああなって、その子を独りぼっちにさせてしまうところだったわ」
バックミラーでチラリと後部座席で早速仲良くなった祠堂と遊んでいる子供を一瞥し微笑む。
「本当、あなたには感謝してもしきれないわね」
ありがとう、と再度感謝を告げられ、俺は「いえ」と短く返す。
「ところで後ろの二人はカノジョ? あなた見掛けによらずやるわね」
「なっ!? ちがっ──「違います」」
突然の発言にテンパる声を一蹴する。何故か背後から冷たい目線が飛んで来るが知らん顔。こういうのは相手に乗せられた方が負けなんだ精進しろ直樹。
「その二人は同じ学院の生徒でたまたま運良く生き残ってた所を見つけただけです」
「学院……っていうと巡ヶ丘?」
「ええ」
《ザーッ》
するとポケットに入れていたトランシーバーからノイズが流れる。
《あー、あー。聞こえるかーどうぞぉ》
気の抜けたような声がスピーカーから流れる。なんだか久しぶりに聞いた気がする声の主へ通話を繋げる。
「聞こえるぞ、そっちはどうだ拓三」
突然トランシーバーなんかで会話し始めた俺を珍獣でも見るような目で見てくる三名(子供はいつの間にか寝ている)。
《とりあえず無事だ、今学院の屋上で籠城中。生存者は俺を抜いて四名》
四名?
「……『ダメだったのか?』」
《ああ、最初は大丈夫だったんだが避難する途中で襲われてる奴を助けようとして感染しちまった》
「……始末は?」
《俺が付けた》
拓三の言葉に大きく溜め息を吐く。原作では本来、屋上へ避難するのは主要キャラ四名の他にもう一人男子生徒がいた。が、劇中では既に噛まれ感染し、同じ部活に所属する主要メンバーの一人によって介錯される流れだった。拓三には出来ることなら彼も救えるようにと言っておいたが、どうやら向こうはそう簡単に原作ブレイクは出来なかったらしい。可能であれば男手が欲しかったんだが仕方ない。
「こんな状況じゃ仕方ねぇ、他の生存者の様子は?」
《まぁ、全員放心状態って感じだわ。約一名に関しては俺に敵意丸出し》
ははは、と笑う拓三。
《お前の方は?》
「こっちはとりあえず生存者二人とモールで脱出する途中で車持ちの母娘に相乗りさせてもらってる所だ」
《順調ってところか?》
そんなところだ、と一笑しチラリと横目で後ろを確認するとめっちゃガン見されていた。
「とにかくこれから俺は『寄り道』した後にそっちに合流する。日を跨ぐかもしれねぇが気ぃ付けろよ」
《おう、お前もな》
通信を終え、トランシーバーを仕舞うと同時に祠堂が声を掛けてくる。
「今の……誰ですか? というかナイフといいソレといい、何でそんなもの──」
祠堂の疑問に、何かを考えていた直樹があっと声を漏らす。
「木村先輩って、もしかして『あの』木村先輩ですか?」
「あのってのがどれを指すのか知らんが、木村で間違いないが」
「知ってるの? 美紀」
知っているのか雷電。
「巡ヶ丘三年の木村先輩って言えば、その……かなり……個性的な人って有名というか……」
なんとも歯切れの悪い言い方をする直樹。チラチラとこちらの様子を伺っているようだが……。……ああ、そういうことか。
「学院の問題児に助けられたのがそんなに癪か?」
すると直樹は慌てて訂正しようとする。生真面目で冗談の通じない奴だな。
「え、なに君不良くんなの?」
ハンドルを持て余した女性が若いっていいわねーと言いながら話に興味を持ち始めた。
「あー! 思い出した! 『マタギの木村』って先輩のことなんですか!?」
えっなにそれは。
「ま、マタギ?」
そんな渾名初耳なんですがそれは。
「『いつも二人組で山に行ったり熊と戦ったりしてる変人』ってもっぱらの噂ですよ」
「へ、変人……」
「まぁ山に行くのも熊と殺り合ったのも事実だが……」
群馬や山梨に行った時に現地の狩猟サークル同伴で見学させてもらった時のことだったかな?
いやーあの時は大変だった。銃は壊れるし大の大人は腰抜かすしで、結局二人掛かりでナイフ縛りを強いられたのはいい思い出だ。
「君、何者?」
訝しげな目で、半ば呆れられたような目で見られる。
「ただのしがないサバイバル部員です」
これも部活の道具です。そういってトランシーバーとハンティングナイフ、予備のナイフ等を取り出し携帯食を何個か取り出し全員に配る。この騒動が起きてから何も口にしていなかったからか全員快く受け取っていった。
「それで、君たちはこれからどうするの?」
どうやら目的地があるなら送っていってくれるらしい。
「助かります。最終的に学院へ向かうのが目的ですがその前に『寄るところ』があるんでそっちに向かって貰えますか」
「寄るところ?」
「『鞣河小学校』──」